表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀翼のヴァルキリー -その翼は、自由を識る-  作者: 翔司
第二章 銀翼は祈りを抱いて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/102

第三十四話 戦乙女の帰還

 オリビアたちがスフォンジーの森を発ってから、十日が経とうとしていた。

 朝霧が薄く漂い、仮設拠点の鍛冶場からは火花が散っていた。金属を叩く音と、セレナの的確な指示が響く。

 ガレンの隊は南の丘陵を越え、ミスリラ鉱脈を発見していた。青白く光る鉱石が岩肌の中に眠っている。

 戦場とは思えないほどの達成感が拠点を包んでいた――その矢先だった。

 見張り塔の笛が鳴った。

 「報告! 拠点から南方十キロメディル先に大量の魔物が発生! それをダークエルフが迎撃中とのことです!」

 土埃を上げて駆け込んできたレンジャー隊員の報告に、周囲がざわめく。

 ガレンは即座に駆け寄り、低く問う。

 「状況は?!」

 「拠点から南方に10キロメディルほどの距離あたりに大量の魔物が発生しており、それをダークエルフが対処している模様です!」

 報告を聞くなり、ガレンは頷き、声を落とす。

 「ふむ、よく報告してくれた。休むといい。」

 (まずはエルドゥ殿とセレナ殿にも共有せねば!)


 報を受けたエルドゥは拳を鳴らし、真っ先に叫んだ。

 「じゃあおれ様がここを死守する! ガレンとセレナはダークエルフを助けてやってくれねぇか? おれ様はあいつらに過去に見逃してもらってる。ここであいつらを見殺しにはできねぇ!!」

 その声は拠点全体に響いた。

 「本当はおれ様が行きてぇが、おれ様が行くよりも戦術に長けてる2人が行く方がいいと思うんだ!」

 ガレンはその想いを汲み取り、力強くうなずく。

 「承った。そして、エルドゥ、そなたの心意気もぜひダークエルフ達に伝えてこよう!」

 エルドゥは満足そうに笑い、拳を突き合わせる。

 セレナは微笑を浮かべてその様子を見ていた。

 「ガレン、指揮を取って! オリビアがいない今、指揮を取れるのはあなたしかいない! 頼んだわよ!」

 その言葉に、ガレンの眼差しが鋭くなる。

 「私とセレナ殿はダークエルフ救援に向かう!! フィオ、カイルは私と同行! セレナ殿は十人を率い、私と共に現場へ! エルドゥ殿、それ以外のものは拠点防衛を厳戒態勢へ移行! 全員配置につけ!!」

