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銀翼のヴァルキリー -その翼は、自由を識る-  作者: 翔司
第三章 銀翼と王女の邂逅

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第七十話 死神は空を断つ

「勢い余って殺しちゃったら、ごめんね」

 ぺろりと舌を出し、猟奇的な表情を浮かべたリズが動いた。


 動きに躊躇いはない。

 鎌が唸り、平原の空気を引き裂く。


 重い。

 だが、遅くはない。


 両手鎌とは思えない踏み込みで距離を詰め、柄と刃を織り交ぜた連撃を叩き込む。

 斬るためではない。

 壊すための攻め。


「っ……!」


 オリビアは後退しながら、ヴァルクレアでそれを受け流す。


 ガキィィィィンーー!!

 

 弾く。

 大きな重低音が鳴り、斬撃を逸らす。


 だが、その度に互いの武器は大きく軌道を外れ、草と土が舞い上がった。


 リズの鎌が地面を薙ぐ。

 オリビアの剣が弾かれ、地面を削る。


 平原が、徐々に荒れていく。


(……来る)


 オリビアは、剣を弾きながらも風魔法を即時発動する。

 牽制。

 狙いは当てることではない。


 風刃が飛ぶ。

 だが、リズは軽く身を捻り、紙一重でかわす。


 風は地面を抉り、草を刈り、土埃を巻き上げた。


「防戦一方じゃん」


 リズが笑う。

 楽しそうに。


「さっきまでの勢い、どうしたのさ」


 答えず、オリビアはさらに下がる。

 剣で受け、弾き、また受ける。


 傍目には、完全に押されているように見えた。


 

***


 

「おいおい……」


 サンドが歯を食いしばる。


「オリビア、押されてるぞ……まずいんじゃねぇか?」


「……」


 ラウニィーは唇を噛み、拳を握る。


「……大丈夫。リヴィを信じるよ。あの攻撃にはきっと、意味がある」


 そう言いながらも、視線は離せなかった。


 

***


 

「ふん」


 トア・フォスターは、早くも興味を失ったように視線を逸らす。


「やはり王国側も大したことねぇな。俺が出るまでも――」


「本当にそう思うか?」


 静謐な声が、静かに割り込む。

 レグナ・イストガレスは勝負から一秒たりとも目を逸らさない。

 

「……あ?」


 面倒くさそうに視線を戻したトアは、そこで眉をひそめた。


「……なんだあれ。動きが変だな」


 オリビアの足運び。目線。

 剣の角度。

 そして――地面。


 荒れ方が、不自然だった。


 

***


 

(……なんか、変だな)


 リズは攻めながら、違和感を覚えていた。


 相手は逃げている。

 どうみても余裕はない。確実に追い詰めている。


 なのに――決定打は入らない。


(当てられていない?

 いや、違う……避けられてる?)


 剣で受けられ、弾かれ、そのたびに草と土が舞う。

 視界が悪くなる。


(……目くらまし?)


 だが、そんな小細工でどうにかなる距離じゃない。

 突如、オリビアの動きが変化した。


 先ほどまであちこち飛び跳ねるように移動していたが…

 今は双剣を構え、山の如く不動の構えを取っている。


「あーしに殺られる覚悟できた?」 


「いいえ違うわ……チェックメイトよ。武器を捨てて投降しなさい」


 目の前の王国軍将校の女は傲慢にも投降を投げかけてきた。

 

「ハッ、何を言うかと思えば……!笑わせるね!さっきまで散々追い詰められてたじゃない」


「そう……投降しないの。こんなに強い貴女が皆の前で負ける姿見せたく無いと思ったのだけど」


「なにを――」ドォォォォーン!!


 話の途中で目の前の女は突如、風魔法を暴発させた!

 辺りに散らばった土や草が大きく舞い上がり、まるで砂嵐のように周囲の視界を遮る。


「グッ!視界が……!

 この遮られた視界の中、後ろや横から近寄って討ち取るつもりね!」

 

「もういいや。死んでも知らないよ」


 リズは、鎌を大きく振りかぶった。


「終わらせよっか」


 魔力が、鎌に集中する。

 

 ――ブーン


 刃が不気味に鳴り、空気が歪んだ。


《デス・サイズ》


「全方位を薙ぎ払い切り殺す、あーしの必殺の一撃。

 この技ならどこから近寄ろうが関係ない。全員真っ二つ」


 強大な魔力を込めた鎌が回転し、周囲の草も土も、まとめて切り刻む。


 ――ズシャアアアアア!!

 

 平原が、一瞬で“更地”になった。


「――あれ?」


 だが。


 そこに、あの女の死体は無い。


 横でもない。

 後ろでもない。


 リズが、反射的に視線を上げた瞬間。


 ――いた。


 空。


 オリビアは、上空にいた。


「なっ……!?」


 リズの目には、魔法の暴発に見えた。

 だが違う。


 地面に叩きつけた風魔法。

 その反動を利用した、瞬間的な自己加速。


 爆風が、オリビアの身体を空へ押し上げていた。


(――しまっ)


 気づいた時には、遅い。


 オリビアは、落下しながら剣を振るう。

 右手のヴァルクレアに、魔力が集中する。


 一閃。


 ズガァァァァァン!!


 甲高い音と共に、リズの鎌の柄が砕け散った。


「――っ!?」


 次の瞬間、衝撃。


 オリビアは、そのままリズを地面に押し倒していた。

 膝で動きを封じ、左手のヴァルクレアを首元へ突きつける。


 双剣の切っ先が、肌に触れる。


「……」


 一瞬の静寂。


 リズは、目を見開いたまま動けなかった。


「言ったでしょ」


 オリビアの声は、静かだった。


「チェックメイトよ」


 数拍の沈黙の後。


「……はは」


 リズが、力なく笑った。


「やられたぁ……完全に」


 両手を軽く上げる。


「降参。あーしの負けよ。イストガレス特別製の、あーしの武器を砕くって、なんて武器と魔力……」


 オリビアは、ゆっくりと剣を引いた。


 平原に、歓声はなかった。


 しかし、王国軍の兵士がひとり、拍手を始めた。

 すると、ひとり、またひとりと、拍手が次々と連鎖していく!


 そしてやがて、王国兵は歓声を上げ始めた。


 その光景をレグナ・イストガレスは、愉しげに微笑む。


「ほう……」


 トアは、舌打ちを一つ。


「チッ……なるほどな」


 新たな火種は、消えたわけではない。


 だがこの日――

 死神は、死を呼び寄せることはなく……


 死神の象徴と言える鎌は砕け散り、その勝者は確かにそこに立っていた。

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