第11話 勇者、出陣する。
夜の帳が、森を飲み込んでいた。
焚き火の火はすべて落とされ、鎧の擦れる音さえ最小限に抑えられている。
今夜――夜襲決行。
「五人一組で動く。各隊、持ち場を確認しろ」
指揮官の低い声が響く。
ユラの班は――
•リリア(王国騎士副隊長候補生)
•バルク(歴戦の中年騎士)
•エドウィン(若手騎士)
•マルクス(若手騎士B)
•そして、勇者ユラ
という、妙に実力差が激しい構成だった。
「……あの」
ユラが小さく手を挙げる。
「俺、馬……乗れないです」
沈黙。
「は?」
リリアが振り向く。
「勇者よね?」
「職業は勇者ですけど、スキルに“乗馬”は含まれてなくてですね」
「スキル依存やめなさいよ」
結局、ユラはリリアの馬の後ろに乗せられることになった。
「足引っ張らないでよ」
「足は引っ張ってないですよ」
「戦闘中のことよ!」
「?…気をつけます!」
エドウィンが小声でマルクスに囁く。
「……大丈夫なんですか、あれ」
「勇者なら大丈夫だろう。」
バルクは低く笑った。
リリアが軽く説明を始める。
「作戦は単純よ。先発隊が魔人を確認。
報告を受けた本隊が中央から突入する。
私たちは“魔人を確認して報告する”」
「静かに……」
ユラは唾を飲み込む。
「叫び声出したら減点だからね」
「テスト形式!?」
「勇者なんでしょ?」
「プレッシャーのかけ方が鬼!」
馬が駆け出す。
夜風が顔を打つ。
暗闇を裂く蹄音が、森を震わせた。
⸻
森の奥で、気配が弾けた。
「止まれ」
バルクの低い声。
月明かりの中、現れたのは――
コボルト三体。
そしてゴブリンの群れ。
「数、多くないですか!?」
「静かに、って言ったわよね?」
リリアが馬から飛び降りる。
一瞬。
本当に一瞬だった。
抜剣。
閃光のような一閃。
コボルトの喉が裂け、次の動作でゴブリン二体が地に伏す。
「……え?」
ユラの視界が追いつかない。
リリアの動きは無駄がなかった。
踏み込み、回転、刃の軌道が美しい。
エドウィンとマルクスも連携し、残りを仕留める。
十数秒。
それで終わった。
「リリアちゃん、さすがです」
「当然よ」
リリアは剣を払う。
そのとき。
――ぶわり。
風向きが変わった。
「……血の匂いを嗅ぎつけたな」
バルクの声が低く沈む。
森の奥から、重い足音。
ドスン。
ドスン。
月明かりに現れた巨体。
牙。
膨れ上がった筋肉。
手には棍棒。
「オーク……」
ユラの声が裏返る。
でかい。
でかすぎる。
(いやいやいや無理無理無理無理)
「落ち着きなさい!」
「無理ですってあれ絶対強いじゃないですか!」
オークが咆哮を上げる。
鼓膜が震える。
ユラの膝が本気で震えた。
「勇者でしょ」
「頑張りなさい」
初めて見るオークに
リリアも内心怖気づいていた。
オークが突進の姿勢を取る。
地面が揺れる。
その瞬間――
バルクが前に出た。
「若いの。下がれ」
声は静かだった。
だが背中は、山のように大きい。
「リリアよ、勇者を頼む」
「任せなさい」
バルクは槍を構える。
「……年寄りの意地、見せてやる」
オークが地を蹴る。
巨体が迫る。
そして――
バルクは真正面から突撃した。
夜を裂く、鋼の一閃。
今回登場した魔物の強さ目安です。
オーク …… C級(兵士約20人相当)
ゴブリン・コボルト …… E級(兵士1〜2人相当)
次回2/16(明日)22時更新!
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