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歩道には、小学1年生らしき黄色いやんちゃぼうずをひきつれた父兄ふけいのすがたがみえる。3年まえの春、わたしは医者から病気であることをつげられた。病名はナナトニ機能性障害きのうせいしょうがい通称つうしょうナナトニ。当時21才だったわたしは、保育士ほいくしとしてはたらきはじめたばかり。そんなあるひ、突如宣告とつじょせんこくされた病。ショックだった、なにもかんがえられないほどに。社会人としてのこれからが、一瞬いっしゅんでくずれさっていった。それから1ヶ月もたたずして、わたしは職場しょくばをやめた。やめてからというもの、わたしは兄と必死でナナトニの治療法ちりょうほうをさがした。昼間は病院をめぐり、夜はおそくまでPCの液晶板えきしょうばんとにらめっこ、しかしおもわしい結果がえられることはなかった。わたしには夢があった。ひとつは保育士になること、そしてもうひとつはおよめさんになること。かれとは小学生のころからのおさななじみで、高校のときにつきあいはじめ、いつか結婚けっこんしようと口約束くちやくそくをかわした仲だった。そんなかれにも3年まえ、別れをつげた。そうしてかれのお嫁さんになることも、ましてや黄色いやんちゃぼうすの母になるゆめもたれたわたし。あるひ突然うばわれた未来、つきつけられた後先まもない命、ナナトニがわたしの人生を180度かえた。そしていま、わたしはここラドックス星の地にいる。

                              ネスタ・デ・シエ                    



                    6

 

 リスミー暦※338年11月26日 大会4日目(3日前)


 朝もやのなかを疾走しっそうする2人。ひとりはピンクのパーカーにくろのスカート、頭部には中華料理店看板娘ちゅうかりょうやかんばんむすめかおまけの、くれない色のおだんごがふたつ。もうひとりはこんの髪とTシャツにくろのGパン、首もとと両うでにはタトゥーらしき文様もんようがみえる。スタートから7時間。

「・・おい、ネスタ・・だいじょうぶか?・・」 

「・・ああ、問題ない・・アニキ・・」

「・・そうか・・でもな・・」

 兄の手がそっといもうとの肩にふれる。

「・・はいはい、わかりましたよ・・」

 そんな兄のおもいをっしたちどまると、ポケットからサイコロ大の立方体りっぽうたいをとりだし、両はしの角をかるく2回おしこむ。するとテユ箱が起動きどう、ふくらみだす。その1分たらずで直径ちょっけい1mほどになった箱のなかからタオルとペットボトル、栄養価えいようかたかめのお菓子かしをえらぶと、汗をふき、のどをうるおし、ラドックス星名物、太陽系惑星たいようけいわくせいドーナツがちゅうをまう。

「・・ほれ!・・」

「・・おぅ、サンキュ♪・・」

 手ごろな石に2人こしかけ、しばしのブレイクタイム。

・・ネスタのやつ、近ごろ具合ぐあいがわるそうだったが、ここ何日かは元気そうでよかった・・そういや、ここにきてからか?・・

・・黄空きぞらといわれるクリーム色のそらに、雲とうっすらみえる惑星わくせい・・みわたすかぎりにひろがる雪山と、時折ときおりひょっこりかおをだす野生どうぶつたち・・それに、すんだ空気・・

 あまりの居心地いごこちのよさに、おもわず両の手をひろげノビをしてしまう妹。

・・そとで食べるメシがこんなにうまいなんて、ほんっとひさしぶりだ(まぁ、飯といってもドーナツで、3年前にナナトニになってからそこまで味はしなくなっちまったん、だけどもさ)・・

