表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀翼のヴァルキリー -その翼は、自由を識る-  作者: 翔司
第三章 銀翼と王女の邂逅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/102

第五十三話 規律か救済か。苦渋と決断・前編


 まえがき

 ガレン、エルビス、エヴァと三人で帝国本陣に進む三人達



 

「やはり妙だ。想定ではこの辺りでレオン率いる帝国軍に接触しているはずだが影も形もない」


 ガレンは足を止め、呟いた。


 荒野の中を乾いた風が吹き、砂がガレンの手の上をざらざらと撫でる。


「……確かに変ね。ここまで来ても、帝国兵や斥候と一度も遭遇しないなんて」


 ガレンの言葉にエヴァが足を止め、眉を寄せる。

 その横で、エルビスは片手で額に影を作り、遠くの空を見据える。


 低く、確信を含んだ声で言った。


「……既に始まっている、と見るべきだろうな。戦闘、あるいは接触が」


 エヴァが振り返る。


「つまり、王国軍と帝国軍の主力は――もう衝突してる可能性が高い、と」

「そうだな。この静けさは異常だ。エルビスの言う通り前線が動いた可能性が高いな」


 ガレンが肩を回し言葉を続ける。肩部装甲が「ガシャ、ガシャ」と音を立てる。


「なら、間に合わねえ前提で急ぐってのはどうだ? 後ろを取ることで交渉が有利になりえるかも――」


 エヴァは即座に首を振った。


「……推奨しないな。オリビア達が向かってる。あの子に任せるべき。

 私たちが介入し挟み撃ちにすれば、かえって不要な威圧感を与える恐れがある。“彼女”に任せるべき」


 ガレンは「…確かにそうだな」と地面を見て思案した。


 エヴァは続ける。


「我々がすべきは、戦場へ向かうことではなく“別のポイント”を抑えることだ。 ……帝国軍の拠点、またはその指揮系統。そこを押さえねば話は進まん」


 ガレンとエルビスは頷く。

 風が止まり、空が薄く曇り始めた。


「じゃあ、方針は決まりね。私たちは――帝国軍のさらなる拠点へ向かう」


 三人は再び駆け出す。

 砂風が舞う荒野に足音が並び、ゆっくりと帝国側へと進路を変えた。


 しばらく進んだ後。

 かすかに、空気の震えが混じる。



 ――ガンッ! ガガガガッ!

 ――ギャオオオオッ!!



 ガレンが目を細め、立ち止まった。


(……今の、聞こえたか?)


 周囲を警戒し、二人に届くギリギリの声量に抑えて話す。


 エヴァは喉奥で息を呑む。

 エルビスの指先がぴくりと動いた。


(戦闘音だ。片方は人間の声ではない……人間がやられている可能性が高い)


 風上から、さらに爆ぜる音が響き、血の匂いが流れる。

 エヴァは小さく息を整えた。


「……嫌な予感しかしないわね」


 ガレンが眉をひそめた刹那、風向きが変わった。


 ――ガァアアアアッ!!


 獣の咆哮が空を震わせる。

 それは戦場の音ではない。もっと原始的で、もっと飢えている。


「エルビス、位置は分かるか」

「すぐそこだ。丘の陰……覗けば見える」


 三人は岩場に身を伏せ、慎重に斜面を登った。

 そして、視界が開ける。


「……帝国軍の斥候部隊だな」


 十数名の帝国兵が半包囲されていた。

 その周囲を、灰毛の獣が群れをなし、唸りを上げている。



 ヴォルフ――


 この辺境に多い狼型の“敵性生物”。


 だが、それだけではなかった。

 エルビスが息を呑んだ。


「おい……あれを見ろ」


 群れの奥――

 ひときわ巨大な影が、兵士を薙ぎ飛ばしていた。


 赤黒い体毛、斧のように曲がった前肢、獣とは思えない魔力の渦。


「’’魔物’’……ヴォルフの親玉なのか」


 ガレンの声が低くなる。


「なんでこんな場所に……この地域に’’魔物’’は出ないと聞いていたが」


 エヴァは目を細め、その怪物の動きに集中する。


「……これは偶発的な襲撃じゃないかもしれない。」


 帝国兵の悲鳴が響いた。

 斥候隊はすでに戦線を崩され、半数が血の中に倒れている。


 ガレンが拳を固く握る。


「助けるか……? だが帝国軍だぞ。こちらの目的は帝国と王国の停戦。そのために動いている我々が、帝国兵を助けるのは……何より’’魔物’’の相手は危険すぎる」


 エルビスが静かに言葉を重ねる。


「そもそも助けても、向こうは信用するのか。むしろ怪しまれるかもしれん」


 エヴァは二人の横顔を見渡し、ゆっくりと立ち上がる。


「……でも、見捨てるという選択肢はないわ」


 風がエヴァの髪を揺らす。

 その瞳は、魔物を真正面から射抜いていた。


「“帝国だから”じゃない。’’魔物’’が動いて人間を襲っている今の事実。この場にオリビアがいたら、彼女はどうすると思う?」


 エヴァの言葉にエルビス、ガレンの二人は表情がより真剣になる。

 そして…エルビスは静かに古木の弓を握り、ガレンが新調した聖銀の鎧の紐を締め直す。


「「――救うにきまっている」」


 エヴァは魔力を解き放ちながら言い放つ。


「なら、話は簡単ね」


 その瞬間、魔物の巨影がこちらに気づいたように吠えた。

 三人は視線を交わし、斜面を一気に駆け下りる。


 戦いは――始まりを告げる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイファンタジー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