表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/18

リスミー暦※338年11月25日(大会3日目)


 翌日よくじつ、寝ぐせをたずさえヒョンジュは食堂にいた。恒例こうれいとなったドーム1Fの広場、そこの頭上、さらには天井付近てんじょうふきんにまで大小さまざまな電子パネルがあらわれては消え、きのうのレースのことだけを放送している。バイクからの疾走感しっそうかんある映像えいぞう臨場感りんじょうかんあふれる戦闘せんとうシーン、飛空艇ひくうていからの俯瞰ふかんした地上のようすなどを現役げんえき、元プロスポーツ選手、とくに当レースともっとも競技ルールがちかい「アイソゾーム」プレイヤーを中心に、ユーパンにいる各専門家かくせんもんかたちがあーだのこーだの解説かいせつしながら、現地の戦況をちくいちつたえていた。複数ふくすうの電子パネルの音量とフードコートのけんそうがあいまって、朝っぱらからなかなかにさわがしい。しかし、ヒョンジュは心ここにあらずといった具合で、きのうのことをおもい返していた。

・・カップル、か・・

 恋わずらいもあってか、かるめの食事をすませると球装着済たまそうちゃくずみのかれは、そのまま昨晩、クレイととりきめておいた油絵がかずおおくかざってある自販機じはんきのまえへ。

「・・おはよう、クレイ・・」

「・・あ、おはよ、ヒョンジュ・・」

 きのうのことがあってか、2人ともどこか余所余所よそよそしい。それから「ミドリノトオリ」をとおり外にでると、ほどなくして上からアナウンスが流れる。

「・・えー、おはようございます選手のみなさま。ただいまより大会3日目の競技説明をおこないます。コースは全長32キロ、前回にひきつづき急勾配きゅうこうばいがおおく、ところどころがけに面しているなど、岩場のなんコースとなっております。ですが、10キロを過ぎたあたりからコースはなだらかな砂地へと変化、競技ルールの変更へんこうはとくにありません、が注意事項ちゅういじこうがひとつ。レース中、けが人が多数でております。こちらでコース内と各宿泊施設に医療班いりょうはん配備はいびしてはおりますが、ケガのさいや万が一の場合はきほん、自己責任じこせきにんとなっておりますので、くれぐれもご注意のほど。スタートまでおよそ10分、しばしおまちを・・」

 スタート地点には6万をこえる群衆ぐんしゅう。3日目とはいえ、いまだこの物々しさにはなれない。しかし、「朝日」とよばれるわれらをてらすバト・キアリの陽光ようこうはなんともぬくく、日を増す(ま)ごとにクセになる。

「・・スタートまで5分をきりました。実況じっきょうはわたくし、イチロウ・トチサカ。解説かいせつはリーゼオリンピック、マラソンの金メダリスト、イヒャム・ポゾンゴ選手です。どうぞよろしくお願いします・・」

 ウォームアップののち、すこしれながらもクレイと目配めくばせするヒョンジュ。今回も作戦はかわらず、10分間のプレパレタイム(プレパレーションタイム)で孤立こりつすべく進路をかえたのち、最短ルート32kmの道のりからわずかばかりふくらんだコース取りで、できるだけ参加者と出くわすことないようゴールをめざす。

「・・スタートまで10秒前・・5秒前、4、3、2、1、スタートォ!・・」

 とはいえ、群衆ぐんしゅうからはなれるといっても10分間あまりで6万のなかから完全な孤立はむずかしく、しかも皆ひとつのゴールをめざしている以上、幾人いくにんかとの遭遇そうぐうはまずまぬがれない。だがその場合には争いをさけるため、すみやかに距離をとり、敵意てきいがないことをあいてにしめしやりすごす。日ごと微調整びちょうせいはしているものの、26万いた初日から13万のきのうと、ほとんどおなじ手口で難をのがれてきたヒョンジュとクレイ。そして3日目のきょうも、このやりかたで他選手と目立った接触せっしょくもないまま、2人は7時間をかけのこり2kmのところまできていた。