 ぴーひょろと小鳥たちのさえずりがきこえてくる。

・・自然って、やっぱすげぇや・・ここでなら、もしかして・・みつかるかも・・

 すると、兄がたちあがる。

「・・どれ、行くか?、そろそろ・・」

「・・うん・・」 

 そんなおやつタイムをおえた矢先のこと、岩かげからなにかがあらわれる。

「・・!・・」

 とっさにみがまえる兄弟ふたり。

「・・あ、・・どうも・・」

 ふぞろいな金髪きんぱつのおかっぱあたまに黄ばんだYシャツ、黒のみじかめのネクタイにスラックスをはき、年は20代前半ほどとみうけられる。

「・・Lank5983・・バイロン・デ・シエ・・」

「・・Lank8453・・ネスタ・デ・シエ・・」 

「・・え、えっと・・ラル・シンク・・Lankは210218です・・」

 この名のりあいをきに、緊迫感きんぱくかん最高潮さいこうちょうに。

「・・ネスタ!・・」

「・・ああ、アニキ!・・」

「・・いくぞ!・・」

 そうして2人がうごきだそうとした、正にそのときだった。 

「・・ちょちょちょ、ちょい待ち!・・タンマタンマ、タンマ!・・」

「・・?・・」

 手の平をつきだすジェスチャーをみせる金髪おかっぱのおとこ。

「・・いや、ちがうんです・・はじめから戦いにきたんじゃなく、ただ話しがあってきたんです・・」

「・・話し?・・」

「・・はい、もしよろしければですが・・オレといっしょに行きませんか?・・」

「・・はぁ?・・」

「・・いっしょに?、アンタと?・・」

 コクリうなづくと、両手をホールドアップしたまま話しをつづける。

「・・いや、ムリにとは言いませんが・・4日目にはいって、団体行動だんたいこうどうしてるひとたちもチラホラみうけられますし、その方がなにかと心づよいというか、便利べんりかなぁっとおもいまして・・」

「・・便利、ねぇ~・・」

「・・・・・」

 金髪おかっぱおとこをなおざりに、あたりは水を打ったようにシーンとしずまりかえる。

「・・はい、あのぉ~・・も、もし、よかったらの話し・・です、けど・・」

 そんなしどろもどろのやつに、デ・シエ兄が言及げんきゅう

「・・言いたいことはわかったが、おぃおまえ!・・」

「・・!?・・」

「・・おまえを連れていくメリットは?・・」

「・・お、おれを連れていくメリット、ですか?・・」

「・・そうだろ?、そりゃ・・Lank20万台のやろうが、即戦力そくせんりょくになるとはとてもおもえねぇ、んだが?・・」

 ごもっともな正論せいろんのまえに、ぐうの音もでないでちぢまこまるおとこ。

「・・いいじゃん、アニキ・・」

 しかしいがいやいがい、そこに助けぶねがでる。

「・・ここで会ったのもなにかのえんだし、2人も3人もたいしてかわらないよ・・」

「・・でもな・・」

 しぶる兄をよそに、案外乗あんがいのりきな妹。

「・・きみ、名前はなんだっけ?・・」

「・・ラル・シンクです・・あ、ラルでいいです・・」

「・・ラルか・・あたしはネスタ、こっちは兄貴のバイロン・・よろしくね♪・・」

「・・おまえな、かってに・・」

「・・いいじゃん・・ここにきてだれとも接点せってんなかったし、なかまもおおいほうがなにかと楽しいよ・・」

「・・だから、そういうことじゃねぇだろ?・・いまさっき会ったばかりのこいつが、なかまとして信頼しんらいできるかどうかもうたがわしいってのに、好奇心こうきしんで、ただおもしろそうだからいっしょに連れていくとか(そもそも20万台のやつが戦力になるはずがねぇし、こいつはどうみてもあやしい)・・第一、オレらはここになかよしごっこするためにきた訳じゃ・・」

