15
歩道には、小学1年生らしき黄色いやんちゃぼうずをひきつれた父兄のすがたがみえる。3年まえの春、わたしは医者から病気であることをつげられた。病名はナナトニ機能性障害、通称ナナトニ。当時21才だったわたしは、保育士としてはたらきはじめたばかり。そんなあるひ、突如宣告された病。ショックだった、なにもかんがえられないほどに。社会人としてのこれからが、一瞬でくずれさっていった。それから1ヶ月もたたずして、わたしは職場をやめた。やめてからというもの、わたしは兄と必死でナナトニの治療法をさがした。昼間は病院をめぐり、夜はおそくまでPCの液晶板とにらめっこ、しかしおもわしい結果がえられることはなかった。わたしには夢があった。ひとつは保育士になること、そしてもうひとつはお嫁さんになること。かれとは小学生のころからの幼なじみで、高校のときにつきあいはじめ、いつか結婚しようと口約束をかわした仲だった。そんなかれにも3年まえ、別れをつげた。そうしてかれのお嫁さんになることも、ましてや黄色いやんちゃぼうすの母になるゆめも絶たれたわたし。あるひ突然うばわれた未来、つきつけられた後先まもない命、ナナトニがわたしの人生を180度かえた。そしていま、わたしはここラドックス星の地にいる。
ネスタ・デ・シエ
6
リスミー暦※338年11月26日 大会4日目(3日前)
朝もやのなかを疾走する2人。ひとりはピンクのパーカーにくろのスカート、頭部には中華料理店看板娘かおまけの、紅色のおだんごがふたつ。もうひとりは紺の髪とTシャツにくろのGパン、首もとと両うでにはタトゥーらしき文様がみえる。スタートから7時間。
「・・おい、ネスタ・・だいじょうぶか?・・」
「・・ああ、問題ない・・アニキ・・」
「・・そうか・・でもな・・」
兄の手がそっと妹の肩にふれる。
「・・はいはい、わかりましたよ・・」
そんな兄のおもいを察っしたちどまると、ポケットからサイコロ大の立方体をとりだし、両はしの角をかるく2回おしこむ。するとテユ箱が起動、ふくらみだす。その1分たらずで直径1mほどになった箱のなかからタオルとペットボトル、栄養価たかめのお菓子をえらぶと、汗をふき、のどをうるおし、ラドックス星名物、太陽系惑星ドーナツが宙をまう。
「・・ほれ!・・」
「・・おぅ、サンキュ♪・・」
手ごろな石に2人こしかけ、しばしのブレイクタイム。
・・ネスタのやつ、近ごろ具合がわるそうだったが、ここ何日かは元気そうでよかった・・そういや、ここにきてからか?・・
・・黄空といわれるクリーム色のそらに、雲とうっすらみえる惑星・・みわたすかぎりにひろがる雪山と、時折ひょっこりかおをだす野生どうぶつたち・・それに、すんだ空気・・
あまりの居心地のよさに、おもわず両の手をひろげノビをしてしまう妹。
・・そとで食べるメシがこんなにうまいなんて、ほんっとひさしぶりだ(まぁ、飯といってもドーナツで、3年前にナナトニになってからそこまで味はしなくなっちまったん、だけどもさ)・・
ぴーひょろと小鳥たちのさえずりがきこえてくる。
・・自然って、やっぱすげぇや・・ここでなら、もしかして・・みつかるかも・・
すると、兄がたちあがる。
「・・どれ、行くか?、そろそろ・・」
「・・うん・・」
そんなおやつタイムをおえた矢先のこと、岩かげからなにかがあらわれる。
「・・!・・」
とっさにみがまえる兄弟ふたり。
「・・あ、・・どうも・・」
ふぞろいな金髪のおかっぱあたまに黄ばんだYシャツ、黒のみじかめのネクタイにスラックスをはき、年は20代前半ほどとみうけられる。
「・・Lank5983・・バイロン・デ・シエ・・」
「・・Lank8453・・ネスタ・デ・シエ・・」
「・・え、えっと・・ラル・シンク・・Lankは210218です・・」
この名のりあいをきに、緊迫感は最高潮に。
