表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/18

13

 リスミー暦※338年11月24日 大会2日目(5日前)


 むこうに人影がいくつかみえる。バト・キアリがりつける白日はくじつのそらのもと、ひとつの球をうばいあうおとこたち。

「・・おい、なにモタモタしてやがる!・・」

 みたところ、4対1の様相ようそうていしている。すると、4人が先にうごく。

「・・たったひとりに負けたんじゃ、オレたちの面子めんつがたたねぇんだよ!・・」

 せまりくる4人。しかしひとたび体に回転をくわえると、マタドールさながらにたちまわる男。きづけば4人の肩にたまはなく、悪態あくたいづくまもなく勝者はそのばをあとにする。

・・2日目・・いまだナナトニを治すヒントはみつからない・・そもそもここにきた意味はあるんだろうか?、ユーパンになおす手立てがないからといって、ここにある保障ほしょうなどどこにもないってのに・・

 そうエイビャンがはしりながら物思いにふけっていると、ふと前方でなにかがうごく。

「・・ん?・・」

 2匹のシカが草にむさぼりつくすがたに、ふと足がとまる。

・・なんだ、シカか・・

 そのものめずらしさから、ついつい見入ってしまうエイビャン。

・・いや、シカだ、初めてみた!・・それも野生やせいの・・

 すると、ほどなくしてシカが逃げだす。そのようすを何気にみていた、そんなときだった。

「・・うぅわ・・」 

 こんどは360度、シカのむこうにひろがるは雪化粧ゆきげしょうされたやまやま。その壮大且そうだいかつ、圧倒的あっとうてきスケールをまえに、ただただ呆気あっけにとられる。

・・マジか、これが自然・・はなしにはきいていたが、これほどとは・・こんなにうつくしいものがこの世には、あるのか、ビビるぜ・・いくらでもみていられる、いや、みていたい・・みているだけで、それだけでからだの気負きおいはなくなり、こころが浄化じょうかされていくようだ・・こんな感覚、しょうじきはじめてだ・・ユーパンのそれとは雲泥うんでいの差、いやくらべるのすらおこがましい・・それとここ・・

 胸に手をあてがう。

・・いままで、あるものといえば痛みや違和感いわかんのたぐいしかなかったってのに、いまはあたたかい・・むねが、こころが温かい・・こんなに、こんなにも温かくみたされた気持ち、いつぶりだろう・・

 きがつくとは色をかえ、かたむきだす。

・・レースはまだ2日目・・勝負はこれから・・

 大自然のおかげで気分一新きぶんいっしん、エイビャンがふたたびしずかに闘志とうしをもやしていた、そんな去りぎわ。

「・・ん?・・」

 またも30mむこうのがけのうえに、なにかをみつける。

・・ん?、動物?・・いや、ちがう・・人!?・・

 休憩中きゅうけいちゅうの選手とおもわれたが、すこしようすがおかしい。

・・おいおい、にしても近すぎやしない、ですか・・

 みれば、崖のふちまであと数歩のところまでせまっているではないか。しかも、なおもその歩みはとまらない。

・・ちょ!、冗談だろ!?・・

 そのばへと急行するエイビャン。

・・たのむ!、落ちてくれてんじゃねぇぞ!・・

・・はるばるラドックス星まできたっていうのに、なにもせずしてこころが悲鳴ひめいをあげてる・・心が・・心が、さけるようにいたい・・いたいよ・・なんで、なんでわたしだけこんな目に・・だれか、助けて・・助けてよ・・

「・・おい!・・」

 いまにも消えそうな灯火ともしびを、エイビャンの声がつなぎとめる。

「・・そこで、なにしてる?・・」

「・・・・・」

 おもわず、あゆみよる。 

「・・こないで!・・」

 奈落ならくには、いくつもの砂のかけらがいこまれてはきえていく。

「・・こないで・・」

「・・・・・」

 仕方なく、その声にしたがうエイビャン。

・・そう・・ここにだれが来ようと来まいと、おそらくわたしがここからとびおりるという結末けつまつはかわらない・・でも、そうじゃない・・そういうことじゃなくて、来てくれた・・ただ、たすけをもとめたわたしのもとに来てくれた・・それが、その行為こういが、うれしかった・・