「・・わかってる、アニキ・・わかってるよ・・」

「・・*$<%#&'=~、ったく・・おひとよしな妹に感謝かんしゃするんだな・・金髪おかっぱやろう・・」

 そして3人は走りだす、たがいの素性すじょうもしらぬまま。

・・金髪、おかっぱやろう・・か・・

「・・ところで、ラル・・きみはなぜこのレースに?、賞金目当しょうきんめあて?・・」

「・・まぁ、そんなとこかな・・ネスタ、きみは?・・」

「・・?!・・」

 タトゥー入りゴリムキマッチョの兄が、みかけによらず過敏かびんに反応。

・・おぃ、なに出会って3分そこそこでフランクにおれの妹とはなしてやがる?・・いままでどおり敬語けいごをつかえ、敬語を・・

「・・あたしは、病気を治すためにラドックス星にきた・・」

「・・病気を、治すため?・・」

「・・ああ・・」

 よくみると、かのじょの首筋にはうっすらと〇と△で形どられたオレンジの紋様もんようがうきあがっている。

「・・なんか、ごめん・・」

「・・あやまらなくていいよ、別にひみつにしてたわけじゃない・・それに最初にきいたのはアタシのほうだし・・」

 併走へいそうする2人と、それを先導せんどうするゴリムキマッチョ。

「・・もしよければだけど、その病気ってのはどんな病気なの?・・」

「・・おぃ、おまえ!・・」

「・・ひぃ~、ごめんなさいぃ・・いまのナシ、いまのナシ!・・」

 すかさずふりかえる兄からかみなりがおちると、それをみて妹がケタケタと笑う。

「・・いいよ、別にきいても・・かくしてるわけでもないし・・あたしはね、ナナトニなんだ・・」

「・・!?・・」

・・やっべ、マジでやっべーのきいちゃった・・あぁ、どうしよ?・・アニキに殺される・・

 きまずさ再燃さいねん、しかしまたもネスタの天真爛漫てんしんらんまんさにすくわれる。

「・・ほら、ここの首んとこに模様もようがあるでしょ?・・これがナナトニ患者特有かんじゃとくゆう惑星半わくせいはんってやつ・・だから賞金目当てっていうよりあたしは、ナナトニをなおすためにこのラドックス星にきたんだ・・」

「・・へぇ~、そうなんだ・・え、でも、ナナトニを治すためにきたって、具体的ぐたいてきにはどういう・・こ、と?・・」

 にらみをきかす兄に戦々恐々(せんせんきょううきょう)としながらも、なぜかリスクをかえりみずさらに深掘ふかぼりしていく。

「・・あぁ、それか・・話せばながくなるんだけどかんたんに説明すると、このままユーパンにいてもナナトニはなおらないと感じた・・たしかに医療技術いりょうぎじゅつは日々進歩ひびしんぽしているかもしれない、でもナナトニはこころの病・・いくら医学が進歩したところでひとの心はなおせない・・むしろ科学発展かがくはってんはどこか、こころをおきざりにしている部分があるとさえおもうしね・・ましてや、あのうえからしたまで人工物まみれの汚染おせんされたくすんだせかいじゃなおさら・・だからこの星にきた、もちろんここでならなおせるなんて保証ほしょうはどこにもない・・でも可能性かのうせいはあるとおもった、すくなくともユーパンよりは・・直感的ちょっかんてきにだけどね・・」

 黄空のあいまから、バト・キアリのがさしこむ。そんななか、先頭をゆくバイロンにうごきが。

「・・ところで、えっとラルだっけ?・・おまえ球は?・・」

「・・あ、まだです・・」

「・・じゃあ、ちょうどいい・・」

 アゴでくいっと指ししめされた方角に、3つのひと影。 

「・・いくぞ!・・」

 とたんにギアをあげる兄弟。たちどころに差はちぢまり3人を射程圏しゃていけんにとらえる、が誤算ごさんがひとつ。

「・・おい、ネスタ・・やっぱ破門はもんにしようぜ、あいつ・・」

「・・ははっ、・・まぁまぁ・・」

 必死にあとをおうラル。

・・この兄弟、なんてスピードしてやがる!・これが一千台ランカー・・ 

 そして、ようやく2人の元に。

「・・きたか、おせーぞ・・」

「・・すいません・・」

「・・おかえり♪・・」

「・・で、どうする?・・」

「・・だいじょ、ぶです・・いき、ましょう・・」

「・・よっしゃ!・・」

「・・ちょ、アニキ・・まったまった!・・」

「・・?・・どした、ネスタ?・・」

「・・いや・・ラルはいまきたばっかだしさ、さすがにすぐはムリだって・・」

「・・でも、本人はイケるっていってるぞ・・なぁ?!・・」

 こえはとどかないが、水面のエサにむらがる淡水魚たんすいぎょのごとく、くちをパクつかせている。

「・・ほら?・・」

「・・ほら?、じゃねぇよ・・よく言えたなそのセリフ・・あにきのドSっぷりには、毎回感服まいかいかんぷくするわ・・」

「・・へへっ・・」

 そして走りながらではあるものの、ことばとはうらはらになんだかんだラルの回復をまつバイロン。あたりはいつしか木々がうっそうとおいしげる森林地帯しんりんちたいへと突入とつにゅう。するとしばらくして、まえをいく3人が足をとめる。

「・・ずいぶんとおそかったな・・」

「・・?・・」

 どこからともなく声がしたかとおもえば、木陰こかげからひとがあらわれる。その数、20人ちかく。

「・・あっちゃ~・・こりゃ、やられたな・・」

「・・だね、アニキ・・」

 そんななかまんしてかおをだすは、リーダーかくらしきひとりのおとこと3人の側近そっきん。 

「・・まったわりに、すくねぇじゃねぇか・・レイデン・・」

「・・おれにいうなよ、スネーク・・言うならラルに言え・・」

「・・!・・」

 たちまちにして、すべてをさっする兄弟。

「・・ラル、おまえ・・」

「・・・・・」

 側近3人のまえにおどりでるスネークとよばれるそのおとこは、中央分けのブロンドヘアーにみどりのつり目、かわジャンにレザーパンツと黒で統一とういつされたいでたちをしている。