「・・クレイ、すこし休む?・・」

「・・いや、あたしは平気・・」

「・・OK・・じゃ、このまま行こう・・」

「・・ええ・・」

 時刻は3時、ゴールまではゆうゆう間に合っていたが、如何いかんせん2人そろって球のノルマをみたしておらず、最悪、導きの門のまえでまちぶせすることも視野にいれていたてまえ。

「・・ヒョンジュ!・・」

 ようやく探しものがみつかる。前方50mほどの砂地をとぼとぼとあるく人影がひとつ。いっきに加速すると、たちどころに射程圏しゃていけんにはいる。そしてそのままガラ空きのあいての背中めがけ、ヒョンジュの右うでがのびる。ザザァーという砂ぼこりとともに急停止、が、わずかばかりふみこみが浅かった。

・・くそぅ・・あとちょっと、だったのに・・

 うえからしたまで真っ黒なディッシャーでよそったコーン付きアイスが肩にそそりたつように、あいてのライフボールがかすかにれている。だがそんななか、2人はあいてへの警戒けいかいをつよめていた。というのもそれ以来、あいてがピクリともしないのだ。両の足でたってはいるものの、こちらを向くわけでもなくただうつむいたまま、まるで時がとまってしまったみたいに。そのマネキン人形のごときたたずまいは2人にとって不気味の一言だった。するとしばらくして相手にうごきが。

「・・あー、そっか・・おりゃ、レースしてたんだっけ・・ねらわれて当然か、ハハハッ、笑えるぜ・・」

 オレンジの図形のもよう入りのしろいTシャツに黒のGパン、ながい白髪はくはつのすきまからはすこしだけ表情がかいまみえる。

「・・そんであんたら、おれのライフボールがしいのか?・・べつにくれてやるよ、こんなくされ球・・」

 そういうと、みずからの左肩にそびえたつライフボールをぺしぺしと手荒てあらたたいてみせる男性。ますます2人の頭のなかでは?(クエスチョン)マークが増産ぞうさんされていく。

「・・あ、ここで会ったのもなにかのえんだ・・ひとつきいてもいいか?・・」

「・・ああ、かまわないが・・」

「・・ちなみにあんたらは何しにここへ?・・」

「・・オレは、自分を見つめなおすためにこのレースに・・」

「・・アタシも、自分をみがくため・・」

「・・へーそっか、ご立派りっぱな理由でなにより・・で、できたのか?、その自分を見つめなおすってやつは?・・」

「・・・・・」

「・・となりのあんたはみがけたか?、自分ってやつを・・」

「・・・・・」

「・・だろうな、自分をみつめなおすっつうのは難しいからな・・まぁ、まだはじまって3日ってことももちろんあるが、何日経とうが、環境かんきょうがかわってもできない奴にはできない・・あー、やっぱりやーめた、アンタらにやるの・・」

「・・?・・」

「・・こんな球、オレにとっちゃもはやどうでもいい・・だけど、あんたらにやるのだけは止めた・・」

「・・ちょ!・・」

「・・待ってください・・」

 背を向けようとしたおとこを、ヒョンジュがひきとめる。

「・・なにか勘違かんちがいしてませんか?・・おれはあなたに球をゆずってもらいにきたんじゃない、うばいにきたんだ・・」

「・・へ~、オレの球をうばいにか、いうね、じゃあこちらも言わせてもらうけど・・いくらラドックス星にきても、そんなれあいの甘ったりぃこころざしじゃ、なにもかえられやしない・・所詮しょせんここにくるだけ、ムダだったという話、わかった?・・わかったらさっさとユーパンに帰れ・・」

 一転して、しろい長髪ちょうはつのあいだから、カミソリのごとくするどい眼光が2人へとむけられる。

「・・なれ合いだのできないだの、侮辱ぶじょくするのはそちらの勝手だが、ムダかどうかは戦ったあとできめればいい、ちがいますか?・・」

「・・たしかに、ごもっともな意見・・しかしごもっとも過ぎてヘドがでる・・」

「・・?・・」

「・・じゃあ、こう言えばわかるかな、球をあげるのはもちろんのことやる気がせた・・」

「・・!?・・」

「・・ぞくにいうなえたってやつだ、カップルのままごとにかまってやれるほど暇じゃないんだ、すまない・・」

・・なんなの、こいつ・・ホントむかつく!・・

 そう、クレイが悠長ゆうちょうにイラついているときだった。となりにいた人影ひとかげがうごく。背をむけたあいてに一直線、そして交錯。

「・・ふ~・・」

 ヒョンジュの奇襲きしゅうにやれやれといった態度たいどである。

・・ヒョンジュ・・

「・・かまってほしいって訳か・・でも何度もいうように、アンタらとはたたかわない・・話していてわかるんだ、オレとあんたらじゃ住む世界がちがうって・・なにもとは言わない、でもたたかってもるものなんてないって・・そう、おれはこんなところで立ち止まれない、立ち止まれないんだ・・」

 間髪かんはつをいれず、さらにう。

「・・どういうことですか?、さっきから・・自分を見つめなおせてないだの、得るものがないだの・・一体、オレたちのなにを知ってるっていうんですか?・・」

「・・ヒョンジュ、もういいよ・・行こう・・」

 しかしクレイの言葉は、彼にはとどかない。

「・・住む世界がちがう?・・それだとなんで戦えないんですか?、なんで逃げるんです?・・わからない・・そんなの、たち去る理由になってない・・」

「・・こんどは質問攻しつもんぜめ、か・・やっぱり、アンタらとはやり合ってもしょうがなさそうだ・・」

 出会ってから、こんなにも感情的になるヒョンジュをはじめてみた。そんななか、彼のつぶやきが三度みたび相手をとめる。

「・・得るものなら、ある・・得るものなら、ここにある!・・」

 そういうと、みずからの親指でひだり肩にある球をちからづよくさし示してみせるヒョンジュ。

「・・おれもそうだが、恐らくあんたもまだ球のノルマをこなしていない・・ゴールまで残り2キロをきっているこの状況じょうきょうで、球をうばえるならこれ以上の好機こうきはないとおもうが?・・」

「・・そのまえになぜ、オレが球をもってないと?・・」

「・・もし球をもっているのなら、得るものがないとか住む世界がちがうとか、いちいち回りくどいいいわけをするまえに言ってるはず・・なぜなら、断る理由としてはそれがもっともスジがとおっていて正論、なおかつ手っとり早い・・」

「・・なるほど、じゃあこれならばどうだ?・・球のことはオレがおっちょこちょいで、ついつい言い忘れただけ・・でもそうか、その手があったか、ありがとう、断る理由をわざわざおしえてくれて・・残念ながらオレはもう球をもっている、だからきみらとは戦えない、なぜならたたかう必要がないから・・」

 不運にもいいくるめるどころか、ぎゃくに敵に塩をおくってしまう形に。するとそんな彼のピンチを、いがいにもクレイのぶしつけな質問がすくう。 

「・・で、どっちなのよ、ライフボール持ってるの!?、それとも持ってないの!?・・」

「・・わぁった、わぁった、わかりましたよ・・あぁウソですよ、その場しのぎの・・おさっしのとおり、球はもってない・・でも、だからといってアンタらとやる理由にはならない・・球のひとつやふたつ、ほかで調達ちょうたつすればいいことだからな・・」

「・・じゃあ、尚更なおさらだ・・」

「・・?・・」

{・・なおさら、逃がすわけにはいかない・・」

「・・ええ・・」

 あきらかに2人の顔つきがかわる。

「・・本当に球をもってないのに、オレたちとたたかわない理由はただひとつ・・純粋じゅんすいにオレらにたたかう価値かちがないと判断はんだんしたから・・」

「・・そんなことを言われたまま、アタシたちが見逃すとでもおもった?・・」

「・・だから言ってるだろ、はじめからそう・・」

「・・言われっぱなしは良くない、オレたちが本当にたたかうにあたいしないのか、ためしてみればいい・・」

「・・おぃおぃ、やるってだれが言った・・」

 逃走をはかろうとするあいて、だがその行く手をヒョンジュとクレイがことごとくさえぎる。

「・・逃がさないって訳か、どこまでもしつこいお2人だこと、そんなにしつこいときらわれるよ?・・こいよ、そのちっぽけなつながりたたききってやる・・」

 やっとこさ両足を肩はばにひろげると、臨戦態勢りんせんたいせいにはいるあいて。

「・・Lank146328、イ・ヒョンジュ・・」

「・・Lank124510、クレイ・スタンチャフ・・」

「・・・・・」

・・名乗るまでもない、ってこと?・・

 しかし、そんな無礼ぶれいなどいまさらどこくかぜ、むしろヒョンジュはたたかえることに喜びをかくせないでいた。そして合図は枯葉かれはか小鳥か石ころか、さだかではないまま2人がさきに飛びだす。

「・・オオオォォ!・・」

 のびるうで、時間差をおいての2連撃。不発だとわかるとすぐさま身をひるがえし、またとびかかる、その反復はんぷく。そうして、たたかいはじめて何分がっただろう、そこには疲労ひろうし、からだをゆがめる3人のすがたがあった。

「・・ハァ、ハァ、ハァ・・」

・・取れそうなのに取れない、なんで?・・いや、もうすこし、あとすこしで取れる・・こんどこそ、こんどこそ・・

・・なんど攻撃し、なんどかわされた?・・このままいけば押しきれるのか?、本当にそうか?、いや、おかしい・・オレたちはたしかに、いくどとなく攻撃をしかけてきた、でも向こうからはなにかされたか?・・オレの記憶きおくがただしければ、反撃はんげきらしい反撃はいちどもみていない・・じゃあ、なぜ反撃してこない?、コイツ、一体なにをたくらんでいる?・・

 汗で顔にひっついた白髪はくはつちゅうぶらりんな片うで、うすよごれた衣服、そのどれもが男の苦戦をものがたっていた。

・・ふつう、こんだけ生意気にもったいぶったら、あるていどの実力がともなってなきゃおかしい、釣り合いがとれねぇ・・ランクにつかわないつよさとか、常人にはあつかえない必殺技ひっさつわざがあるだとか・・なのに、そんなものまったくねぇ上に、やられっぱでこのザマとか、あぁ情けねぇ~・・情けぇねぇ~たりゃ、ありゃしねぇ・・

 右手のひらにうつろな視線がおちると、時刻は3時半。ゴールがちかいこともあって、さかんに3人のよこを参加者がかけぬけていく。それを警戒けいかいしつつ、ヒョンジュがクレイのもとに歩みよる。それから二言三言ふたことみことことばをかわすと、2人おおきく横にひろがる。

「・・?・・」

 初期位置しょきいち大幅おおはばにズラし、はさみうち。だが、それでも空をきるヒョンジュの右手。

・・話しあっても、状況はかわらない!・・

「・・クレイ!・・」

・・わかってる、わよ!・・

 ヒョンジュの攻撃をかわし、ちょうど左回転しているところ、そこにあいての球をでむかえるように、狙いすましたクレイの右手がせまる。

「・・くっ!・・」

・・回転した勢いが、とまらない!・・

 むしろ遠ざかるどころか、クレイの手に球がすいよせられていく。

・・いっけぇぇぇ!・・

 しかし、絶体絶命ぜったいぜつめいかにおもわれたそのせつな、おとこのからだが突如浮とつじょうきあがる。

「・・え?・・」

 ひだり手一本を地面につきたて、それをじくにあしを大空へとかかげる。ぞくにいう逆立ちである、それも回転しながらの。自然しぜんとライフボールはしたへと遠ざかっていく。

「・・?・・」

 たまたま体操競技たいそうきょうぎでいうところのウルトラCをきめてしまったがために、いまだ状況じょうきょうがのみこめないでいるクレイ。

・・とれてない、なんで?・・

・・やっぱり、なにかはあるとふんでいたが、これだったのか・・だからいままで一向に攻撃をしかけず、このを虎視眈々(こしたんたん)とうかがっていた・・カウンターの機を・・

