第21話 勇者と騎士団団長
金色のオーラが、ふっと消えた。
「っ……!」
ユラの膝が崩れる。
ビーストモードの光が完全に消え、体の奥から力が抜けていく。
(まずい……)
魔力が、ない。
「魔力切れだ……っ」
全身が悲鳴を上げていた。骨が軋み、筋肉が裂けそうに痛む。
無理やり引き出した力の反動が、今になって一気に押し寄せてくる。
魔人はゆっくりと首を鳴らした。
「終わりか?」
その声には、明確な嘲りが混じっている。
「……まだだ」
ユラは歯を食いしばり、立ち上がろうとした。
だが――
ドンッ!!
視界が揺れた。
魔人の拳が、ユラの腹にめり込む。
「がっ……!!」
衝撃が背中まで突き抜けた。
次の瞬間、ユラの体は宙を舞い、地面を何度も転がる。
岩にぶつかり、ようやく止まった。
「ユラァ!!」
エドウィンの叫び声。
だが、ユラの体は動かない。
魔人はつまらなそうに肩を回す。
「やはり雑魚だったな、勇者」
その時だった。
ギリ、と剣を握る音。
「……それ以上、進ませはしない」
魔人の前に、三人の男が立った。
エドウィン。
マルクス。
バルク。
三人とも、満身創痍だった。
鎧は砕け、血に濡れ、立っているのが不思議なくらいだ。
それでも――
退かない。
エドウィンが剣を構える。
「命に替えても……勇者を殺させはしない!」
バルクは槍を地面に突き立て、笑った。
「へっ……死ぬなら派手にいこうぜ」
魔人は、しばらく三人を見つめた。
そして――
顔を歪める。
「ウゼェな」
殺気が爆発した。
「お前ら――いっぺんに死ね」
魔人が拳を振り上げる。
その瞬間。
「――そこまでだ」
低い声が、空から落ちてきた。
全員が顔を上げる。
夜空から、一人の男が降りてくる。
赤い服。
長いコートのような装束。
腰に剣は――ない。
だが。
地面に着地した瞬間、空気が変わった。
圧力。
重力のような威圧感。
魔人の顔が、初めて歪んだ。
「……貴様」
男は軽く周囲を見渡した。
ボロボロの騎士たち。
倒れているユラ。
そして魔人。
「オレの仲間に、随分ちょっかいかけてくれたな」
その声は、静かだった。
だが、怒りが滲んでいる。
魔人の目が見開かれる。
「貴様……!何故ここに!」
エドウィンが叫んだ。
「団長!!」
マルクスも叫ぶ。
「団長!!」
男は軽く手を挙げた。
「これは……」
周囲を見回し、苦笑する。
「結構悲惨なんだが……」
魔人は一歩下がった。
そして、低く唸る。
「出たな……上位魔人」
男は肩をすくめた。
「くっ……フハハハハ!!」
魔人が笑う。
「丸腰の人間が一人来たところで何が変わる!」
だが。
笑いながらも――
魔人は一歩、後ろに下がった。
この男。
危険だ。
理屈ではない、本能がそう叫んでいた。
魔人は踵を返す。
逃げる。
その瞬間。
「逃げられるとでも?」
男が、静かに言った。
魔人の背後。
空間が、ぐにゃりと歪んだ。
「ははっ!残念だったな!」
魔人が叫ぶ。
「空間魔法が使えるんだよぉ!」
だが。
男は首を傾げた。
「そうじゃなくて」
一歩踏み出す。
「俺の間合いなんだよ」
――次の瞬間。
ズドン。
魔人の体が止まった。
「……?」
ゆっくり視線を落とす。
自分の胸。
そこには――
三本の剣。
どこから現れたのか分からない剣が、体を貫いていた。
「な……」
血が溢れる。
「なんだ……これは……!」
男は近づきながら言う。
「なあ」
「お前」
「ミナミって魔人、知ってる?」
魔人の目が見開かれる。
「なに……!?」
男は頭を掻いた。
「あー……もういいや」
「知らないみたいだし」
その瞬間。
空間が裂けた。
無数の剣が現れる。
空中に浮かぶ剣。
十。
二十。
三十。
そして――
雨のように落ちた。
ズドドドドドドドドドッ!!
魔人の体を、剣が貫く。
「が……」
声にならない声。
血が噴き出す。
最後の一本が、心臓を貫いた。
魔人の体が、崩れ落ちる。
ドサッ。
静寂。
男は息をつき、振り返った。
そして。
倒れているユラを見て、眉をひそめる。
「……勇者」
「これ、死んでないよな?」
エドウィンは膝から崩れ落ちた。
「た、助かった……」
マルクスもその場に座り込む。
バルクが笑う。
「遅いんだよ、団長……」
赤い服の男は肩をすくめた。
「いや、普通に急いだんだが?」
夜空の下。
戦いは、ようやく終わった。




