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銀翼のヴァルキリー -その翼は、自由を識る-  作者: 翔司
第三章 銀翼と王女の邂逅

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閑話 王国軍電撃作戦ベルファルド奪還戦⑥

 砂塵が流れる。


 窪地の中央。

 風が唸り、双剣が血を払った。


 シエラ・クレストール。


 双刃を握るその姿は、まるで風そのもの。

 踏み込んだ兵の首が飛ぶ。

 盾ごと裂ける。


 風圧で体勢が崩れた瞬間、刃が走る。


 速い。

 ただ、速い。


「……相手が欲しいんだろ」


 低い声。

 シエラが振り返る。

 そこに立つのは、宝石の埋め込まれたメイスを携えた男。


 ヴィンス。


「へぇ……魔法士?」

「一応な」

「魔法士が前に出てくるなんて命知らずね。それ程自信があるのかしら?」


「……さあな。確かめてみたらどうだ?」


 飄々とした態度を続けるヴィンス。

 シエラは顔を歪めた。


「……その軽口、叩けなくしてあげる。あの2人のように」


 風が鳴る。

 消える。

 次の瞬間、目の前。


 ギィン!!


 双剣が横から叩き上げられる。

 金属と金属がぶつかり、火花が散る。


(この女……やはり速い……!)


 双剣が縦横無尽に襲いかかる。

 斬撃は残像を伴い、風圧だけで頬が裂ける。


 だが。


 バシュッ――!


 ヴィンスの周囲に水膜が展開。

 衝撃が緩和される。

 刃は届くが、致命には至らない。


「守り一辺倒? それじゃ死ぬわよ」


「それはどうかな」


 ヴィンスはニヒルな笑みを浮かべた。


 その時、シエラの周辺の地面が……ぐにゃりと歪む。

 足元がぬかるむ。



「っ……!土属性魔法……いや、水ね!」


 シエラの踏み込みが一瞬遅れる。

 その瞬間。


 ブォン!!


 直撃させれば、大打撃を与えられただろう。

 だが、その一撃は空を切る。


「あなた……魔法士の割に随分と鍛えてるわね」


 風が身体を押し上げ、彼女は宙へ。

 着地と同時に連撃。


「まぁな」


 ヴィンスは攻撃をいなしながら距離を取り、再び構える。


 シエラの双剣が一瞬、軌道を変えた。

 

 斬るためではない。

 測るような視線。


「ねえ、碧髪の魔法士」


 風が緩む。

 砂が足元で円を描く。


「帝国に来ない?」


 唐突だった。


「……は?」


「あなた、その練度。王国なんかで消耗するには惜しいわ」


 双剣を軽く回す。

 刃が太陽の光を弾く。


「帝国なら、もっと高みを用意できる。

 地位も、魔法研究も、資源も、強者との戦いも」


 僅かに笑う。


「……」


 ヴィンスは無言で目が細まる。


「寝返れ、と?」


「利害の一致よ。才能ある者が強い国に属する。それだけの話」


 一歩、踏み込む。


「どう? 今なら殺さないであげるわ」


 風が唸る。

 圧が増す。


「答えは?」


 ヴィンスは鼻で笑った。


「フッ……悪いな」


 メイスを握り直す。


「強い国に属するのは合理的だ。だが」


 視線を逸らさない。


「俺は“俺が倒したい相手”のいる場所でいい」


 一瞬の沈黙。


 シエラは小さく笑った。


「……そう」


「なら力づくで従わせるしかないわね」


 次の瞬間。


 風が収束する。

 無駄が削げ落ちる。


 ギィン! ガガガガッ!!


 双剣が嵐のように打ち込まれる。

 水膜が軋む。


 ヴィンスの口元がわずかに歪む。


「疾いな……」


 シエラが踏み込む。


「だが」


 メイスが地面を打つ。

 水飛沫が弾ける。


「――あの女ならば、もっと疾い。それに鋭く重い」


 ヴィンスの呟いた一言


 それは一瞬。


 刹那の時だった。

 

 ピタリと風が止まった。


「……あの女?」


 シエラの双眸が細まり……その声は先程よりも低い。


 風が、ほんの僅かに乱れた。


「私じゃ不満? 別の女のこと考える余裕があるなんて」


 風圧が増す。

 砂が巻き上がる。


「いいわ。なら――思い出す暇もなく殺してあげる」


 爆発的加速。

 先程より数段上。


(来る……!)


