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銀翼のヴァルキリー -その翼は、自由を識る-  作者: 翔司
第三章 銀翼と王女の邂逅

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第六十二話 ――拠点プラチナム、帰還


アリア視線パートへ戻ります


 スフォンジーの森が開けた瞬間、アリアは馬車の上からその光景を見下ろし、思わず息を呑んだ。


 樹海の奥深く――本来なら人の営みを拒むはずの場所に、確かな「街」が息づいている。


 整えられた道。見張り台。煙を上げる工房。湖畔に並ぶ小舟と畑。


 それは砦でも、隠れ家でもない。

 人が“生きるために作られた場所”だった。


「……帰ってきましたね。プラチナムに」


 隣でクレアが微笑む。


 その言葉に、馬車の荷台から勢いよく身を乗り出した影があった。


「にゃ……にゃにゃ!?

 森の中に……こんな……!」


 キットンの金色の瞳が、きらきらと輝いている。


「辺境で、しかも危険地帯のはずなのに……

 にゃ、にゃんでこんな拠点があるにゃ!?」


「……驚くよね。最初は私もそうだった」

 アリアは素直に答えた。


 その時、見張り台の方から大きく手を振る人物が見えた。


「おー! 無事に戻ってきた! 良かった!」


 リーヴァだった。

 彼女の声は森に反響し、帰還を告げる合図のように広がっていく。


「みんなー! アリア様たちが帰ってきたよ!」


 拠点の中から、人々が顔を出す。

 移住組も、元からの住民も、混じり合うようにして手を振っていた。


 その光景を見て――

 アリアの胸に、静かな安堵が満ちる。


 そこへ、キットンが急に身を震わせた。


「エ……エルフまでいるにゃ……!

 こ、これは……金の匂いしか、しにゃい……来てよかったにゃ……!」


「おい! おみゃー!」

 興奮したキットンが、横にいたエルドゥの背中をバシバシ叩く。


「さっそくこの森の特産品をあたしに見せるにゃ!

 絶対すごい素材が眠ってるにゃ!」


「分かった分かった! 暴れるなって!」

 エルドゥが苦笑しながら腕で制した。


 その様子を見て、クレアが小声でアリアに囁く。


「アリア様……すっかり仲良くなってますね……」


「……ほんとね」

 アリアは小さく笑った。


 この拠点には、立場や出自を越えて人が集まる不思議な力がある。

 それはきっと――ここが「選ばれた場所」ではなく、「選んだ場所」だからだ。


 その後、フィオとカイルは手分けして移住者たちを案内していった。


「畑仕事に興味ある人はこっち!」

「湖の漁業は未経験でも、やる気さえあれば歓迎だ!」


 不安げだった人々の表情が、少しずつほぐれていく。

 


***

 


 数日が過ぎ――

 王国から来た人々は、もう“客人”ではなくなっていた。


「思ってたより……ずっと安全ですね」

「食料も、ちゃんと回ってる……」


 焚き火のそばで、そんな声が聞こえる。


「……アリア様についてきて、よかったです」


 その言葉に、アリアは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


「アリア様の行動が、ちゃんと結果になってきていますね」

 クレアが静かに言った。


「……ええ。みんなが、ここで生きてくれるなら」


 その時だった。


 見張り役の兵が駆け寄ってくる。


「アリア様。ベルファルドからの伝令です」


 差し出された封書には、見慣れた署名。

 オリビアのものだった。


 内容は簡潔だった。


 ――ベルファルドへ合流せよ。

 ――王国・帝国双方との交渉に入る。


「……来ましたね」

 アリアは息を整える。


「アリア様が行かれるなら、私も」

 クレアが即座に言った。


 そこへ、ひょいと顔を出す影。


「ふふふ……あたしも行くにゃ!」


 キットンだった。


「ベルファルドは工芸品の街だにゃ。

 ここで取れる素材、持っていけば――ぜったいぜったいぜーーったい!儲かるにゃ!」


 キットンは腕をぶんぶん振り回し全身でアピールする。


「ほんとに金のことばっかりだな、こいつは」

 エルドゥが呆れたように言う。


 だが、その言葉を聞いた瞬間――

 アリアの中で、ひとつの考えが繋がった。


「……交渉。素材。――それです」


 全員がアリアを見る。


「エルドゥさん。キットンさん。

 プラチナムの素材や道具で、交渉に使えそうなものを持ち出しましょう。用意してください」


「交渉材料ってことか?」

「ええ。言葉だけでは足りない場面もありますから」


 アリアは、静かに確信していた。


 この拠点が持つ“価値”は、

 戦争を止めるための力になり得る――と。


(ベルファルドで、すべてが動き出す)


