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いっぽうで紀八きはちらとわかれ、れて自由の身となったヤニル。

・・あぁ・・うっとうしいお荷物にもつがいねぇだけで、こんなにも風がここちいいなんて・・

 すると、そんな自由を謳歌おうかするかれのもとにしのびよる影。影はみるみるその差をちぢめると、いつしかすぐうしろにまでせまっていた。

・・!・・くっ、油断ゆだんした・・

 のびるの手。もはや身をひるがえす余裕よゆうはなく、ふりほどこうにもふりほどけない。

・・万事休ばんじきゅうす、か・・ははっ・・あいつらをまいたとたんにこのザマとは、しょっぺぇさいごだったな、この世といっしょで・・でもおれらしいっちゃ、おれらしい、か・・

 目をとじ、はらをくくると苦笑くしょうするヤニル。そのときだった、なにやら背後がさわがしい。

「・・!?・・」

 ふりかえればそこには、あのいまわしきおんぶバッタの兄弟が。

「・・草介にぃ~・・たすけにきたぞぉ!・・」

 今し方ぶんどったであろうたまを兄からうけとり、ほこらしげにかかげる弟。するとヤニルはその光景を目にするやいなや、はしるのをやめる。 

「・・だいじょうぶか、草介にぃ?・・にしても、急にきえちまったからビックリしたぞ、なぁ三郎?・・」

「・・どういうつもりだよ、一体・・」

「・・へ?・・」

「・・だれが、たすけてくれって言ったってきいてんだよ!・・」

「・・草介、にぃ?・・」

「・・かってについて来たとおもえば、たのんでもいねぇのになにからなにまで手ぇだしやがって・・そんなにおれが信じらんねぇか?、おまえのアニキって奴は、そんなにもどうしようもなくたよりねぇ、足手まといなウスノロだったのかよ!?・・もう我慢がまんならねぇ・・」

 すると、小ぶりなリュックを地面に投げすてるヤニル。

「・・ここまでコケにされたのはひさしぶりだ・・そんなにおれが信用ならねぇお荷物同然にもつどうぜんってんなら、いまここでちがうってことをしょうめい明してやる・・おれとたたかええ!、三郎・トンヒャー!・・」

 そう言いはなつと、まえのめりにかまえるヤニル。

「・・な、・・何言ってだよ、草介にぃ・・なんで、兄弟であるおれらがたたかわなくっちゃいけねぇ?、ははっ・・」

・・ヤニル・・

 それにこたえるかのように、三郎もまたおんぶひもをゆるめると、紀八をそっとだきおろす。

「・・お、おい・・なにしてんだよ、三郎?・・」

「・・紀八、すまない・・」

・・でも、ここでひくわけにゃいかねぇ・・

 そして、相対あいたいする2人。

「・・アニキのほうは、いくらか話しがわかるみてぇだな・・」

・・これが、まったくのあかの他人にかってにつきまとった、おれらの代償だいしょう・・あにとしての責任せきにん、そして・・まがいものである兄弟の、限界げんかい・・

「・・Lank62373・・ヤニル・ハンバール・・」

「・・Lank6527・・三郎・トンヒャー・・」

・・そんな・・うそだろ?・・

 よどんだ寒空さむぞらのもと、しずまりかえる3人。

・・アニキにてるかなんだかしらねぇが、かってにつきまとった挙句あげく、たのんでもいねぇのにたすけたりしやがって・・おまえら、弱きをすくうヒーローかなにかのつもりか?・・あぁそうさ、おれはたしかに不憫ふびんな人間さ・・おまえらがいうように、どうしようもなくみじめですくいようのないクズやろうさ・・でもな、かんちがいすんなよ・・身内にどれだけ迷惑めいわくかけようと、まだまだ他人さまに迷惑かけるほど、おちぶれちゃいねぇんだよぉ!・・

 辛抱しんぼうたまらず、さきにとびだしていくヤニル。加速かそくしたいきおいそのままに、真っまっこうからつっこむ。

・・しりぬぐいはおれの役目やくめ・・こい、ヤニル!・・おまえのそのうっぷん、ぜんぶこのおれが受けとめてやる!・・

「・・オオオォァァ!・・」

 そして交錯こうさくする両者。しかし、不発とわかっても近距離型のようにすぐに追撃ついげきはせず、あらためて間合いをはかるヤニル。そして、またそこから仕切りなおすかのように助走をつけると、ふたたびあいてめがけこんしんの一撃いちげきをはなつ。そんな、アタッカー型特有とくゆう攻防こうぼうがはじまって10分。中腰ちゅうごしで息をきらすヤニルとは対照的たいしょうてきにに、かたや息ひとつみださずたたずむ三郎。

・・くそぅくそぅくそぅ!、なんでだ?・・なんでおれのこうげきは当たらねぇのに、カウンター気味のやつのこうげきだけがこうも的確てきかくにあたりやがる!?・・

 終始攻しゅうしせめていたかにみえたヤニルのたまだけが、り子のようにゆれている。

・・いつでもとれるってか、なめやがって!・・あぁそうかい、よくわかったよ・・そっちがその気なら、こっちにだってさくはある・・

 するとけわしいかおつきから一転、ヤニルがけろりとかおをあげる。

「・・さすがだよ、ほんと・・おまえら兄弟は強ぇよ、おとうとをおぶっている状態じょうたいでもかてるかあやしいってのに、肝心かんじんのそのおとうとがいねぇんじゃ、はなっからオレに勝ちめなんてねぇ・・でもよ、だからって降参こうさんなんてしんでもしてやんねぇ・・みつけたよ、おめぇらに勝つゆいいつの方法・・」