 力強い号令が響いた瞬間、拠点が一斉に動き出した。


 馬蹄が地を叩く。

 ガレンとセレナの一行は、報告のあった南方へ向かって疾駆していた。

 「セレナ殿の隊は私の隊の援護を頼む!」

 セレナは笑顔で拳を突き出す。

 「了解!」

 風を裂き、森を抜けた。灰色の空、遠くに上がる煙。そこが戦場だった。


 ダークエルフの前線。

 結界の残骸が地に散り、炎がゆらめいていた。

 血に濡れた大地、倒れた戦士たち。

 敵は三十を超える魔物の群れ。その中に――ひと際巨大な影があった。

 黒い外皮に赤い脈動。魔力の奔流が大地を揺らしていた。

 ガレンは状況を一瞥し、即座に叫ぶ。

 「フィオ! 倒れているものの手当てを! カイルは私の援護を頼む!」

 「了解っ!!」

 そして、声を張る。

 「ダークエルフの戦士達よ、オリビア一行のガレン! 助太刀する!」

 血まみれの戦士がこちらを向き、息を荒げながら言った。

 「助太刀感謝する。だが、貴殿はそのまま里へ向かって頂けないだろうか。結界が破られ、中にまで魔物が入ってしまっている。ここは我らで事足りる。」

 彼らの覚悟は、命の灯そのものだった。

 ガレンは短く答える。

 「……承知した! 武運を!」

 馬を翻し、里の内部へ駆け込む。


 中ではエルビスが奮戦していた。

 「エルビス殿、先鋒の戦士に言われ助太刀に来た!」

 「感謝する。だが、ここは大丈夫だ。この奥は非戦闘員がいる区画だ、そちらを頼む!」

 エルビスの声は掠れていたが、判断は冷静だった。

 ガレンは頷き、さらに奥――居住区へと走る。


 視界の先、木造の家々が炎に包まれていた。

 その中心に、異形の巨影。

 ――人の形をした魔獣。

 体高四メディル。漆黒の皮膚は岩のように硬く、全身を赤い線が走る。

 眼光は獣のそれではなく、何かを計算するような理性の光を帯びていた。

 「……っ!」

 ガレンの喉が震えた。

 息を吐くたび、熱波が肌を焼く。

 空気が重く、魔力が濃い。

 戦場そのものが、敵の支配下にあるようだった。

 「カイル! 私が切り込む! カイルは援護をしてくれ! その上で里の者を守れ!セレナ殿の隊も里の者の避難と救助を!」

 「了解!」

 剣を抜く音が、戦場の音を断ち切る。


 ガレンは魔力を全身に巡らせた。

 筋肉が軋み、骨が鳴る。身体強化。

 地を蹴った瞬間、視界の端が流れる。

 巨獣の腕が動く。

 その速さは視認できる限界を超えていた。

 ――ドガァン!!

 衝撃が走り、風が爆ぜる。

 ガレンは間一髪で身を翻した。地面が裂け、砂塵が吹き上がる。

 (……速い! 重量と速度が両立している……!)

 地を転がりながら距離を取る。

 魔獣が吠えた瞬間、耳の鼓膜が軋む。

 「――来いっ!」

 ガレンは雄叫びと共に駆けた。

 足元の石を蹴り、跳躍。剣を振り下ろす。

 金属音が響き、刃が皮膚を弾かれる。

 「硬い……だが!」

 再び斬撃。三撃、四撃――火花が連続する。

 それでも切れない。

 刃が跳ね返るたび、衝撃が腕に突き刺さる。

 魔獣の反撃。

 巨腕が唸り、ガレンの腹部を狙う。

 「ぐぅっ!」

 防御が間に合わない。

 拳が空気を押し潰し、風圧だけで体が吹き飛ぶ。

 背中が木に叩きつけられ、息が漏れた。

 「……はぁ、っ……!」

 視界が白く霞む。だが、止まれない。

 再び立ち上がり、構える。剣先が震えている。

 (ここで退けば、あの奥の民が死ぬ……!)

 走る。踏み込む。

 刃が閃き、今度は関節を狙う。

 「せぇぇぇいっ!!」

 ガレンの剣が、巨獣の膝裏を裂いた。

 黒い血が弾ける。

 巨獣がよろめく――しかしその目には怒りが宿っていた。

 腕が振り下ろされる。

 咄嗟に剣を掲げたが、音が違った。

 ――バキィィッ!!

 剣が折れた。

 破片が飛び散り、頬を裂く。

 次の瞬間、巨獣の拳が腹部に命中した。

 「――がっ!!」

 視界が跳ね、地面が遠のく。

 木に叩きつけられ、意識が飛びかける。

 耳鳴り。鉄の匂い。

 朧げな視界の中、逃げ遅れた少女の影が見えた。

 「っ!! くそっ! 逃げ遅れたのか!」

 魔獣が視線を向ける。

 ガレンは動こうとするが、ダメージで動かない。

 「ここで……動かなければ……わ、私はっ……!」

 巨獣の拳が振り上げられる。

 ――その瞬間。

 空気が震えた。

 風が、音もなく空を切った。

 次の瞬間、巨獣の身体が四つ裂きになっていた。

 その光景を見たガレンは雷に打たれたかのような衝撃が走る。

 (なっ!!私が苦戦していた敵を一撃で屠るなんてっ!なんと....美しい....ま、まさに銀の戦乙女....)

