9話 王子への弟子入り
真夜中。大きな自然公園へとやって来たカイ達は、空いてるベンチを陣取るとコンビニの商品を広げて食事の時間を開始した。
「これは……!」
王子っぽい見た目のヴィオはツナマヨおにぎりを一口頬張ると、途端に目を輝かせた。
「あのお値段でこのクオリティの商品を……!? 素晴らしい! まさに企業努力の結晶です!」
「味覚を通して企業を見た人、生まれて初めて見た……」
ツナマヨおにぎりに感動するヴィオを、ハルカワ・マモルは肉まんを片手に眺めている。
「おにぎりをその場で作れて、さらにパリパリの海苔を楽しめるのも高評価です!」
ヴィオは感想を述べながら食べ続け、あっという間にツナマヨおにぎりを完食してしまった。
「ご馳走様でした!」
「ヴィオさん、こちら完成しました! さっきのオレのオススメの組み合わせたやつです!」
ヴィオが完食したところで、シロヤマ・カイはパンにチキンを挟んだ簡易ハンバーガーをヴィオに差し出した。
「おぉ〜! シロヤマさん、ありがとうございます!」
「いいえ! さあ、熱いうちにどうぞ!」
「ヴィオさん、仮に冷ましたとしても俺が限界まで温めますんで」
「おっ! マモルもヴィオさんと打ち解けてきたな! いい感じだ!」
「まだそこまでではない……が、カイの言う通りヴィオさんは冗談交えても大丈夫そうだな。そうだヴィオさん、カイは冷やかしが得意なんで必要とあらばお申し付けください」
「「か」は余計だな!」
「お2人とも! ありがとうございます!」
カイとマモルにお礼を述べたヴィオは、ハンバーガーに豪快にかぶりついた。
「ん〜! こちらも素晴らしい! まさかこのお値段で揚げたてのチキンを、しかもパンに挟んで食べられるなんて……!」
「ヴィオさんはどちらかというと値段に驚いているようだな」
「味もお値段もすごいと思っております! このお値段でこの味をお出しできることが何よりも驚きです!」
ヴィオはしきりに感動しながらも、簡易ハンバーガーもあっという間に平らげてしまった。
その後……
「グミとチョコを組み合わせたお菓子ですか……」
「これは……うわっ! ガムの中からシュワシュワする粉が!」
「これはまた随分と不思議な触感のお菓子……クセになりそうです……」
ヴィオはさらにデザートとして菓子も大量に食し、なんと購入した菓子の殆どを食べ切ってしまった。
「ご馳走様でした! 現代の食事を味わえて大満足です!」
「ヴィオに楽しんでもらえてよかった!」
(あの量の食事は身体のどこに消えたんだ……?)
「さてと……そろそろ本題に入りましょうか」
マモルが訝しむ中、ヴィオは手を軽く叩いて改めて話を始めた。
「お2人も、わたくしと同じ能力者でいらっしゃるんですよね?」
「あっ……! はい! そうです!」
「見てましたよ。私を助けるために、シロヤマさんは氷を、ハルカワさんは炎を飛ばしていましたね」
「はい……」
「お2人とも」
ヴィオはその場で丁寧に座り直すと、カイとマモルに向かって深々と頭を下げた。
「改めてお礼申し上げます。わたくしのために能力を使って助けようとしてくださり、ありがとうございます」
「あっ! えっと……! どういたしまして!」
「……どういたしまして」
改めてお礼を言われたカイとマモルは、戸惑いながらもなんとか言葉を返した。
「わたくし、とても嬉しかったのです」
ヴィオは下げた頭を持ち上げ、言葉を紡ぐ。
「わたくしはあの時、道路を爆走し、力を使って不良を閉じ込め、能力でバイクを軒並み停止させました」
(改めて文として聞いてみてもわけわからんな……)
「しかし、そんなわたくしを貴方達お2人は必死になって助けようとしてくださりました」
「「……」」
幼い顔に似つかわしくない、優しいがどこか寂しげな表情のヴィオに、カイとマモルは思わず黙りこくる。