「・・!?・・」 

 そのとたん、あさっての方向へととつじょ進路しんろをかえるヤニル。その意図いとに、一呼吸ひとこきゅうおくれて三郎もきづく。

「・・紀八!・・」

 1人、孤立こりつしていたおとうとのもとに猛然もうぜんとせまりくるかげ。

・・ヤニル・・おまえ!・・

・・たしかに三郎・・おそらくオレはおまえにゃ、どう逆立さかだちしてもかてねぇだろうよ・・でも、おまえら兄弟にもおなじく勝てねぇかといわれたら、そうじゃねぇ・・このレースがおあそびじゃねぇことくらい、とっくのむかしにご存知ぞんじのはずだろう?・・たとえそれが、どんなにこそくな手段しゅだんであろうと、卑怯者ひきょうものとののしられようとも、さいごにのこったやつが・・勝ちなんだ!・・

 必死にヤニルのあとをおう三郎。

 ・・くっ!・・間に、あわねぇ!・・

 右手をふりあげると、しゃがみこむ小さなシルエットへとねらいをさだめる。

「・・そ、草介・・にぃ?・・・」

 おしよせる恐怖きょうふ。その狂気きょうきにみちたかれの形相ぎょうそうが、かつてのトラウマをよびおこす。 

「・・弟とはなれたのは失敗しっぱいだったな・・これが、おれをなめくさったおまえら兄弟のむくい・・死にさらせぇ!、クソガキぃぃ!・・」 

アンダースローーの要領ようりょうでしなるみぎうで。そして数秒後、そこには雪をちらかしよこたわる3者のすがたがあった。

「・・いってぇな、このやろう・・」

 すなにまみれながらも、おきあがろうとするヤニル。しかし、ヤニルの手に球はない。

・・なんとか、ギリギリ間に合ったみてぇだな・・

 うつぶせの三郎のすぐよこには、あおむけの紀八のライボールがせわしなくれている。

・・あの瞬間、身をなげだしてヤニルのせなかにどうにかふれたことで、最悪のシナリオだけはまぬがれたみてぇだな・・でも、そのかわりこっちのほうは、もう・・

 足くびのにぶい痛みに三郎がかおをゆがめていると、ヤニルがよろつきながら立ちあがる。

「・・これでわかったかよ、ばか兄弟・・おれはおまえらの兄弟でもなければ、ましてアニキなんかでもねぇ・・第一、実のアニキならかわいい弟にこんなまねはしねぇはずだ・・わかったら、2度とおれのまえにあらわれんじゃねぇ、2度とおれのことをあわれむんじゃねぇ、そして・・2度とそのなで呼ぶんじゃ、ねぇぇ!・・」

 そうすて台詞ぜりふをはくと、ヤニルは粉雪のむこうへときえていくのだった。

 ときをおなじくして、よこたわる女性のそばでひざまずく男性のすがたがみえる。おとこはむねをおさえると、あきらかに体に変調へんちょうをきたしていた。

・・かくごはしていたが、薬をのんでいても尚このいたみか・・やってくれるぜ、恋ナナさんよぉ・・

 ほどなくして呼吸こきゅう暴走ぼうそうをはじめると、力なくかのじょのかたわらにたおれこむ。

・・すま、ねぇ・・ゼロ・・

 そんな瀕死ひんしの2人を、じっとみおろす男。

・・実力をみとめたあいての球は、いただくのがぼくのポリシー・・でも、今回ばかりはすこし毛色がちがうようだ・・レディのほうはまだしも、ナイスガイのほうは実力もろくにだせぬままなにかに苦しみだしたかとおもったら、早々にうずくまってしまった・・ここでかれらの球をうばっては、サバンナで死肉をあさるハゲタカも同然どうぜん・・いや、ちがうな・・ふと、笑みをこぼすボロレス。

・・しょうじきに白状はくじょうすると、すなおにしいとおもってしまった、きみら2人がここでおわってしまうことが・・それにかんじたんだ、この星とおなじくらいきみら2人にもなにか可能性かのうせいってやつをさ・・まったく、ぼくもおひとよしでこまる・・でもガイ・ビロッチ、ゼロ・フィーガストン、きみら2人にはいずれまたどこかで会う、そんなきがする・・

 そしてきびすをかえすと、おとこもまた粉雪の白にまぎれるのだった。


 リスミー暦※338年11月30日(大会9日目)


 9つめのコテージに到着とうちゃくする8人。8人は各々(おのおの)にしばしの休息きゅうそくをはさむと、6時を皮切りにぞくぞくと食堂にあつまりはじめる。そしてバイキング料理をとりわけ、しぜんとひとかたまりに席につく。

「・・いただきま~す♪・・」

 みなが手をあわせるなか、我先われさきにとくちいっぱいに食材をほおばるネスタ。左斜ひだりななめうえにうかぶモニターでは、本日のレースがさかんに放送ほうそうされている。

