第18話 勇者、魔人と対峙
「くそっ……! 間に合わなかったか!」
駆けつけた俺たちが目にしたのは、あまりにも無慈悲な光景だった。
黒い瘴気をまとい、もはや人の面影すら薄れた魔人と化したレインハルト。
その足元には、胸を貫かれた騎士ガゼル。
レインハルトの腕が振り下ろされる。
鈍い音とともに、騎士ガゼルの体が崩れ落ちた。
「……っ」
視界の奥で、黒衣の魔人がこちらを見ていた。
レインハルトを操る張本人――あの男。
許せない。
レインハルトを堕とし、騎士たちを殺した元凶。
胸の奥が焼けるように熱い。
「行くか?」とマルクスが低く言う。
「いや、待て。明らかに強いぞ」
バルクの声は冷静だった。
「あれは勝てない……無理だ」
エドウィンの額に汗が滲む。
確かに、感じる。
あの魔力――桁が違う。
空気そのものが重い。
魔力量が、強さを物語っていた。
「……出直すか」
マルクスとエドウィンが視線を交わす。
だが、俺の耳には届いていなかった。
「いきましょう!!」
「えっ!?」
振り返る間もなく、俺は地を蹴っていた。
怒りが、理性を置き去りにする。
「おい、ユラ!」
「くっ、行くぞ!」
仲間たちも慌てて後を追う。
黒衣の魔人が、ゆっくりとこちらを見る。
「ほう。命知らずのバカが来たか」
その声は、底冷えするほど冷たい。
レインハルトの赤黒い瞳が、俺を捉えた。
◇
剣を振るう。
一撃目、全力の斬撃。
だが、レインハルトは片手で受け止めた。
火花が散る。
「……。」
横薙ぎの衝撃波。
咄嗟に跳ぶが、頬が裂ける。
二撃、三撃。
連撃を叩き込むも、全て紙一重でいなされる。
対するレインハルトは、微動だにせず。
「……。」
横薙ぎの魔力刃。
咄嗟に跳ぶが、脇腹を裂かれる。
血が飛ぶ。
それでも止まらない。
「まだだぁッ!!」
踏み込み、喉元を狙う刺突。
だが、剣先が触れる寸前――
指二本で、止められた。
余裕の笑み。
汗が頬を伝うのは、俺だけだった。
◇
黒衣の魔人が笑う。
「……この嫌悪感。勇者か?」
ぞわり、と背筋が凍る。
「そっちから死にに来るとは。愚かだな」
そして、淡々と命じた。
「レインハルト、殺れ」
――空気が変わった。
レインハルトの構えが、わずかに低くなる。
「!?」
次の瞬間、視界から消えた。
剣を振り下ろす――はずだった軌道が、弾かれる。
「なっ……!?」
角度を強制的にずらされる。
無防備になった腹部。
――バサッ。
鋭い衝撃。
胸の下を、深く切り裂かれる。
「ぐっ……!」
血が飛ぶ。
さらに、レインハルトの足がめり込む。
腹部へ、容赦ない蹴り。
「がはっ!!」
肺の空気が一瞬で吐き出される。
体が宙を舞う。
次の瞬間――
背面から岩崖に叩きつけられた。
岩が砕け、視界が白く弾ける。
体が、めり込む。
動けない。
遠くで、誰かが叫んでいる。
黒い影が、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくるのが見えた。




