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 リスミー暦※338年11月28日(大会6日目)


 翌日、エイビャンはめざましよりもはやく6時半に起床きしょう。食堂であんこトーストときなこ牛乳をながしこむと、球をつけ各階にあるミドリノトオリをぬけ、ひとり表へとでていた。

・・よーし、みつけるか・・

 1万人弱の参加者のなかから、お目当ての人物をさがす。けさはレース中一番の冷えこみをみせ、足もとには霜柱しもばしらがちらほらみえる。そんななか橙色だいだいいろの手ぶくろ、アームフォーマー、スヌードと防寒具完全防備ぼうかんぐかんぜんぼうびでさがすこと30分。

・・ったく、どこにいんだよ、アイツ・・まさか欠場けつじょうってことはねぇだろうな?、おぃ・・

 すると、エイビャンの肩をだれかがたたく。

「・・!・・」

「・・誰かさがしてるの?・・」

「・・なんだ、おまえか・・」

 そこには白のノースリーブにだいだい色のスカート、黒のレギンスに二のうでバンドをつけた、ブロンドお団子頭の彼女がいた。

「・・おまえおまえって、クレイ・・あたしの名前はおまえじゃなく、ク・レ・イ・よ!・・」

 今朝方けさがたのエイビャンは、きょろきょろとどうも落ちつきがない。

・・やっぱり探してるんじゃない、彼のこと・・

 選手たちも手をすりあわせ上体じょうたいをゆりうごかしながら、ぞくぞくと外にあらわれはじめる。そんな心此処こころここにあらずのエイビャンめがけ、決意表明けついひょうめいするクレイ。

「・・っていうか、エイビャン・キルロット!・・勘違かんちがいされるのもアレだからあんたに一言いっておくけど、あたしは好きこのんであんたと一緒にいくわけじゃないから・・あくまで、かれのことが心配だからついて行くだけのことで、依然いぜんヒョンジュの仇ってことにかわりはないんだからね!?・・」

 しかし、あんじょうエイビャンに聞く耳はなく、それどころかすでにこの場をはなれ、むこうの人ごみにきえつつあった。

「・・ちょ、ちょっと・・」

 あわててあとを追う。

「・・まえもそうだけどアンタ、人がしゃべってるのに聞かないのはまぁまだしも、どこかいくってどういう神経しんけいしてんのよ(いや、聞かないのもおかしいけど)・・きのうだってアタシの意見はしらんっぷりで、勝手にかれと一緒にいくっていっていなくなるし・・まぁ、そもそも仲間とかじゃないし、仲良くしようなんて気はさらさらないけど、すこしはコミュニケーションていうか、ちゃんと話し合わないとわからないこともあるっていうか、あでっ!・・」

 すると、彼の背中につんのめるクレイ。

「・・ちょっと、いきなり止まんないでよ!・・ほんっと空気よめないんだか・ら?・・」

「・・ねぇ!、一緒に行かないってどういうことよ!・・」 

 なにやら人だかりができあがっている。

「・・だから、何度も言ったようにさ・・ボクはきみと一緒にいく気なんてはじめからないの・・」

 そこには女性と痴話喧嘩ちわげんかするきのうの彼がいた。

「・・はじめからないって・・じゃあ、きのうのばんのことはどう説明すんのよ!?・・単なるりきった関係だったってこと!?・・」

・・晩・・割りきった、関係・・

 かおをあからめる根っからの清純派せいじゅんはクレイ。

「・・大衆たいしゅう面前めんぜんでよくもまぁぬけぬけと・・本人がそう言ってるんだから、そうなんじゃないんですか?・・」

「・・ほんと、信じらんない・・最低!・・」

 お菓子かしをつつんでいた紙くずと、のみかけのペットボトルがちゅうをまうと、たち去るおんな。それにともない、やじうまもっていく。するとクレイとエイビャンの2人が、露骨ろこつににげおくれる。

