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銀翼のヴァルキリー -その翼は、自由を識る-  作者: 翔司
第三章 銀翼と王女の邂逅

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閑話 王国軍電撃作戦ベルファルド奪還戦⑦

 窪地の中央。


 風と大剣がぶつかる。


 イリーナの両手剣が白銀の軌跡を描き、シエラの双剣と火花を散らす。


 ギィィン!!


 衝撃で地面が抉れる。


「ははっ……さすが総大将ね」


 シエラが笑う。


「軽口叩ける余裕があるなら、まだ足りないね」


 イリーナの踏み込みは重い。

 純粋な膂力と魔力強化。


 風を真正面から斬り裂く。


 だが――


 ブワァァッ!!


 シエラは最大風圧。

 窪地全体を薙ぎ払う暴風。

 風により砂塵が凍りつくような冷気を帯びる。



 ♢



 血溜まりの中。 


(また……負けたのか)


 ヴィンスの意識は薄い。

 身体は全く動かない。


 肺が焼ける。

 指先の感覚が遠い。


(風……)


 頬を撫でる。

 違う。

 撫でていない。


 奪っている。


(熱を……奪われている)


 風は、熱を運ぶ。

 温度を奪う。

 分子を揺らす。


 水魔法の本質は流体制御。


 ならば。


 流れを止めればいい。


(止めればいい)


 分子運動の停止。


(奪われるなら……奪い返せるはずだ)



 ♢

 


 シエラが更なる魔力を込める。


「消えなさい!!」


 暴風が解き放たれる。


 その瞬間、空気が軋む。


 

 パキ――

 


 ヴィンスの瞳が開く。


「……そうか」


 ゆっくりと、息を吐く。


「止めればいい」


 


 パキ――パキ――


 


 音。


 窪地の地面が白く染まる。


 凍結。


 暴風が滑る。

 砂が凍る。

 風が……走らない。



「……なに?」



 シエラの足元が白に変わる。


 イリーナが目を細めた。


「ヴィンス……生きていたのかい」


「あの男……殺したはずなのに」


 シエラが振り向く。


 血に塗れた男が、立ち上がり始める。


 その周囲の空気が、冷えている。

 いや、凍えている。


「……コイツの相手は俺だ。大隊長」


 静かな声。

 そしてヴィンスは顔を上げる。

 その眼は覚悟を帯びていた。


 イリーナは何も言わない。

 一瞬だけ視線を交わす。


 そして。


 イリーナは一歩、後退。

 

 それは無言の承認。


 

 ♢

 


 シエラが舌打ちする。


「次は立ち上がる間もなく殺してあげる」


 再び、風刃解放。

 そして再加速。


 ギィン!!

 斬撃が走る。


 だが。その攻撃を阻んだのは……

 水膜ではない。


 ゴキィィン!!



 氷壁。



 透明な結晶が刃を受け止める。


「……水じゃない。氷属性か」


 シエラの目が鋭くなる。


「死の淵で上位属性に目覚めた? 厄介ね」


 風圧を増す。


 氷が軋む。


「しかし硬くなったなら――丸ごと砕けばいい」


 双剣に魔力集中。

 渦巻く暴風。

 叩きつける。


 だが。


 ヴィンスは氷壁に傾斜をつける。

 斜面。

 斬撃が滑る。

 そして、受け流し。

 シエラの体勢が僅かに崩れる。


(流体だけじゃない)


(状態も、形も、角度も制御できる)



 ヴィンスがメイスを掲げる。

 地面に蒼白の紋様。


「凍れ」


《氷結封鎖陣》


 地面から氷柱が放射状に伸びる。


 ドドドドドッ!!


 逃げ道封鎖。

 シエラが跳ぶ。

 空中。


 だが。


 空気中の水分が瞬時に凍る。

 足場が生まれる。


「空中まで……!?」


 分子凍結支配。

 逃げ場がない。

 氷柱が交差。


 風が乱れる。

 加速不能。


 ヴィンスが踏み込む。

 メイスに氷が纏う。

 蒼い輝き。


「終わりだ」


 シエラが最後の風を纏う。


 正面衝突。


 ドォォォォン!!

 

 氷と風が爆ぜる。


 拮抗。


 だが。


 ヴィンスの足元は凍結。

 シエラの風は滑る。


 シエラは踏み込みが足りず、力が十全に込められない。


 そして、ヴィンスの一撃が振り抜かれる。


 ゴシャァァァン!!!


 氷を纏ったメイスが、シエラを叩き落とす。

 地面に激突。

 氷柱が砕け、粉雪が舞う。


 沈黙。


 カラカラ…カラカラン……


 双剣が転がる。


 シエラは動かなくなっていた。


 窪地に静寂が落ちる。



 イリーナがゆっくりと歩み寄る。



「……へぇ。やるじゃないか」


 ヴィンスの肩の動きは荒い。呼吸は不安定だ。


「ま…だだ……追いつい……てない」


「誰にだい?」


 イリーナは少しだけ、口元が緩む。


「……銀の……」


 何かを言いかけたヴィンスはそこで意識を手放し、その場で崩れ落ち倒れる。

 ヴィンスの魔力はとうに限界を超えていた。


 イリーナが笑う。


「よくやった」


 旗が翻る。

 左翼の炎が遠くで揺れている。

 窪地は凍てつき、風は止まった。


 ベルファルド平原。


 勝敗、決す。


 そして。


 氷の魔法士が、一人。


 新たな段階へ踏み込んだ。



 ――ベルファルド編 完

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