「・・ネスタ!・・」
「・・ああ、アニキ!・・」
「・・いくぞ!・・」
そうして2人がうごきだそうとした、正にそのときだった。
「・・ちょちょちょ、ちょい待ち!・・タンマタンマ、タンマ!・・」
「・・?・・」
手の平をつきだすジェスチャーをみせる金髪おかっぱのおとこ。
「・・いや、ちがうんです・・はじめから戦いにきたんじゃなく、ただ話しがあってきたんです・・」
「・・話し?・・」
「・・はい、もしよろしければですが・・オレといっしょに行きませんか?・・」
「・・はぁ?・・」
「・・いっしょに?、アンタと?・・」
コクリうなづくと、両手をホールドアップしたまま話しをつづける。
「・・いや、ムリにとは言いませんが・・4日目にはいって、団体行動してるひとたちもチラホラみうけられますし、その方がなにかと心づよいというか、便利かなぁっとおもいまして・・」
「・・便利、ねぇ~・・」
「・・・・・」
金髪おかっぱおとこをなおざりに、あたりは水を打ったようにシーンとしずまりかえる。
「・・はい、あのぉ~・・も、もし、よかったらの話し・・です、けど・・」
そんなしどろもどろのやつに、デ・シエ兄が言及。
「・・言いたいことはわかったが、おぃおまえ!・・」
「・・!?・・」
「・・おまえを連れていくメリットは?・・」
「・・お、おれを連れていくメリット、ですか?・・」
「・・そうだろ?、そりゃ・・Lank20万台のやろうが、即戦力になるとはとてもおもえねぇ、んだが?・・」
ごもっともな正論のまえに、ぐうの音もでないでちぢまこまるおとこ。
「・・いいじゃん、アニキ・・」
しかしいがいやいがい、そこに助け舟がでる。
「・・ここで会ったのもなにかの縁だし、2人も3人もたいしてかわらないよ・・」
「・・でもな・・」
しぶる兄をよそに、案外乗りきな妹。
「・・きみ、名前はなんだっけ?・・」
「・・ラル・シンクです・・あ、ラルでいいです・・」
「・・ラルか・・あたしはネスタ、こっちは兄貴のバイロン・・よろしくね♪・・」
「・・おまえな、かってに・・」
「・・いいじゃん・・ここにきてだれとも接点なかったし、なかまもおおいほうがなにかと楽しいよ・・」
「・・だから、そういうことじゃねぇだろ?・・いまさっき会ったばかりのこいつが、なかまとして信頼できるかどうかもうたがわしいってのに、好奇心で、ただおもしろそうだからいっしょに連れていくとか(そもそも20万台のやつが戦力になるはずがねぇし、こいつはどうみてもあやしい)・・第一、オレらはここになかよしごっこするためにきた訳じゃ・・」
「・・わかってる、アニキ・・わかってるよ・・」
「・・*$<%#&'=~、ったく・・おひとよしな妹に感謝するんだな・・金髪おかっぱやろう・・」
そして3人は走りだす、たがいの素性もしらぬまま。
・・金髪、おかっぱやろう・・か・・
「・・ところで、ラル・・きみはなぜこのレースに?、賞金目当て?・・」
「・・まぁ、そんなとこかな・・ネスタ、きみは?・・」
「・・?!・・」
タトゥー入りゴリムキマッチョの兄が、みかけによらず過敏に反応。
・・おぃ、なに出会って3分そこそこでフランクにおれの妹とはなしてやがる?・・いままでどおり敬語をつかえ、敬語を・・
「・・あたしは、病気を治すためにラドックス星にきた・・」
「・・病気を、治すため?・・」
「・・ああ・・」
よくみると、かのじょの首筋にはうっすらと〇と△で形どられたオレンジの紋様がうきあがっている。
「・・なんか、ごめん・・」
「・・あやまらなくていいよ、別にひみつにしてたわけじゃない・・それに最初にきいたのはアタシのほうだし・・」
併走する2人と、それを先導するゴリムキマッチョ。
「・・もしよければだけど、その病気ってのはどんな病気なの?・・」
「・・おぃ、おまえ!・・」