「・・まぁ、2人だとしても連れてきたことにかわりはねぇ・・よくやった、ラル・・」

 きづけば、包囲網ほういもうのなかにいる3人。

「・・これであんたののぞみはかなえた、約束どおりぬけさせてもらう・・」

「・・すきにしろ・・」 

 そして2人のもとからはなれていくラル。かこいの外にでようとした、そのときだった。

「・・!・・」

 連中にうでをつかまれると、もといた場所にほうりもどされる。

「・・っで!・・どういうことだ、スネーク!?、はなしがちがうじゃねぇか?・・えものをつれてきたら、おれだけは解放かいほうしてくれるって約束だろ!?・・」

「・・はて?、そんな約束したっけ?・・なぁ、ブランドン・・」

「・・くぅ・・」

「・・つうか、20人に対してえものが2人じゃどうみてもたりないだろ?・・だからその責任せきにんもかねて、おまえのたまをいただくことに急遽予定変更きゅうきょよていへんこうしたんだよ・・」

 あざ笑われるなか、おきあがるラル。

「・・おかえり・・」

「・・どの面下つらさげてもどってきた?・・」

「・・ごめん、でもこうするしかなかったんだ・・」

 まじわることのない視線。

「・・おれらをエサにじぶんだけ助かろうとは、たいそうなご身分だこと・・」 

「・・・・・」

「・・で、ラル・・あんたはどっちの味方なんだ?・・」

「・・も、もちろん、きみらの味方だ・・アイツらにはいましがた裏切うらぎられたばかりだし・・」

「・・あぁ、しってる・・でもアタシらもいましがた、あんたに裏切られたばかりなんだが?・・」

 無言の圧にひきつるラルのかお。

「・・まぁいい・・たたかって挽回ばんかいするんだね・・」

「・・あ、ぇ?、うん・・え?・・その、戦うって、だれと?・・」

「・・目ん玉ついてんのかおまえ?、きまってんだろ・・」

 意気揚々(いきようよう)と、からだをほぐしはじめる兄弟。

「・・ちょ、もしかして奴らとたたかう気かあんたら?・・」

「・・うん・・」

「・・むろん・・」

「・・っで、・・この人数差にんずうさで勝てるわけないだろ!?、そんなのすこし考えればだれでもわかることじゃ・・」

「・・わからないね・・オレぁ、頭わりぃんで・・」

「・・!?・・」

・・頭わるいって・・まぁ、否定ひていはしないけど・・

「・・じゃ、逆にきくけどラル・・あんたはこの状況で逃げられるとおもう?・・」

「・・それは・・」

「・・じゃあ、生きのこる道は一択いったく・・それに、まだ負けるときまったわけじゃない・・」

 足を肩はばにひろげ、スタンスをとる妹。

「・・可能性があるかぎりたたかいつづける、それはレースも病気もおなじこと・・それに、こんなところでつまずいてる様じゃ、ナナトニになんて到底とうていかないっこない・・」

 たちどころに兄弟2人の目つきがかわる。

・・本気マジか、こいつら・・

「・・どれ、こころの準備はできたか御三方おさんんかたさん?・・やられるこころの準備は・・」

 しかたなしにラルも身がまえる。そして、むこうのリーダー格らしきおとこの発声とともに、森がざわめくなか戦いがはじまる。

「・・さぁ、ショーの始まりだ!・・」

「・・ネスタ!・・」

「・・おぅ、アニキ!・・」

 一斉いっせいに3人におそいかかる20人。入れかわり立ちかわりといった具合で、よけてもよけても次がくる。そんな防戦一方ぼうせんいっぽうのさなか、第一波だいいっぱがおわる。