 血が霧のように舞い、月光に染まる。

 その中央に、銀髪が月明かりに揺れた。

 「……オリビア殿っ!!」

 ガレンの声が震えた。

 月を背に、銀髪を揺らめかせながら銀の戦乙女が立っていた。

 オリビアは逃げ遅れた人影の方へ駆け寄り、

 「ラウニィー、あの子をお願い!」

 声を飛ばすと、振り返り、ガレンのもとへ向かう。

 「ガレン、立てる? 遅くなってごめん!」

 右手を差し出した。

 その笑顔は、戦場の中で唯一の安息だった。

 「私は大丈夫だ。それよりもここ居住区だけではなく、里の入り口も魔物がいてエルビス殿が応戦している。そちらの手助けを願いたい!」

 「そっちはサンドがいるわ! さっきのでおそらく最後よ! それより私の肩を持って!」

 二人は並んで歩き出す。

 瓦礫の中を抜ける風が、血と煙の匂いを運んだ。

 「オリビア殿、申し訳ない……私は……不甲斐ない……!」

 ガレンの声が震える。

 オリビアは微笑み、穏やかに言葉を返した。

 「ガレン、あなたがいなければ今頃この居住区は壊滅していたわ。それにさっきの女性もおそらく助からなかった。あなたの迅速な判断と対応力に、みんなが救われたの。例え周りが、あなた自身がなんと言おうと、私はそんなあなたを誇りに思うわ。ありがとう、ガレン。」

 その言葉に、ガレンの頬を伝う涙が月明かりに光った。


 その後、二人はエルビスのもとへ向かった。

 戦いは終わり、里には静けさが戻っていた。

 「今回は助けられた。感謝する。おそらく我らの長から追って連絡がいくと思う。拠点までは我らが送ろう。それから多くはないが物資を少し馬車に入れておこう。皆に振る舞ってやるといい。」

 オリビアは微笑んで頷く。

 「感謝するわ。」


 馬車に揺られながら、拠点の灯が見えてきた。

 エルドゥが走り出し、声を張り上げた。

 「みんな!! 大丈夫だったのか?! ケガしてるやつは?! 敵はどうなった?!」

 「エルドゥ落ち着いて! 質問が多すぎるわよっ!」

 ラウニィーのツッコミに、場の空気が一気に和らぐ。

 笑い声があふれ、夜風が焚き火の匂いを運ぶ。

 オリビアは馬車を降り、全員が見える位置に立った。

 皆の視線が自然と集まる。

 「みんな、十日もの間拠点を守ってくれてありがとう! 拠点を守ってくれたもの、ダークエルフの里の救援に向かってくれたもの、みなの力があって、ダークエルフの里、人命を守ることができた! これみんなのおかげよ! エルビスから少し物資をもらったわ! 今日はみんな英気を養いましょっ!!」

 歓声が上がる。

 エルドゥは両手を上げて叫び、サンドは笑いながら酒の方へ向かう。

 セレナはやれやれと微笑み、ガレンは仲間たちに囲まれていた。

 ラウニィーがオリビアに近づき、にっこり笑う。

 「リヴィ、今回もお疲れ様♪」

 「ラウニィーもそばにいてくれてありがとう。」

 杯が掲げられた。

 火の粉が夜空に舞い、笑い声が森に溶けていった。

 ――戦乙女の帰還。

 それは、戦場に戻るためではなく、仲間たちのもとに“帰る”ための言葉だった。


一方、ダークエルフの里では.....

 医務室で救助されたものが集まっていた。

 「リーヴァ!次はあなたの番よ!」

 治療の補助をしていたダークエルフの女性が次の者の名前を呼ぶ。

 呼ばれたダークエルフは間一髪でオリビアに救われた少女だった。

 その少女は一人で呟いていた。

 「あれが銀の戦乙女....。あの武器は間違いない!ルナイトを素材にしている!!」

 そのダークエルフの少女は呟きながら目を輝かせるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイファンタジー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