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銀翼のヴァルキリー -その翼は、自由を識る-  作者: 翔司
第三章 銀翼と王女の邂逅

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第四十八話 交わる祈り

 朝の光が差し込む。


 プラチナムの会議室は、昨日の熱気をまだ少し残していた。


 石造りの壁に反射する光が静かに揺れ、磨かれた長机の上で、温かな湯気が立ちのぼる。

 その中央に――オリビアが座っていた。


「改めて、ありがとう。全員が揃ってくれて」


 オリビアの声は、透き通るように柔らかく、それでいて場を引き締める芯を持っていた。

 その周囲には、それぞれの席で静かに息を整える仲間たち。


 サンドの鎧が軋む音。リーヴァが机の上で指先を鳴らす小さな音。

 ラウニィーは隣に腰かけて、頬杖をつきながらオリビアの横顔を見ていた。


 そして正面には、ダークエルフの長――エヴァ・エルス。


 彼女の隣に、昨日正式にここへ来たばかりの少女、元第二王女アリアが座っていた。


「……さて」


 オリビアが口を開くと、全員の視線が自然と彼女へと集まる。


「昨日、アリアと話して感じたの。――このプラチナムと、私たちセレスティアがどこへ向かうべきかを、ここでしっかりと形にしないといけない」


 声は静かだが、確信があった。


 エヴァが頷く。


「うむ。思想がなければ旗は立たぬ。立場も違う者が集う以上、共に進む“理”を明確にするのは当然だ」

「そう。それに、アリアもここに加わった。改めて、もう一度、全員の“想い”を揃えたいの」


 オリビアは一呼吸おいて、アリアへ視線を向ける。


「……アリア。あなたの覚悟を、聞かせてくれる?」


 少女はゆっくりと席を立った。


 陽光が彼女の金の髪を淡く照らす。王族の面影を残しながらも、その瞳にはもう迷いはなかった。


「私は――アリア・シルヴァラン。

 かつて王族としてこの国を見てきた。でも、見えていなかった。

 貧困街も、奴隷も、争いも、全部“遠くのこと”だと思っていたの。

 でも、あの飛空艦の真実を知ったことで、ようやくわかった。

 ――あれは国の選択じゃなくて、私たちの“逃げ”だった」



 アリアの声は震えていたが、ひとつひとつの言葉に想いが宿っていた。


「だから、私はもう“王女”じゃない。

 この手で、私の見たものを変えたい。

 もし許されるなら、セレスティアの一員として――世界を動かす側に立たせてほしい」


 場が静まり返る。


 オリビアはしばらく彼女を見つめ、それからふっと微笑んだ。


「……アリア、あなたの言葉、私は嬉しい。

 私たちは“正義の味方”なんかじゃない。ただ、戦争のない未来を信じて進む者たち。

 その願いがあるなら、もう仲間よ」


「賛成だ」


 エヴァがゆっくりと立ち上がる。琥珀と碧が混じる瞳が、静かにアリアを見つめた。


「過去を知る者として言おう。――君のように、自分の立場を捨てて真実と向き合う者は、みなの希望となり得る」



 ラウニィーが笑みを浮かべる。


「うん! 私はもう、最初っから歓迎するつもりだったよ。リヴィが信じた人なら、私も信じる」


 サンドが頷き、エルドゥが豪快に笑い、セレナが静かに「同感」と呟いた。


 リーヴァが手を挙げる。「アタイも異議なし! アリアちゃんが本気なら、アタイらも本気で支えるよ!」


 会議室に柔らかな空気が広がった。


 アリアは深く頭を下げ、「ありがとう」と短く呟いた。


 ――そして、オリビアは全員を見渡しながら言葉を続けた。


「……私たちは、戦争をなくすためにここにいる。

 でも、“戦争をなくす”って、簡単な言葉のようで、実際は何よりも難しい。

 だから、もう一度それぞれの想いを聞かせて。

 セレスティアとして、どう在りたいか。どんな未来を望むのか」


 短い沈黙のあと、最初に口を開いたのはエヴァだった。


「私は、過去を語る者として、罪を忘れぬ礎となる。

 戦を起こした理由を、誰かが記録しなければ、また同じことを繰り返す。

 だからこそ、“語り継ぐ”という役を担おう。未来の者たちが、同じ血を流さぬように」


 オリビアは静かに頷く。「……ありがとう、エヴァ。」


 次に、ラウニィーが口を開いた。


「私はさ、難しいことは分かんないけど……“隣で笑っていられる場所”を作りたい。

 誰かの命令で戦うんじゃなくて、自分の意志で守りたい人を守る。

 それが戦争のない世界の始まりなんだと思う」


 サンドは大きな拳を握りながら言った。


「オレは、守る。……それだけだ。

 力を持つ者が“奪う”ためじゃなく“護る”ために使えば、戦は起こらねぇ。

