第1話 勇者、寝坊する
――やばい。
目を覚ました瞬間、ユラ・コルニエは理由もなくそう確信した。
いや、理由はあった。窓の外が、異様に明るい。
「……あ」
嫌な予感を抱えたまま、ベッド脇の古びた時計を見る。
針は無慈悲にも、見覚えのある時間を指していた。
「職業鑑定の儀!!!!」
十五歳になると必ず受ける、一生に一度の大切な儀式。
成人した村人全員が集まり、神から授かった職業を知る日。
それに――盛大に寝坊した。
布団を蹴飛ばして飛び起き、服を掴む。
頭は完全に混乱状態。順序も計画もない。
「なんで今日に限って……いや、毎日か!!」
靴を履いたつもりで家を飛び出し、数歩走ってから左右が違うことに気づく。
直すか迷って、そのまま走る。
辺境の小さな村は、すでにお祭りのような空気に包まれていた。
広場の中央には、白い布で飾られた祭壇。
その上に置かれているのは、職業鑑定用の水晶だ。
「ユラがいないぞ?」
「またか……」
そんな声が聞こえた気がしたが、気にしている余裕はなかった。
「すみませんでしたあああ!!」
広場に飛び込んだ瞬間、すべての視線が突き刺さる。
司祭、村長、村人、そして同年代の子どもたち。
「ユラ・コルニエ! 今まで何をしていた!」
「もう始まるところだったぞ!」
「す、すみません!」
理由を説明しようとして、言葉が出ない。
いや、出す前に考えが別の方向へ飛んでいった。
(あ、水晶でか……)
中央の水晶から目が離せない。
つるりとした表面。淡く光る内部。
触ったらどんな感じなんだろう、とどうでもいいことを考えてしまう。
「ユラ・コルニエ! 前へ!」
司祭の声で現実に引き戻され、反射的に一歩前へ出る。
考えるより先に体が動くのは、いつものことだ。
「水晶に手を触れよ。心を静め――」
「はい!」
最後まで聞かず、ユラは水晶に手を置いた。
次の瞬間。
水晶が、爆発したかのように輝いた。
「――っ!?」
眩しさに目を覆う。
ざわめきが悲鳴に変わり、誰かが水晶の名を叫んだ。
光が収まったあと、広場は異様な静けさに包まれていた。
司祭は言葉を失い、村長は口を開けたまま固まっている。
「……鑑定結果を、告げる」
司祭が、震える声で続けた。
「職業――【勇者】」
一瞬の沈黙。
そして、遅れてどよめきが爆発した。
「ゆ、勇者!?」
「こんな辺境の村から!?」
当の本人はというと。
「……え、俺?」
まったく状況を理解していなかった。
こうして、盛大に寝坊した少年は勇者になった。
知力は一般人以下、落ち着きゼロ。
だが、この時点ではまだ誰も知らない。
この少年――ユラ・コルニエが、
失敗と勘違いを繰り返しながら、世界を救う存在になることを。




