第5話 おっさんクッキング
「まずは野菜だな」
俺は予め市場で買っておいたキノコや山菜を調理場に置くと、それを水で洗い包丁で切っていき、ボウルに入れていく。すると、それを見ていたリティシアは驚いた様子で俺に声を投げ掛けてきた。
「すごい……隊長が料理をしているところなんて初めて見ましたけど……なんというか、手慣れていますね……。料理はよくされていたんですか?」
「ん? あぁ、宿舎に居た時は料理を用意されていたから夜食くらいしか作ってなかったが、孤児院に居た時は俺達年上組は交代制でやってたんだ」
「え……? それはつまり、隊長は子供の頃から料理をなされていたということですか?」
「まあ、そういうことだな」
「すごい……なのに、そんな隊長に比べて私はなんて情けないんでしょう。お恥ずかしながら、この歳になっても料理をしたことがなくて……」
「はは、リティシアは王女様だし、それにまだその歳だ。料理の経験がなくても仕方ないさ」
「ですが、隊長は子供の頃から料理をなさっていたんですよね?」
「まあ、孤児院は人手不足だったからな。みんなの分を用意するのに手伝わないといけなかっただけだよ」
そう言って、鳥類の魔物の卵を手に取ると、それを割ってボウルに入れて混ぜていく。そして、鍋で他の具材と一緒に炊いていたスープの蓋を開いて広がる匂いに、傍に居たリティシアが声を上げた。
「美味しそうな匂い……あ、すいません! 私ったら、なんてはしたないなことを……」
「いや、そう言ってもらえると安心するよ。匂いすらダメだと食べてもらえないかもしれないしな」
「そんな……! 隊長に作って頂いたものを食べないなんてありえません!」
「いやいや、不味かったらさすがに食わせられないよ」
「隊長の作ったものが不味いなんてあり得ません」
「信頼してくれるのは嬉しいけど、ハードル上がるなぁ……」
「あ、いえ、そんなつもりはなくて……」
「冗談だよ。さて、最後にこの卵を焼いて完成だ」
俺はリティシアに笑みを向けた後、火を入れていたフライパンに卵を入れて焼いていく。すると、香ばしい匂いと卵が焼ける音が部屋に充満していった。
「―お待たせ」
そう言って、俺が机の上に最後に作った料理を置くと、それを見たリティシアは目を輝かせながら声を返してきた。
「すごい……これ、全部隊長が作られたんですよね……」
「まあな。できる限り頑張ったつもりだが、不味かったら遠慮なく言ってくれ」
「い、いえ! とても美味しそうな匂いで、見ているだけでお腹が空いてきます……」
「はは、そう言ってくれるのは嬉しいけど……悪いな、一国の王女ともあろう人に俺みたいな人間が手料理を食わせるなんて、城の人達が聞いたら卒倒しそうだ。本来なら、俺なんかに付き合わずに城の美味い料理を食べてるはずだしな」
「そんな……! むしろ、私の方こそお食事を頂くなんて、図々しい真似をしてしまい申し訳ありません……」
「いや、気にしないで良いよ。というか、そもそも口に合うかどうかも分からないし……味見はしてるけど、俺、貧乏舌だから自信はないんだよな」
「そ、そんなことは……!」
「まあ、試しに食べてみてくれ」
「は、はい! で、では、いただきます……う~ん、美味しいっ!」
リティシアは頬をおさえてウットリしていたが、やがて俺が見ていたことに気付くと顔を真っ赤にしながらも、わざとらしく咳払いをしながら体を縮こませていた。
「と、とても美味しいです……」
「はは、お気に召したようで何よりだ」
「実際、本当に美味しいです。このスープやパン、それに野菜やお肉……どれもとても美味しいですよ」
「まあ、リティシアが夢中になって食べてくれたくらいだしな」
「そ、それは……隊長、もしかしなくても、私のことからかってますよね?」
「はは、バレたか。悪い悪い。あまりにもリティシアが美味そうに食べてくれるから、つい意地悪してしまった」
「もう……それで、先ほどの続きですが、冒険者になるということはギルドに登録しに行くんですか?」
「ん? ああ、午後にでもギルドへ顔を出して登録しに行こうと思ってる」
「あの……もし良かったら、私も付いて行っても良いでしょうか?」
「それは別に構わないが、今日はただ登録しに行くだけで事務的な手続きだけだし、見ていても面白くないと思うぞ?」
「そんなことはありません。隊長から教わりたいことはまだまだありますし、一緒にいるだけで学べることがたくさんありますから」
「君の方が俺よりすごいし、俺から学べることなんてそうないと思うが……」
「そんなことはありません! 隊長は私に剣だけではなく、色々なことを教えて下さった素晴らしい方です! それなのに、我が国の誇る【竜殺し】と呼ばれた隊長を騎士団から辞めさせるなんて、彼らはなんて罰当たりな者達なのでしょう……」
「え~と、その【竜殺し】って名前、まだ覚えてたのか? 個人的にはこの歳でそういう風に呼ばれるのはなかなか恥ずかしいんだが……」
「何をおっしゃっているんですか! 現に隊長が倒さなければ、私達の国はドラゴンに燃やされていましたし、まさしく【竜殺し】の名に相応しいご活躍をされたではありませんか!」
彼女の言う【竜殺し】……それは、数年前にこの王都に迫った竜を倒した時の話だ。
あの時はこの王都だけでなく、世界中が絶望していた。
突然、長い眠りから覚めた竜が王都に現れ、人々は恐怖し、街は混沌に陥っていったほどだ。しかし、俺達騎士団がどうにかその竜を倒したことでその名は大陸中に届いたというが……そのせいで、リティシアは俺を過大評価している節があるんだよな。
読んで頂きありがとうございます!
タイトル通り主人公が酒場を経営するのはそんなに先にならないように工夫していくので、もう少しお待ちいただけると幸いです……!
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