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1話 心優しい魔法生徒【挿絵あり】

 電気と共に生きる星、ゼウシリーア。


 多種多様で高性能な電化製品が生まれる星であり、今現在、各星々に流通している殆どの電化製品はゼウシ製と言っても過言ではない。


 今や必需品となった携帯電話はもちろんのこと、テレビゲームや大人気長寿漫画、名作アニメが生まれたのもここ、ゼウシリーアである。


 そんなゼウシリーアにある国『ヒノモト』には、様々なアクティビティで溢れた活気のある未来都市が存在する。


 ヒノモトの治安はとても良く、魔法を一切使用できない人間でもほとんど苦労せず生活できる、まさに夢のような世界。



 ……しかし、そんな平和なヒノモトの国でも、多少なりとも子悪党は発生するもの。



「おい眼鏡、俺達に喧嘩売ったよな?」


「いい度胸してんな? あぁ?」


(最悪だ……)


 真夜中の住宅街を1人で散歩していた黒縁眼鏡の男子生徒『ハルカワ・マモル』は、ひょんなことから迷惑千万な子悪党ふりょうの群れに絡まれていた。



 数分前のこと……



 真夜中、街頭に照らされた街中にて。一般市民は寝静まる時間帯であるにも関わらず、マモルは外を堂々と闊歩していた。


「ふんふふん」


 鼻歌混じりで表を歩く男子生徒の腕には、『夜間散歩』と記載された腕章が巻かれている。


(今年から俺も魔法使い見習い……! これからは夜間も堂々と出歩けるようになるぞ)


 彼は今年から魔法学園に通う魔法学生であり、魔法使い見習いになったばかり。


 魔法使いは睡眠時間が短く、かつ夜間の仕事もそこそこ存在する為、魔法使い見習いには夜間も起きる訓練が存在する。

 彼も魔法使い見習いとして、真面目に夜間散歩の訓練に励んでいる最中だった。


「ふふふん……ん?」

 

 架空のCMソングを奏でながら上機嫌で歩く魔法学生の足先に、道路に捨てられた空き缶がカツンとぶつかる。


 マモルの視線の先には公園があり、園内には空き缶が入った大きなゴミ箱が置かれている。


「こうなれば、やることは1つ……!」


(かつて周りから『グラウンドから出ていけ』と言われていた俺の必殺シュートを見せる時……!)


 マモルは公園のゴミ箱に照準を合わせ、足を後方へと思い切り逸らし……ここでマモルは辺りを見回して人の有無を確認する。


「……よし! それっ!」


 人は居ないと認識したマモルは、全力で空き缶を蹴り飛ばした。


 見事な曲線を描きながら飛んだ空き缶は公園に向かって飛んでいく。


 しかし空き缶は想定していた進路から大きく逸れ、公園の中で屯していた学ラン姿の不良の1人に命中した。


「いて」


「あっ」


 ツノの生えた大男の頭から小気味いい音が鳴り、不良は缶が飛んできた方角に不機嫌そうな視線を向ける。

 その視線の先には片足上げたマモル。誰がどう見ても、缶を飛ばした犯人は明確だった。


「おい、何すんだよ眼鏡」


 ツノの生えた不良は不機嫌そうに振り返り、仲間の不良を引っ提げてマモルにゆっくり近付いていく。

 対するマモルは片足を上げた姿勢のまま口を開いた。


「どっ、どうなさいました!? すごい音がしましたけれどっ!?」


「今になって他人ぶっても遅えんだよ!」


「せめてその姿勢どうにかしろや!」


「それにこっちは「それっ!」ていうお前のでけぇ掛け声聞いてんだよ!」


「申し訳ございません!」


 他人のフリで誤魔化そうにも決定的な証拠を突きつけられたマモルは、姿勢を正してすぐさま不良達への謝罪へと移る。


「頭に命中したばかりか、想像以上にいい音が鳴ってしまい……!」


「謝るとこそこじゃねえよ」


「俺達のことバカにしてんなコイツ」


「ちょっとそこの公園で話しよっか」


「うわっ!」


 不良はマモルの腕を掴み、強引に近くの公園へと引っ張り込んだ。



 そして現在に至る。



 そう、不良に囲まれる事態を作り上げたのは他でもないマモル自身。つまるところ自業自得なのだった。


(やってしまった……!)