「・・ほぉ~、ラルはおいといて・・あんたら、おもったよりやるな?・・」

・・ふぅ~・・

・・20対3か・・いいねぇ♪、それでこそたたかい甲斐がいがあるってもんだ・・

・・ひぃ~、あぶねぇよ・・こんなの5分ともたねぇよ・・どうしよ、マジで・・

 足もとには色とりどりの落ち葉がちらばる。

「・・んで、どうする?、ネスタ・・」

「・・う~ん・・」

「・・ほれ、みたことか!、この人数差ではなっから勝ちめなんてないんだよ!・・」 

 ラルのやかましさに、ついついジト目になる兄弟。

「・・おぃ!・・」

「・・!?・・」

「・・それいじょうさわぐと、その口ぬいつけるぞ・・裏切者めが・・」

「・・ぐぅ・・」

「・・でも、このままじゃよろしくないのはちがいないね・・よし、決めた!、つっこむよ・・」

 ネスタの奇策きさく、しかしすぐにバイロンがそれに同調どうちょう

「・・なるほど、突っこむ、か・・いいね~、さすがはわが妹♪・・」

「・・!?・・正気かよおまえら!?、つっこむって、なんの勝算しょうさんがあっていってる?・・わるいがオレはぬけさせてもら・・」

「・・おぃ、きこえなかったか?・・あいにく、いま裁縫道具さいほうどうぐをもちあわせていねぇんだ、だからよぉ・・すこしだまれ、ポンコツ・・」

「・・・・・」

・・ポ、ポンコツ・・

「・・ぬけるとかいっても、そもそも逃げ道なんてないよ?・・」

「・・あぁ・・それにうらぎりもののおまえに選択権せんたくけんなんてもんはねぇ・・たすかりたきゃ、死ぬ気でオレらについてくるんだな・・」

 脳筋のうきん兄弟にそういいくるめられると、苦虫をかみつぶすラル。

「・・そういや名前きいてなかったな、おまえらの・・」

 そこにリーダー格のつり目のおとこがってはいる。

「・・おれらの名前もしらねぇだろうし、どうも段取だんどりがわるくてすまない・・おれはスネーク、ってまて・・いまからくたばる奴になのる必要なんてあるのか?・・そもそもオレはそんな弱者の名前、しったところでうれしくもなんともねぇんだが・・メイソン、おまえはどうおもう?・・」

 皮肉ひにくめいたジョークに、またも嘲笑ちょうしょうがうずまくなか、2ラウンド目がはじまる。

「・・そういうことだから、わるいな・・たがいの名も知らぬまま、しんでくれ!・・」

 はなたれる20名の配下はいか、そのせつなだった。

「・・いくよ、アニキ・・」

 しずかな決意表明けついひょうめいとともに、親玉めがけつっこんでいく3人。とりまきをうまいことかいくぐり、めのまえには側近をしたがえたリーダー格のおとこ。 

「・・!・・」

 くりだされる右手。しかしネスタの攻撃こうげきはあとすこしのところでいなされる。

「・・オレねらいの奇襲きしゅうか、なかなかにいい作戦だ・・でもざんねんだったな・・」

 すぐさま、リーダー格のおとこからげきがとぶ。

「・・にがすな!・・やつらはもはや戦意喪失せんいそうしつ!・・血祭ちまつりにあげるぞ、おまえら!・・」 

 というのもネスタら3人、空ぶりついでにそのまま後方にはしりさっていくではないか。

「・・そういうことか、やるじゃないかアンタら・・こんなうまい逃げかたがあるんなら、まえもっていってくれよ・・ってかネスタ、おまえも一丁前いっちょまえのこといってて、結局逃けっきょくにげるんじゃんかよ・・まぁ、異論いろんはないけどよ・・」

 一列いちれつになりはしりさる3名、それを20名強がおいかける。

「・・ほんっと、よくしゃべるね・・うちの九官鳥きゅうかんちょうよりもしゃべる・・」

・・ってたか?、うちで・・九官鳥なんて・・

「・・だーーれがにげるって!?・・」

「・・へ?・・」

 ネスタが即刻足そっこくあしをとめると、むかえうつ。

・・まぁ、飼ってたとして・・どうせやかましいんなら、ポンコツのおまえより・・

「・・100倍九官鳥のがいいけどな!・・」

 そして、あいまみえる双方そうほう乱暴らんぼうにたまをふんだくる兄と、かれいなたち回りをみせる妹。それをみて、ラルがなにかに気づく。

・・?・・あれ、たたかえてる・・なんで?・・そうか!、追ってくるにもそれぞれバラつきがある・・きたじゅんにやっちゃえば人数差なんてかんじない・・あたまいいじゃん♪、アイツら・・