「あの状況なら、自身の安全の為にもその場から退散すればいいものを……あえてわたくしを見捨てず、最後まで何かしようと必死になって……」
どこか切ない表情をしていたヴィオだったが、ここで少し悲しそうな表情を見せる。
「ですが、あの場面は流石に退散すべきでしたよ。何かあってからでは遅いのですから」
「ごめんなさい……」
「それは本当にごもっともです……返す言葉もございません」
ヴィオの心からの心配の声に、カイとマモルは素直に謝罪した。
「……ですが、助けてようとしたその心意気は素晴らしいものだとわたくしは思いました。能力を得た方が、そんな優しい人で本当に良かった」
「いえ、オレはそんな……」
「その上、お2人はわたくしのワガママにも付き合ってくれました」
カイは遠慮がちに何か言おうとするも、ヴィオの言葉に遮られた。
「嫌な顔ひとつせず、心の底から楽しそうにしてくれて……わたくし、今日のことは一生忘れません」
「あっ……オレもヴィオさんとの買い物は楽しかったです!」
ヴィオの言葉に、カイは声を大にして返事をする。
「ヴィオさんはどんなことにも新鮮な反応して、楽しそうにしていて……なんというか、その……! オレも心の底から楽しかったです!」
「シロヤマさん……」
「俺も同じです。ヴィオさんとのコンビニ散策はとても楽しい時間でした」
「ハルカワさんまで……」
カイの言葉に嬉しそうにしていたヴィオに、今度はマモルも言葉を返す。
「ヴィオさんは知らない物事に対して変に斜に構えず、ヴィオさんなりの感性で心の底から楽しもうとしていらして……見ていて微笑ましかったくらいです」
「ありがとうございます。お2人とも本当にお優しい方ですね……さてと、そろそろおいとまなくては」
ヴィオはニコリと微笑み、その場から立ち上がる。
テーブル周りを簡単に片付けてから広い場所まで歩くと、その場でホウキを取り出した。
「ハルカワさん、シロヤマさん、楽しい時間をありがとうございました。楽しい思い出ができた上に、形として残すこともできました」
ヴィオは菓子のおまけであるぬいぐるみのマスコットを手に、嬉しそうに話をする。
「……そうだ。もし能力について困ったことがありましたら、わたくしでよろしければ相談に乗りますよ」
「えっ!?」
「こう見えて能力の使い方は得意ですから……なんて、言ってみたりして……」
ヴィオは途中で自信がなくなってきたのか尻すぼみになっていく。
「あっ! あの……!」
だが、カイにとってこの申し出はまたとない大チャンス。
カイは意を決して言葉を切り出そうと口を開いた。
「ヴィオさん! ひとつよろしいでしょうか!」
しかし、カイより先に断りを入れたのはなんとマモルだった。
マモルはベンチから立ち上がりヴィオの前まで移動すると、その場で額を地面に押し付けた全力の土下座をした。
「マモル!?」
「ハルカワさん!?」
「ヴィオさん! 俺を弟子にしてください!」
「!?」
マモルの行動と発言に、カイとヴィオは目を丸くして驚いた。
「相談ではなく……ハルカワさんを、わたくしの弟子に……ですか?」
「身の程も弁えない、無礼な行為なのは百も承知です。ですが、それでもお願いしたいのです!」
カイとヴィオが驚く中、土下座したマモルはさらに言葉を続ける。
「ヴィオさんの能力捌き、見事でした。誰も傷つけることなく、目当ての相手のみを倒して回るその技術……あれぞまさしく、俺の目指す能力の使い方でした」
「ハルカワさん……」
「俺は……自分自身を守れるだけの力が欲しいんです。自分自身に余裕ができれば、他人にも手を差し伸べることができる……俺はそう思ったんです」
「……!」
マモルの言葉にカイは驚くも、我に返ってカイも慌てて口を開いた。
「……あっ、オレも! ヴィオさん、オレも弟子にしてください!」
「シロヤマさんまで!?」