「・・ありがとう・・」

 しかし、かぼそい声はまたたくまに突風とっぷうにかきけされ、エイビャンの耳にはとどくことはない。

「・・ごめん・・」

「・・?・・」

「・・そうだよね・・こんなやつが崖のうえにたってたら、そりゃ、あまりに意味深いみしんすぎて・・きたくなくてもきちゃうよね?・・」

 背をむけてはいるが、声やフォルムから次第しだいにみえなかったものがみえてくる。年は20才前後、性別は女性、しろいアオザイ風のドレスに茶色いおさげがみがかぜにゆれている。

「・・でも大丈夫、あなたがおもってるようなことはないから・・安心してレースをつづけて・・」

 しぼりだしてついたウソだった。こうげられて、そのばにとどまれる人間がどれだけいるだろうか。いいとこ、まごころをこめた忠告ちゅうここうをのこし、たち去るぐらい。エイビャン自身、そうするつもりでいた。

「・・どうして?・・」

「・・・・・」

「・・どうしてまだ、いるの?・・」

 10m後方、みれば未だそこにかれはいた。

「・・行ってって・・あなたがおもってるようなことはないから、行ってって!・・言ったじゃない・・」

「・・わからない・・」

「・・?・・」

「・・じぶんでもわからない、なんでここにとどまっているのか・・でも、うごけなかった・・うごいちゃいけない、気がした・・」

 バト・キアリの夕日が、2人を紅色べにいろにそめる。 

「・・そう・・それじゃなにをしてくれるっていうの?、そこにいて・・わたしを助けてくれるとでもいうの?・・」

 応答おうとうはない。

「・・たしかにあなたの予感よかんはまちがってないわ・・わたしははじめっからここをはなれる気もなければ、結末をかえる気もない・・あなたが来ようが来まいがね・・」

「・・・・・」

「・・わかんないよね・・わかる訳ないわ、わたしのきもちなんか・・こんな、ずっとひとりで戦ってきた、わたしのきもちなんか・・」

 だまって、ただそれを聞き入るエイビャン。

「・・あたしだって、はじめっからあきらめていた訳じゃない・・いちるののぞみをかけてこの星にきた・・でもここが、ここが!・・いたくて、つらくて、くるしくって・・」

 ギュッとおのれの胸元むなもとをにぎりしめるかのじょ。

「・・なおすヒントをさがすためにきたのに、体がいうことをきかなくって・・さがすことすらできなくって・・そのかんも、いたみはしていって、意識いしきをたもつのもやっとで・・きがつけば、ここにいた・・」

「・・・・・」

「・・ユーパンじゃもう治らないってわかってた、だからこの星にきた!・・けど、けどやっぱり、みつからなかった・・病気をなおすヒント・・」

・・病気・・ 

 両のこぶしをにぎると、かのじょのからだが強張こわば

「・・結局、かてなかった・・わたし、かてなかった・・ナナトニに・・」

「・・!・・」

 みるみるエイビャンの瞳孔どうこうがひらいていく。

「・・あなたも名前ぐらいはしってるでしょ?、それとこれがどんな病気なのかも・・わかったら、とっとと消えて・・」

 しかし、それでも尚一向なおいっこうにうごこうとしないエイビャン。

「・・きこえなかった?、ならもう一度いってあげる・・わたしはナナトニで、ここに治す手がかりをさがしにきた・・けどダメだった、みつからなかった・・わたしに残された道はもうひとつしかないの・・ひとつしか・・」

 つきつけられた非情ひじょう。だがここにきて、エイビャンの口元がうごく。 

「・・ナナトニ機能性障害きのうせいしょうがい通称つうしょうナナトニ・・自律神経じりつしんけいのみだれによってさまざまな症状があらわれるやまい・・」

「・・!?・・」 

「・・症状は、頭痛、ふるえ、動悸どうき味覚障害みかくしょうがいなど・・そのほとんどが10代~20代のうちに発症はっしょうし、青春はとつとして闘病とうびょう生活へと変貌へんぼうする・・進行するスピードはひとによってことなるが大抵たいていは4、5年、おそくても10年程度ていどといわれており、やがて肉体は限界をむかえる・・とくに胸のいたみはたえがたいものがあり、心臓マヒでくなるなるいぜんに、患者かんじゃはその苦痛からのがれるべく、みずから命をつものもすくなくない・・」