「・・ひぃ~、ごめんなさいぃ・・いまのナシ、いまのナシ!・・」
すかさずふりかえる兄から雷がおちると、それをみて妹がケタケタと笑う。
「・・いいよ、別にきいても・・かくしてるわけでもないし・・あたしはね、ナナトニなんだ・・」
「・・!?・・」
・・やっべ、マジでやっべーのきいちゃった・・あぁ、どうしよ?・・アニキに殺される・・
きまずさ再燃、しかしまたもネスタの天真爛漫さにすくわれる。
「・・ほら、ここの首んとこに模様があるでしょ?・・これがナナトニ患者特有の惑星半ってやつ・・だから賞金目当てっていうよりあたしは、ナナトニをなおすためにこのラドックス星にきたんだ・・」
「・・へぇ~、そうなんだ・・え、でも、ナナトニを治すためにきたって、具体的にはどういう・・こ、と?・・」
にらみをきかす兄に戦々恐々(せんせんきょううきょう)としながらも、なぜかリスクをかえりみずさらに深掘りしていく。
「・・あぁ、それか・・話せばながくなるんだけどかんたんに説明すると、このままユーパンにいてもナナトニはなおらないと感じた・・たしかに医療技術は日々進歩しているかもしれない、でもナナトニはこころの病・・いくら医学が進歩したところでひとの心はなおせない・・むしろ科学発展はどこか、こころをおきざりにしている部分があるとさえおもうしね・・ましてや、あのうえからしたまで人工物まみれの汚染されたくすんだせかいじゃなおさら・・だからこの星にきた、もちろんここでならなおせるなんて保証はどこにもない・・でも可能性はあるとおもった、すくなくともユーパンよりは・・直感的にだけどね・・」
黄空のあいまから、バト・キアリの陽がさしこむ。そんななか、先頭をゆくバイロンにうごきが。
「・・ところで、えっとラルだっけ?・・おまえ球は?・・」
「・・あ、まだです・・」
「・・じゃあ、ちょうどいい・・」
アゴでくいっと指ししめされた方角に、3つのひと影。
「・・いくぞ!・・」
とたんにギアをあげる兄弟。たちどころに差はちぢまり3人を射程圏にとらえる、が誤算がひとつ。
「・・おい、ネスタ・・やっぱ破門にしようぜ、あいつ・・」
「・・ははっ、・・まぁまぁ・・」
必死にあとをおうラル。
・・この兄弟、なんてスピードしてやがる!・これが一千台ランカー・・
そして、ようやく2人の元に。
「・・きたか、おせーぞ・・」
「・・すいません・・」
「・・おかえり♪・・」
「・・で、どうする?・・」
「・・だいじょ、ぶです・・いき、ましょう・・」
「・・よっしゃ!・・」
「・・ちょ、アニキ・・まったまった!・・」
「・・?・・どした、ネスタ?・・」
「・・いや・・ラルはいまきたばっかだしさ、さすがにすぐはムリだって・・」
「・・でも、本人はイケるっていってるぞ・・なぁ?!・・」
こえはとどかないが、水面のエサにむらがる淡水魚のごとく、くちをパクつかせている。
「・・ほら?・・」
「・・ほら?、じゃねぇよ・・よく言えたなそのセリフ・・あにきのドSっぷりには、毎回感服するわ・・」
「・・へへっ・・」
そして走りながらではあるものの、ことばとはうらはらになんだかんだラルの回復をまつバイロン。あたりはいつしか木々がうっそうとおいしげる森林地帯へと突入。するとしばらくして、まえをいく3人が足をとめる。
「・・ずいぶんと遅かったな・・」
「・・?・・」
どこからともなく声がしたかとおもえば、木陰からひとがあらわれる。その数、20人ちかく。
「・・あっちゃ~・・こりゃ、やられたな・・」
「・・だね、アニキ・・」
そんななか満を持してかおをだすは、リーダー格らしきひとりのおとこと3人の側近。
「・・まった割に、すくねぇじゃねぇか・・レイデン・・」
「・・おれにいうなよ、スネーク・・言うならラルに言え・・」
「・・!・・」
たちまちにして、すべてを察する兄弟。