「・・とまれぃ!・・」

 号令ごうれいとともにおくれてあらわれるリーダー格のおとこ。

「・・ずいぶん味なマネしてくれるじゃねぇか、おたくら・・にげるとみせかけて、うちの連中をたてつづけに5人もやってくれちゃって・・」

「・・あれ?・・兄貴、ラルは?・・」

「・・あ、そういや・・いねぇな・・」

「・・ふぅ・・」

 にげるとみせかけたはずが、1名がほんとにちゃっかり逃走してしまう。

「・・ありゃ、クズの典型てんけいだ・・あきらめろ、ネスタ・・」

「・・ったく、ラルのやつ・・」

 さすがのネスタもあきれ顔。

「・・ブランドン、メイソン、おまえらは男をやれ・・レイデンおまえは女だ・・」

「・・おぃ!、あんたら!・・1名逃亡とうぼうしたようだが、いいのか?・・」

「・・ああ、問題はない・・こしぬけの球はいつでもとれる・・」

 そういうと、側近3名がまえにおどりでる。 

「・・ようやく、主力しゅりょくのおでましか・・」

 いっぽうで、逃げおおせたラル。

・・しかたなかった・・うらぎったのも、逃亡したのも、やらなきゃたすからなかった・・いくら作戦がうまいこといっても、いくらあの2人がつよくても、あの人数差でやつらにかなうはずがない・・それにまだむこうは主力の3人を温存おんぞんしている・・

 えてして集中砲火しゅうちゅうほうかをあびる渦中かちゅうの2人。主力3名を筆頭ひっとうに、苦戦をしいられる。

「・・くっ!・・」

「・・どうしたよ!、おまえらこんなもんか!?・・」 

・・ここにとどまってたら、まえとおなじで標的ひょうてきにされるだけ・・アニキとははなれちまうが、このさいしゃあない・・ 

 兄とアイコンタクトをとると、てきのひとりの背中にネスタがはりつく。そのまま追尾ついびがてら、うまいことこのばから離脱りだつしていく。

「・・にがすな!・・」

 おのずと二分にぶんされる敵勢力てきせいりょく。しかしさきほどまでのような、深追ふかおいはない。

「・・おなじ手を、くうかよ・・」

 そして兄弟同士がギリ、目のとどくはんいでとまる。

「・・地味に人数削にんずうけずりやがって、ムカつくやろうだ・・だが、いいかげんみとめなくちゃならねぇようだな・・」

 すると、ついにおくからあらわれる親玉。

「・・Lank76529・・スネーク・ジョーンズだ・・」

「・・Lank81093・・レイデン・ポプラ・・」

「・・Lank8453・・ネスタ・デ・シエよ・・」

・・やはりこいつ、一千台・・

 触発しょくはつされてか、むこうもしぜんと名のりあう。

「・・Lank94533・・ブランドン・クチェク・・」

「・・Lank92701・・メイソン・オブドロン・・」

「・・Lank5983・・バイロン・デ・シエ・・」

 当初20名強いた戦力はのこすところ14名となり、そこからさらに二手ふたてにわかれ7対1の図式ずしきに。 

「・・もうおまえらをあなどるのも、高見の見物もやめるよ・・そのかわり、ここからはオレもふくめ全力でおまえらをたたきふせる!・・覚悟かくごするんだな・・」

 親玉がへびのごときにらみをかすと、むこうがさきにうごく。

「・・いくぞ、レイデン!・・」

 双方、主力2名を先頭せんとうにはなたれる7人。

「・・メイソン!・・」

「・・ブランドン!・・」

 そのいままでになく統率とうそつのとれた陣形じんけいが、2人におそいかかる。そんななか、またもすきをみてはあいてひとりのうしろをとるネスタ、だったがそれが裏目にでる。

「・・おなじ手は、くわんといったよな?・・」

 カウンターで逆にうしろをとられてしまう。

「・・くっ!・・」

 ひきはなそうともがく内に、めのまえの獲物えものをとりにがしては、またしても7対1。そして、その均衡きんこうがやぶれぬまま20分が経過けいかする。 

「・・ハァ、ハァ、・・」

・・しつけぇ、こいつら・・人数がけずれねぇ・・

・・親玉のこいつがでてきてから、あきらかにほかの連中のうごきがかわった・・あらたなさくをみつけないと、こちらがジリひん・・!?・・

 そのときだった、ふとひだり手に目がおちるネスタ。

・・4時20分・・たたかいに夢中むちゅうできづかなかった・・はやく、薬をのまないと・・!・・

 しかし、途中とちゅうでまさぐる手がとまる。

・・だめだ、のめない・・のむわけにはいかない・・・のめば、奴らにやられる・・  

 ポケットからすべりおちる手。

・・シェーグレン・・特効薬とっこうやくのないナナトニ唯一ゆいいつ治療薬ちりょうやくとされる向精神薬こうせいしんやく一種いっしゅ・・ナナトニを発症はっしょうすると患者かんじゃは1日3回の服用ふくよう義務ぎむづけられ、おもにAM8時、PM4時、AM12時の8時間おき・・もしのみわすれたとしても30分、そのデットラインをえさえしなければ命の危機ききにさらされることはまずない・・もうひとつは副作用ふくさよう・・どのくすりにもある副作用だが、このシェーグレンの副作用は、口渇こうかつ性機能障害せいきのうしょうがい、それと・・運動能力うんどうのうりょくのいちじるしい低下・・

