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銀翼のヴァルキリー -その翼は、自由を識る-  作者: 翔司
第二章 銀翼は祈りを抱いて

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第三十五話 護るための


「…なんですって!?森の奥地にミスリラ鉱脈が見つかった!?」


 ダークエルフの里に救援を行った明くる朝、拠点の丘の上に拵えられた作戦会議室にて私たち一行は顔を合わせていた。


 私が拠点不在時、ガレンの探求成果に私は驚きを隠せなかった。

 

「ああ。確かだ。俺はミスリラ鉱石の輸送任務を行っていたことがある。現物は詳しい。ごく一部だが実際に持ち帰っている。確認してくれ。」


 ガレンは部下の男女二人に合図をする。


 合図を受けた男女二人の兵士は木箱を部屋の中央の机に静かに置く。


(あの二人は確か、ガレンの部下のフィオとカイルだったわね。双子兄妹の小隊長だったわね。)


 オリビアは男女二人を観察しながら、彼らが机に置いた木箱に目をやる。


「…アレがミスリラ鉱石!?」「…間違いない。しかも純度が高いぞ。あれは。」


 隣で木箱の中身を目にするラウニィーとサンドが話していたのが聞こえた。

 

 私は鉱石に手を触れる。ひんやりしつつも優しい温もりが手に伝わる。


 間違いない。これはミスリラ鉱石だ。


 目が離せなかった。


(皆の装備を充実させるためにコレは貴重だ。特に今ガレンは武器を失って危険な状況だ。…しかし!)


 この世界でミスリラ鉱石は非常に希少価値が高い。


 それこそ、帝国と王国が採石地帯を奪い合うほどに。


「帝国や王国に気付かれたら危険だな。」


 サンドが低く呟く。

 その一言が、皆の心に重くのしかかった。


 けれどラウニィーがすぐに肩をすくめ、笑っていった。

 

「けど、やらなきゃ詰むんでしょ? なら、掘るしかないじゃん。」


「…そうだな!どの道、マイケルに楯ついた時点で、やりあうの決まってんだ!」



 ラウニィー、そして続くエルドゥの言葉に私は決意を固める。


「…使おう。ミスリラ鉱石を!」


 その言葉に、ガレン、フィオ、カイルを始めとする全員が頷いた。


 彼らのその瞳に迷いはなかった。



----------------------------------------------------------------------------------------------



 私たちはミスリラ鉱石を採掘し拠点へ回収するためのプランを計画する。


 ガレン曰く、現地にはミスリラ鉱石だけでなく鉄や銀など他の鉱石素材もあったと報告を受けている。


 ガレンは武器を失っている状況だ。外に出すわけにいかない。故に拠点内の指揮を依頼した。


 そして採石地までの道のりを知っているガレン配下のカイル。そしてエルドゥのレンジャー部隊。


 採石作業の責任者はサンド及び彼らの部隊だ。彼らとその部下は入軍前、かつて鉱山で働いていた経験・採掘のノウハウを持っている。


 特にサンドの部隊にはうってつけの任務だ。


 3人の部隊が主体となって採掘作業を行うプランを展開した。


「採掘はできる。問題は加工と精錬だ。」


 サンドは顎に手を当てて考え込む。


「そうね。けれど、材料を確保しなければ装備に賄える分はないわ。そもそも実際にどれくらいの量が採掘できるか未知数よ。」


「アタシは鍛治や精錬の経験ある人いないか探してみるよ。」


 ラウニィーは部隊の中からそういった知識や技能がある人間を探しに行った。


 ーーラウニィーが会議室から出ていくのを見送った後……ガレン隊長の部下の淡い金髪の女性、フィオから声がかかる。


「……オリビアさん、飛空艦に囚われていた方々の身体がようやく回復に向かっています。」


 彼女は光魔法の使い手。回復を得意としているとガレンより聞いていた。


 そのためガレンは彼女に飛空艦に囚われていた人々のケアにつけてくれていた。


 私は心配事だった一つ問題の突然の報告をくれた彼女に向き直る。


「……本当!それは嬉しい報告だわ!」


「つきまして、代表の者が面会を希望しております、いかがなさいますか。」


「ええ、是非。」


 二つ返事で面会を承諾し、彼女に代表者を連れてきてもらう運びとなった。

 



----------------------------------------------------------------------------------------------



 

「この度は、オレ達の村の者共を救っていただいて誠にありがとうございます。」


 がっしりした身体の壮年男性は頭を下げる。


 …がっしりした身体ではあるものの、飛空艦に繋がれていたせいで身体は今も万全ではないのが見てとれる。まだ少し辛そうだ。


 彼の名前はアントニー・ニュート。王都の近くの農村の者達だった。


 なんでも王国の増税に耐えきれず反対したところ無理矢理連れ去られ、あんな酷い目にあったという。


「いいえ。そんなことは。身体が少しでも快方に向かっているのは喜ばしい事です。…ですが、結果的にこんな辺境へ連れてきてしまう事になり申し訳ありません。」


 元々彼らは王国民だ。救う為だったとはいえ過酷な森の中へ連れてきてしまった事実に変わりない。オリビアは彼に向かって頭を下げた。


「……やめてくれ。……命を救ってもらったんだ。もし助けて貰えなかったらこの場で立っていることもオレ達はできていない。感謝すれども恨む筋合いなんてないよ。」


「それに、もうあんな目にあって王国に帰りたいやつは俺たちの中にいない。」


 アントニーの感謝の言葉に少し心が軽くなったのを感じると同時に、オリビアは王国に許せない想いも募った。


「オレ達は普通の農民や村人だ。戦う力はない。なので身体が良くなって動けるようになった者から土を耕して畑を作ったり、パンを焼いたり、湖で魚を釣ったり程度しか出来ないと思う……僅かだが協力させてくれ。」