「・・とくに、Lank804のイグネシア・トロリノ選手と、Lank2544のディロイ・フォマッカス選手の活躍かつやくはめざましいものがありますねぇ・・2人とも「森のイグネシア」「義足{ぎそく}のディロイ」と通り名があるほど注目されていますから、あす以降いこうのレースも目がはなせません!・・」

 「・・へぇ~、通り名ねぇ・・」

 そんなテレビなどおかまいなしに、なおも白飯しろめしをくちにつめこむネスタ。

・・スペアリブたべづらいけど、白米がすすむわ・・やっぱスペアリブはほねがあってなんぼよね・・

 いっぽうでエイビャンも、ある味覚みかくの変化をかんじていた。

・・あれ?、ナポリタンってこんなにかったっけ?・・

 味をたしかめるように、小分けによそった料理をつぎつぎとくちにはこぶ。ハンバーグ、ぶたのしょうが焼き、ポテトサラダにエビフライ。

・・う、うんめぇ・・ナナトニだったころもかろうじて味はしてたけど、本来飯ほんらいめしってこんなにうまいもんだったっけ?・・味してたのがむかしすぎてわすれてたわ・・さすが人間の三大欲求さんだいよっきゅう、くちのなかで味がマリアージュしていく・・これが、たべるしあわせってやつか!・・

 くちをぱんっぱんにふくらませ、恍惚こうこつの表情をうかべる2人をよそに、ひとりなやみだすバイロン。

「・・んー、おれだったらなんてつけるかなぁ、通り名・・あ、これなんてどうだ!、豪傑ごうけつのバイロン・・な?、いいだろ、ポンコツ?・・」

「・・!?・・あ、ふぁい・・」

・・急にはなしをふるんじゃないよ、・・そもそも通り名はじぶんでつけるもんじゃないの、ったくバカなんだから・・おたくはついてもせいぜい、「筋肉刺青きんにくタトゥーバカ」がいいとこ・・

「・・ティカ、おまえならなんてつける?・・」

「・・え、わたしですか?・・わたしは通り名がつくほど実力がありませんから・・」

・・「やぶ医者Xいしゃえっくす」・・とくべつに、おまえの通り名はオレがつけてやんよ・・

 はち切れんばかりのくちもとで、小ばかにするエイビャン。

「・・そういうのいいんだよ、ティカ・・つけるとしたらの話しなんだからよぉ・・えっと、こいつは「ポンコツのラル」で決定だから・・じゃクレイ、おまえは?・・」

「・・あたし?・・あたしは、んー・・「うるわしのクレイ」、とかかな?・・」

 いったそばからかおを赤らめるクレイ。

「・・つ、つけるとしたらだよ!?・・」

「・・うるわしのクレイか・・いいじゃん♪、なるほどな・・」

・・はずかしがるんなら初めからいうなよ・・でも、その通り名はよくない、よくないなー・・そうやっていつも、

おとこ共にこびへつらって加点をねらうのがおのれの常套じょうとう手段なのがみえみえ、あーやらしいやらしい・・みずからをうるわしいといっちゃってる時点で、おまえの通り名は「姑息尻軽女こそくしりがる、クレイビッチ」だ!・・

 人一倍ひといちばい通り名でたのしむエイビャン。

「・・そんじゃ、大トリはまちにまったビューさん・・おねがいいたします♪・・」

「・・もぅ~、大トリだなんて・・いこいのひとときにどんだけのプレッシャーをかけるつもりよ~、バイロン・・」

「・・すいやせん・・さいご、トリをかざるにふさわしいのはやっぱりおれたちのアジアンビューティー、ビューのあねさん以外いないとおもいやんして・・」

「・・もぅ~、エイビャンをしゅくしてきょうだけ特別だからねぇ~・・」

・・なんであたしとエイビャンにだけふんねぇんだよ、このスケベあにきめ・・

 すると、おもいのほかまんざらでもないビューが、たのんでもいないのに立ちあがる。

「・・あたしの通り名はこれよ・・1億人おくにん電撃少女でんげきしょうじょ・・泣く子もだまる、シズカ・トットホールなんだから!、だからぁだからぁ(エコー音)・・」

 ウィンクついでに往年おうねんのゆびさし悩殺のうさつポーズをきめると、かのじょの耳元にだけわれんばかりの大歓声だいかんせいがこだましているのだった。

・・な、なんて・・可愛いんどぅぅぅ・・

・・うん、きょうはなんとかたべれそうだ・・

 あぜんとする5人のよこで、切実に干物ひものをかみしめるヘイセスと、ひとり昇天しょうてんするバイロン。

「・・はッ!・・」

 ふとわれにかえり、じぶんがやらかしたことの重大さにきづくビュー。

・・いっけない、ついくせでむかしの芸名げいめいでポーズまできめちゃった・・あっちゃ~・・

「・・あー、いまのは・・えーっと・・」

・・1億人の、電撃少女?・・シズカ・トットホール??・・

 5人のあたまを疑問符ぎもんふがかけめぐる。

「・・ちょうど、このまえネットCMでみたのよね・・こんなセリフ、ははっ・・」

・・どうしよう、こんなんでごまかせる、かしら?・・

「・・いやーーすごい♪・・ネットCMでみたものをここまでわがものにしてしまうとは、さすがはビューのあねさん・・しかもそのネットCMのアイドル?、の名をとっさにじぶんに組みこんじゃうとは!、やはりものがちがう!・・」

