第13話 勇者、森の異変に困惑する
「しかし……こんな所になぜオークが?」
倒れた魔物を見下ろしながら、マルクスが低く呟いた。
オークの生息地はここからさらに北東にある森。通常ならオークが縄張りにするには不自然な場所だ。
そのときだった。
「……これを見てみろ」
エドウィンが、倒れたオークの腕を持ち上げる。
そこには黒く鈍い光を放つ腕輪がはめられていた。
「従属の腕輪……魔道具だ」
空気が張り詰める。
「これで操っていた……ということか?」
リリアが顔をしかめる。
エドウィンは頷いた。
「おそらく。強制的に命令に従わせる類のものだ。誰かが意図的にオークを放っている」
誰かが。
この森に。
五人の間に重い沈黙が落ちた、その時だった。
「――た、助けてくれ……!」
茂みをかき分け、一人の男が現れる。
作戦会議に居た、上半身に包帯を巻いた冒険者だった。
「なっ……!?」
リリアが剣を構える。
「一人でなぜここに!?」
「はぁ……はぁ……レインハルトさんに頼んで、騎士団と一緒に来たんだが……道に迷って、はぐれちまって……!」
冒険者は荒く息を吐きながら続けた。
「だが、この森は一体どうしたんだ!? オークだらけじゃないか!」
「……何だと?」
ユラの胸がざわつく。
「俺はここへ来る途中、あちこちで戦闘を見たぞ! 騎士団が応戦してる……森中にオークが散ってる!」
「そんな……」
リリアが息を呑む。
「……偶発的な発生じゃない。計画的だ」
エドウィンの目が細くなる。
「森全域に配置された、と考えるのが妥当だな」
嫌な予感がする。
ただの魔物騒ぎじゃない。
これは――
何かの“前触れ”だ。
「ひとまず、この人を連れて移動しよう」
マルクスの言葉に全員が頷く。
⸻
――場面は変わる。
森の外縁。
先発隊の騎士から報告を受けたレインハルトは、険しい表情で地図を握りしめていた。
「森全域にオーク……従属の魔道具、か」
低く、静かな声。
だがその瞳は鋭い。
魔人が見つかった報告はまだない。が
レインハルトは即座に判断を下す。
「村へ向かう。全隊、移動だ」
鎧が鳴る。
騎士団は進路を変えた。
やがて――
森を抜け、視界が開ける。
そこに広がっていたのは。
「……なに?」
誰かが、呟いた。
村は――静まり返っていた。
煙もない。
物音ひとつしない。
家はある。
畑もある。
だが――
人の気配が、ない。
「村人は……どこだ」
レインハルトの声が、冷たく沈む。
門は開いたまま。
食卓には、まだ温もりの残る皿。
まるで“さっきまで”そこにいたかのように。
だが。
誰一人、いない。
凍りついたような静寂。
騎士の一人が、顔を上げる。
村の奥――
古くから祀られている石碑の方角。
そこから。
くつくつ、と。
喉の奥で転がすような、湿った笑い声が聞こえた。
くつ、くつくつ……
石碑の周囲の空気が、ゆらりと歪む。
レインハルトが剣の柄に手をかけた。
「……全員、警戒」
次の瞬間。
笑い声が、はっきりと言葉に変わる。
『間に合わなかったなぁ』
その声は、村全体に響いた。