「・・えっとー・・」

「・・あ・・きのうはどうも、お世話になりました・・」

 かるく会釈えしゃくをかわす2人。

「・・いや、きのうのこともあったし大丈夫かな~、なんてね・・」

「・・親切しんせつにありがとうございます・・でも、ごらんの通りですよ♪、ははっ・・」

「・・元気そうでよかった、ははっ・・じゃ、達者たっしゃで♪・・」

「・・ちょっ!・・」

 クレイが、あっさり引き下がろうとするエイビャンのうでを、しかとつかむ。

「・・あんた、一緒にいくんでしょ!?、きのうからそう言ってるじゃない?・・なにが、達者で♪・・よ(小声)・・」

「・・うるせぇ、この状況じょうきょうでいえるかよ!・・男女がいましがた別れたんだぞ!?、バツが悪いなんてもんじゃねぇーぞ、こりゃ(小声)・・」   

「・・たしかに、この展開てんかい予想外よそうがいだけど・・でも、ここであきらめちゃったらもう一緒にいくチャンスはないじゃないの!?(小声)・・」

「・・いいんだよ・・一緒にいこうとしてたのは彼の具合ぐあいがわるかったときの話しで、実際じっさいは恋人とごたつけるほど回復したんだから・・オレのでるまくじゃねぇーんだよ(小声)・・」

「・・へぇ、そっか、そっか・・ごめん、なんかアタシかんちがいしてたみたい・・あんだけ人のレースの出場動機しゅつじょうどうきにケチつけておいて、さぞかしじぶんはこころざしたかく一度断ことわられたくらいじゃもちろん、かれの世話役せわやくはゆずらない・・ぐらいの覚悟かくごなんだとばかりおもってたら、てんで根気弱く、すーぐあきらめちゃって、なんか拍子抜ひょうしぬけってだけ・・」

「・・なんだと!?・・」

「・・いえ、いいのよ、いいの・・ただ人のマウントをとりたがりの論破男ろんぱおとこだったってだけのことでしょ?、ようは・・さっさと行けばいいわ、こしぬけさん・・この星になにをしにきたか知らないけど、そんな人にアタシたちの出場動機をとやかくいわれる筋合すじあいはないし、そんなうつわの小さなひとがここでなにかをげられるとも到底とうていおもえないってだけ・・命をかけてこのレースに参加?、たしかにいるでしょうね・・でもあなたが言わないで・・ちかってあなたではないから・・」

「・・てんめぇ・・だまってきいてりゃ言いたい放題調子ほうだいちょうしにのりやがって、アマぁ・・」

「・・あら、こしぬけのくせに、威勢いせいだけはいいのね・・そういうものよね、小者ほどよくえる、ホントだわ・・」

「・・このぉ、女ぁ・・いつかの腹いせとばかり、ここぞと言いくさってからにぃ・・」

「・・女?、一体だれのことかしら・・あたしはクレイ、女じゃなくクーレーイーよー・・」

「・・あ、あの~、どうかされました?・・」

 さすがに板ばさみにあう渦中かちゅうのかれも見かねる。

「・・いや、なんでもねぇ・・うん・・」

「・・このおよんで、まだそんなこと・・」

「・・そんじゃ♪・・」

 やっとこさクレイの手をふりほどき、背をむけた丁度ちょうどそのとき。

「・・ねぇ、あなた、アタシたちと一緒にいかない?・・」

「・・!・・」

 思惑おもわくどおりエイビャンの足がとまる。

「・・え?、ぼくがですか?・・」

「・・うん、そう♪・・」 

「・・まぁ、いいですけど・・体調ならもうだいじょうぶですが・・」

「・・だよな!?・・ごめん、ごめん、オマエ何言ってんだよ、ははっ・・」

「・・元気なのはみててわかったわ・・でも、それとは別にあなたと一緒にいきたいのよ・・」

「・・はぁ・・」

「・・おいー、何言ってんだよ!・・これ以上かれをこまらすなって!・・」

「・・エイビャンもさぁ、これもなにかのえんだし、あなたと一緒にいきたいってきのう食堂でアタシに言いにきたんだから、わざわざ・・ね?・・」

「・・いって、たっけ、か、そんなこと?・・ボクチン・・」

 旧式きゅうしきAIロボみにぎこちない、エイビャンの表情筋ひょうじょうきん。 

「・・別に、ボクはかまわないですけど・・」

「・・じゃあ、決まり!・・」

「・・・・・」 

 ぱちんっと手を合わせはしