第三十話 爆雷の魔女
「凄まじい魔法だった。」
ミリアの魔法を最初に受け止めたサンドが語る。
「咄嗟に身体が動いて盾を構えるのが流石だったよ。間に合ったから良かったもののコンマ遅ければどうなっていたか考えたくないね…」
ラウニィーはサンドに続いて言葉を紡ぐ。
「追撃してくる様子は今の所ないわね。でもおかしい。そもそも大隊長が一人で現れるなんて…。」
セレナは周辺の警戒を続けながら話した。当然だ。
王国大隊長クラスともなれば単騎で戦場の趨勢をひっくり返すほどの力量を持つ。
(ただし、オリビアの元上官だけはそれほどの力は持っていなかったが…)
故に大隊長は重要な拠点から動きたくても動けないケースが多いのである。
「それにしても妙だ。」
ガレンの言葉に一行はガレンの方に向く。
「あのミリア・フォルティス大隊長は特に自分の持ち場を離れない性格だ。それに配下を一人も連れていなかった。」
サンドは振り返り分析しつつぼやいた。
「あの状況だ。続けて魔法を発動すればオレたちに大打撃を与え、もしかしたら決着つける事すらできたはず。」
ラウニィーはミリアの言葉を反芻し、重大なことを思い出した。
「そうだ!あの女!すごくリヴィに固執してたよね!リヴィを愛していたのに!!って…リヴィ、なにか身に覚えあるの?」
ラウニィーは急に潤んだような、何かを訴えかけるような瞳でオリビアに問いかける。
オリビアは先ほどのシーンを回想した。
(「……ミリアは…………あなたを……………………愛していたのに!!」)
「……覚えがまったくないよ。そもそもミリア大隊長の麾下になった事がないし接点が全くない。」
一行は行動原理、そして目的がはっきりしない【爆雷の魔女】の二つ名をもつ大隊長の襲撃に困惑していた。
「ただ今の時点で明確にわかっている事実は一つよ、王国軍にはこの場所に我々がいると知られていると思って行動。準備、警戒を強化をすべきよ。」
「そしてエルフ達も去ったが、彼らはもしかしたら敵対的ではないかもしれない。」
ここまでオリビアが話したところでエルドゥが悔しそうな表情で言葉を返す。
「オレさまを含めた森で生活していたレンジャー部隊は全員エルフは見たことがない。ただし向こうはオレさま達を余裕で捕捉していた口ぶりだったな。恐ろしい奴らだ。オレさまが気配すら察知できないとは。」
そこでラウニィーが続けた。
「あのエルフが言ってたの…私たちがエルドゥ捕縛するときに立ち入った場面のことだよねえ。よく覚えてるなぁ。」
「とにかく防備を固めて警戒するしかないわ。生活できそうな基盤も整ってきたこの丘は絶対死守よ!」
一行は意識を合わせ、再び拠点を設立する作業を進めていった。
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およそ1週間後…【爆雷の魔女】の大隊長室
ミリアの大隊長室では桃色の髪をした女性士官が青い顔をしながら忙しなく室内を駆け回り、書類を運んだり仕事を必死にしている。
そこに【爆雷の魔女】は颯爽と帰還し部屋に入る。
桃色の髪をした女性士官。彼女はミリア大隊配下の副官…リカ・ポンサルダン中隊長だ。泣きそうな青い顔をしながら彼女はミリアに縋り付く。
「ミリアたいちょおぉぉぉ…どこいってたんですかぁぁぁぁぁ!!!!」
リカ・ポンサルダンはミリアの執務机へ凄い勢いで飛びかかる。
「たいちょぉお!!たいちょーが居なくなったので、どーーーーーーーしようもなくて!!ディオール大隊長には報告しちゃいました!」
ミリアは普段ここに居るだけで、基本全く事務仕事をしない。
いや、正しくは【居る】のが仕事なのだ。
ミリアが【居る】だけで帝国は気軽にこの拠点を攻められない。
ミリアの存在自体が警戒対象なのである。
そんなミリアが会議などでちょっと王都にいく、ではなく…文字通り突然居なくったのである。
これは大問題だ。
仮にミリア不在の情報が帝国に漏れれば、あっという間にこの拠点は火の海に包まれていたであろう。
副官リカは悲痛な表情をして自身の上官に訴えかけるが、いつものごとく何の反応や返事もなかった。
「たいちょおぉぉ!!お願いします!!お願いしますから拠点から出る時とかは連絡してくださいよ!!でないとリカほんと死んじゃいますからね!!!それとディオール大隊長あとでやってくると思いますからねッッ!!」
ミリアは目の前の副官が青い顔で泣き喚いていたが、虚にボソっと呟くだけだった。
「……奪い返す。」
まるでこっちを見ていないかのようなミリアの反応に…副官リカは先程までの青い顔が真っ赤に変わりプリプリ怒りだした。
そしてミリアの前にばんっっ!と勢いをつけて書類の束を置く。
「たいちょおぉ!!なにを奪い返すんですか!?私から仕事を奪い返してくださいよ!!」
いかにミリアが【居る】だけとはいえ…大隊長の承認が必要な案件は多々ある。
故にミリアの印がなければ大隊の仕事が滞り溜まってしまうのだ。
実際に仕事をこなし捌くのは全部、副官のリカ・ポンサルダン中隊長なのだが…
お陰でリカ・ポンサルダン中隊長は戦闘能力ではなく、書類仕事という物理的ではなく論理的な敵に殺されないための事務仕事の処理能力が磨かれていった。
結果、事務処理の速度と精度では王国軍の右に出る者はいないと王国幹部クラスには好評だった。
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暫くしたのち、同【爆雷の魔女】の大隊長室
扉のノックの軽い音がして副官リカが「どうぞぉ〜」と軽い声を返す。
そこに入室してきたのは重厚な鎧を纏う【王国の楯】ディオール大隊長だった。
リカはまた顔を青くする。
(ぴぇっ!!ディオール大隊長こられた!)
「ミリア殿お戻りか。突然リカ殿からミリア殿が戻らない報告が来た時は驚いたぞ。」
「………………………………。」
大隊長の登場と、その声掛けにもミリアは微動だにせず何の反応も見せない。
まるでディオールが来たことを認識していないように見える。
「して、どちらへ行かれてたのだ?」
「………………………………。」
「貴女は王国にとっても重要な人材、この拠点を守るためにも、この場に居る必要性が分からぬわけではあるまい?」
「………………………………。」
やはり何を言っても反応がない。そこでディオール大隊長は今回思い当たる核心の内容をぶつけ、ミリアの反応を試みた。
「……オリビア元中隊長殿を探しにいったのか?」
一拍置いたタイミングでミリアは僅かに身体が揺れた。反応している。
「…………違う。知らない。」
ようやくこの質問でミリアは言葉を紡ぐ。
ディオールは無言でミリアを見つめていた。
(……知っている。しかし何故か隠したいようだ。)
しかし、彼女をこれ以上問い詰めてもボロは出さないだろう。だんまりされてしまえば時間の無駄にしかならない。
「……彼女の情報が入ったら共有しよう。もしまた動きたい時があれば次回は連絡を頼む。なにより貴女の配下の兵と王国のためにもな。」
そう言い残しディオール大隊長は部屋を後にし、帰還していった。