「・・えへへっ・・」

・・あら、もしかして・・なんとかなった?・・

「・・あの~・・」

 すると、そこにラルがめずらしくきりこむ。

「・・まえまえから気になってはいたんですけど、あなたやっぱりシズカ・トットホールさんですよね?・・」

「・・!?・・」

「・・なにいってんだよ急に、ポンコツぅ!・・すこしだまってろ・・」

「・・えっとぉ~・・バレちゃった?・・」

 そうそうに観念かんねんするビュー。

「・・やっぱり!・・あったときからどっかでみた顔だとおもってたんですよ~・・」

「・・おい、ポンコツ・・どういうことだか説明せつめいしろぃ・・」

「・・うるせぇ、筋肉ばか(ウィスパー)・・シズカ・トットホール・・たしか10年ほどまえに、芸能界げいのうかい引退いんたいしたアイドルですよ・・」

「・・アイドル?・・」

「・・はい、おれもそこまでくわしいわけじゃないですけど・・そんなおれでも、何度かテレビでみたことがあります・・」

「・・へぇ~・・」

 あらためてまじまじと、かのじょをみる一同。

・・すごい・・あたし本物のアイドル、はじめてみた♪・・

・・アイドルだったのか・・おれのこころをわしづかんではなさないわけだぜ・・

・・っつうかTVみんなよ・・ポ・テ・サ・ラ・うまっ!・・

「・・えへへっ・・別にないしょにしてた訳じゃないけど、とくにいうことでもないし・・それにずいぶん昔のはなしだから・・」

・・ん?、ってことはまてよ・・引退後いんたいごのかのじょのサインはおそらく、マニアのあいだではそうとうな高値たかねで取り引きされるはず・・

 したペロして、どうにかその場をやりすごそうとこころみる元アイドル。しかしそんなかのじょをとりにがすまいと、下心満載したごころまんさいのラルがねらいををさだめる。

「・・あのぅ、もしよかったらなんですが・・サインなんていただけたり、します?・・」

「・・え、サイン?、わたしの?・・もう何年もかいてないし、わたしのサインをもらったところで・・ねぇ~・・」

「・・いえ、是非ぜひほしいんです!・・ファンだったんです、おねがいします!・・」

めにみえてけむたがるアラフォー電撃少女。


・・ってか、ラルあんたさぁ・・そこまでくわしくないとかファンだったとか、一貫性いっかんせいなさすぎ・・ミネストローネうますぎ・・

「・・おい、ポンコツぅ!・・ビューさんがこまってらっしゃるじゃねぇか、ころすぞ、コラァ・・」

 しかし、そんな輩口調やからくちょうにもめげず、必死にくいさがるラル。

「・・おねがいします!、シズカ・トットホールさん!・・」

「・・えー、書き方だってもううるおぼえだしぃ・・」

「・・このやろうぅ!、しつけぇってのがわからねぇのか!?・・そもそも、ポンコツの分際ぶんざいでアイドルさまにサインをいただこうなんて100億万光年はぇんだよ!・・」

 しだいにボルテージがあがっていく食堂のいっかく。すると、干物をそしゃくしおえた「アバラくっきり干物男」が、ふとあることにきづく。

・・そういえば、こんな大勢おおぜいでめしくったのっていつぶりだろう?・・

「・・1枚だけでいいんで、ね!?・・」

「・・<#@&'=%;;;・・」

「・・ポンコツぅ!、てんめぇ!・・」

 なおもヒートアップしていくご両人りょうにん

・・もらうならポンコツではなく、まずこのおれ様のはず・・

・・1に現生げんなま、2に現生げんなま・・背にはらはかえられんのじゃぁ!・・

・・うるさい・・うるさいけど、この心のおくがじんわりぬくくなるようなみょうなここちよさはなんなんだ・・  そうヘイセスの心がととのうなか、律儀りちぎにてをあわせると、ようやくネスタの夕食がおわる。

「・・ごちそうさまでした♪・・」

「・・おねがい、ねぇ・・おねがうぃ~、しますぅ~・・」

「・・サインをもらうのはこのおれ様だって、な・ん・ど・言・っ・た・ら・お・ま・え・は・わ・か・る?・・」

 しまいには、取っとっくみあいにまで発展はってんする2人。

「・・おい・・」

 そんなもみくちゃの2人のもとに、戦慄せんりつの低音ボイスがとどく。

「・・!?・・」

 生物的身せいぶつてきみの危険をかんじるも、ときすでにおそし。きがつけば2人の脳天のうてんめがけ、ふりおろされるゲンコツ。

「・・あでっ!・・」

 そこにいたのは仁王立におうだちするネスタ。その「下ネタ女王クイーン」のあまりの迫力はくりょくに、こおりつく2人。

「・・さっきからだまってきいてりゃ、ピーチクパーチクさわぎ立てやがって・・こっちはたのしいたのしい晩飯時ばんめしどきだってのに、そんなにうるさくされちゃうまい料理もまずくなるっちゅうの(めっちゃうまかったけど)・・だいたい、ビューがいやがってるでしょうが・・それを何?、そろいもそろっていい大人が、あぁはずかしい・・」

