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銀翼のヴァルキリー -その翼は、自由を識る-  作者: 翔司
第三章 銀翼と王女の邂逅

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第四十九話 動き出す刻

 会議室に、ゆるやかな午後の日差しが差し込んでいた。


 長机の上には、数枚の地図と、アリアが昨夜までに整理した資料が並んでいる。


 オリビアは椅子から立ち上がり、静かに全員を見渡した。


「――これから、最初の一歩を決めよう。セレスティアとして、最初に“何をするか”を」


 その言葉に、空気が引き締まる。

 ラウニィーが頷き、机の端を指で軽く叩いた。


「まずは……やっぱり、王国の“現実”からだね。

 貧困街の人たちが、いちばん危うい。誰も守ってくれないまま取り残されてる」


「そうだな」

 サンドが腕を組む。

「奴らは、もう限界だ。食料もねぇ。医者もいねぇ。

 生きるために罪を犯すしかない奴もいる。……放っとくのは違う」


 オリビアは深く頷いた。


「私も同じ考え。あの場所を“解放”することが目的だけど、今すぐ壁を壊すのは現実的じゃない。

 まずは、そこにいる人たちを安全に避難させること。希望者は全員、プラチナムに迎え入れよう」


 エヴァがゆっくりと手を組んだ。


「現実的だ。森の資源を分ければ、暫くは十分に養える。

 だが、移すだけでは意味がない。彼らが“生きる居場所”を得なければ、また同じ過ちを繰り返す」


「それは……私が担います」


 アリアが静かに立ち上がった。


「貧困街の人たちに、私が直接話します。

 彼らの痛みを、王族として、じゃなくて“同じ国の人間として”聞きたい。

 それが、私にできる最初の償いだと思っています」


 オリビアは目を細めて頷いた。


「……ありがとう、アリア。あなたが行くことで、きっと皆も安心する」


 セレナが目を閉じたまま言葉を添える。


「移住計画の護衛は私たちで担当するわ。


 ただ、王国の兵が動く可能性もある。慎重に行くべきね」


「俺も行く。力仕事は得意だからな。人を運ぶなら任せろ」


 エルドゥが笑う。


「俺も」


 カイルが続いた。


「魔法で補助できる。障壁や護りの展開も引き受ける」


「医療面は私に」フィオが穏やかに微笑んだ。


 アリアは少し驚いたように、彼らの顔を見渡した。


「……ありがとう。私ひとりじゃ、何もできなかった」

「もうひとりじゃない」ラウニィーが笑った。「ここにいる全員が、同じ気持ちだよ」


 その穏やかな空気の中、オリビアが地図の一点を指した。


「次に――王都。

 アリア、あなたの提案どおり、国王との会談を進めよう。私たちは“敵”ではないことを、正面から伝えに行く」


 アリアの瞳がわずかに震えた。


「はい。……でも、父がどこまで耳を傾けてくれるかは、分かりません」

「分からなくても、やるしかない」


 オリビアは即答した。


「対話を選ばなければ、また血が流れる。

 戦うために立ったんじゃない、“終わらせるため”に立ったんだもの」


 その言葉に、誰もが頷いた。


 ラウニィーが小さく呟く。「うん、やっぱりリヴィだね。真っ直ぐすぎるくらい真っ直ぐ」


 サンドが笑う。

「だからオレらも付いていけるんだ」


 会議室の空気が少し和らいだその時――。


 ふ、と空気が揺れた。


 窓も扉も開いていないのに、淡い影がひとつ、床に滑り込む。


「――やっぱり、ここにいたか」


 低く、抑えた声。

 全員が反射的に視線を向けると、黒装束の影がそこに立っていた。


「……シノビ?」ラウニィーが声を上げる。

「驚かせたな」


 影の中から姿を現したのは、あの“シノビ”のひとりだった。

 彼は軽く頭を下げると、静かに口を開く。


「セツナ様からの伝言だ。急ぎ、伝えねばならぬ」


 その声音に、全員の空気が変わった。


「聞くわ」


 オリビアが短く促す。


 シノビは一歩前に出て、静かに言葉を落とした。


「帝国と王国――双方が、軍を動かそうとしている。

 近く、かつてない規模の戦争が起こる。

 王国はすでに、全国的な徴兵を開始した」


 空気が、一瞬で凍りついた。


「……なんですって?」


 アリアが息を飲む。


 シノビは頷く。


「国王ではない。指揮を執っているのは“クエスター殿下”だと。

 セツナ殿はそう伝えた」


 アリアの瞳が大きく見開かれた。


「お兄様が……そんな……」


 声は震えていたが、次の瞬間、彼女は拳を握りしめた。


「――止めなきゃ。この戦争を、必ず」


 その言葉に、全員の視線が彼女へと集まった。

 誰も驚いていなかった。


 それぞれの表情に浮かんでいたのは、“当然だ”という確かな意志だった。


 オリビアが静かに頷く。


「もちろん。私たちがここにいる理由は、それしかない」


 サンドが拳を鳴らす。


「戦うんじゃねぇ、“止める”んだ。分かってる」


 エヴァが続けた。

「私たちは、力でなく知恵で挑む。 古き時代の過ちを、繰り返してはならない」


 ラウニィーはアリアの肩に手を置いた。


「大丈夫。あんたはひとりじゃない。全員で、止めよう」


 アリアは息を整え、涙を拭った。


「……ありがとう、みんな」


 オリビアは深く息を吸い、机の上の地図を見据えた。


「――分担しよう。時間がない」


 その声に、全員が姿勢を正す。


「戦場を抑えるのは私が行く。ラウニィー、サンド、同行して」

「了解!」ラウニィーが頷く。「どこまでも一緒に行くよ!」

「任せとけ!」サンドが笑った。

「帝国との交渉は、エヴァ。あなたにお願いする。ガレンとエルビスを同行させる」

「承知した。……必要とあらば、古代の言葉で語ろう」エヴァの声が低く響いた。

「そして――アリア」オリビアがまっすぐ見つめる。

「あなたは王国へ戻って。国王との対話、そして貧困街の人々の避難を任せたい。

 エルドゥ、フィオ、カイル、セレナ。あなたたちはアリアを支えて」


「了解」「任せて」「行こう」


 それぞれが短く答えた。


「最後に、プラチナムの守りは――リーヴァ、お願い」


 リーヴァは真剣な表情で頷いた。


「任された。アタイの鍛冶場も、ここの壁も、誰にも壊させない」


 オリビアは皆の顔を順に見渡した。

 全員の目に、迷いはなかった。


「……行こう。戦争を、終わらせるために」


 その言葉に、誰もが立ち上がった。

 彼らの背に、午後の陽が差し込む。


 光が、まるで新しい道を示すように床を照らした。


 ――セレスティアの第一歩が、いま動き出した。

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