第2話 勇者の鑑定結果が、だいぶ偏っていた件
職業鑑定の儀が始まった瞬間、村の空気が変わった。
水晶球は、これまでに見たことのない強さで輝いている。
「……落ち着いてください」
鑑定官の老人が、額の汗を拭いながら水晶を見つめていた。
寝坊して全力疾走で駆け込んだ十五歳の俺――ユラ・コルニエは、状況がよく分からないまま、その場に立たされている。
「名前:ユラ・コルニエ
年齢:十五歳
種族:人間」
緊張から息を呑んだ。
「職業――勇者」
一拍。
そして、広場が爆発した。
「ゆ、勇者だと!?」
「本当に伝説通りじゃないか!」
「この村から……!」
いや待って。
俺、今まで鍬しか握ったことないんだけど。
「能力値を読み上げます」
鑑定官の声は、明らかに震えていた。
「筋力:高」
「敏捷:高」
「耐久:高」
「魔力:高」
……全部高い。
ざわざわと、空気が熱を帯びていく。
「幸運:異常値」
「異常値!?」
誰かが悲鳴のような声を上げた。
「待ってください、それってどのくらい……」
「神の加護が直接介入しているレベルですな」
なんかもう、よく分からないけど凄いらしい。
俺は内心、少しだけ浮かれた。
もしかして、俺、選ばれし者?
「では、最後に――」
鑑定官が言葉を切った。
「知力」
水晶の光が、一瞬だけ弱まる。
「……低」
「低?」
聞き間違いかと思った。
「一般人の平均を、はっきりと下回っています」
広場が静まり返った。
「勇者なのに?」
「魔法の理論とか……」
「作戦は……?」
やめて。
今、俺の心を殴らないで。
「補足しますが」
鑑定官は慌てて続ける。
「読み書きができないわけではありません。
ただし、理解力、判断速度、計画性――」
老人は一度言葉を選び、
「総合的に、考える前に体が動くタイプです」
……知ってた。
俺はなぜか、その言葉に納得してしまった。
昔から、説明は途中で分かった気になっていた。
気づいたら走り出していて、後から怒られる。
「勇者とは、本来——」
鑑定官が何かを説明し始めたが、正直、途中から頭に入ってこなかった。
(……腹減ったな)
気づけば、水晶がまた強く輝いている。
「……鑑定は、以上です」
その瞬間、村人たちの視線が一斉に俺に向いた。
期待と不安が、入り混じっている。
「大丈夫なのか……?」
「才能は本物だ」
「だが、知力が……」
俺は思わず頭を掻いた。
「えっと……とりあえず」
全員が息を呑む。
「やってみないと、分からないですよね?」
沈黙。
次の瞬間、誰かが笑った。
「……確かに」
「勇者らしいと言えば、勇者らしい」
そうして、俺は気づかないうちに、
村の期待と不安を全部背負うことになっていた。
この鑑定結果こそ、
後に「伝説の始まり」だと呼ばれることを、
この時の俺は、まだ知らない。