 しりにしかれる夫のように、行儀ぎょうぎよくせきにつく2人。

「・・金輪際こんりんざい、ビューにサインもらうのは禁止!、わかった?・・」

「・・・・・」

「・・わかったかってきいてんだよ、ポンコツぅ、バカ兄ぃ!?・・」

「・・は、はい・・」

「・・よろしい♪・・」

 そうしてかのじょの説教せっきょうでぶじ丸くおさまると、一同がおぼん片手に席をたつ。ちょうどそんなときだった。

「・・あの、ちょっといいかな?・・」

 かれの一声がみなをひきとめる。

「・・ん?・・なに、ヘイセス?・・」

「・・提案ていあんなんですけど・・」

「・・?・・」

「・・またみんなでこうやって、夕飯食べたりしませんか?・・」

 お目々をまるくするネスタ。

「・・え、みんなで?・・」

「・・はい・・なんか1人でたべるより、みんなでたべるほうがうまいっていうか、なんかそんなきがしたんで・・」

「・・・・・」

「・・いや、別にいやならいいんです、たぶんボクのきのせいだとおもうし・・たいした話しじゃないのにひき止めてしまってすいませんでした、あの、わすれてください・・」

「・・え・・いいじゃん!、それ♪・・」

「・・え?・・」

 すると、そんなひかえめなヘイセスに賛同さんどうのこえがあがる。

「・・うん、あたしもいいとおもう♪・・」

「・・はなす機会きかいもふえますし、なかなかいい案かもしれませんね、それ・・」

 アラフォー電撃少女ビューをかわきりに、姑息尻軽女クレイビッチ(クレイ)、やぶ医者Xティカとつぎつぎに首をたてにふるなか「病{や}みあがりおげれつ教、教祖{きょうそ}」(エイビャン)もまた、エビフライのしっぽをかみくだきながらおもいをめぐらせていた。

・・みんなでたべる夕めし、か・・たしかにこんなふうにみんなで夕めし食うの、ひさしぶりだな・・施設しせつにいたころ以来だとすると、7、8年ぶりか?・・

「・・じゃあ、異論いろんがないんであれば決定で♪・・」

「・・おい、ちょっとまてよ・・おれの意見はどうなる?・・」

「・・そうだよ・・だいたい、なんでじかんを拘束こうそくされてまでなかよくメシをくう必要が・・」

 しかし、下ネタ女王クイーン{ネスタ}のひとにらみで、たちまち口ごもる筋肉刺青{タトゥー}ばか(バイロン)とポンコツ(ラル)の2名。

「・・エイビャンもだいじょうぶよね?・・」

 ちかづくと、ぽんと「アバラくっきり干物男」(ヘイセス」のかたをたたく「病みあがりおげれつ教、教祖」(エイビャン)。

「・・いいじゃん・・さすが、竹馬ちくばのエロ友♪・・」

「・・じゃ、あしたから夕飯は6時にみんなでいっしょにたべることに、きまりっ!・・」

 そうしてお開きになるつかのまの団らん。そんななか、ひとり釈然しゃくぜんとしないままDVDコーナーにたちよるラルのすがたがあった。

・・なんだよ・・サインはもらえねぇはあたまはたたかれるは、いいとこなしじゃねぇかよ・・あげくの果てになんだ、毎晩まいばん6時にはいっしょにめしを食うとかいうめんどくせぇオプションまでくわえやがって、ネスタのやろう・・

 うっぷんをかかえたまま、成人向せいじんむけDVDを手あたりしだいあさる。

・・一発派手はでにヌカな、やってらんねぇっての!・・

 すると、めずらしくやろうどもの聖域せいいきでなにやらはなし声がする。

「・・ねぇ、やいぢろうたん、ほんどにこっちに、きたお?・・(ねぇヤイチロウさん、ほんとにこっちにきたの?)」

「・・まぢがいあいって、おでをしんじろ・・(まちがいないって、おれを信じろ・・)」

・・なんだ?、ってかなんて?・・

「・・ほあ、いだ!・・(ほら、いた)」

「・・なにしえんすか?、やいぢろうたん・・(なにしてんすか?、ヤイチロウさん)」

 そこにいたのは、熟女じゅくじょコーナーで物色ぶっしょくするひとりのおじさん。

「・・おぉ、おまえらすまんすまん・・つい夢中むちゅになってしもうて・・」

「・・もぉ、どんだへせいよくあうんですか・・(もー、どんだけ性欲{せいよく}あるんですか)」

「・・さっさとかいて、かえりまうよ・・(さっさとりて、かえりますよ)」

 そうして、青年2人につれられるようにして聖域をあとにするおじさん。

・・なんだあのしゃべりかた、障害者しょうがいしゃか?・・それにあのおっさん、どっかでみたような・・

 そんなかれのモヤモヤに拍車はくしゃがかかるいっぽうで、ひとっ風呂ぷろあびるとコーヒー牛乳片手に、休憩所きゅうけいじょでくつろぐエイビャンのすがたが。

「・・ぷっは~♪・・」

・・これでこそ生きてるってもんよ・・

 いっきにコーヒー牛乳をのみすと、大の字にたたみにねそべるエイビャン。

・・ああ、生きてる・・ほんとにおれ、ナナトニなおしたんだ・・すげぇ、まじですげぇ・・かんがえらんねぇ・・

 うっすら目をあけるだけで、天井てんじょうからはあふれんばかり光がとびこんでくる。

・・頭痛もなければうそのようにふるえもきえてる・・それにきょうのあのメシの味、ひとみひと噛みがあんなにも

幸福こうふくにかんじたのは、うまれてこのかたはじめてだ・・さすが、3大欲求よっきゅうのひとつ・・ナナトニじゃないふつうのいわゆる健常者けんじょうしゃは、これをさもあたりまえのようにこなしているおもうと、なんだかかなしいねぇ・・じぶんがどんだけしあわせなのか、てんでわかっちゃいねぇ・・メシがうめぇ、ただそれだけで十分生きていけるってのに・・それぐらいに飯のちからはすさまじいってのに・・でも、おれもいつかあんな風になっちまうのかねぇ・・旨いメシがくえる、それが当然のように・・