 斬撃が三方向から同時に。

 水膜が裂ける。

 肩が浅く切れる。


 だが。


 ヴィンスは退かない。


(オリビア相手に何度もやられた形だ)


 右からの高速横薙ぎ。

 身体を半歩沈める。


 下段回転斬。

 メイスの柄で受ける。


 背後からの回り込み。

 水弾を足元へ。


 ドォッ!!


 泥が跳ね、シエラは視界が塞がれる。


「っ!」


 一瞬の盲点。


 ブンッ!!


 メイスが振り上げられる。

 シエラは空へ逃れる。


 だが、ヴィンスはその軌道を読んでいた。

 手が掲げられる。


「かかったな」


 水が螺旋を描く。



「縛れ……《水牢》」



 宙で包囲。

 四方から水圧が締め上げる。


「……!」


 風が暴れる。

 だが水は重い。


 圧縮。


 収束。


 ヴィンスが一歩踏み込む。


「コレで決める!」


 メイスの宝石が蒼く輝く。


「水牢……そしてコイツは――あの女に見舞う為に用意した“とっておき”なんだがな!」


 水が一点へ。


 圧縮。


 臨界。


「喰らえ。《水圧圧縮弾》」



 ドォォォン!!!!



 爆ぜる。


 水の塊が衝撃波と共に炸裂。

 窪地の空気が震えた。

 衝撃で砂塵が吹き飛ぶ。


 水牢が砕け散る。

 悲鳴を上げる間もなく地面に叩きつけられるシエラ。


 沈黙。


 兵たちが息を呑む。

 クレーターの中心。

 血が流れている。


 カラン……カランカラン……


 双剣が転がる。


(……決まった)


 ヴィンスが息を吐く。


 その瞬間。


 風が、逆流した。


 ザァァァァァァ――!!


 砂塵が天へ巻き上がる。

 双剣が宙へ浮く。


「かなり痛かったわ……本気でやったわね」


 立ち上がる影。

 血を流しながら、嗤っている。


「ツッ……」


 風が変質する。

 圧が先程とは違う。

 双剣が交差。



 《風刃解放》



 風刃が視界を覆う。


 ドガァッ!!


 ヴィンスが吹き飛ぶ。


 水膜ごと破壊。

 地面を転がる。

 立ち上がる前に。


 背後。


 ザンッ!!


 背中が裂ける。


「がはっ……!」


 振り向く間もない。


 斬撃の嵐。


 苦し紛れに反撃に水弾を撃つ。

 弾かれる。


 打開しようとメイスを振るう。

 受け流される。


「遅い」


 腹部を蹴り上げられる。

 宙へ。


 追撃。


 双剣が交差する。


 ドォン!!


 叩き落とされる。

 地面が砕ける。


 ヴィンスは血に塗れ、もう動かない。


 シエラは地面に横たわるヴィンスから視線を外した。


「……あーあ。また殺しちゃった」



 ♢

 


 窪地の縁。


 それを見下ろす紅い髪。


「……アイツでは力不足だったか」


 冷たい声。


「見込み違いだったな」


 戦いの結末を目の当たりにした兵たちが息を呑む。


 シエラが刃を振るい、血を払う。


「次はあなた?」


 挑発。


 イリーナはゆっくりと馬を降りた。


 ミスリルの両手剣を肩に担ぐ。


「悪いけどね」


 一歩。


「アタシは“総大将”だ」


 砂を踏む。


「簡単に出るつもりはなかったんだが」


 剣を構える。

 地面が軋む。


「格の違い、見せておこうか」


 兵がどよめく。

 旗が揺れる。


 シエラが笑う。


「面白いわ」


 風が唸る。


 イリーナが前へ踏み出す。


 その瞬間。


 ヴィンスの指先が、わずかに動いていた。


 窪地の空気が張り詰める。


 総大将イリーナ、参戦。


 ――次回へ続く

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