カイもヴィオの前まで駆け寄り力強い土下座を決める。あまりにも勢いが強すぎた故に、勢い余って額が地面に激突する。
「オレは……! できる限りで人を守りたいんです。目の前で何か起こった時に、それを解決できるだけの力が欲しいんです!」
「……」
「できる限りで助けたいなんて、我ながら自分勝手なことだと理解してます。それでもオレは、後悔したくないから……!」
カイの絞り出すような心からの声に、ヴィオは表情を引き締めて耳を傾ける。
「これは他人の為である以前に、自分のためでもあるんだと思います。ですが、人を助けたい気持ちに嘘偽りはありません! お願いします!」
カイはさらに頭を下げ、額を地面に押し付ける。
「……お2人とも、とりあえずお顔を上げてください」
ヴィオは2人に視線を向け、優しく言葉をかける。
が、土下座を解除しそうになったカイに対し、マモルはすぐさま手で制して止めた。
「カイ、ヴィオさんが弟子入りを認めるまで土下座は解除するなよ。それが土下座というものだ」
「そうなのか……! 分かったよマモル!」
「いや、大丈夫ですので……とりあえずお顔だけは上げて……」
「マモル、背中は預けた……!」
「ああ……任せろ!」
「その姿勢でどのように互いの背中を預けるのですか……!? よりによって背中のみ露出する姿勢で守るも何もあったものでは……」
「気持ち的なものです! オレ達は本気ですから!」
カイとマモルの意思は固いようで、その場から全く動かない。
「大丈夫ですから! お気持ちは十分理解しました! なのでとりあえずお顔は上げてください!」
マモルとカイの全力の土下座に見かねたヴィオは、2人の頭を掴んで地面から強引に引き剥がした。
「あ、あの……」
「ヴィオさん……?」
頭を持ち上げられた2人は戸惑いの声を上げる。
「申し訳ございません。これくらいしないと、お2人は地面から剥がれないと思いまして……」
「そんな頑固な汚れみたいに……いや、我々も頑固に粘ろうとしたので文句は言えませんが……」
「と、とりあえず手を離して……」
「あ、すいません!」
ヴィオはとりあえず手を離して2人を解放する。突然解放され、カイとマモルは地面に転がる。
「お2人とも、顔を上げてください」
ヴィオの言葉を聞いた2人は恐る恐る顔を上げる。
「……お2人の本気、しかと受け止めました」
顔を上げた2人の前には、満面の笑みを湛えたヴィオの姿が。
「ヴィオさん……?」
「貴方達お2人を、わたくしの弟子にしましょう!」
「えっ!?」
「よ、よろしいのですか……?」
「もちろんです! むしろわたくしとしましても大歓迎ですよ! ここで別れるのももったいないと思ってましたし、それに……」
「?」
「わたくしも色々あって、ほんの少し寂しかったので……なんて、自分勝手な理由ですが……」
ヴィオは恥ずかしそうに両手を合わせてモジモジする。
「ヴィオさん……えっと、弟子入りを認めてくださりありがとうございます!」
「俺からもお礼申し上げます。本当に、ありがとうございます……!」
「いえいえ! ……あの、わたくしからもひとつよろしいでしょうか……?」
大喜びでお礼を申し上げるカイとマモルに対し、ヴィオは照れながら言葉を続ける。
「弟子入りを認める代わりのようなものでして……」
「もしかして……弟子になるための条件のようなもの、でしょうか?」
「あっ、そんな感じです! ……こほん。私の弟子になるならば、ひとつ条件がございます」
ヴィオはその場で軽く衣類を整え、改まった姿勢で話を切り出した。
「条件……」
「そんな難しい話ではございません。それは…………」
「「それは……?」」
ヴィオの畏まった態度に、カイとマモルは固唾を飲んで見守る。
「……わたくしに、現代のアレコレを教えてください!」
「現代の……」
「アレコレ?」
ヴィオの提案にカイとマモルは首をかしげた。




