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外はさむく、息はしろい。みあげれば空がある。空にはユーパンでは到底かんがえられないような星空がどこまでもひろがっている。シロザリル、ヌルドール、ジプレピサ、メリリリル、まっ黒なキャンバスに色とりどりの丸くきらめく宝石が4つ。そのしたの地平線すれすれには、あきらかにほかとは一線を画すおおきさの、灰色のわが母なる星、ユーパン。まわりには、きらきらとラメのように小惑星がまたたいている。

 ピルラは自然と夜空に手をのばしていた。いまにもすくいとれそうな星々、あたりを包むしずけさ、ときおり感じる草花やふゆの風のにおい。そのどれもが、彼女のすさみきった心を浄化じょうかしてくれる。あまりの居心地のよさに、彼女はときをわすれた。

・・ここが、ラドックス星か・・来て、よかった・・

 ひさしぶりの笑顔だった。目をこらせば、いままでみえていなかった星くずたちが、次から次へとあらわれてくる。彼女はうでをさげ、目を閉じた。

・・ここなら・・ここでなら・・

 でも、つぎの言葉がでなかった。心のなかでつぶやいたにもかかわらず、でなかった。こぶしをにぎりしめるピルラ。

・・み・・みつかる、かな?・・※※※※を治す、ヒント・・

 体が小刻みにふるえている。歯がカチカチと音をたてようとするのを、必死でおさえているようにみえた。

 そして、あらためて空をみる。

・・お父さん、お母さん、おねがい・・精一杯いきるから、わたしの人生さいごまで見届けて・・

 そのたたずまいはりんとし、決意にみちていた。

                              ピルラ・ワイラン



 リスミー暦※338年11月22日


 クレイは朝9時過ぎにめをさますと、顔をあらい、昨晩衣服をつっこんでおいた洗濯機のまえに。そのしろい子供の背たけほどの洗濯機の下部から、ぺちゃんこにおりたたまれ除菌洗浄じょきんせんじょうされた衣服をひろげ着がえると、ヘアピンでいつものお団子頭だんごあたまを生成。それから、しばらくルールブックに目をとおしたのち食堂にむかう。エレベーターや水平型エスカレーター(うごく歩道)など、その道すがらすくなくとも80人とはすれ違う。そして食堂のある1階につくと、そこはまるでドームもよおしの物産展ぶっさんてんのように、人と露店ろてんでひしめきあっていた。

・・人がいっぱい・・ユーパンであたしがいた町の繁華街はんかがいなみか、それ以上ね・・

 大小さまざまな列があり、そのなかでも割とはやく食事にありつけそうな列の最後尾にならぶ。5分が過ぎ、やっとこさ料理をとりわけ席につこうとすると、奇遇きぐうにもある男性が目にとびこむ。   

「・・おはよう、ヒョンジュ♪・・」

「・・あ、おはよう、クレイ・・」

 そこには朝からステーキをがっつく、昨日の彼がいた。

「・・焼き魚か、いいね、ヘルシーで・・」

「・・ヒョンジュは、けっこう朝から食べるんだね・・」

「・・スタミナつけないと、あしたから大会だし、景気づけにね・・」

「・・なるほど~・・」

 たしかに一理あった。そうしてここからラドックス星ですごす記念すべき日は、いうなればヒョンジュと過ごす一日となる。まずはUFOキャッチャーにダーツ、ボウリングにバッティングセンターなど、2階にある娯楽施設ごらくしせつでかるく遊び、衣類スペースで洋服をみてまわったのち、カフェで小休止しょうきゅうしがてらおそめの昼食。それからジムやプールをのぞき、売店で物色したのち3階のまどから外がのぞめるベンチにこしを下ろす。

「・・あー、疲れた・・けど、楽しかった♪・・」

「・・うん、オレも・・」

「・・このくらいがちょうどいいね、明日もあるし・・」

「・・そうだね・・」

「・・そういえば、ヒョンジュは部屋にあったルールブックは全部みた?・・」

「・・うん、みたよ、一応・・」

「・・そうなんだ、あたしはライフボールのつけ方は一応できるようになったけど、それ以外の機能はまだなんだ・・かえったらみないと・・」

「・・おもったより一杯あったもんね、オレも全部おぼえてるかっていうとあやしいかも・・」

「・・だよね!、あんなにたくさんあるなんて聞いてないよ・・」

「・・あははっ・・」

 がっくし肩をおとすと、気晴らしがてら窓にめをやる。

「・・それにしても、きれい・・」

 まどのそとには、黄空きぞらとよばれるラドックス星特有のカスタードクリームのようなあわい黄色の空に、太陽系の惑星であるインヴェガ、クロザリル、ハルドール、ジプレキサ、メレリル、ナルジル、サインバルタ、ステラジン、エビリファイ、ソラジンが昼間からうっすらとうかび、バト・キアリ(太陽)にネフローガ(月)、そのしたには灰色のわが母なる星、ユーパンが規格外のおおきさで、どんっと地平線から半分顔をだしていた。

「・・来るまえから知ってはいたけど、実際にみるとすごいね・・」

「・・うん、自然ってすごいよね・・ユーパンでもむかしは青空っていって、空が青くてきれいだったらしいけど、いまじゃ灰色で夜空の星もなにもみえないもんね・・」

「・・うん、おれもラドックス星もきのうの機内からみたのが肉眼にくがんでははじめてだったし、ネフローガ(月)やほかの惑星もはじめてみたよ・・」

「・・アタシも・・」

「・・でも、ほんと空って本来こんなにきれいだったんだね・・なんていうか、みているだけで雲とかなんか落ちつくし、空もみてるとモヤモヤがふきとんで、せいせいする感じ・・ずっとみててもきないよ・・」

「・・うん、だね・・ユーパンじゃコンクリートと大気汚染おせんされた空にはさまれて、みあげてもせいぜい飛行機や列車ばっかりだったから(しかも夜も騒音でうるさいし)・・そう考えると、あらためてラドックス星にきてよかったよ、アタシ・・正直、想像以上かも♪・・」

「・・うん、オレもきてよかった♪・・(クレイにも会えたし)・・」

「・・え?、何?・・」

「・・いや、何でもない・・」

 そんなラドックス星の黄空とクレイのよこ顔に、ひそかに見惚みとれるヒョンジュなのであった。

 それからクレイはヒョンジュと別れると、食堂でかるく夕食をすませたのち、売店であすのレース中にたべる間食のハムとトマト、レタスなどのサンドイッチと飲料水を購入こうにゅう。それらをもって自室へともどろうとしていたときだった。

・・あとは部屋でシャワーをあびて、ルールブックみて、7時にめざましかけて・・

 頭の中でわすれものがないか反覆はんぷくしていた、丁度そんなとき。

「・・あぃで!・・」

 誰かとぶつかり態勢たいせいをくずす。

・・ねぇちょっと!、だれ?・・

 ふりかえるも一歩おそく、角をまがる去りぎわ、わずかに白髪はくはつがみえる。 

・・女性?・・んもう、なんなのよぉ~・・

 そしてブツクサいいながらひろいあげると、自室にじょうをかけるクレイなのであった。


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