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ADHD勇者! 〜異世界行っても本気出せない、寝坊から始まる勇者譚〜  作者: 由良太郎


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第3話 勇者スキル、よく分からないので使ってみる

 家に帰ると、夕飯の匂いがした。


「おかえり、ユラ。鑑定はどうだった?」


 かまどの前に立つ母は、いつもと同じ声だった。

 今日が、俺の人生が変わった日だなんて、微塵も感じさせない。


「えっと……」


 どう切り出すべきか分からず、俺は立ち尽くす。


「どうしたの? 結果、悪かった?」


「いや、そうじゃなくて……」


 深呼吸する。


「俺、その……勇者だった」


 母の手が、ぴたりと止まった。


 鍋の中で煮えていたスープが、静かに音を立てる。


「……勇者?」


「うん。鑑定で、そう出た」


 一瞬、冗談だと思われた気がした。

 だが俺が真顔で立っているのを見て、母は何も言わず椅子に腰を下ろした。


「……そっか」


 それだけだった。


 泣きもしない。

 喜びもしない。

 ただ、少しだけ表情が柔らいだ。


「大変な道になるわね」


「……うん」


「でも、あんたが生きて帰ってくるなら、それでいい」


 その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなった。


 俺は、母の前で初めて肩の力を抜いた気がした。



  部屋に戻り、ベッドに腰を下ろす。


「勇者、か……」


 まだ実感はない。

 ただ、鑑定の時の光景だけが、やけに鮮明に思い出された。


 水晶が輝き、能力値が読み上げられた、あの瞬間。


 ――あの時だ。


 鑑定官の声が遠くなり、胸の奥がじんわりと熱を持った。


(スキル付与、完了)


 確かに、そう聞こえた気がする。


「……スキル」


 勇者には、特別な力が与えられる。

 なら、俺にも何かあるはずだ。


 半信半疑のまま、目を閉じる。

 意識を、ぐっと内側に集中させた。


 すると――


(……あ)


 ある。


 はっきりと分かる。

 体の奥に、何か“使えるもの”がある感覚。


「これが……勇者スキル?」


 頭の中に、二つの名前が自然と浮かんだ。


 スラッシュ

 イベントリ


「……二つだけ?」


 一瞬、首を傾げる。


 いや、勇者だぞ?

 伝説とか、神話とか、そういう存在だぞ?


「さすがに、スキル二つだけなわけないよな……」


 考える。


 うん、分からん。


「……ま、いっか」


 深く考えるのはやめた。

 どうせ考えても分からない。


「とりあえず、使えるなら確認だ」


 まずは――


「……スラッシュ」


 次の瞬間。


 体の奥が、カッと熱を帯びた。


 剣を握ったことなんてないのに、

 振り方だけが頭に流れ込んでくる。


(……あ、これ)


 直感で分かる。


「攻撃スキルだな、これ」


 しかも、割と危ないやつだ。


 勢いで振ったら、

 家の壁くらい普通に切りそうな気がする。


「……外で試すやつだな」


 そう判断できた自分を、少しだけ褒めたい。


 気を取り直して、次。


「……イベントリ?」


 そう思った瞬間。


 視界の端に、半透明の枠が浮かび上がった。


 「これって噂で聞く、収納スキルなのでは…?」


 思わず呟いた、その時。


 ぽつん、と一つだけ表示されているものが目に入った。


【記憶の欠片】


「……なにこれ」


 意識を向けると、簡単な説明が浮かぶ。


【使用時、魂に刻まれた記憶を解放する】


 意味が、分からない。


 だが、なぜか目を逸らせなかった。


 俺は、ゆっくりとそれを取り出す。


 手のひらに収まる、小さな光の結晶。

 見覚えはないはずなのに、胸がざわつく。


「……記憶?」


 指先が、そっと触れた。


 ――瞬間。


 視界が、白く弾けた。

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