 そう感じながら、彼女は次の一手を胸の内で組み立て始めていた。

 




 一方その頃。エヴァ視点


 帝国都市セントルイスでの滞在は、思っていた以上に“丁重”だった。


 表向き、私たちは帝国侯爵ジョシュア・クロフォードの賓客――

 敵国の使節でありながら、正式に保護された存在として扱われている。


 宿舎は城郭内に用意され、出入りには必ず帝国兵が随伴する。

 自由はあるが、放置はされない。


(……監視と保護を、完全に両立させてる)


 それだけでも、帝国という国家の“完成度”が伝わってきた。



 滞在中、私たちは可能な限り都市を見て回った。

 もちろん、あくまで“許される範囲”でだ。


 それでも――見えたものは多い。


 まず、軍事力。


 街を歩くだけで分かる。

 訓練中の兵士の数、装備の質、統制の取れ方。


(……正直、王国とは比べものにならない)


 個々の兵の練度も高いが、それ以上に“組織としての完成度”が違う。

 部隊の連携、補給線を前提にした配置、後方支援の厚み。


 戦えば――正面からでは、まず勝てない。


 ガレンも、街路を進みながら何度か低く息を吐いていた。


「……やっぱ、すげえな。帝国」


 エルビスも同意するように肩をすくめる。


「王国軍が霞むレベルだ。数も質も、段違いだろ」


 案内役のラグノは、当然だと言わんばかりに言った。


「当然だ。帝国は“戦うための国家”だからな」


 その声には誇りがあった。



 次に見えたのは、経済力。


 市場は活気に満ち、物流は滞りなく回っている。

 貨幣の流通量も多く、商人たちの顔色もいい。


 ――だが。


(……満ち足りてはいない)


 注意深く見れば分かる。

 資源は潤沢ではない。


 食料も、金属も、魔導資材も。

 帝国ほどの大国であっても、この世界そのものが“乏しい”。


 だからこそ――


(交渉の余地は、確実にある)


 帝国は強い。

 だが、無限ではない。



 そして、もう一つ。


 私たちは“ベルファルド”の情勢についても、断片的な情報を掴んでいた。


 酒場での噂。

 商人たちの囁き。

 兵士たちの不用意な会話。


「……聞いたか? ベルファルドで、行方不明だった例の女が現れたらしい」


「銀の……戦乙女、だろ?」


 胸の奥が、僅かに強く脈打つ。


(――オリビア)


 彼女が、表に出た。

 しかも、停戦交渉の渦中に。


 情勢は、確実に動いている。


(……なら、きっと)


 オリビアから、何かしらのアクションが来る。

 私はそう踏んでいた。



 数日後。


 宿舎で休んでいたとき、扉が叩かれた。


 ラグノではない。

 足音が、明らかに違う。


 扉を開けると、そこに立っていたのは――

 帝国軍の正装に身を包んだ、正式な伝令だった。


「プラチナム使節代表、エヴァ・エルス殿」


 背筋が伸びる。


「帝国侯爵ジョシュア・クロフォード様より、正式な命が下りました」


 ――来た。


 伝令は、巻物を差し出す。


「ベルファルドへ向かわれよ、とのことです。また護衛としてラグノ隊長以下を同伴させる」


 その瞬間、空気が変わった。


 ガレンとエルビスが同時にこちらを見る。


「……帝国公式ルート、ってことか?」


 私は、静かに頷いた。


「ええ。――これは“招集”よ」



 後に分かったことだが、すべてはジョシュアの判断だった。


 ラグノ達は護衛という名目の監視役だろう。


 ジョシュアはすでに、


・オリビアという存在を把握し

・ベルファルドで停戦交渉が進みつつあることを理解し

・その上で――


(この女を行かせる価値がある)


 そう結論づけたのだ。


 プラチナムという小勢力。

 だが、帝国と直接交渉し得る存在。


 そして何より――

 “帝国の利益を理解した上で、話ができる女”。


 だからこそ、帝国は私を“公式に”動かした。



 私は、迷わなかった。


「応じます」


 帝国が許可した。

 帝国が認めた。


 それはつまり――

 交渉の主導権を、こちらが握れるということ。


(……物語は、もう国家間の局面に入った)


 プラチナムという小さな集落の代表が、

 帝国と、ベルファルドと、王国の行く末に関わる。


 責任は重い。

 だが――


 私は、静かに息を整えた。


(オリビア。待ってて)


 これは、私たちが並び立つための一歩。


 帝国の名のもとに、

 私はベルファルドへ向かう。


――続く


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