 街灯に照らされた公園のど真ん中に連れて来られたマモルは、そのまま不良の群れに取り囲まれる。

 マモルは今になって不良が怖くなったのか、顔がみるみる青ざめていく。


「あの、先程は本当に申し訳ございませんでした……なので暴力だけはどうか……」


「いや、先に暴力振るってきたのはそっちじゃん」


「お詫びとしてお金出してよ」


 マモルの謝罪なぞ耳もくれず、不良はマモルに向かって小遣いをせびり始めた。


「カツアゲするんですか……?」


「カツアゲじゃなくて慰謝料ね」


「それに、僕ら今月大ピンチでさぁ〜。もうお金ないんだよねぇ〜」


 ツノや猫耳が生えた不良達はマモルに詰め寄り、ニヤニヤしながら金をせびる。


「いや、すいません……俺もそんなにお金は……」


「分かってねぇなぁ、さっきの暴力はお金でチャラにしてやるって言ってんだよ」


「それともお金ケチってその代わりに病院行くか? ああ?」


「あっはい! すいませんすぐお支払いします!」


 不良達に脅されたマモルは慌てて鞄を漁りだす。


「ってかお前、万代魔法学園ばんだいまほうがくえんの生徒だよな?」


「マジ? 魔法学生って金持ちのイメージあるし、それなりにお金持ってんじゃないの?」


「へぇ〜それはいいな。おい、数万マルでいいからくれよ。それで勘弁してやる」


「…………"数万マルでいい"だと?」


 不良の一言に引っかかるものがあったのか、マモルは鞄を漁る手を止める。


「ん? どうした?」


「……さてはお前達、働いてお金を得たことが無いな?」


「あ?」


「アルバイトでもしてお金を稼いだことがある学生なら「数万マルでいいから」なんて言葉はまず出ない筈だ!」


 マモルの顔は困り顔から一転して険しい表情に変わる。マモルは怒りの形相のまま言葉を続ける。


「お前達が簡単に言い放ったその数万マルを稼ぐのに、世間の人々はどれだけの労力を……っ!?」


 マモルが言葉を続けようとしたその瞬間。不良の1人が手のひらから魔力弾を生み出し、マモルの腹へとぶち当てた。


「がはっ……!?」


 マモルは呻き声を上げながらその場から吹き飛び、地面に無様に倒れ込んだ。


「あははははは! カッコワリー!」


「俺達もさぁ、魔力持ちなんだよねぇ。魔法使い見習いのお前と同じで」


「そーそー。しかも結構あちこちで喧嘩してるからさ、その辺の奴よりだいぶ強いよ」


「お前のようなお坊ちゃん魔法生徒の使うお子様魔法なんて屁でもねえぜ! ぎゃはは!」


「下品だよ。まあ、間違ってないけどね」


 猫耳不良は片手から魔力の塊を生み出しながら得意げに語る。


「っていうか眼鏡、お前って『人工魔法使い』ってやつだったりする?」


「人工魔法使い? 何だそれ」


「お前知らねーのかよ。勉強したら魔力無い奴でも魔力持てるようになるってやつ」


「そんなのあるのか?」


 地面に倒れ呻いているマモルの前で、不良達は呑気にくっちゃべる。


「でも人工魔法使いは、普段使いできる魔力を制限されてるらしい。だから元から魔力持ってる俺達の方が強いんだよ」


「へぇ、コイツ弱いのか」


「弱いよ。だってコイツ、あの程度の魔法弾でこんなに弱ってんだよ?」