「・・ラル、おまえ・・」
「・・・・・」
側近3人のまえにおどりでるスネークとよばれるそのおとこは、中央分けのブロンドヘアーにみどりのつり目、革ジャンにレザーパンツと黒で統一されたいでたちをしている。
「・・まぁ、2人だとしても連れてきたことにかわりはねぇ・・よくやった、ラル・・」
きづけば、包囲網のなかにいる3人。
「・・これであんたののぞみはかなえた、約束どおりぬけさせてもらう・・」
「・・すきにしろ・・」
そして2人のもとからはなれていくラル。囲いの外にでようとした、そのときだった。
「・・!・・」
連中にうでをつかまれると、もといた場所にほうりもどされる。
「・・っで!・・どういうことだ、スネーク!?、はなしがちがうじゃねぇか?・・えものをつれてきたら、おれだけは解放してくれるって約束だろ!?・・」
「・・はて?、そんな約束したっけ?・・なぁ、ブランドン・・」
「・・くぅ・・」
「・・つうか、20人に対してえものが2人じゃどうみてもたりないだろ?・・だからその責任もかねて、おまえのたまをいただくことに急遽予定変更したんだよ・・」
あざ笑われるなか、おきあがるラル。
「・・おかえり・・」
「・・どの面下げてもどってきた?・・」
「・・ごめん、でもこうするしかなかったんだ・・」
まじわることのない視線。
「・・おれらをエサにじぶんだけ助かろうとは、たいそうなご身分だこと・・」
「・・・・・」
「・・で、ラル・・あんたはどっちの味方なんだ?・・」
「・・も、もちろん、きみらの味方だ・・アイツらにはいましがた裏切られたばかりだし・・」
「・・あぁ、しってる・・でもアタシらもいましがた、あんたに裏切られたばかりなんだが?・・」
無言の圧にひきつるラルのかお。
「・・まぁいい・・たたかって挽回するんだね・・」
「・・あ、ぇ?、うん・・え?・・その、戦うって、だれと?・・」
「・・目ん玉ついてんのかおまえ?、きまってんだろ・・」
意気揚々(いきようよう)と、からだをほぐしはじめる兄弟。
「・・ちょ、もしかして奴らとたたかう気かあんたら?・・」
「・・うん・・」
「・・むろん・・」
「・・っで、・・この人数差で勝てるわけないだろ!?、そんなのすこし考えればだれでもわかることじゃ・・」
「・・わからないね・・オレぁ、頭わりぃんで・・」
「・・!?・・」
・・頭わるいって・・まぁ、否定はしないけど・・
「・・じゃ、逆にきくけどラル・・あんたはこの状況で逃げられるとおもう?・・」
「・・それは・・」
「・・じゃあ、生きのこる道は一択・・それに、まだ負けるときまったわけじゃない・・」
足を肩はばにひろげ、スタンスをとる妹。
「・・可能性があるかぎりたたかいつづける、それはレースも病気もおなじこと・・それに、こんなところでつまずいてる様じゃ、ナナトニになんて到底かないっこない・・」
たちどころに兄弟2人の目つきがかわる。
・・本気か、こいつら・・
「・・どれ、こころの準備はできたか御三方さん?・・やられるこころの準備は・・」
しかたなしにラルも身がまえる。そして、むこうのリーダー格らしきおとこの発声とともに、森がざわめくなか戦いがはじまる。
「・・さぁ、ショーの始まりだ!・・」
「・・ネスタ!・・」
「・・おぅ、アニキ!・・」
一斉に3人におそいかかる20人。入れかわり立ちかわりといった具合で、よけてもよけても次がくる。そんな防戦一方のさなか、第一波がおわる。
「・・ほぉ~、ラルはおいといて・・あんたら、おもったよりやるな?・・」
・・ふぅ~・・
・・20対3か・・いいねぇ♪、それでこそたたかい甲斐があるってもんだ・・
・・ひぃ~、あぶねぇよ・・こんなの5分ともたねぇよ・・どうしよ、マジで・・
足もとには色とりどりの落ち葉がちらばる。
「・・んで、どうする?、ネスタ・・」
