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ADHD勇者! 〜異世界行っても本気出せない、寝坊から始まる勇者譚〜  作者: 由良太郎


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4/5

第4話 本編は、まだ始まっていない。

記憶の欠片

触れた瞬間、

世界がひっくり返った。


白い光に包まれ、

次に目を開けた時、俺は知らない天井を見ていた。 ――思い出すのは、いつも決まってあの日のことだ。


 朝の満員電車。

 ぎゅうぎゅうに押し潰されながら、俺――佐藤は天井を見上げていた。


(今日も、何事もなく終わればいい)


 そんなささやかな願いすら、叶わないのが俺の人生だった。



「佐藤ォ!!」


 会社に着くなり、怒号が飛ぶ。


「この資料! 何回言わせるんだ!

 “気持ち”がこもってない!!」


「気持ち……ですか?」


「そうだよ! 資料は心だろうが!!」


 ――資料に心を込めろという新概念。


 上司は書類を床に叩きつけ、腕を組んで仁王立ちする。


「だいたい佐藤はさぁ、

 言われたこと“だけ”やるよな」


(それが仕事です)


 喉まで出かかった言葉を、俺は飲み込む。


「もっとこう、

 自発的に! 空気を! 読め!」


 空気。

 読めないのはどっちだ。


「すみません……」


 頭を下げると、上司は満足げに鼻を鳴らした。


「謝ればいいと思ってるところがダメなんだよ」


(じゃあどうすればいいんだよ!)


 昼休み。

 机で一人、安い弁当を食べながら思う。


(仕事やめたい…)


 怒られ、耐え、また怒られ。

 反撃もしない代わりに、評価もされない。


 そんな人生だった。



 その日の帰り道。


 夕暮れの交差点で、俺は異変に気づいた。


 横断歩道の真ん中。

 足腰の弱そうな老人が、立ち尽くしている。


 信号は、すでに赤に変わりかけていた。


「……危ない!」


 クラクション。

 迫ってくるトラック。


 周囲の人間は、誰も動かない。


 ――気づいたら、俺は走っていた。


「大丈夫ですか!」


 老人の腕を掴み、引き寄せる。

 だが、その身体は想像以上に重かった。


「す、すまん……」


 トラックが、もう目の前まで迫っている。


(間に合わない)


 瞬時に理解した。


 このまま二人とも助かるルートは――ない。


「……行ってください」


 俺は、老人を歩道側へ突き飛ばした。


「え……?」


「大丈夫ですから!」


 嘘だ。

 全然大丈夫じゃない。


 だが、不思議と怖くはなかった。


(……まぁ)


 どうせ、俺の人生だ。


 最後くらい、誰かの役に立ってもいい。


 強烈な光。

 衝撃。


 世界が、ひっくり返る。



 ――次に意識を取り戻した時。


 身体が、やけに軽かった。


「……?」


 ゆっくり目を開ける。

俺は、現世で目を覚ました。


手の中にあった光は、

すでに消えている。


会社。

 パワハラ上司。

 耐えるだけの日々。


 そして――

 老人を助けるために、囮になった自分。


「……俺は」


 喉が、わずかに震える。


「佐藤、だったな」


 勇者ユラ・コルニエ。

 前世は、佐藤。


「俺……

 異世界に転生してるな…」


 俺の人生は、

 どうやら“第二幕”に入ったばかりらしい。


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