「確かに! こいつ雑魚じゃん! あははは!」


「……お前……そもそも……」


 マモルを前に大笑いする不良に対し、マモルは呻きながらも口を開く。


「あ? 何だ?」


「そもそも……そんな力があるなら……! その魔力を使って、真面目に金を得れば良かっただろ……!」


「…………」


 マモルの反論に対し、猫耳不良は途端に不機嫌になり口を閉ざした。


「魔力持ちならいいアルバイトもある筈……! 魔法使い見習いなら尚更、いいアルバイト代をもらえる筈なんだよ……!」


「…………はぁ」


「どうやら図星のようだな……! 魔力以前に、まともに魔法使いを目指せないからこそ、こんなチンピラ紛いのことを……!」


「うるせぇ」


「っ!?」


 マモルは更に言及しようと言葉を続けるも、猫耳不良が全力で投げ込んだ魔法弾により阻まれてしまった。

 勢いよく放たれた魔法弾はマモルの腹に再び命中する。


「うぐっ……!」


「大した力もねぇのに説教しようとするからそうなんだ……よっ!」


「ぐあっ!」


 倒れてうずくまるマモルの元に集まる不良達。不良達は手から魔力弾を複数生み出し、マモルの身体中に次々とお見舞いしていく。


「ははは! ダッセ〜!」


 不良の1人は折り畳み携帯を開き、倒れるマモルをカメラ機能でフラッシュ撮影する。


「じゃ、お小遣い貰ってくね〜」


「うぅ……」


「言いたいことがあるならはっきり言ったら?」


 やけに軽そうな性格の猫耳不良は、マモルの鞄を漁り革張りのサイフを抜き取る。


「小学校の先生も言ってるでしょ? 「言いたいことは大きな声でハッキリ言いましょう」ってさ!」


「じゃあこいつ小学生以下じゃん!」


「小学生以下で魔力もないのに俺達に歯向かうとか終わってんな〜」


「もういっそのこと幼稚園からやり直したら? ……って、こいつ所持金少なっ」


 財布から出てきた数枚のお札に猫耳不良は不満を漏らす。


「うわっ、たった千マルとかマジかよ……この眼鏡何の価値もないじゃん」


「ぐぅぅ……」


 呆れた不良達はため息をつき、地面に転がるマモルを小突く。小突かれたマモルから低い呻き声が漏れる。


「マジ魔法使って損した……おい、行こうぜ」


「あーい」


 巻き上げた金をポケットにしまった不良は、マモルの財布をその辺に捨てると、地面に転がるマモルに背を向けて歩き出した。その時。



「おい、何してんだ!」



 星が煌めく夜空から声が降り注いだかと思ったその次の瞬間、公園の上空をホウキで飛ぶ1人の若者が姿を現した。


「あ? 何だ?」


「こっちに向かって来てる……?」


「それっ!」


 ホウキに乗って空を飛ぶ1人の若者は空から急降下し、不良とマモルの間に半ば乱暴に降り立った。


「うわっ!」


「危なっ!?」


 急降下したホウキに不良達が慌ててその場から飛び退く。その間にも若者は、慣れた手つきでホウキから飛び降りた。


「おい、誰だお前!」


「その辺を散歩してた一般市民!」


 不良の群れを前に果敢に叫んだ若者は、白髪が印象的なスカジャン姿のエルフだった。


挿絵(By みてみん)


