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銀翼のヴァルキリー -その翼は、自由を識る-  作者: 翔司
第三章 銀翼と王女の邂逅

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第八十三話 リーヴァの覚悟


 一方でプラチナムでは、リーヴァがある計画を進めていた。

 石造りの執務室。

 窓の外には、街を囲う水堀が朝日に照らされてきらりと光っている。

 その静かな景色とは裏腹に、室内の空気は張り詰めていた。

 アリア達がプラチナムを出立した後に、フィオ、カイルと共にリーヴァはその計画を立案し、内容を詰めていたのだった。

 テーブルの上には簡易地図、資材表、街の構造図が散乱している。コーヒーの湯気がゆらりと揺れ、わずかに焦げた香りが漂う。


「王国兵達がここまで来ることは少なからず予想出来ていた。

 ここが攻められるのも猶予はあれど時間の問題だと思うの」


 リーヴァがコーヒーを片手に話す。

 その瞳は真剣で、どこか焦燥も滲んでいた。


「そうね、実際にすぐそこまで来てた訳だし、準備はしておくに越したことはないわね」


 フィオはクッキーを一つ頬ばる。さくり、と乾いた音が響く。

 甘い匂いが室内に混じった。


「でも今プラチナムは魔障防壁に街の周りの水を張った大きな堀。

 ある程度の防御設備はあると思うんだが」


 カイルは柱にもたれかかりながら腕を組んでいる。

 だがその視線は、街の地図から離れない。


「ある程度じゃだめなんだ。

 私たちセレスティアがやろうとしてる事は、世界を変える話だ。

 なら、それに伴った敵がいる。

 つまりそれだけの危険があると言うことだと思うんだ。

 アタイは、そんな危険の中で戦ってるオリビア達がちゃんと安心して帰ってこれる場所を守る必要があると思ってる」


 リーヴァは自然と手を握りしめる。

 白い指先が震えていた。


「それには同意ね。

 私たちもここはちゃんと守りたい。

 それにここはセレスティアにとって、始まりの街でもあり、同時に生命線でもあるわ」


 フィオはもう一つクッキーを頬ばる。だがその視線は真面目だった。


「だが、具体的な案はあるのか?」


 カイルは視線をリーヴァにやる。


「もちろん!アタイを誰だと思ってるのさ!

 まずは、外堀の外側にもう一つ防壁を増築する。

 そして、その前にも第二の外堀を作る。

 これで攻められてもかなりの時間を稼げるようになる。

 それからメインは街の攻撃面の強化。

 具体的には、大型バリスタに魔導砲。

 これを可能な限り配置する。

 理想は魔導砲を外の防壁へ。

 そしてあとで回収できるようにバリスタの矢は内側の防壁へ配置する」


 リーヴァは目を輝かせている。

 頭の中ではすでに完成図が組み上がっているのだろう。


「それなら、相手には時間を取らせながら、こちらは狙い撃ちできるわけね」


 フィオはまたもやクッキーを頬ばる。


「そう、それなら直接的な戦力のない人達でも一緒にこのプラチナムを守ることができる。

 正直歯痒い思いをしてる人達もいるんだ。

 アタイも含めてね。

 自分たちは守られるだけの存在でいいのかって。

 そんなのじゃない事は理解してるんだけど、どうしてもね。

 だから、これはアタイも含めたそんな人達の助けにもなると思うんだ」


 その言葉に、部屋の空気が少しだけ変わった。

 フィオとカイルはリーヴァの思想の片鱗を垣間見た気がした。

 それは技術者としてではなく、仲間としての覚悟だった。


「よし!ならさっそく準備を始めるか!

 それなら行動あるのみだぜ」


 カイルはパンっと両手を叩いた。


「わかった!設計図はアタイが作る。

 バリスタ、魔導砲はアタイに任せて!

 第二の堀と壁はみんなに任せるよ」


 こうして、プラチナムの強化計画は始動したのだった。

◆◆


 次の日。

 窓の外はまだ薄暗い。

 街が目覚める前、工房の灯りだけが煌々と揺れていた。


「できたー!!」


 リーヴァは作業台に張り付いていた。

 その手にはペンを持ち、作業台には図面が三枚広がっている。

 細かな数値、角度、魔力導線、構造補強案。

 一晩で書き上げたとは思えない緻密さだった。

 リーヴァは徹夜で図面を仕上げていたのだ。

 瞳の下にはうっすらと影が落ちている。

 それでも口元は満足げに緩んでいた。

 仕上げたその足でカイルとフィオの元へ向かった。


「フィオ!カイル!全員を広場に集めて!

 図面が出来上がったよ!」


 リーヴァは息を切らしながら、その手には図面が握りしめられていた。


「昨日の今日だぞ!」


 カイルは驚きを隠せない。


「と、とりあえずちょっと休みなよ。

 その間に私たちでみんなを集めてくるから」


 フィオはリーヴァを椅子に案内すると、飲み物を渡した。

 温かい湯気が、揺れる。


「はぁ…はぁ…ありがと」


 リーヴァはそう言うと、ゆっくり一口、口に含みひと時の休息をするのだった。

 その瞳はすでに次の工程を思い描いていた。

 守るべき場所を、守るために。



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