「・・う~ん・・」
「・・ほれ、みたことか!、この人数差ではなっから勝ちめなんてないんだよ!・・」
ラルのやかましさに、ついついジト目になる兄弟。
「・・おぃ!・・」
「・・!?・・」
「・・それいじょうさわぐと、その口ぬいつけるぞ・・裏切者めが・・」
「・・ぐぅ・・」
「・・でも、このままじゃよろしくないのはちがいないね・・よし、決めた!、つっこむよ・・」
ネスタの奇策、しかしすぐにバイロンがそれに同調。
「・・なるほど、突っこむ、か・・いいね~、さすがはわが妹♪・・」
「・・!?・・正気かよおまえら!?、つっこむって、なんの勝算があっていってる?・・わるいがオレはぬけさせてもら・・」
「・・おぃ、きこえなかったか?・・あいにく、いま裁縫道具をもちあわせていねぇんだ、だからよぉ・・すこしだまれ、ポンコツ・・」
「・・・・・」
・・ポ、ポンコツ・・
「・・ぬけるとかいっても、そもそも逃げ道なんてないよ?・・」
「・・あぁ・・それにうらぎりもののおまえに選択権なんてもんはねぇ・・たすかりたきゃ、死ぬ気でオレらについてくるんだな・・」
脳筋兄弟にそういいくるめられると、苦虫をかみつぶすラル。
「・・そういや名前きいてなかったな、おまえらの・・」
そこにリーダー格のつり目のおとこが割ってはいる。
「・・おれらの名前もしらねぇだろうし、どうも段取りがわるくてすまない・・おれはスネーク、ってまて・・いまからくたばる奴になのる必要なんてあるのか?・・そもそもオレはそんな弱者の名前、しったところでうれしくもなんともねぇんだが・・メイソン、おまえはどうおもう?・・」
皮肉めいたジョークに、またも嘲笑がうずまくなか、2ラウンド目がはじまる。
「・・そういうことだから、わるいな・・たがいの名も知らぬまま、しんでくれ!・・」
はなたれる20名の配下、そのせつなだった。
「・・いくよ、アニキ・・」
しずかな決意表明とともに、親玉めがけつっこんでいく3人。とりまきをうまいことかいくぐり、めのまえには側近をしたがえたリーダー格のおとこ。
「・・!・・」
くりだされる右手。しかしネスタの攻撃はあとすこしのところでいなされる。
「・・オレねらいの奇襲か、なかなかにいい作戦だ・・でもざんねんだったな・・」
すぐさま、リーダー格のおとこから檄がとぶ。
「・・にがすな!・・やつらはもはや戦意喪失!・・血祭りにあげるぞ、おまえら!・・」
というのもネスタら3人、空ぶりついでにそのまま後方にはしりさっていくではないか。
「・・そういうことか、やるじゃないかアンタら・・こんなうまい逃げかたがあるんなら、まえもっていってくれよ・・ってかネスタ、おまえも一丁前のこといってて、結局逃げるんじゃんかよ・・まぁ、異論はないけどよ・・」
一列になりはしりさる3名、それを20名強がおいかける。
「・・ほんっと、よくしゃべるね・・うちの九官鳥よりもしゃべる・・」
・・飼ってたか?、うちで・・九官鳥なんて・・
「・・だーーれがにげるって!?・・」
「・・へ?・・」
ネスタが即刻足をとめると、むかえうつ。
・・まぁ、飼ってたとして・・どうせやかましいんなら、ポンコツのおまえより・・
「・・100倍九官鳥のがいいけどな!・・」
そして、あいまみえる双方。乱暴にたまをふんだくる兄と、かれいなたち回りをみせる妹。それをみて、ラルがなにかに気づく。
・・?・・あれ、たたかえてる・・なんで?・・そうか!、追ってくるにもそれぞれバラつきがある・・きた順にやっちゃえば人数差なんてかんじない・・あたまいいじゃん♪、アイツら・・
「・・とまれぃ!・・」
号令とともにおくれてあらわれるリーダー格のおとこ。
「・・ずいぶん味なマネしてくれるじゃねぇか、おたくら・・にげるとみせかけて、うちの連中をたてつづけに5人もやってくれちゃって・・」
「・・あれ?・・兄貴、ラルは?・・」
「・・あ、そういや・・いねぇな・・」
「・・ふぅ・・」
にげるとみせかけたはずが、1名がほんとにちゃっかり逃走してしまう。
「・・ありゃ、クズの典型だ・・あきらめろ、ネスタ・・」
「・・ったく、ラルのやつ・・」
さすがのネスタもあきれ顔。
「・・ブランドン、メイソン、おまえらは男をやれ・・レイデンおまえは女だ・・」
「・・おぃ!、あんたら!・・1名逃亡したようだが、いいのか?・・」
「・・ああ、問題はない・・こしぬけの球はいつでもとれる・・」
そういうと、側近3名がまえにおどりでる。
「・・ようやく、主力のおでましか・・」
いっぽうで、逃げおおせたラル。
・・しかたなかった・・うらぎったのも、逃亡したのも、やらなきゃたすからなかった・・いくら作戦がうまいこといっても、いくらあの2人がつよくても、あの人数差でやつらにかなうはずがない・・それにまだむこうは主力の3人を温存している・・
えてして集中砲火をあびる渦中の2人。主力3名を筆頭に、苦戦をしいられる。
「・・くっ!・・」
「・・どうしたよ!、おまえらこんなもんか!?・・」
・・ここにとどまってたら、まえとおなじで標的にされるだけ・・アニキとははなれちまうが、この際しゃあない・・
兄とアイコンタクトをとると、敵のひとりの背中にネスタがはりつく。そのまま追尾がてら、うまいことこのばから離脱していく。
「・・にがすな!・・」
おのずと二分される敵勢力。しかしさきほどまでのような、深追いはない。
「・・おなじ手を、くうかよ・・」
そして兄弟同士がギリ、目のとどくはんいでとまる。
「・・地味に人数削りやがって、ムカつくやろうだ・・だが、いいかげん認めなくちゃならねぇようだな・・」
すると、ついに奥からあらわれる親玉。
「・・Lank76529・・スネーク・ジョーンズだ・・」
「・・Lank81093・・レイデン・ポプラ・・」
「・・Lank8453・・ネスタ・デ・シエよ・・」
・・やはりこいつ、一千台・・
触発されてか、むこうもしぜんと名のりあう。
「・・Lank94533・・ブランドン・クチェク・・」
「・・Lank92701・・メイソン・オブドロン・・」
「・・Lank5983・・バイロン・デ・シエ・・」
当初20名強いた戦力はのこすところ14名となり、そこからさらに二手にわかれ7対1の図式に。
「・・もうおまえらをあなどるのも、高見の見物もやめるよ・・そのかわり、ここからはオレもふくめ全力でおまえらをたたきふせる!・・覚悟するんだな・・」
親玉がへびのごときにらみを利かすと、むこうがさきにうごく。
「・・いくぞ、レイデン!・・」
双方、主力2名を先頭にはなたれる7人。
「・・メイソン!・・」
「・・ブランドン!・・」
そのいままでになく統率のとれた陣形が、2人におそいかかる。そんななか、またも隙をみてはあいてひとりのうしろをとるネスタ、だったがそれが裏目にでる。
「・・おなじ手は、くわんといったよな?・・」
カウンターで逆にうしろをとられてしまう。
「・・くっ!・・」
ひきはなそうともがく内に、めのまえの獲物をとりにがしては、またしても7対1。そして、その均衡がやぶれぬまま20分が経過する。
「・・ハァ、ハァ、・・」
・・しつけぇ、こいつら・・人数がけずれねぇ・・
・・親玉のこいつがでてきてから、あきらかにほかの連中のうごきがかわった・・あらたな策をみつけないと、こちらがジリ貧・・!?・・
そのときだった、ふとひだり手に目がおちるネスタ。
・・4時20分・・たたかいに夢中できづかなかった・・はやく、薬をのまないと・・!・・
しかし、途中でまさぐる手がとまる。
・・だめだ、のめない・・のむわけにはいかない・・・のめば、奴らにやられる・・
ポケットからすべりおちる手。
