第10話 勇者、剣を買う。
昼下がりの王都。
石畳を鳴らしながら、若い冒険者が二人、肩を並べて歩いていた。
「いやー、今日の依頼は楽勝だったな」
「スライム三体で報酬銀貨五枚はうますぎるだろ」
笑い声が、陽光の中に溶ける。
――その時だった。
「きゃああああああッ!」
路地裏から、鋭い悲鳴が響いた。
二人は顔を見合わせ、同時に走り出す。
曲がり角を抜けた先――
そこには、血だまりの中に横たわる女性の姿があった。
そして。
その傍らに立つ“それ”。
薄黒く歪んだ皮膚。そして禍々しい白髪。
人の形をしているのに、人ではない。
「……魔人、か?」
冒険者の一人が震える声で呟いた。
魔人は、ゆっくりと振り向く。
その目は、感情のない闇。
「やるぞ!」
二人は同時に踏み込む。
剣が振り下ろされる――
が。
次の瞬間。
視界が、回転した。
衝撃。
壁に叩きつけられ、肺の空気が抜ける。
一人は腹を抉られ、地面に転がったまま意識を失う。
もう一人が叫び、斬りかかるが――
闇が、揺らいだ。
そして。
静寂。
目を覚ました時。
そこに魔人の姿はなく。
仲間の姿もなかった。
残っていたのは、血の匂いだけだった。
⸻
現在、王都騎士団本部内訓練場。
包帯を巻かれた冒険者と
騎士団三番隊隊長――レインハルト。
先の一件を説明し終える。
「…人間を抱えた魔人らしき影が、隣村で目撃された」
重たい空気が張り詰めている。
「今夜、騎士団と一部の見習い生で奇襲をかける。各自準備を済ませておくように」
「わかっていると思うが、団長と副団長は不在だ。代理でこのレインハルトが指揮を執る」
視線が一人一人を貫く。
死亡者は――決して出さない。
⸻
王都の市場。
魔人討伐の準備。
「うわぁ……お金あるって最高……」
勇者ユラは、財布を握りしめていた。
初任給。
正確には“勇者給”。
たんまりだ。
使わない理由がない。
「毒に効く薬草ください! あと回復ポーション三本!」
店主が目を丸くする。
「お、おう……ずいぶん本気だな兄ちゃん」
「ええ、まあ……なんか嫌な予感がして」
続いて武具店。
武具店の壁一面に、無数の剣が並んでいた。
「うわ……全部ほしい……」
「欲張りだな、坊主」
一本ずつ確認したがどれもいい。
小一時間じゃ尚のこと決められない。
「まじでどうしよ。」
みかねた武器屋のダンナが口を開く。
「欲しいものの特徴とかねぇのか?」
「…身軽さを利用できる細めの剣がいいです」
カウンター越しに腕を組んでいた武器屋のダンナが、じっとユラを見る。
「鋼鉄は好きか?」
「え?」
ダンナは何も言わず、店の奥へ消えた。
しばらくして戻ってきたその手には、布に包まれた一本の剣。
ゆっくりと布が外される。
装飾はない。だが、研ぎ澄まされた鋼の光が、静かに息をしていた。
「試しに握ってみな」
柄を握った瞬間。
…!!
サイズも重さも丈夫さも期待以上。
「この剣です!お願いします!」
「キレすぎるから扱いには注意ーー」
「防具もお任せしていいですか?」
「え?」
「軽くて丈夫なライトアーマー一式と 胸当てと小手と――」
「ちょっとまて、サイズ測るぞ」
「はい!」
装備を整える。
スピード重視のブーツも購入。
「重いのは無理なんで……多分転びます」
「お前大丈夫か?」
「はい、一応笑」
こうして、見た目だけはそれなりに整った。
部屋に戻る。
ベッドの横に立てかけてあったのは、一本の剣。
村を出る時にもらったものだ。
ユラはそっと手に取る。
「……いままでありがとう」
目を閉じる。
村の景色。
送り出してくれた人たち。
期待。
不安。
全部、詰まっている。
「お守りかな」
剣が淡く光り、空間に吸い込まれる。
イベントリ内に収納完了。
ユラはベッドに倒れ込む。
「よし。準備は完璧……多分……きっと……」
その頃。
王都の空に、黒い影が横切っていた。
夜が来る。