 にぎり込むこぶし。

・・のこり10分・・ここでくすりをのまなければ命の保障ほしょうはない・・でものめば、まず確実かくじつにやつらにやられるだろう・・薬をのめば命はたすかるが、レースはおわる・・のまなければ奴らにかてるかもしれない、だがいのちは危険にさらされる・・ハッ・・神のやつ、まったく毎度毎度まいどまいどこまった選択せんたくをさせやがる・・ 

 間髪かんぱつをいれず、せまりくる7人。

・・そもそも、あたしはなんのためにラドックス星にきた?・・そう、ナナトニを治すため、そのヒントをこの星でみつけるため・・たしかに、いま薬をのめば命はたすかるのかもしれない、でもレースは終わる・・

 その瞬間しゅんかん、ほころぶ口元。

・・なになやんでたんだ、アタシ・・じゃあ、はなっから一択いったくしかないじゃんか・・だってレースがおわるってことは、あたしの人生が終わるのとおなじこと・・だってここでナナトニを治せなきゃ、あたしに未来はないの・・

 すると、ポケットからとりだされる直方体ちょくほうたい

・・生きのこる道はひとつ・・いいわ、やってやろうじゃないの・・

 そして、プラスチック容器ようきちゅうをまうと、さじはなげられる。

・・薬は・・てる!・・

 かたや、バイロンもめあぐねていた。

・・突破口とっぱこうがみつからねぇ・・こいつら単体ではそうでもねぇくせに、まとまるとなにかとやっかいだ・・どうしたもんか・・

 ふと、妹のほうに目をやる。すると、兄の目におもいがけない光景こうけいがとびこんでくる。

「・・!・・ネスタ!?・・」  

 そこにはむねをおさえ、身をかがめる妹のすがたが。とっさに、ひだり手のひも時計をみる。

・・4時35分・・もしかして、まだ飲んでないのか?・・くすりを・・

 そのあいだもバイロンに執拗しつようにつきまとう相手方あいてがた7人。

・・なんで、なぜ飲まねぇ?、ネスタ・・まさか・・

 そんなとき、いつのひか妹がなにげなく発したあることばをおもいだす。

「・・さっきのは、なし・・いいわけじゃなく、アニキにはしり負けたのはこいつのせい・・このシェーグレンの副作用は運動能力の低下、だからこんどはあたしがくすりをのむ直前にでも、あらためて勝負しようよ♪・・ねぇ、アニキ、いいでしょ?・・」

・・副作用・・

 あわてて進路しんろをかえるバイロン。

「・・ネスタ!・・」

 しかし、そこに2名の敵主力がたちはだかる。

「・・おい、どこ行く気だ?・・」

「・・行くのはうちらをたおしてからだ・・」

 あせるバイロンを尻目しりめに、ネスタらはなおもはげしさをす。

・・この運動量で長期戦なら、さすがにこちらにがある・・そのたま、いたくぞ、女!・・

 しかし窮地きゅうちにたちながらも、ネスタはふしぎとなつかしさをおぼえていた。

・・からだから薬がぬけていくのをかんじる・・3年ぶりか、この感覚かんかく・・

 すると、たちまち劣勢れっせいだった局面きょくめんをもりかえしていく。

・・こいつ!・・

・・まるで、あたまのモヤがれていくみたいだ・・どうじに肉体本来にくたいほんらい鋭敏えいびんさもあらわになっていく・・うごきがにぶくなるのをおそれてやめた薬だったが、ぎゃくにこれほどの俊敏性しゅんびんせい