 いつしか、ふり返るかのじょ。

「・・「シェーグレン」とよばれる進行をおくらせ、いたみをやわらげる薬はかろうじてあるものの、おもな特効薬とっこうやくはなく、発症原因はっしょうげんいんも不明・・難病指定なんびょうしていされており、現代を代表する不治ふちの病のひとつ・・」

「・・どうして?・・」

「・・もうひとつの特徴とくちょうとして、この病を発症したものにはある刻印こくいんがきざまれる・・惑星斑わくせいはん、別名プラネットスポットともよばれ、からだのある部位ぶいにオレンジ色の〇と△をくみあわせたような直径ちょっけい5センチほどの星型のしるしがうかびあがる・・」

 そういうと、エイビャンが左のそでをまくしあげる。

「・・おれも・・ナナトニなんだ・・」

 かれのひだり二のうでにきざまれた、それらしき紋様もんよう。 

「・・!?・・」

 むじょうな風がきぬけてゆく。 

「・・なら・・なら、分かってるじゃない!?・・もう、どうしようもないってこと・・」

「・・ちがう・・みつからなかったんじゃなく、まださがしていないだけ・・」

「・・そう、わたしはさがせなかった・・さがすまもなく、ここに立ってる・・でも、でもほんとうにそんなものあるの?、この星に・・ナナトニを治すヒントなんて、そもそも・・」

「・・わからない・・」

「・・ユーパンになかったからって、ここにある保障ほしょうなんてどこにもない・・」

「・・たしかに、そうかもしれない・・ユーパンにもこのラドックス星にも、はじめっからそんなもの存在しないのかもしれない・・」

「・・・・・」

「・・でも!、オレは探す・・そのためにここに来た・・」

 かれの眼にやどる光。

「・・それでも、きみの言うように、みつからなかったら・・そんときは、そんとき・・どこででも死んでやる♪・・」

「・・!・・」 

 その玉砕覚悟’(ぎょくさいかくご)、どこか吹っきれたかれの言い回しに、かのじょはこころつかまれる。

・・そう・・言ってくれるじゃない・・

「・・だから!・・だからもうすこしだけ、いっしょに探さないか?・・ナナトニを治すヒント・・」

 いつぶりだろう、こんなきもち。いつぶりだろう、笑ったのは。

「・・おれと・・」

 差しだされる手。

「・・ピルラ・ワイラン・・」

「・・エイビャン・キルロット・・」

 その手をぎゅっとにぎりしめると、そのとたんくずれおちるかのじょの体。それをかれがしっかり受けとめる。

・・なんでだろう・・なんでまだ生きてるんだろう・・死ぬはずだった、おわるはずだった、あそこでなにもかも・・でも、生きてる・・あったかい・・

 そのままかのじょをぶり、あるきだす。 

・・いままで、ずっとひとりで戦ってきた・・神様もたすけてなんてくれなかった・・なのに、なんでこのひとはわたしを助けてくれるの?・・なんで、なんでもっとはやく来てくれなかったの?・・待ってたのに・・

