表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ADHD勇者! 〜異世界行っても本気出せない、寝坊から始まる勇者譚〜  作者: 由良太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/10

第5話 勇者は、立ち止まりながら前に進む

 異世界に戻ってから、数日が経った。

 ユラ・コルニエは、村の外れにある小さな丘に腰を下ろし、草をむしりながら空を見上げていた。


「……静かだなぁ」


 魔王軍の影もない。緊急クエストもない。

 あるのは、自分の頭の中だけだ。


(……俺、勇者だったんだよな)


 そう思うだけで、胸が少しだけ苦しくなる。

 強かったはずなのに、最後までやり切れなかった自分。

 記憶が完全じゃない分、後悔だけが妙に鮮明だった。


「考えすぎると止まんなくなるんだよなぁ……」


 ユラは立ち上がり、剣を手に取る。

 村から借り受けた、少し刃こぼれした剣だ。


「……素振り、百回」


 そう決めたのは五分前。

 今、やっと十回目が終わったところだった。


「よし、休憩」


 即座に地面に座る。

 自分でも笑ってしまうくらい、ブレない集中力のなさだ。


 ――でも。


(前だったら、そもそも剣持ってなかったな)


 寝転がって空を見ながら、そんなことを思う。

 ほんの少し。ほんの少しだけど。

 “やろう”とした自分が、ここにいる。


 その時、背後から足音がした。


「ユラ。こんなところでサボりか?」


 村の鍛冶師、ガルドだった。

 筋骨隆々の体に、呆れたような笑顔。


「サボりじゃないです。戦略的休憩です」

「ほう。で、その戦略は?」

「……(╹ー╹)」


 ガルドは鼻で笑い、剣を指差した。


「振り方、なってねぇな。でもよ」

「でも?」

「昨日よりは、マシだ」


 その一言に、ユラは一瞬だけ目を見開いた。


「……ほんとですか」

「ああ。腰が逃げなくなった」


 たったそれだけ。

 褒め言葉としては、かなり地味だ。


 それでも。


「…そうでしょう?」


 思わず小さくガッツポーズをしてしまう。

 ガルドは肩をすくめた。


「才能はある。だが集中力がない」

「自覚はあります」

「勇者向きじゃねぇな」

「それも自覚あります」


 沈黙。

 風が草を揺らす。


 ガルドは続けた。


「それでも剣を持つなら、俺は教える」

「……いいんですか?」

「逃げねぇならな」


 ユラは剣を握り直す。

 手が、少し震えていた。


「逃げたら……その時は」

「その時は、また戻ってこい」

「え?」


「勇者ってのはよ、立ち止まるもんだ」

「……」

「問題は、戻ってくるかどうかだ」


 ユラは、ゆっくりと頷いた。


「……百回、いきます」

「今度は何分持つ?」

「三十回目くらいで心折れます」

「正直すぎるだろ」


 笑い声が、丘に響いた。


 剣を振る。

 重い。

 息が切れる。

 集中が散る。


 それでも。


 ――一回、また一回。


 四十回目の素振りを終えた頃には、腕が悲鳴を上げていた。

 ユラは剣を地面に突き立て、深く息を吐く。


「……今日はここまででいいか」

「甘ぇ」

「でも三十回目超えました」

「そこは誇れ」


 ガルドがそう言った、その時だった。


 ――村の方角から、聞き慣れない音がした。


 蹄の音。

 それも一頭や二頭じゃない。


「……馬?」


 ガルドの表情が、すっと変わる。

 冗談の混じらない、職人の顔だった。


「村に、騎士が来る時の音だな」


 ユラは眉をひそめる。


「騎士? この辺境に?」

「しかも、あの数は……」


 二人が丘の上から村を見下ろすと、

 土煙の向こうに、銀色の鎧が見えた。


 整った隊列。

 紋章入りの外套。

 そして、先頭に掲げられた――王家の印。


「……王都の使者、だな」


 ガルドが低く呟く。


 ユラの胸が、嫌な音を立てた。

 理由は分からない。

 けれど、直感が告げている。


(……俺だ)


 何かが、動き出している。

 勇者としての自分を、逃がしてくれない何かが。


 剣を握る手に、力がこもる。


 丘の下で、使者たちは村人に囲まれ始めていた。

 その中央で、一人の騎士が、はっきりとした声で告げる。


「――勇者ユラ・コルニエ殿は、いずこに?」


 風が止んだ。


 平穏だったはずの村に、

 確実に“物語の本流”が流れ込み始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