手にはいるとは・・いつしかわすれていた、この感覚・・でもこれなら、突破口をさがさずとも・・突破口になる!・・

 そして、ついに7対1の均衡がくずれる。かのじょの手ににぎられるまっくろな球体。

・・あと、6つ・・ 

 そんな妹に呼応こおうするように、兄もギアをあげる。2人をけちらすと、木の葉がちゅうをまう。

・・あと、5つ・・

 めまぐるしい攻防こうぼう、そのなかで着実ちゃくじつにしとめていく。

・・あと、4つ!・・

 交錯こうさくする右うで。

・・あと、3つ!・・

・・こいつ、息をふき返したどころのさわぎじゃねぇ・・どう説明すれば、こうなる!?・・

「・・くそぅ、くそぅ、くそぉぉぉ!・・」

 そして理性りせいをうしなったリーダー格のおとこの肩に、ついにネスタの手がふれようとした、そのときだった。  

・・ドクン・・  

 とつとして、かのじょの体がくずれおちる。

・・ネスタ?・・

「・・ネスタぁぁぁ!・・」

「・・だからぁ!、おまえのあいてはオレらだって・・」

「・・言ってんだろ!・・」

 めのさめるような主力2人の攻撃が、バイロンのゆく手をはばむ。

「・・ちっ!・・」

・・ついに、きやがったか・・覚悟かくごはしていたが、これほどとは・・こころが、とんでもなく痛い・・

 そのばにうずくまるネスタ。

・・そうだ・・ハハっ、そりゃそうだ!・・30分以上ひとりでたたかっていて、平気なはず・・

「・・ねぇよな!・・」

 形勢逆転けいせいぎゃくてん、反対にネスタにしのびよる親玉のひだり手。

・・ここで終わりなの?、なにもかも・・いや、まだおわれない・・おわっちゃいけない・・アタシなんかのために、なみだをながしてくれた親友しんゆうがいる・・わけもきかずに別れてくれた、おさななじみの恋人こいびと・・ユーパンでひとり、帰りをまっていてくれる母さん・・それになにより、あたしがナナトニと診断しんだんされた翌日よくじつには、あたしをはげまそうとあたしの惑星班がある首筋くびすじとおなじところにイレズミをいれてかえってきたあにき(そのご、それきっかけではまったのか、日に日にそこかしこにイレズミがなぞにふえていったけども)・・そんな、さいごまであたしを信じ、ついてきてくれた、だれよりもやさしいアニキ・・みんな、みんなのためにも!・・アタシがここで、おわっていいはずがないんだ・・いい筈が!・・

「・・これで、終わりだ!・・」

「・・ないんだぁぁぁ!・・」

 その瞬間、ネスタのからだがきりもみ状に回転する。ふきとび、しりもちをつく3人。

・・!?・・こいつ、まだうごけるのか?・・

 ふし目がちにたつネスタ。しかしうつろで、あきらかに様子がおかしい。

・・いや、ちがう・・いまのはいわばネズミのさいごっぺ、やつのからだはもはや風前のともしび・・ここでたたみかければ!・・

「・・いくぞぉ、おまえらぁぁ!・・」

 リーダー格のかれの絶叫ぜっきょうが、2人のとりまきを再びふるいたたせる。

・・あたしはあきらめない・・たとえ痛みで気絶きぜつしようとも、手足がひきちぎられようとも、いのちがつづくかぎりたたかいつづける・・

・・勝つのは、オレらだぁぁぁ!・・

・・それがアタシの、生きかたよぉぉぉ!・・

 ぶつかる双方。そしてターコイズブルーの空のもと、勝敗しょうはいが決する。たたかいの熾烈しれつさをものがたるように、かれ葉のうえにはいくつものライフボールの残骸ざんがい。しぼんだモノと原形げんけいをとどめたモノ。そんななか、ひとりの両ひざがおちる。

「・・なんで、・・なんでおれらが負ける?・・それもおんなに・・死に底ないのおんななんかにぃ!・・」

 途方とほうにくれる敵の7人。

・・なんとか、勝てたみたいね・・それはそうと、はやくアニキをたすけにいか、ない、と・・

 よろめく足どり。そしてついに、かのじょの肉体が限界げんかいをむかえる。

・・あれ、なんだ、アニキ?・・アニキもぶじだったか、よかった・・

 みあげれば、そこには兄のかおが。 

・・でも、今回はあたしの勝ち♪・・どうだアニキ、だからいっただろ?、くすりの副作用がなければアニキにだって負けやしないって・・へへっ・・

 かすむ情景じょうけい

・・でも、アニキ・・ほんとありがとう、いままであたしを信じてくれて・・あたしにとってアニキは、まちがいなく・・世界一の、アニキ・・だよ・・

 そしてバイロンの必死のよびかけもむなしく、兄のうでのなかでネスタの意識いしきはとおのいていくのだった。

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