 そしてふたりは、よるの黒にけていく。

・・ピルラ、あんたをひとりで死なせやしない・・みつける、みつけてみせる・・それまで、オレが守る・・守るから・・

・・エイビャン、わたしをいっしょに連れていって・・どこでもいい、どこか遠くへ・・

 きがつくと、かのじょはベットの上にいた。みなれぬ天井てんじょう、なじみのない肌触はだざわり、よこにはかれがいる。

・・そっか・・夢じゃなかったんだ・・

 そなえつけのアナログ式めざましの短針’(たんしん)がさししめすは、AM1時をすこしすぎたところ。 

・・エイビャン・キルロット・・医者でさえさじを投げたのに・・ナナトニのわたしを助けにきてくれた、はじめてのひと・・

 おきあがると、あらためてかれの寝顔をまじまじとみつめるかのじょ。

・・このひとがいたから、わたしはまだ生きてる・・もういちど言わせて・・ありがとう、エイビャン・・

 しばらくして、エイビャンが目をさます。だが、かたわらにいたはずのかのじょはいない。胸さわぎをおぼえつつ、ろうかへととびだすエイビャン。

・・ピルラ!・・

 月あかりという間接照明かんせつしょうめいが、かれにストライプの影をおとす。

・・ピルラ、どこだ!・・

 食堂、衣裳部屋いしょうべや、ネットスペース、売店。

・・ピルラ・・ピルラ、ピルラ・・ピルラ!・・

 そしてある場所にたどりつく。

「・・はぁ、はぁ・・」

 不用心ぶようじんにもカギのかかってないドアをあけると、満点のほしくずがふってくる。巨大温水プールのある屋上である。さらにさきへとすすむと、く息ではっきりとはしないが、さくごしにみおぼえのあるシルエットがひとつ。

「・・ピルラ!・・」

「・・こないで!、エイビャン・・」

 その声が、エイビャンのうごきを又してもせいする。

「・・なんで、・・どうして!?・・ふたりでナナトニを治すヒントをみつけようって、もうすこしだけがんばろうって!・・言ったじゃないか・・」

「・・・・・」

「・・なのに、どうして・・」

「・・エイビャン・・あなたは、ステージいくつ?・・」

「・・?・・ステージって・・ナナトニの、進行状況しんこうじょうきょうの・・おれは、ステージ2だ・・」

「・・そう・・わたしはステージ、5なの・・」

・・ステージ、5・・

 とたんに脈打みゃくうつむね。

「・・ほかの病気もそうだけど、ナナトニも進行度におうじて、ステージ1~5までに区分されている・・1がもっともかるいとされる初期しょき段階だんかい・・2はそこからすこしすすんで、頭痛やふるえなどの症状が如実にょじつにあらわれてくる段階・・3はナナトニ唯一ゆいいつ治療薬ちりょうやくであるシェーグレンが必須ひっすとなる段階・・4はその治療薬では胸のいたみなどの症状がおさえきれなくなる段階・・そして5は死因しいんとなる心臓麻痺しんぞうまひがもっともおきやすく、ナナトニ患者かんじゃが、みずから命をおとす危険性がもっともたかい、末期まっきといわれる段階・・」

「・・・・・」

「・・そういうこと・・」

「・・で、でも・・ステージ5だからって、まだ!・・」

「・・そう・・そうおもった、だから!・・あそこでおもいとどまることが出来た・・もうすこしだけ、あなたについて行こうとおもった・・でも!・・」

 胸をおさえると、しろいアオザイ風のドレスをくしゃくしゃにするピルラ。

「・・ここが痛くてつらくて、どうしようもなくくるしくて・・薬をのんでもダメで、息もできなくって・・もう、限界なの・・」

・・ピルラ・・ 

 かけることばなどなかった、みつかるはずもなかった。かのじょがこの小さなからだで、いままでどれほどの困難こんなんとむき合ってきたかとおもうと、それだけで。

「・・エイビャンも、あるでしょ?、ナナトニなら・・死のうとおもったこと?・・」

・・死・・

「・・死のうとおもって、何度もこういうことしてきた・・でも、でもそのたびに、こわくなったり・・その場にいるだれかにとめられたり・・でもわたし、わかんないの!・・死なないでとか、生きてさえいればいいとか、なんなの!?・・だれかの受け売りのセリフかしらないけど、簡単かんたんにいってくれちゃって・・いくらあかの他人だからって、死んでほしくないのはわかる・・でも、生きてさえいればいいって、なに?・・たのしい人生ならそりゃ、いつまでも生きていたいとおもうのかもしれない・・でも、その逆なら?・・くるしみが大半たいはんをしめ、たのしいことがあったとしてもあっというまに苦しみにかき消されてしまう、そんな人生だとしたら?・・1分1秒がくるしみでくされて、じぶんがなんのために存在しているのかもわからない・・それでもまだ、生きてさえいればいいっておもう?・・生きてさえいればただしいんだって、正解せいかいなんだって?・・」

