第12話 勇者は自責する。
オークの突進を、バルクは真正面から受け止めた。
「ォォォオオオッ!!」
槍が唸る。
鋭い突きが、月光を裂いてオークの胸元へ――
だが。
ガァンッ!!
鈍い衝撃音。
振り下ろされた棍棒が槍を弾き、火花が散る。
「……硬ぇな」
オークの腕は丸太のように太い。
膂力が違う。
棍棒が横薙ぎに振るわれる。
バルクは踏み込み、半身で回避。
地面が抉れ、土が弾け飛ぶ。
「エドウィン! マルクス!」
「はい!」
二人の若い騎士が左右に展開する。
月明かりの中、三角陣形。
正面にバルク。
背後へ回り込むエドウィンとマルクス。
――魔力強化
低い詠唱と同時に、鎧の隙間から淡い紫光が走る。
オークが咆哮を上げ、再び棍棒を振り上げた。
「来い、化け物」
バルクが低く呟く。
振り下ろし。
その瞬間、バルクは一歩踏み込んだ。
避けない。
槍の柄で受け流し、衝撃を滑らせる。完全には殺せない。だが軌道が逸れる。
棍棒が地面に叩きつけられ、隙が生まれる。
「今だ!」
エドウィンが背後から斬りつける。
刃は皮膚を裂いたが、浅い。
「か、硬い……!」
オークが反転する。
その勢いでマルクスが跳ぶ。
喉元を狙う鋭い一撃。
だが――
肘打ち。
マルクスが吹き飛ぶ。
「ぐあっ!」
「マルクス!」
オークの視線が若い騎士へ向く。
その瞬間。
バルクの目が光った。
踏み込み。
腰を落とし、全身の力を一点に。
渾身の突き。
槍が、オークの脇下――薄い皮膚を貫いた。
「ォォォオオオオッ!!」
絶叫。
だが、まだ倒れない。
棍棒が振り上がる。
「隊長、下がって!」
エドウィンが叫ぶ。
間に合わない。
棍棒が振り下ろされる。
ドゴォッ!!
衝撃。
バルクの身体が弾き飛ばされた。
地面を転がり、血が飛ぶ。
「バルク!」
リリアの声が響くが、前には出ない。
任せた以上、介入はしない。
オークはよろめく。
槍はまだ刺さったままだ。
「終わらせるぞ!」
エドウィンとマルクスが同時に踏み込む。
左右からの連撃。
脚。
腕。
動きを奪う。
そして――
エドウィンの剣が、首筋へ深く食い込んだ。
巨体が崩れる。
地響き。
オークは、動かなくなった。
静寂の中、
荒い呼吸だけが残る。
⸻
「バルク!」
ユラが駆け寄る。
バルクは仰向けで倒れていた。鎧は凹み、血が滲んでいる。
「まだ死なん」
明らかに重傷だ。
ユラは震える手で空間に意識を向ける。
(イベントリ!)
青い瓶を取り出す。
「これ、飲んでください!」
バルクの口元へ流し込む。
淡い光が傷口を包む。
凹んだ鎧の下、傷がゆっくりと塞がっていく。
「助かった。勇者殿」
バルクが苦く笑う。
エドウィンが立ち上がり、ユラを見る。
その目は厳しい。
「勇者なのに……何もしていない」
ユラの胸が詰まる。
「俺は……」
「ビビってる場合ですか。あなたが先頭に立つべきじゃないんですか」
言葉が刺さる。
マルクスは黙っているが、視線は逸らさない。
その空気を断ち切ったのはリリアだった。
「やめなさい」
静かな声。
「ユラは勇者になってまだ日が浅い。
いくらなんでも、オークはまだ無茶よ。」
「ですが――」
「ですがも何もない。今回の役割は私たちだった」
リリアはユラを一瞥する。
「それに、ポーションがなければバルクは今頃もっと酷かった」
沈黙。
エドウィンは歯を食いしばり、視線を落とした。
「……失礼しました」
夜風が吹く。
ユラは自分の手を見る。
震えていた。
勇者。
その言葉が重い。
(何もできなかった)
守られていただけだ。
バルクの背中。
剣を振るう二人の姿。
自分は――後ろにいた。
「……すみません」
誰に向けた言葉か分からないまま、ユラは呟いた。
胸の奥には重い何かが沈んでいた。