・・シェーグレン・・特効薬のないナナトニ唯一の治療薬とされる向精神薬の一種・・ナナトニを発症すると患者は1日3回の服用が義務づけられ、おもにAM8時、PM4時、AM12時の8時間おき・・もしのみわすれたとしても30分、そのデットラインを超えさえしなければ命の危機にさらされることはまずない・・もうひとつは副作用・・どのくすりにもある副作用だが、このシェーグレンの副作用は、口渇、性機能障害、それと・・運動能力のいちじるしい低下・・
にぎり込むこぶし。
・・のこり10分・・ここでくすりをのまなければ命の保障はない・・でものめば、まず確実にやつらにやられるだろう・・薬をのめば命はたすかるが、レースはおわる・・のまなければ奴らにかてるかもしれない、だがいのちは危険にさらされる・・ハッ・・神のやつ、まったく毎度毎度こまった選択をさせやがる・・
間髪をいれず、せまりくる7人。
・・そもそも、あたしはなんの為にラドックス星にきた?・・そう、ナナトニを治すため、そのヒントをこの星でみつけるため・・たしかに、いま薬をのめば命はたすかるのかもしれない、でもレースは終わる・・
その瞬間、ほころぶ口元。
・・なに悩んでたんだ、アタシ・・じゃあ、はなっから一択しかないじゃんか・・だってレースがおわるってことは、あたしの人生が終わるのとおなじこと・・だってここでナナトニを治せなきゃ、あたしに未来はないの・・
すると、ポケットからとりだされる直方体。
・・生きのこる道はひとつ・・いいわ、やってやろうじゃないの・・
そして、プラスチック容器が宙をまうと、さじはなげられる。
・・薬は・・捨てる!・・
かたや、バイロンも攻めあぐねていた。
・・突破口がみつからねぇ・・こいつら単体ではそうでもねぇくせに、まとまるとなにかとやっかいだ・・どうしたもんか・・
ふと、妹のほうに目をやる。すると、兄の目におもいがけない光景がとびこんでくる。
「・・!・・ネスタ!?・・」
そこには胸をおさえ、身をかがめる妹のすがたが。とっさに、ひだり手のひも時計をみる。
・・4時35分・・もしかして、まだ飲んでないのか?・・くすりを・・
そのあいだもバイロンに執拗につきまとう相手方7人。
・・なんで、なぜ飲まねぇ?、ネスタ・・まさか・・
そんなとき、いつのひか妹がなにげなく発したあることばをおもいだす。
「・・さっきのは、なし・・いい訳じゃなく、アニキにはしり負けたのはこいつのせい・・このシェーグレンの副作用は運動能力の低下、だからこんどはあたしがくすりをのむ直前にでも、あらためて勝負しようよ♪・・ねぇ、アニキ、いいでしょ?・・」
・・副作用・・
あわてて進路をかえるバイロン。
「・・ネスタ!・・」
しかし、そこに2名の敵主力がたちはだかる。
「・・おい、どこ行く気だ?・・」
「・・行くのはうちらをたおしてからだ・・」
あせるバイロンを尻目に、ネスタらはなおもはげしさを増す。
・・この運動量で長期戦なら、さすがにこちらに分がある・・そのたま、いたくぞ、女!・・
しかし窮地にたちながらも、ネスタはふしぎとなつかしさをおぼえていた。
・・からだから薬がぬけていくのをかんじる・・3年ぶりか、この感覚・・
すると、たちまち劣勢だった局面をもりかえしていく。
・・こいつ!・・
・・まるで、あたまのモヤが晴れていくみたいだ・・どうじに肉体本来の鋭敏さもあらわになっていく・・うごきがにぶくなるのをおそれてやめた薬だったが、ぎゃくにこれほどの俊敏性が
手にはいるとは・・いつしかわすれていた、この感覚・・でもこれなら、突破口をさがさずとも・・突破口になる!・・
そして、ついに7対1の均衡がくずれる。かのじょの手ににぎられるまっくろな球体。
・・あと、6つ・・
そんな妹に呼応するように、兄もギアをあげる。2人をけちらすと、木の葉が宙をまう。
・・あと、5つ・・
