第十九話 罪なき民を解放するために
「やったッ!やったよ!リヴィ!私達の中隊だけで大隊麾下中隊を全て無力化したよ!筆頭中隊長のマグナスも退けた!流石だよ!あとは飛空艦と、マイケルだけね!」
ラウニィーを先頭にサンド、エルドゥ、そして自陣に加わったであろう中隊長のセレナ・エルンストがオリビアに駆け寄る。
激闘を潜り抜けたオリビアは白い息を吐きながら臨戦体制を解除しリラックスする。
「なんとかなったわね。ラウニィーは勿論、サンドやエルドゥもそれぞれ受け持った各中隊を無力化して無事に合流できるなんて…最高の結果だわ」
オリビアは戦いの汗を拭いながら、セレナ・エルンストに目を向け一礼し声を掛ける。
「エルンスト中隊長どの。ご助力のほど誠にありがとうございます。この上なく心強いです」
セレナ・エルンストはオリビアより歳上かつ先達にあたる中隊長だが、同じ中隊長の同性としてエルフォード中隊の動向やオリビア自身の事は注視していた。
「もう中隊長という肩書きはここまで来てしまった以上、無い物と思ってるわ。これからはエルンスト中隊長ではなく、唯のセレナと呼んでちょうだい」
オリビアにとってセレナは冷徹な部分が強い人間と感じていたが、今日の出来事を経て大きく変わったように見えた事を感じ取り面食らった。が、すぐに微笑んで返事を返した。
「そう。なら私の事も唯のオリビアと呼んでね。セレナさん」
この言葉だけで二人は通じ合い、同じ目標に向かって進む【同志】となった。
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「各隊、簡潔に報告をちょうだい」
一拍置き装備を再度調整し、水分を補給しつつオリビアは各配下へ問いかける。
「第一部隊は死者なし。軽傷が少数。軽い戦闘には発展したものの結果的にセレナの説得に成功しご覧の通りだよ。」
ラウニィーは晴れ晴れした顔で報告をする。
「第二部隊。同じく死者無しだ。アーヴァイン中隊長と邂逅後、説得を試みたが失敗。後に一騎討ちに及び、なんとか撃退した。部下は損害なしだがオレ自身の魔力は大幅に消耗している。戦闘は何とか可能だ。アーヴァイン中隊長は体力も魔力も空っぽになって療養状態。だが協力は取り付けてきた。彼の中隊の配下半数ほどの有志も連れてきている」
自身が万全ではない状態だからサンドの表情は、やや暗い。
「第三部隊。同じく死者無し。伝令を装いバーロソミュー中隊長に接触に成功。協力依頼を持ち掛けるも交渉失敗。即戦闘に入ったが油断している隙に一気に攻勢に出て気絶させた。飛空艦の正体を話し、協力してくれる者達、中隊の3割ほどを連れてきた」
続々と必要事項をごく簡潔に報告する小隊長達。
横で聞いていたセレナは信じられない話を連続で聞き、顔には出さないものの強烈な衝撃を内心受けていた。
(どういうこと…!?ラウニィーが来た時から、まさかと思ったけど…僅かな各小隊単位をそれぞれの中隊にぶつけていたの!?正気!?そんな誰も考えないような作戦、本気でやったの!?しかも全部隊、死者なしなんて、意味がわからない!?こんな無茶振り、あの太ったゲス大隊長ですらしてこないわよ!?)
「ラウニィー、サンド、エルドゥ、最高の成果をありがとう。セレナさんも可能な範囲で中隊のことを教えてもらえる?」
とんでもない報告を横で聞いて衝撃を受けているセレナは突然話を振られ、咳払いをしてまず落ち着きを取り戻す。そして続けた。
「すごい優秀ね、オリビアの中隊麾下は。私の配下は、幸いほぼ全員ついてきている。ただしオリビアの中隊と違って飛空艦を落とした実績は無いわ。だから対飛空艦戦のノウハウは持っていない。異論がなければサポート中心の動きを指示したいと思うのだけど、どうかしら?」
「問題はないわ。それで行きましょう」
オリビアは即答する。
「あと、私の事はセレナさん、ではなくセレナ、でいいわよ」
セレナはオリビアに微笑み、オリビアは頷いた。
「では、総員…行くわよ!これより飛空艦解放作戦を実行する!」
銀の戦乙女の鼓舞により兵は力強い雄叫びを上げ、中隊の士気は天をつくほどに高昇った!