 だから、オレはこの身体が動く限り、前に立ち続ける」


 エルドゥが顎をさすりながら続く。


「オレは戦うのが性に合ってる。だけど、それは守るための戦いだ。

 あのガキどもが剣を持たなくていい日を見たい。そのためなら、命を懸ける価値がある」

 セレナは目を伏せ、低い声で言葉を落とした」


「……私は影で動く。闇を使うのは、光を守るため。

 真実を見失わないように、裏側から支える役を引き受けるわ」


 ガレンは背筋を伸ばし、深く息を吐いた。


「オリビア。俺はまだ、王国の兵としての矜持を捨てきれねぇ。

 でも――あんたたちと出会って、ようやく“戦う意味”を考えるようになった。

 だから、俺は人々の心を折らせない盾になる。それが今の俺の答えだ」


 フィオとカイルも続いた。


 フィオは穏やかに微笑みながら。


「私は人を癒すことしかできません。でも、誰かが生きて“次”へ進む力になるなら、それで十分です」


 カイルは短く。


「魔法は使い方次第で、世界を壊す。でも、導くこともできる。俺は後者でありたい」


 最後にリーヴァが立ち上がる。


「アタイは武器を作る。でも、それは“戦うための刃”じゃない。

 誰かを守るための、未来を繋ぐ道具にしたいんだ。

 だから、アタイの鍛冶は――“平和を形にする仕事”にする」


 それぞれの言葉が、会議室に静かに積み重なっていく。

 オリビアは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。


「……ありがとう。

 みんなの言葉を聞いて、私は確信した。

 “セレスティア”は、ただの組織じゃない。

 ――これは、“願いの集まり”なのね」


 そして、エヴァがゆっくりと微笑む。


「ならば、その願いを束ねる者が必要だ。

 私は提案する。オリビア、あなたが代表となり、この光を導きなさい」


 オリビアは一瞬、息を飲んだ。


「……私が、代表……?」


 エヴァは頷く。


「あなたの歩みが“今”を作った。

 この場所を築いたのも、あなたの意志だ。

 誰よりも前を見据えているあなたにこそ、その旗を託したい。」


 場が静まり、ラウニィーが優しく笑う。


「……それでいいと思う。

リヴィは“今”を切り開く人。

エヴァは“過去”を知って、そこから“今”を築く人。

そしてアリアは、“未来”へ向かう覚悟を持つ人。

それぞれ違うけど、全部が繋がってる。

三人が並んでこそ、セレスティアは“時を進める力”になるんだよ」


 ラウニィーは少し言葉を切って、仲間たちの顔を見渡した。


「それにね――リヴィが“代表”なのは当然だと思う。

でも、この場所を動かすのは、一人じゃない。

エヴァは過去を知る者として、違う視点からセレスティアを支える。

アリアは未来を信じる者として、別の角度から同じ高さに立つ。三人それぞれの視点が重なってこそ、この組織は進んでいけるんだ。

だから――“象徴”は三人でいいと思う。

もちろん、あたしもみんなもいる」


 オリビアは息を飲んだ。


 エヴァもアリアも言葉を失いながら、それぞれの胸に何かが灯るのを感じていた。


 それは“責任”ではなく、“信頼”の重さだった。


 ラウニィーの静かな言葉が、朝日のなかで溶けていった。


 暖炉の火の光が、彼女の横顔の輪郭を柔らかく照らす。


 火の揺らめきが映る金の瞳は、悲しみではなく、ただ誰かを想う温度を宿していた。


 沈黙が、短く、しかし深く流れた。


 その静寂を破るように、隣から微かな息がもれる。


「……あなたは、ほんとに、そういうところだけは外さないのね」


 セレナが、小さく笑った。


 その声音には皮肉も棘もなく、むしろどこか安堵の色が混じっていた。

 ラウニィーが振り向くと、セレナは肩をすくめ、短剣の鞘を軽く指で叩いた。


「核心を突くのが得意。……まったく、厄介な人たちばかりね」

「えへへ、それ、褒め言葉として受け取っとくね」


 ラウニィーがいたずらっぽく笑うと、暖炉の火の光が二人の頬を明るく包んだ。

 その一瞬だけ、戦いの匂いは薄れ、穏やかな朝がそこに戻った。


 沈黙が、深く、長く、あたたかく流れた。

 誰もが胸の奥で、同じものを感じていた。


 それは“始まり”の鼓動。


 オリビアはゆっくりと立ち上がり、全員に視線を巡らせる。


「……ありがとう。みんなの想い、私が受け取った。

 私たちセレスティアは――戦争のない世界を作るため

に、ここに立つ。その未来のために、歩もう」


 その瞬間、窓から朝日が差し込み、光が彼女たちを包んだ。

 新しい“祈り”が、確かに動き始めた。

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