めまぐるしい攻防、そのなかで着実にしとめていく。
・・あと、4つ!・・
交錯する右うで。
・・あと、3つ!・・
・・こいつ、息をふき返したどころのさわぎじゃねぇ・・どう説明すれば、こうなる!?・・
「・・くそぅ、くそぅ、くそぉぉぉ!・・」
そして理性をうしなったリーダー格のおとこの肩に、ついにネスタの手がふれようとした、そのときだった。
・・ドクン・・
突として、かのじょの体がくずれおちる。
・・ネスタ?・・
「・・ネスタぁぁぁ!・・」
「・・だからぁ!、おまえのあいてはオレらだって・・」
「・・言ってんだろ!・・」
めのさめるような主力2人の攻撃が、バイロンのゆく手をはばむ。
「・・ちっ!・・」
・・ついに、きやがったか・・覚悟はしていたが、これほどとは・・こころが、とんでもなく痛い・・
そのばにうずくまるネスタ。
・・そうだ・・ハハっ、そりゃそうだ!・・30分以上ひとりでたたかっていて、平気なはず・・
「・・ねぇよな!・・」
形勢逆転、反対にネスタにしのびよる親玉のひだり手。
・・ここで終わりなの?、なにもかも・・いや、まだおわれない・・おわっちゃいけない・・アタシなんかのために、涙をながしてくれた親友がいる・・わけもきかずに別れてくれた、おさななじみの恋人・・ユーパンでひとり、帰りをまっていてくれる母さん・・それになにより、あたしがナナトニと診断された翌日には、あたしをはげまそうとあたしの惑星班がある首筋とおなじところにイレズミをいれてかえってきたあにき(そのご、それきっかけではまったのか、日に日にそこかしこにイレズミが謎にふえていったけども)・・そんな、さいごまであたしを信じ、ついてきてくれた、だれよりもやさしいアニキ・・みんな、みんなのためにも!・・アタシがここで、おわっていい筈がないんだ・・いい筈が!・・
「・・これで、終わりだ!・・」
「・・ないんだぁぁぁ!・・」
その瞬間、ネスタのからだがきりもみ状に回転する。ふきとび、尻もちをつく3人。
・・!?・・こいつ、まだうごけるのか?・・
ふし目がちにたつネスタ。しかしうつろで、あきらかに様子がおかしい。
・・いや、ちがう・・いまのはいわばネズミのさいごっぺ、やつのからだはもはや風前の灯・・ここでたたみかければ!・・
「・・いくぞぉ、おまえらぁぁ!・・」
リーダー格のかれの絶叫が、2人のとりまきを再びふるいたたせる。
・・あたしはあきらめない・・たとえ痛みで気絶しようとも、手足がひきちぎられようとも、いのちがつづくかぎりたたかいつづける・・
・・勝つのは、オレらだぁぁぁ!・・
・・それがアタシの、生きかたよぉぉぉ!・・
ぶつかる双方。そしてターコイズブルーの空のもと、勝敗が決する。たたかいの熾烈さをものがたるように、かれ葉のうえにはいくつものライフボールの残骸。しぼんだモノと原形をとどめたモノ。そんななか、ひとりの両ひざがおちる。
「・・なんで、・・なんでおれらが負ける?・・それもおんなに・・死に底ないのおんななんかにぃ!・・」
途方にくれる敵の7人。
・・なんとか、勝てたみたいね・・それはそうと、はやくアニキをたすけにいか、ない、と・・
よろめく足どり。そしてついに、かのじょの肉体が限界をむかえる。
・・あれ、なんだ、アニキ?・・アニキもぶじだったか、よかった・・
みあげれば、そこには兄のかおが。
・・でも、今回はあたしの勝ち♪・・どうだアニキ、だからいっただろ?、くすりの副作用がなければアニキにだって負けやしないって・・へへっ・・
かすむ情景。
・・でも、アニキ・・ほんとありがとう、いままであたしを信じてくれて・・あたしにとってアニキは、まちがいなく・・世界一の、アニキ・・だよ・・
そしてバイロンの必死のよびかけもむなしく、兄のうでのなかでネスタの意識はとおのいていくのだった。