「・・・・・」 

「・・エイビャン・・わたし、なんのために生きるかとかは正直わからない・・それぞれいきる理由付けはちがうとおもうし、そんなことさえかんがえていない連中のほうが多いのかもしれない・・でもやっぱり、生きていく以上たのしみたい・・たのしく生きていきたい!・・死にたいんじゃない、わたしだって死にたくなんてない!・・できることなら、たのしく生きていたい、でも!・・でも、これしかないの・・いまのくるしみからのがれる方法が・・」

 崖うえとまではいかないものの、ドーム最上部さいじょうぶの北風もそれにひけをとらない。

「・・エイビャン、死ぬってそんなにわるいことなのかな?・・わたし、足りないあたまでかんがえてみたの・・なんでみんないずれは死ぬのに、死をあたまごなしに否定ひていするのか・・嫌悪けんおするのか・・年をとってから死ぬのはあたりまえのことであって、自然の摂理せつりだからしかたのないこと・・じゃあ、わかくして死ぬのはなんでダメなの?、自然の摂理せつりじゃないから?・・老衰ろうすいではなく、寿命じゅみょうがくるまえに命をおとしてしまったから?、だからかなしまれるの?・・わたしおもうの、死ぬとそのひとがこの世からいなくなるのだから、かなしいのはあたりまえ・・そのひとがじぶんにとって大切な存在であればあるほど、たとえそれが若かろうと年老いていようとも・・ようはだから、そのひとの人生がどうだったかじゃないのかな?・・いつ死ぬかじゃなくて、そのひとがじぶんの人生が満足のいくものだったかどうか・・生まれてから死ぬまでいっしょうけんめい生きてきたか、がんばってこれたか・・人生ってそういうものじゃないのかな?・・」

 あたりにはちらほらと雪がう。

「・・こっちがどうとかじゃなくて、そのひと自身がどう生きたか、じゃないのかな?・・年がいくつであれ本人がせいいっぱい生きて、その末に死んだのならかなしむのは失礼・・むしろほこるべき・・エイビャン、わたしはがんばってこれたのかな?、胸をはれるほどに・・」

 すると、ピルラがそろり両手をひろげる。

「・・でも、生きて生きて生きぬいてここまできた、ここまでこれた、それはまぎれもない事実・・その延長線上えんちょうせんじょうに死があるのならば、しかたがない・・わたしはありがたく受けいれるわ・・」

 そのせつな、こちらを一瞥いちべつするピルラ。そのかおがすべてを物語る。

 ・・ピルラ!・・

  とたんにかけだすエイビャン。奈落ならくそこへと、かのじょの体がかたむいていく。

・・こんな、こんな結末なのか?・・こんなにがんばってきたやつが、こんな結末・・

 かのじょの一挙手一投足いっきょしゅいっとうそく走馬灯そうまとうのようによみがえってくる。

・・いいはずがねぇだろ!・・ふざけんな・・ふざけんなよ、クソ神!・・

 みぎ手を目一杯めいっぱいのばすエイビャン。

・・と、ど、けぇぇぇー!・・

 そしてきがつくと、そこには寒空さむぞらのもとひざまずくエイビャンのすがたがあった。

「・・ははっ、・・なんで?・・なんでだよぉぉ!、おれの右手ぇぇ!・・」

 うっすらとつもる雪をかきむしるエイビャン。

「・・つかめた、とどいたはずだった・・でもその瞬間しゅんかん、ピルラ、おまえのことばがちらつきやがった・・いっしょうけんめい生きたかだ?、がんばってこれたかだ?、・・そんなの、あたりまえだろ!・・でも、ピルラ・・おまえが言うように、おまえをたすけることでこれ以上おまえが苦しむのかとおもうと、でなかった・・あと一歩が・・」

 かれの両手が、痙攣けいれんするようにふるえている。

「・・おれがころした・・ピルラを、殺した・・すくえるはずだったのに・・このみぎ手が、死を正当化せいとうかしちまった・・」

 むせび泣くかれをなぐさめるでもなく、そのごも雪はただ深深しんしんとふりつもるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