「そう言ってくださって、ありがとう。」


 彼はオリビアに礼を言った後、戻っていった。


 後にフィオ経由で聞いたところ、彼らは残念ながら鍛治や精錬に関する知識は持っていなかった。

 


----------------------------------------------------------------------------------------------



 二週間ほど経過した。



 採掘のさなか、敵性生物の襲撃や周囲の警戒も怠ることができない日々は続いた。

 岩肌に張り付く湿気が、皮膚にまとわりつく。ツルハシを振るうサンドの腕から、土埃と汗が滴っていた。


 それでも、彼らは誰も手を止めず作業に打ち込んだ。


 そして、サンドの部隊が主体となった採掘活動が実を結び、ある程度の鉱石資源を拠点に運び込む事に成功した。


 搬入した鉱石は鉄鉱石、銀鉱石、ミスリラ鉱石だ。


 鍛治や精錬の専門技術がある者はいないが、目先に必要な採掘用のツルハシくらいであればサンドでも作成できるため、道具が揃ってからは更に作業が加速した。


 また、オレたちが飛空艦から救出した人達は少しずつ元気になり農具や釣具を作り始めた。畑を作ったりする準備を進めているらしい。


 横にいるエルドゥの声が聞こえる。


「とりあえずある程度集められたが、技術者が見つからないみたいだ。」


「…そうだな、だがオレたちは掘るだけさ。」


 サンドは一言、返して心の中で念じていた。


(オレは掘る。だからーー頼むぞ。オリビア、ラウニィー。)

 

 二人は無心に鉱石を掘る。二週間掘った結果、岩肌には小さな洞穴が出来ていた。


 二人のそばをカイルがランタンに火魔法を灯し、明かりを作ると共に周囲の警戒を続けている。


 普段は無口でポーカーフェイスのカイルだが、僅かながら焦燥の表情を感じた。


 サンドはツルハシを岩盤に打ち付けた刹那ー土の声を聞く。


(……?今のはなんだ?)


「急に手を止めて、どうしたんだ?サンド?」


「……今、魔力を’’呑み込んだ’’。」


 エルドゥ、そしてカイルまでもが戸惑った表情をした気がした。


「……何を言っている?」


 サンドは何かを感じた方向へ無心でツルハシを振るう。


 ーーカーン、と乾いた音が響いた。


 そして、硬い岩盤を抜いた時に魔力が滲み出し’’ソレ’’が姿を現した!


 突然の事態に三人は背筋から汗が流れる!


 それは音ではなかった。’’息’’のように洞穴の中に広がった。


「な…!なんなんだ!一体これは!!!」


 エルドゥの大きな驚く声が耳に響く。静かにしてくれ。


 ’’ソレ’’は、なめらかな白金色の鉱石だった。


 銀よりも白く、最も世界で美しいと言われているミスリラ鉱石より美しく見える。


 鉱脈は僅かだった。なめらかな白金色の鉱石は俺の腰に抱えられるほどの量だった。


「ミスリラの…’’親玉’’なのか?これは。」


 先ほどまで一言も言葉を発しなかったカイルがランタンを照らしながら語る。目が離せない。


「何かがある気がした。’’ソレ’’はまるで、銀の中に光を閉じ込めたみたいだ。」


 サンドは採掘し、’’ソレ’’に触れる。


 ’’ソレ’’に触れた、サンドの魔力が一瞬で拡散する。空気が震えた。


「……こいつぁ!……タダの鉱石じゃねぇぞ!」




----------------------------------------------------------------------------------------------


’’ソレ’’を持ち帰ることに成功。作戦会議室


 ー得体の知れない新たな鉱石を発見ー


 その一報がオリビアや主要メンバーに即座に伝達され、緊急集会を行うことになる。


「’’ソレ’’が報告にあった鉱石なのね…」


 オリビアはその美しい鉱石を見つめている。


「そうだ…。’’ソレ’’は…未発見レベルの鉱石。」

 

「まだ人間が誰も見つけていないってこと!?」


 サンドの言葉にラウニィーが驚愕の表情を見せる。


「恐らく、はな。オリビア。''ソレ'’にお前が名前を付けてくれ。」


 オリビアはその金属に手を伸ばす。


(…すごい。まだ触れてないのに魔力の疎通ができる。なんなのこれは。)


 そしてオリビアはそっと手を触れ、慈愛の気持ちで軽く魔力を流す。


 突如、一行を優しい風が包み込んだ。


「これは…リヴィの風。暖かい…!」「温もりを感じるぞ!」「一体何が!」


 ラウニィー、ガレン、フィオがそれぞれ声をあげていた。


 オリビアが魔力を遮断すると、暖かい風が収束した。


 そこには荘厳な神々しさがあった。


「これは、’’戦うための金属’’じゃない…’’護るための金属’’。」


「…白銀を超える白、ミスリルを超える魔力伝導。《プラティニウム》と名付けるわ。」

 

 ここにオリビアの命名により、’’護るための金属’’《プラティニウム》が産声を上げた。


 その瞬間、誰もが言葉を失い、ただ光に包まれていた。


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