「見たところお前も学生だな……どこ高だ?」


「オレは魔法学園に通う普通の魔法生徒だよ。魔法使い見習いだから、夜間散歩訓練でホウキの練習してたとこ!」


 魔法生徒は軽く自己紹介しつつホウキを大きな鞄にしまい、改めて不良達を見据える。


「それよりも! さっきこの人に何したんだ! 倒れてる人の鞄から財布抜き取っただろ!」


「そんなのお前には関係ないだろ」


「そもそも俺達は被害者なんだけど」


「何? お前もコイツみたいに小遣いくれたりすんの? お前も魔法学園の生徒なら、それなりにお小遣いは……」


「ちょっと!」


 ガタイのいい不良は両手を鳴らしながら、仁王立ちしている魔法生徒へとゆっくり歩み寄っていく。

 が、それを猫耳不良が手で制して止めた。


「おい、何すんだよ」


「いや、流石にホウキに乗って空飛んでた魔法学園の生徒はやめた方がいいって!」


「大丈夫だよ、そんなびびんなって」


「高所を長時間飛べるほどの魔力を持ってるってことだよ! やめとけ!」


「大丈夫だって。俺はあの天高のイーグルを打ち倒したんだぜ? それに、魔法学園のお坊ちゃま生徒には喧嘩の仕方なんざ分からねぇよ」


 ガタイのいいエルフ不良は仲間の不良を押し除けて生徒へと再び詰め寄り、やがて生徒の前で停止した。


「へへへ……」


 自身よりも背の低い魔法生徒を見下した不良は、下卑た笑みを浮かべながら右手にグッと力を込めた。


「魔法学園の魔法使い見習い程度なんざ……俺が一気に片してやるよっ!」


 エルフの不良は構えた右手に思い切り魔力を込めると、目の前にいる魔法生徒に向かって全力の拳を振り下ろした。



 が、その拳は魔法生徒に当たることはなかった。



「おっと!」


 魔法で強化された豪速球のような拳を、魔法生徒は凄まじい反射神経で軽々と避けた。


「隙ありっ!」


「やべぇ!?」


 その上で魔法生徒はエルフ不良の懐に潜り込み、エルフ不良の胴体にそっと手をかざした。


「は……?」


 相手からのカウンターが来ると警戒していたエルフ不良だったが、魔法生徒からの拳は一切飛んで来なかった。

 代わりに、胴体にポンと手を押し当てられただけである。


「何してんだおま……えっ?」


 訝しげに相手を睨むエルフ不良だったが、そんなエルフ不良の全身に異変が起こり始めた。


「か、身体が……動かねぇ……!」


 エルフ不良は胴体を中心に凍り始め、あっという間に分厚い氷に覆われてしまった。顔以外を全て氷で覆われ、エルフ不良の顔は青ざめていく。


「さ、寒っ……! 出られねぇ……!」


 エルフ不良は顔を必死に動かすも、分厚い氷はびくともしない。魔法使い未満である不良では、この分厚い氷から抜け出すことは困難だろう。


「は……!?」


「凍った……!?」


 そんなエルフ不良が凍る現場を目撃した不良の仲間達は驚き目を見張る。


「なっ、何だあれ!?」


「あれマジで氷なのか!? まさかアイツ、魔法道具を隠し持ってやがったのか!?」


 猫耳不良は魔法生徒を睨みつけるも、当の魔法生徒の身体には魔法道具らしきものは見当たらない。


「まずは1人目!」


 対する魔法生徒はエルフ不良から離れながら元気に言葉を言い放つ。


「身体強化ができるなら、それで寒さも耐えられるよな? とりあえずお前はそこで止まっててくれ。さてお次は……」


 魔法生徒は不良達に向かって両手を構え、手のひらから白い手裏剣のような物体を生み出した。


「行っけぇ!」


 魔法生徒は自身の手で生み出した手裏剣を、慣れた手つきで不良目掛けて次々と放っていく。


「やっべぇ!」


「うわっ、ちょっと!?」


 ガタイのいいツノ不良はすんでのところで手裏剣を躱し、慌てて猫耳不良の背後に隠れる。


「おい何して……っ!?」


 盾にされた猫耳不良は呆気なく手裏剣に命中。手裏剣が命中した部位はすぐさま分厚い氷で覆われ、やがて猫耳不良は頭以外氷で覆われてしまった。


 的から外れた白い手裏剣の一部は地面に刺さり、その場を凍らせ真っ白に染め上げていく。


「げっ!?」


「な、何……この魔法……!?」


「やべぇ! 逃げ……うわっ!?」


「うっ、動けねぇ……!」


 その場から逃げ出そうとした仲間数名にも命中し、頭以外の一部を凍らせて動けないよう固定された。


「仲間が次々と……! くそっ! あのヤロウ、一体何を投げやがったんだ……!?」


 ツノ不良は味方の氷の影に隠れつつ辺りを見回し、足元スレスレで地面に突き刺さっていた白い手裏剣を発見した。


「雪の結晶……!?」


 魔法生徒の投げた手裏剣の正体は、巨大な雪の結晶だった。


「まさか、魔法道具で仲間を凍らせた……ってことか……!?」


「いや、魔法道具で扱える力にしては妙だ!」


 仲間の言葉に猫耳不良は慌てて叫ぶ。


「あんな短時間で氷の結晶を幾つも作り上げて……その上、雪の結晶に触れただけでも簡単に凍るなんて……! そんなとんでもない魔法道具は存在しな……!」


 そこまで述べた猫耳不良は、何か心当たりがあったのかハッとして目を見開き、急いで魔法生徒に目を向けた。


「ま、まさかアイツ……! 氷の能力者!?」

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