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銀翼のヴァルキリー -その翼は、自由を識る-  作者: 翔司
第三章 銀翼と王女の邂逅

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第六十八話 運命の選択

 ベルファルド門前の平原は、奇妙なほど静まり返っていた。

 風は止み、草一本すら揺れない。

 まるで大地そのものが息を潜めているかのようだった。

 その静寂の中心に立つのは、ただ二人。

 

 イストガレス女王――

 金色の女王レグナ・イストガレス。

 

 そして――

 黒刀の瞬雷トア・フォスター。

 

 この二人が放つ、他を寄せ付けぬ暴力的なまでの魔力圧が、空気を押し潰していた。

 言葉を発することすら許されない重さ。

 その場にいる王国兵、帝国兵、そしてセレスティアの面々ですら、喉が張り付いたように声を失っていた。

 

 その沈黙を破ったのは、銀髪を風に揺らした一人の女だった。

 

 オリビアが、一歩前へ出る。

 

 視線が集まる。

 だが、彼女は怯まなかった。


「私はセレスティアのオリビア・エルフォード。

 今このベルファルドはセレスティアが預かっている。

 私たちセレスティアは戦争を止めるために今ここにいる。

 あなた達と戦う気も、ここで戦争を始める気もない」

 

 その声は、震えていない。

 

 だが、平原の空気はなお重く、緊張の糸は張り詰めたままだった。

 

 レグナの真紅の瞳が、ゆっくりと細められる。


「此奴の言った事が聞こえなかったのか?

 妾は戦うか降伏するかを選べと提示したのだ。

 それ以外の返答など求めておらん。

 答えは下るか、抗うかだ」

 

 その言葉と共に、魔力圧が一段階、強まった。

 

 空気がきしむ。

 

 耐えきれず、王国の一般兵が何人も膝から崩れ落ち、意識を失っていく。

 

 帝国側にいたラグノの額から、冷や汗が止めどなく流れ落ちた。


「な、なんだ……この馬鹿げた魔力圧は……」

 彼自身もまた、歯を食いしばらねば立っていられなかった。

 オリビアでさえ、心拍数が跳ね上がるのを自覚していた。

 胸が締め付けられ、肺に入る空気が足りない。


 ――それでも。

「わかったわ。では、抗わせてもらう。

 でも条件がある」

 言葉を発した瞬間、周囲の視線が一斉にオリビアへ向けられた。

 

「条件だと」

 レグナの声に、わずかな興味が混じる。

 

「えぇ。私と、そちらの代表で一騎討ちで雌雄を決しましょう」

 その言葉は、賭けだった。

 だが同時に、覚悟でもあった。

 街を守るため。

 これ以上、戦火を広げないため。

 そして何より――自分が“旗”であると決めたから。

 オリビアの瞳は、圧倒的な存在を前にしても、決して逸らされなかった。

 

「ほぉ……よかろう。其方の案に乗ってやる」

 その言葉と同時に、トアが静かに馬から降りる。

 

「待て。其方は待機だ」

 意外な命令に、トアは一瞬だけ目を見開いた。

 

「其方がいけば、おもしろくないだろ?」

 レグナは、どこか愉しげにそう言った。

 トアは肩をすくめ、やれやれといった様子で息を吐く。

 

「じゃあ、俺が選んでいいか?」


「よかろう」

 

 短い応答。

 

「リズ。来い」

 呼ばれて、一人の兵士が前へ進み出た。

 白いメッシュの入った紫髪の長い髪。

 程よく引き締まった体に、黒を基調とした軽装の鎧。

 長いまつ毛に縁取られた金色の瞳。

 

「おにぃ、あーしがやんの?」

 

 不服そうな声音で問いかけるその女兵士の手には、

 異様な鋭さを放つ、背丈ほどもある巨大な鎌が握られていた。

 

「あぁ。女王さんのご所望だ」

 トアはニヤリと笑い、その肩をぽんと叩く。

 リズが一歩、前へ出る。

 

 その瞬間、王国兵の間からざわめきが走った。

「あ、あいつは……冷徹の死神姫だ……」

 リズが歩くたび、地面が音もなく凍りついていく。

 大隊長並み――否、それ以上の魔力圧。

 

 彼女は一直線に、オリビアの前まで歩み寄った。

「あーしは、リズ・フォスター。

 たぶん、おにぃの次に強い」

 自信に満ちた笑みを浮かべ、歩みを止める。

 

「では、妾の合図で始めよ」

 レグナが告げる。

 

「リズが勝てば、この土地は妾が貰う。

 万に一つでも負ければ――」

 その続きを待たず、オリビアが一歩踏み出した。

 

「私が勝ったら……今後ベルファルドへの手出しは一切やめてもらう」

 

 一瞬、沈黙。

 

 そして――

 

 「よかろう」

 レグナはあっさりと頷いた。

 「こちらに分がある故、その申出を許そう。

 では……はじめ!!」

 

 次の瞬間。


 ガキィィィィィン!!!


 オリビアとリズの武器が打ち合ったその場から、

 空気が、地面が、悲鳴を上げるように割れた。

 爆風が走り、視界が歪む。


 王国兵も、帝国兵も、セレスティアの仲間たちも――

 ただ、その場に立ち尽くすしかなかった。


 否。


 それしか、できなかったのだった。

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