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銀翼のヴァルキリー -その翼は、自由を識る-  作者: 翔司
第一章 《銀翼は反逆の空を翔ける》

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第五話 灰の谷 ― 鎖の音

 赤黒く染まった空の下、帝国の飛空艦は静かに大地に伏していた。


 黒い装甲はほぼ無傷で、まるで「空そのもの」を地上に引きずり落としたようだった。


 焦げた鉄と砂の匂いが鼻を刺す。風が吹くたび、砲門の影が長く伸びた。


 「……四隻目か。」


 サンドが深く息を吐き、巨大な艦影を見上げる。


 「一隻目は破壊、二・三隻目はボロボロで奪い取った。……でも、」


 ラウニィーが甲板を見上げながら続ける。


 「今回はほぼ無傷。……リヴィ、これ、やばい戦果だよ。」


 オリビアは頷いた。


 「帝国の艦を“形のまま”奪ったのは、今回が初めて。……王国の歴史の中でも前例がない。」


 これまで王国が鹵獲した飛空艦は、いずれも大破状態で修復もままならず、解析も限られていた。


 王国が飛空艦を持てなかった最大の理由は――


 奪っても、肝心の「動力源」の仕組みがわからなかったからだ。


 「……でも今は、目の前に“生きてる”艦がある。」


 サンドの声には興奮と不安が混じっていた。


 オリビアは甲板に足を踏み入れる。


 金属の床が軋むたび、風が裂け目を抜けて冷たい音を立てた。


 (今までは渡すだけだった。……でも今回は、見る。全部。)


 頭の奥で、士官学校で見た図面がよみがえる。


 帝国飛空艦の構造――その中で、動力部分だけは黒塗りだった。


 王国がどれだけ研究しても再現できなかった部分。


 「魔力供給」としか書かれていない曖昧な記述。


 それが、王国と帝国の決定的な差だった。


 「リヴィ……。」


 ラウニィーが艦の裂け目を覗き込み、小さな声で言う。


 「……例の噂、本当かもしれない。」


 「奴隷を魔力源にしてるってやつか。」


 サンドが顔をしかめた。


 「冗談だと思ってたがな……。」


 ヴィンスが制御盤に触れ、眉をひそめる。


 「……この魔力流量。人間ひとりで出せる量じゃない。」


 「じゃあ、まさか……。」


 そのとき、艦底からかすかな呻き声が響いた。


 ラウニィーが弓を構え、サンドが扉を蹴破る。


 鉄の扉の奥――そこは、薄暗い魔力供給室だった。


 鎖に繋がれた十数人の男女が床に座り込み、腕と胸に魔法陣を刻まれている。


 黒い管が魔導核に繋がれ、彼らの魔力を吸い上げていた。


 肉体は削がれ、目は虚ろ。まさに“生きた魔力炉”だった。


 「……これが……。」


 オリビアは言葉を失った。


 図面で黒塗りされていた箇所――その“答え”が、ここにあった。


 「ふざけやがって……!」


 サンドが鎖を引きちぎり、少年を抱き上げる。


 ラウニィーはその小さな手を包み込んで震える声で言った。


 「もう大丈夫。あんたは燃料じゃない。」


 ヴィンスが魔導管を手に取り、低く唸る。


 「これじゃあ王国が真似できなかったのも当然だな。……“人を燃やす”なんて、想像もしなかった。」




 夜の野営地。


 オリビアは図面を膝に広げ、黒塗りの部分を見つめていた。


 (王国が知らなかったのは……こういう理由だったのね。)


 冷たい夜風が頬を撫でる。


 彼女の胸の奥に、形にならない“棘”が刺さる。


 ラウニィーが背後から声をかける。


 「難しい顔してる。」


 「……考え事。」


 「うそ。眉、寄ってる。」


 小さく笑いながら湯を受け取る。けれど、その棘は消えなかった。


 そのとき、伝令兵が駆け込んできた。


 「オリビア・エルフォード中隊長! 本部より指令です!」


 オリビアは立ち上がる。


 「内容を。」


 「――帝国鉱石地帯C-7帯の確保任務。残党排除と前線拠点化の命令です!」


 サンドとラウニィーの視線が自然とオリビアに集まる。


 彼女はわずかに空を見上げ、短く答えた。


 「了解。夜明けとともに出発する。」


 静まり返った夜空の下――


 帝国の飛空艦は、黒い影となってそこに沈んでいた。


 その艦が、王国と世界を揺るがす“始まり”になることを、まだ誰も知らない。


挿絵(By みてみん)

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