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「魔法兵!遠隔攻撃斉射!一気にぶち当てて飛空艦の高度を下げて!」
ラウニィーの指示により陣形を組んだ魔法兵が魔法を詠唱。火の弾、石礫など総力を上げて飛空艦へ魔法攻撃が飛んだ。
対して、飛空艦は乗員した魔法士が詠唱を始め発動。飛空艦に直撃すると思われた魔法攻撃の大部分は逸らされ不発に終わってしまう。
「いいぞ!一部は当たっている!弾幕を緩めるな!あの肥えた豚を叩き落とせ!」
ラウニィーは引き続き檄を飛ばすも、飛空艦からの魔法や弓矢による攻撃がやはり高度からの関係で優勢となり、魔法士へ攻撃が当たりそうになる。
「オレたちの出番だ!魔法士を護れ!一つも通すんじゃねぇぞ!」
サンドの号令により重装兵隊が魔法士の前に立ちはだかる。
魔法士に当たると思われた飛空艦の攻撃は重装兵隊の貢献により全てシャットアウトに成功する。
「今だ!いくよ…!フレイミング・アロー!」
ラウニィーは矢尻に火の魔法を付与し、弓を引き絞って飛空艦へ放った!
まるで音速の如く、ラウニィーの火矢がハヤブサのように飛空艦へ届き、着弾した途端に爆発した!その効果により飛空艦が高度を下げる。
「行けるか!?足場を作るゾォ!!」
サンドを含む地属性魔法使いが集結し、地殻を盛り上げる魔法を詠唱、実行する!
オリビア中隊麾下の大勢の地魔法士の力を結集し、大きな足場を整えた!
「一番槍、いや、一番斧は今回もオレが先に頂くぜ!オレに続け!」
エルフォード中隊の切り込み隊長を自称するエルドゥが足場を駆け上がり、雷魔法で強化した跳躍力で飛空艦へ飛び上がり突入を果たす!エルドゥ配下の精鋭達も彼に続いた。
「魔法を使って突入できそうな人員は続いて!それ以外の人員は引き続き攻撃しつつ高度を落として!」
オリビアは隊員に指示を飛ばす。ここまでの状況は悪く無い。ただ、自身が指揮を離れ突入に及ぶまでには至っていない。
(まだ手が足りないわね…ヴィンス達が抜けた分が完全にカバーしきれていない)
オリビアは苦い思いで戦況を見守っていた。
そんな時、突如として後方から軍勢が迫る気配を感じる!
(こんなときにまさか他の中隊が復帰して挟撃?それは不味いわ!下手したら壊滅する!次の一手は…私の直下が対抗?いや、正面から当たるのは分が悪い!撤退しかないの!?)
一瞬、オリビアに焦りの表情が生まれ判断に迷ったが…先頭に立つ大剣を背負う男の姿とサンドの報告から結果的に杞憂であることが判った。
「エルフォード中隊長どの。我らアーヴァイン中隊。応援に馳せ参じた!」
後方からの軍勢は遅れて援軍にやってきた、ガレン・アーヴァイン中隊長とその直属の配下達であった。
「俺自身はサンドとの決闘で魔力もほぼ消耗している。故にそれ程の力になれぬやもだが…指揮は出来る。ここは俺に任せて行くがいい!銀の戦乙女よ!無辜の民を解放したまえ!」
ガレンの力強い言葉にオリビアは微笑み、そして決意の言葉を返した。
「ありがとう、必ず!」
銀の戦乙女は剣を掲げた上で風魔法により声を拡大して戦場へ届ける。
「私は罪なき民を解放するため飛空艦へ突入する!戦士達よ!我に続け!」
オリビアに続き、ラウニィー、そしてセレナ、エルフォード中隊の主力を中心にその配下は続々と飛空艦へ突入を果たしていった。




