第四十話 拠点再興
リングが完成して、数日が経った。
夜になると薄い光の環が拠点の屋根と柵をやわらかく縁取り、見張り台の兵はその光を仰ぐたびに肩の力を抜いた。
焦げた匂いも、慌ただしい足音も、今は遠い。胸の奥に“守られている”という実感が静かに沈殿している。
武器庫の扉が開くたび、小さな歓声が弾けた。
リーヴァが最後の一本まで仕上げ、残っていた人員の武器と防具がすべて行き渡ったのだ。
とりわけ――サンド、セレナ、ラウニィー、エルドゥの四人にはミスリラ聖銀製の新武器が渡り、ガレンは以前にリーヴァが鍛えた同素材の巨大な両手剣を再び手にした。
オリビアの腰では、変わらずルナイト製の双剣が静かに息をしている。
防具は六人とも揃ってミスリラ聖銀製へ換装。鎖帷子は関節に吸いつくように馴染み、胸甲は薄く、叩けば心臓に似た響きで応じた。
「……軽い。だが芯が沈む」
サンドは大きな片手剣を一太刀、空に振り抜き、左腕の大盾を構える。
盾面には薄く刻まれた魔力導紋が淡く光り、金属音が空気を震わせた。
「振り戻りが手の内へ勝手に帰ってくる感覚だ。盾の重みも軸で吸う感じがいい」
「バランス極振り。これなら細剣の足さばきにも追従できる?」
セレナは短双剣の刃元に指を添え、撓みの律動を読む癖のままに目を細める。
「できるできる!」
リーヴァが胸を張った。
「ミスリラ聖銀は反発が強いから、返りを“使う”の。踏み込みのリズムに合わせて刃が戻るよう、芯を通してあるよ」
「オレ様の巨大な斧はどうだ!」
エルドゥがぶん、と一閃して大地を鳴らす。
「おお、柄がびくともしねぇ! なのに重みが腰に落ちる!」
「エルドゥは体幹で受けるタイプ。だから柄芯を固め、重心は下へ。腕じゃなく腰で振る設計ね」
「見て!」
ラウニィーは新調の大弓を掲げて弦に指を掛ける。
「引いた瞬間の“鳴り”が気持ちよすぎ!」
「曲率をいじって、弦音の節が矢羽根の回転と合うようにした。音は風の設計図でもあるからね」
リーヴァは得意げにウィンクした。
喜びが巡り、笑いがほどける。仕事の足取りも自然に軽くなる。
ひと息ついたリーヴァは炉の火を落とし、外へ出た。炭と樹脂の匂い。拠点を一望すれば、急ごしらえの壁、継ぎ目の多い屋根、浅い排水。水甕には相変わらず列ができている。
「……このままじゃ、もったいないね」
腰からスケッチ板を引き抜き、鉛筆が走る。
線が面となり、面が立体になって、拠点の新しい姿が板の上にもうひとつ生まれた。
*
「オリビア! ちょいといいかな!」
指揮卓の周りには主要メンバーが集まっていた。オリビアが顔を上げる。
「リーヴァ。どうしたの?」
「見ての通り、拠点は急ごしらえだろ。だからさ――作り直そう。ちゃんと。アタイ、設計はできる。それにここには力仕事ができる人が山ほどいる。一ヶ月で見違えさせられる」
「提案の詳細を聞かせて。実現性、資材、工程、人員配置」
「要点でいくよ。まず各家の立て直し、上下水完備。柵は門に作り直して強固に、前に堀。堀には近くの湖から引水。次に迎賓館、動物と魔物の解体場。鍛治場拡張、それから訓練所の新設。中央に大きめの屋敷――で、そこには」
「露天風呂!!」
ラウニィーが元気よく手を挙げる。
「東方の国のやつ! 文献で読んだ! ぜったい必要!」
「……優先順位は後で整えましょう」
セレナはこめかみを押さえつつも、笑いを堪えきれていない。
「鉱山からの運搬を楽にするため、トロッコ線路も敷く。締めに大浴場。お湯は薬湯にしたい。疲労回復と衛生のためにね」
サンドが地図へ身を乗り出した。
「堀の土量と引水の勾配が肝だ。水位差は測り直す。支保工と枠板の在庫が心許ない。切り出し班を増やそう」
「丸太は任せろ!」
エルドゥが胸を叩く。「丸太橋も作ってやるし、土運びもやる! オレ様のレンジャー、見せどころだ!」
ガレンは門の位置へ指先を置く。
「門と堀のラインが守りの要。見通しの悪い箇所に胸壁、交差点ごとに詰所と警鐘。巡邏経路は私が引く。順序と安全を最優先に」
「物資配分と班割りは私が握るわ」
セレナが書記の兵に目配せをする。
「食料当番はローテ再編。連絡は旗とラッパ、短距離は伝令札。医療所は東のテント群へ仮移動」
「薬湯の配合は私が担当します」
フィオが静かに挙手した。
「回復段階に合わせて調合を変えますので、採草班と連携させてください」
「助かる、フィオ!」
ラウニィーが親指を立てる。
「露天風呂プロジェクト、盤石だね!」
オリビアは皆を見渡し、短く頷いた。
「――やりましょう。今すぐ全員を広場に集めるわ」
そうして、オリビアはすぐに全員を集めた。