 すると、蛍光灯けいこうとうのまばゆいひかりへと手がのびる。

・・ピルラ・・おまえをすくえなかった、このみぎ手・・おれはいっしょうこのつみ背負せおい、いきていく・・そう、おまえのぶんもな・・

 決意とともに、光もろともにぎられるこぶし。そうこうしていると、ふいに眠気ねむけがおとずれる。

・・ああ、なんかねむくなってきた・・ここちいい、あぁ、これが寝入りばなのまどろみってやつなのか・・おれぁナナトニになってから、こんなすばらしい快楽かいらくまでうしなっちまってたのか・・なんてこった・・にしてもきもちえぇ、正に「きもちよすぎてしんじゃうゾナモシ」・・このまま、しんじまってもいい、くらい、に・・

 そしていつしか、深いねむりへといざなわれているエイビャン。そこをたまたま、入浴後にゅうよくごのビューがとおりかかる。

「・・あれ、エイビャン?・・」

 興味本位きょうみほんいでちかづくと、そこにはすやすやとねむりほうけるわんぱくこぞうの寝顔が。

・・エイビャン・・

 しぜんとかたわらにこしをおろすビュー。

・・きもちよさそうにねむってる・・まるで、あそびつかれたこどもみたいに・・でもエイビャン、あなたはあたしたちには想像そうぞうもできないほど、たいへんな人生をあゆんできたんだもんね・・そしていままでだれも治せなかった、あの不治ふちの病であるナナトニをなおしちゃった・・すごいよ、ほんと・・

 ビューの母性ぼせいからか、いつしか一定のリズムをきざむようにエイビャンをあやしつける。

・・そりゃつかれたよね・・ゆっくりおやすみ、エイビャン♪・・

 ちょうどそんなとき、かれのそのあどけない寝顔が、ふとあのひの一コマをよびおこす。

・・!・・マサちゃん・・

 いっきにこみあげるおもい。

・・ごめんね・・母さん、マサちゃんになにもしてやれなくって・・

 すると、そんな湿しめっぽさをふきとばすかのように、突如和室全体とつじょわしつぜんたいにひびきわたるどなり声。

「・・なめやがって、このガキゃぁぁ!・・」

 問答無用もんどうむようでたたきこされるエイビャン。

「・・ん、・・なに・・」

「・・な、なんだろうねぇ?・・」

 あわててとりつくろうビュー。 

「・・すこしぐらい「しろくろ」がつよいからっていい気になりやがって!・・こちとら遊びでやってんだよ、遊びで!・・」

「・・えぇ、もちろんわたしもあそびアルヨ・・でもいくらあそびといっても、往生際おうじょうぎわがわるいいってるアルヨ・・もうとっくに負けてるダカラ、はやく投了とうりょうスルいってるアルネ・・」

 なおも和室片隅わしつかたすみでくりひろげられる言いあらそい。その独特どくとくのいいまわしもあいまって、ビューとエイビャンもついつい聞き耳をたてる。

「・・息ぬきにとおもってやってみたが、こんな腹立つゲーム、2度とやるか!・・」

 そうはきすてると、席をたつおとこ。  

「・・ふぅ~・・よわいやつにかぎって、よくわめくアル・・」

 そうして一時騒然いちじそうぜんとなる休憩所。そんななか、ビューがどこかぎこちなく口をひらく。

「・・しろくろ・・しってる、エイビャン?・・」

 しかし、さっきまで横になっていたはずのエイビャンがいない。

「・・しろくろか、なっつかしいなぁ♪・・」

「・・!?・・」

 するとそこには、たちあがりぎわにもれなくびをきめる、はつらつとしたエイビャンがいた。

「・・あのやろうか、おれのねむりをさまたげたこんちくしょうは・・」

「・・エイビャン?・・」

「・・ビュー、ちっとわりぃけどさぁおれ・・いってくるわ♪・・」

「・・え?・・」

 そうつげると、一目散いちもくさんにエイビャンが人だかりのほうへ。

「・・ねぇ、きみさ・・しろくろやってるの?・・」

「・・ん?・・」

「・・もしよかったらなんだけど、おれにもやらせてくんない?、そのしろくろってやつ・・」 

 返答もなおざりに、かれの対面といめんにあぐらをかくエイビャン。

「・・いいアルけど・・あなた、棋力きりょくはどのくらいアルカ?・・」

「・・んー・・たぶんきみとおなじくらい、かな?・・」

「・・へー・・じゃ、たがせんでいいアルネ?・・」

「・・OK♪・・」

・・ミーの棋力もしらないで、おなじくらいとはふざけたやろうアルネ・・いいアルヨ、こいつもさっきのやつみたいにかんぷなきまでたたきのめしてやるアル・・

 そうしてたがいに石をにぎると、はじまる対局たいきょく

「・・おねがいします・・」

「・・おねがいしますアル・・」

 そのこえを皮切りに、つぎつぎに盤上ばんじょうにおかれていく白石と黒石。はじめはまばらながらも、徐々(じょじょ)に形をなしていく。

・・ほー、定石じょうせきはしってるみたいアルネ・・じゃあ、これはどうアルカ!・・

 そのつど顔色をうかがうあいてに対し、淡々(たんたん)と局面をすすめていくエイビャン。するとそんな2人の熱気に、しぜんとすいよせられていく観衆かんしゅう。そしてきがつけば、いつしか2人をひとだかりがとりかこんでいた。