・・ふぅ~、あぶねぇあぶねぇ・・なんとか逆立ちでしのいだけど、ホントまぐれもいいとこ・・ってかおれ、逆立ちなんてできたっけ?(あらたな発見?)・・

 あまりのことに呆然ぼうぜんとする2人。その油断ゆだん、じかんでいえばほんのコンマ数秒、しかしおとこは見逃さなかった。

・・カウンター・・

 低空姿勢ていくうしせいでしのびよるかげ、きづいたときにはすでに棒立ちのヒョンジュのめのまえ。

「・・ヒョンジュ!・・」

 あわててけぞるも、あとの祭り。千載一遇せんざいいちぐうのチャンスをあいてが逃すはずもなく。

「・・え?・・うそ、でしょ?・・」

 いつしかもかたむき、ターコイズブルーにまる3人。するとそんななかでクレイのひざがゆっくりとおちる。

「・・なんで、なんでよ・・なんでよぉ!・・」

 奪取だっしゅされたまっくろな球は、おとこが力をくわえるとしぼみ、きざまれていた古字や数字もたちまちうすれていく。すると、うちひしがれるクレイの肩に、そっとヒョンジュがれる。

「・・クレイ、おれは負けた・・負けたんだ・・その事実はみとめるしかない・・やつのほうがつよかった、単純たんじゅんにそれだけの話・・」

「・・・・・」

「・・おれの分もがんばって、クレイ・・ユーパンで応援おうえんしてる・・」

 そう言うと、すがすがしい表情でむきなおるヒョンジュ。

「・・そういえば、まだ聞いてなかった・・おしえてくれないか?、きみの名前・・」

「・・すまない・・」

「・・?・・」

「・・しいものは手にはいった、先をいそがせてもらう・・」

「・・ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!・・」

 どこまでも無礼ぶれいなあいてに、クレイがごうをやしたちあがる。

「・・名前もいわないでたち去る気、あんた?・・ふざけないで、ふざけるな!・・まだ勝負は終わってない、あたしにはまだライフボールが残っている・・あたしがヒョンジュのかたきをとる・・さぁ、きなさい、勝負よ!・・」

 だが男は背をむけたまま、たちどまってはいるものの、ふり返る気配はない。

「・・もう球は手にはいった・・ここにいる理由もなくなった・・」

「・・あんたになくとも、アタシにはあるの!・・」

 つい、ため息がもれる。

「・・ああ、子守こもりもつかれる・・話をきいていたか、女?、わからないようなら教えてやる・・オレが勝って、おまえらは負けた・・負けたんだ・・」

「・・負けた?、いいえ、まだ負けてない!・・それに順当じゅんとうにいってれば、アタシたちが勝ってた・・勝ってたんだからぁぁ!・・」

 われわすれてとびかかるクレイ。しかし難なくかわされると、地べたにひれす。

「・・勝負に順当もクソもない・・」

「・・だからぁ、待てっていってるでしょ・・名前ぐらい、名前ぐらい名乗りなさいよぉぉ!・・」

 あとをうクレイ、背後からせまるも当たらない。追いついて、またしかけてはかわされ、それをりかえすことおよそ4回、しかし相手はとめられず。

・・後ろがダメなら・・

 こんどは前にまわりこみ、真っまっこう勝負。

「・・アアアァァ!・・」

 だが、あえなく不発におわると転倒てんとう

・・なんで?、どうして!?・・

 そんなすなにまみれたクレイのさまに、しぶしぶ足をとめる男。

「・・なぁ、もうやめないか?、これ以上・・無益なみにくいあらそいは・・」

「・・みにくくってもいい、でも無益なんかじゃない・・意味はある!・・」

 すると、おとこがあらたまる。

「・・オレにとっちゃ、お前らのやってることなんざ、飯事ままごと以外のなにものでもねぇ・・発言はつげん態度たいど心構こころがまえ、すべてにおいて平和ボケしたあまちゃんの考えかただ・・そんなんじゃここではなにもげられない、命をかけてこの星にきている人間がいることを知れ・・でも、ひとつだけ気づかされたことがあった・・みとめるわけじゃないが、そのあきらめない執念しゅうねんだけは、見習みならうところがあった・・エイビャン・キルロット、おれの名はエイビャン・キルロット・・じゃあな、女・・」

 鳥居状とりいじょうのゴールを目前にへたりこむクレイ。

「・・エイビャン・キルロット・・」

 そのうすよごれた衣服とは対照的たいしょうてきな、ユーパンにはないあざやかなバト・キアリの夕陽ゆうひが、どこかかなしげに彼女をらしているのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