第20話 勇者「ビーストモード」
金色のオーラが、爆ぜるように広がった。
ユラの髪が逆立つ。
瞳の奥に宿る光は、先ほどまでのそれとはまるで違っていた。
そして、口がゆっくりと開く。
「――ビーストモード」
だが、その声はユラのものではない。
どこか柔らかく、静かな響き。
意識の奥底から、リリアの声が重なっていた。
「……なんだ、その気配は」
魔人に染まったレインハルトが低く呟く。
その瞬間――
「ユラァ!!」
バルクが地面に落ちていた剣を拾い、全力で投げた。
剣は唸りを上げて空を裂き――
ドンッ!!
ユラの隣の岩崖に突き刺さる。
ユラはゆっくりと手を伸ばし、その柄を掴んだ。
引き抜く。
ギィン、と金属音。
レインハルトも剣を構える。
二人の視線がぶつかった。
「……次は勝つ」
ユラが静かに言う。
心の奥で、もう一つの思考が巡っていた。
(黒衣の魔人が控えている……)
(スラッシュは使えない)
(ここは――剣だけで勝つ)
次の瞬間。
地面が爆ぜた。
ガキィィィン!!
凄まじい速度で剣がぶつかる。
火花が夜を裂いた。
ユラが斬る。
レインハルトが弾く。
返す刃。
受け流し。
踏み込み。
斬撃。
剣戟が嵐のように続く。
「くっ……!」
ユラの剣が弾かれる。
わずかに――遅い。
ほんの僅か。
だが、その差は確かに存在していた。
レインハルトが斬り込む。
ギィン!!
ユラが受け止める。
だが押し込まれる。
足が地面を削った。
(……くそ)
(まだ……足りない)
ユラの歯が食いしばられる。
「諦めて……たまるか!!」
剣が振られる。
一撃。
二撃。
三撃。
手数が増える。
さらに。
さらに。
斬撃の速度が、少しずつ上がっていく。
「……なに?」
レインハルトの目が細まった。
ユラの剣が速くなる。
速くなる。
さらに速くなる。
呼吸。
視線。
重心。
すべてが研ぎ澄まされていく。
そして――
ユラは。
考えることをやめた。
身体が勝手に動く。
斬る。
避ける。
踏み込む。
弾く。
すべてが――反射だった。
その光景を見ていた騎士たちが、息を呑む。
「……おい」
「今……見えたか?」
マルクスが呟く。
「いや……」
「見えない」
剣の軌跡が速すぎる。
騎士たちですら、肉眼で追うのがやっとだった。
ユラの手数が、さらに増える。
ガガガガガガガガッ!!
剣が嵐のように叩きつけられる。
「……チッ!」
レインハルトが舌打ちする。
だが、彼もまた一流だった。
ギィン!!
剣を弾き――
ドゴォッ!!
蹴りがユラの腹に突き刺さる。
「がっ……!」
ユラが吹き飛ぶ。
地面を転がる。
だが。
すぐに立ち上がる。
再び踏み込む。
剣がぶつかる。
ギィン!!
ガキィィン!!
互角。
いや――
ほんの少しだけ。
ユラが押し始めていた。
レインハルトの腕に、浅い傷が増えていく。
「……!」
ついに。
バイィィン!!
剣が激しくぶつかり――
互いに大きく弾かれた。
距離が開く。
荒い呼吸。
レインハルトが剣を構え直す。
その瞬間。
刀身が――赤黒く光った。
「終わりだ」
禍々しい魔力が溢れる。
ユラの目が細くなる。
(スキル……)
(なら――)
答えは一つだった。
「スラッシュ」
ユラの剣が光る。
次の瞬間。
二人が同時に踏み込んだ。
衝突。
ゴォォォォォォンッ!!!
衝撃波が大地を揺らす。
レインハルトの力が――上。
ユラの体が押し込まれる。
だが。
「……まだだァァァ!!」
ユラは踏み止まる。
全力で押し返す。
そして――
バリィィィィン!!
激しい衝撃とともに、
二人の剣が砕けた。
刀身が夜空へ弾き飛ぶ。
「……!」
レインハルトが一瞬だけ硬直する。
だが。
ユラは違った。
それは――
狙い通りだった。
ユラが叫ぶ。
「イベントリ!!」
空間が歪む。
そして。
ユラの手に現れたのは――
村で使っていた、古びた剣。
何度も研ぎ直した、
あの愛用の剣だった。
踏み込む。
レインハルトの反応が、わずかに遅れる。
「――ッ!」
閃光。
ザァァァァッ!!
ユラの剣が――
レインハルトの身体を切り裂いた。