・・ちょ、みえない・・エイビャン?・・

 おくれてビューがかけつけたころには、すでに局面は大詰おおづめををむかえていた。

・・そ、そんなはず、ないアル・・こっちの石が反対にと、とられてる?・・

 くちびるをかみしめると、しきりに首をよこにふる相手。

・・まだアル・・まだ勝負はおわってないアル!・・

 そんなやぶれかぶれなあいての着手ちゃくしゅにも、的確てきかくにおうじるエイビャン。そしてほどなくして、あたりがしずまりかえる。

「・・ありません、負けましたアル・・」

 ワッと、とたんに活気をとりもどす野次馬やじうま

「・・ありがとうございました・・」

 みずからの石をかたすと、だまってたちっていくあいて。そんななか、野次馬をかきわけエイビャンがかおをだす。

「・・おまたせっ、ビュー♪・・」

「・・あ、うん・・おわったの?・・」

「・・うん・・」

「・・で、かったの?・・」

「・・もっちろん♪・・おれさまのねむりをさまたげたむくいじゃ・・あぁ、スッキリした・・」

 あらためて、もといたたたみのほうにすわりなおす2人。 

「・・でも、エイビャンにこんな特技とくぎがあったなんてびっくり・・」

「・・いや、昔ひまつぶしがてらにやっていたていどで、特技ってほどつよくはないんだけどね・・」

「・・それでもすごいよ、起きがけにあいてをたおしちゃうんだから・・」

 マンガさながらに、てれくさそうにはなをこするエイビャン。

「・・でも、しろくろだっけ?、なんかむずかしそうだよね、このゲーム・・わたしには到底とうていできそうもないかも・・」

「・・そんなことないよ、簡単簡単かんたんかんたん・・あ、そだ・・」

 すると、おもいたったようにテユを起動きどうさせると、なかから「しろくろ」の携帯型けいたいがたマグネットばんをとりだす。

「・・しろくろってきほん、陣地じんちとりゲームだから・・こうやって石でしきりをつくって、土地のひろいほうがかちなの・・」

「・・へぇ~・・」

「・・それともうひとつ・・こうやって石を石でかこめばその石をとることができる、かんたんにいうとそれだけ・・」

「・・ほぉ・・」

「・・石をとりながらじぶんの陣地をいかにひろげられるか、たたそれだけのゲーム・・」

「・・とった石はどうなるの?・・」

「・・とった石はさいごにあいての陣地をうめるのにつかえるから、よりおおくとったほうが有利ゆうりになるってこと・・」

「・・ほぉ、ほぉ・・」

「・・ものはためし、やってみよう♪・・」

「・・え?、でも・・」

「・・いいから、いいから♪・・」

 そううながされるままに石をにぎると、さきほどよりひと回りちいさい盤上にたどたどしく石をおいていくビュー。

「・・こ、こう?・・」

「・・そう、そう♪・・」

 そしてしばらすると、石で境界線きょうかいせんができあがる。

「・・はい、とった石もないのでこれで終局しゅうきょく、あいての陣地をかぞえて・・ビューはしろだからくろの陣地を、おれはくろだからしろの陣地・・」

 もくもくと、線のまじわる点をかぞえていく2人。

「・・えとぉ、黒が25?・・」

「・・しろくろの陣地は1もく、2目とかぞえるから黒が25目となります・・白が23目だから、どちらの何目勝ちになるでしょうか?・・」

「・・うんとぉ、25と23だから、黒の2目勝ち?・・」

「・・そのとおり、黒番であるわたくしの2目勝ちとなります・・」

「・・そっか・・ああ、負けちゃった~、くやしいぃ・・でもあたりまえか、始めたばっかのあたしがエイビャンにかてるはずないもんね・・」

「・・そうおおもいになるでしょう?、ところがどっこい♪・・」

「・・?・・」

 すると、エイビャンが得意とくいげにほくそえむ。

「・・しろくろは通常、互先といって棋力がちかいひと同士がたたかうばあい、先手であるくろのほうが後手であるしろよりいくぶん有利とされている・・そのため、しろにはあらかじめ「コミ」とよばれるハンディがある・・」

「・・コミ?・・」

「・・うん、地域ちいきによってそのハンディもまちまちだけど・・おれがくらしていた地域ではコミ6目半、国によっては7目半、8目半なんてところもあるくらい・・」

「・・へぇ~・・」

「・・えーですから、そのこともふまえてあらためてかぞえなおしますと、23目だったしろにプラス6目半がくわわり、25目対29目半で、白番のビューさんの4目半勝ちということになります♪・・」

