第15話 勇者は立ち向かう。
「来るぞ!」
低い唸り声とともに、オークの群れが一斉に地面を蹴った。
腐臭をまとった巨躯が、土煙を巻き上げて突進してくる。
「支援をかける! 踏ん張れ!」
マルクスが両手を掲げ、詠唱を紡ぐ。
「《パワーアップ》《ディフェンスブースト》!」
淡い光が仲間たちを包み、身体の芯から力が湧き上がる。
最前列でユラが剣を構える。
振り下ろされた棍棒を紙一重でいなし、刃で受け流す。
――重い。だが、いける。
反撃の踏み込み。
だがその瞬間。
「ユラ、後ろ――!」
背後から迫った別のオークの腕が、横殴りに叩きつけた。
「ぐあっ!」
地面を転がり、背中に衝撃が走る。息が詰まる。
「この野郎ォ!」
バルクが間に割り込み、槍を振り下ろす。
「立てるか、勇者!」
「……っ」
その間にも、マルクスとエドウィンが必死に応戦する。
「くそ……あと何体倒せばいいんだ!」
エドウィンの剣が一体の腹を裂く。
しかし彼の肩もまた、深く切り裂かれていた。
血と汗と土埃。
呼吸は荒く、視界が滲む。
ユラは歯を食いしばり、立ち上がった。
目の前に迫るオーク。
唾液を垂らし、棍棒を振り上げる。
――ここで退くわけにはいかない。
刀身が白く光る。
「《スラッシュ》!」
一閃。
空気を裂く斬撃が、オークの胴を真横に断ち切る。
そのまま斬撃は止まらず、背後のオークたちにも走った。
肉が裂け、悲鳴が重なる。
数体が同時に崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……」
膝が震える。
だが、意識ははっきりしている。
――魔力切れじゃない。
鍛錬の成果だ。まだ、立てる。
エドウィンがニヤリと笑う。
「やるじゃないか、勇者」
バルクが叫ぶ。
「おれたちもスキルで応戦するぞ!」
バルクの刀身が青く光り輝く。
ーー「《ソードビーム!》」
放たれた魔力はオークの腹を貫いた。
それぞれがスキルを発動し、オークを削っていく。
火花と怒号が交錯し、数は確実に減っていった。
だが――
まだいる。目視で十体以上。
満身創痍の四人。
呼吸は荒く、足は重い。
その時。
「やるしかない。」
静かな声が響いた。
リリアが一歩前へ出る。
エクストラスキル「――《ビーストモード》」
空気が震えた。
彼女の髪が逆立ち、黄金色に揺らぐ。
瞳が鋭く細まり、身体から膨大な魔力が溢れ出す。
オークたちの視線が、一斉にリリアへ向いた。
「グォォォ!」
標的を変え、殺到する。
リリアは地を蹴った。
「剣技――《グラディアスアーチ》!」
弧を描く斬撃が、閃光となって奔る。
一体、また一体。
首が飛び、胴が裂ける。
まるで舞うような連撃。
誰も追いつけない速度で、オークが次々と倒れていく。
最後の一体が膝をつき、崩れ落ちた瞬間――
光が収束する。
髪が元に戻り、魔力が急速に萎む。
「……っ」
リリアの膝が崩れ、そのまま地面へ倒れ込む。
「リリア!」
ユラが駆け寄る。
彼女は苦しげに笑う。
反動。
全身が筋肉痛どころではない。
骨が軋み、指先すら震えている。
だが――勝った。
誰もが、安堵の息を漏らした。
その時だった。
血溜まりの中から、一人の影が立ち上がる。
包帯をした冒険者。
剣を、静かに構える。
狙いは――勇者。
「えっ」
ユラの声が漏れる。
他の三人も、反応が遅れる。
時間が、引き延ばされたように感じた。
振り下ろされる刃。
――間に合わない。
次の瞬間。
鈍い音。
剣が肉を貫く感触。
だが、痛みは来ない。
目の前に、背中があった。
「……リリア?」
倒れていたはずの彼女が、ユラの前に立っていた。
胸を、剣が深く貫いている。
赤が、静かに広がっていった。
「……勇者は、守るって……」
微笑みが、揺れる。
ユラの思考が、真っ白になる。