「・・おお、すごい・・あたし勝っちゃった、エイビャンに・・」

 きがつけば、みずからに拍手はくしゅをおくっているビュー。

「・・にしてもひさしぶりだな、しろくろなんて・・」

「・・そうなの?・・」

「・・そりゃそうさ、施設しせつにくらしていたとき以来だから・・大体出たのが16だとして、ことしで24だから8年・・しろくろしていたのはもっとガキの小学校のときだから、プラス3年さかのぼって・・最低でも11年ぶりか?・・」

「・・そっか、施設にくらしてたんだ・・」

 すると、意図してないところにビューがくいつく。

「・・いやまぁ、そうなんだけど・・うん・・」

・・あ、いけない・・せっかくナナトニがなおっておめでたムードなのに、なに辛気臭しんきくさくしてるのよあたし・・ひとまわりいじょうも年上なんだし、あたしがしっかりトークのかじとりしなきゃ!・・

「・・と、ところで、ひさしぶりのしろくろはどうだった?・・た、楽しめた?・・」

 あわてて軌道修正きどうしゅうせいする。

「・・そうさなぁ、たのしめたっちゃたのしめたかな・・なにしろ施設にいたころは、ならいごととしょうしてなかば強制的きょうせいてきにやらせれてたから・・たのしいっていうよりは、むしろノルマ感がつよかったかな・・」

「・・へぇ、そうなんだ・・」

「・・なかでも、1人孤独こどくにむきあう「難解詰{なんかいつ}めしろくろ」は、いまおもえば地獄じごくだった・・その問題がとけるまで、メシぬきなんてざらだったし・・」

「・・あらまぁ!、ストイック・・」

・・あれ・・な、なんかおかしいわね・・おめでたムードのながれを一向にひきもどせない・・

 いつしか、座布団ざぶとんをまくら代わりに寝っころがるエイビャン。

「・・で、でもさ、しろくろやってて良かったな~・・あれはいいおもいでだった、なんてこともあったでしょ?・・」

「・・しろくろで?・・ん~あったかなぁ、そんなこと・・」

 ビューの顔面がしだいにこわばっていく。

・・まずいわこのながれ、とてもまずい!・・これがぞくにいう、のスパイラルってやつ?・・

 そんな暗雲あんうんたちこめるさなかのこと、ふとエイビャンが起死回生きしかいせいの一打をはなつ。

「・・あ!・・」

「・・え?・・」

「・・いや、・・いいおもいでかどうかはびみょうなんだけど・・」

「・・なになに、きかせて!?・・」

「・・うん・・そんなんで施設にいたころよく町内のしろくろ大会に出場させられたんだけど・・」

「・・うん、うん・・」

「・・そこで対戦したじじいばばあのマナーがまぁひどくって・・」

「・・へ?・・」

 とたんにとまるビューの相槌あいづち

「・・まぁ、じじいばばあといってもほとんどがじじいなんだけど・・おれと対戦したじじいなんてあれだよ、おれの手番にもかかわらず2手連続でうってきやがって・・ほんらいなら反則はんそく負けで、即刻そっこくこの世からきえてもらうところだけど・・なんかそれもちがうっていうか、おとなげない気がしてなんとかおもいとどまったけど・・」

「・・ま、まぁ、ご高齢こうれいだからねぇ・・」

・・おもいとどまってよかった・・

「・・だってあれだよ?、おれとおなじ施設のおんなの子なんてほんらいかってた1局を、あとは陣地をかぞえるだけってなったら、急にあいてのじじいが盤面ぐちゃぐちゃにしてきて「・・わたしのかちだね?・・」だって!・・結局そのじじいの武力行使ぶりょくこうしでまけにされたんだよ、そのこ・・ひどくね?・・こんなものがまかりとおっていいんですか?、世が世なら死罪しざいだよ・・」

「・・そ、それはすこし、いじわるだねぇ・・」

・・死罪かは、わかんないけど・・

「・・あと3人1組の団体戦だんたいせんで、ちょうどこどもの人数がたりないってことでおれのチームにくわわった助っすけっとのじじい・・先生いわく、つよい助っ人だっていうふれこみだったからさぞ期待きたいしてたら、かつことにはかつんだけど、そのかち方がまぁひどい・・わきのしたおさえながら手あげたかとおもったら、しろくろの審判長しんぱんちょうよびだして「・・このひといま、うちなおししたから反則負けですよね?・・」だって・・まぁ「はがし」っていって1度盤上においた石をとっちゃ、たしかにだめなんだけどさ・・未来あるこどもに、おとなのどんな背中みせとんねん、われぇ・・っつうか、そのハゲちらかしたきったないあたまで、よくもまぁ密告みっこくなんていうこそくな手段おもいついたなぁ、おぃ・・あきれとおりこして、もはや尊敬そんけいするわ・・」

 そうまくしたてると、ふととなりで肩をふるわせるビューにきづく。

・・あ、やべ・・つい、いいすぎちまった・・

「・・いやね・・いまのはごく一部の害悪がいあくじいさんのはなしであって、そりゃもちろんりっぱな高齢者のかたもたくさんいる、わけで・・えぇ・・」

 あわててじじばばをフォローするも、あとのまつり、かにおもわれた。

「・・ぷっ・・」

「・・?・・」

「・・ぷぷっ・・キャッ、キャハハハハハッ!・・」

「・・え?・・」

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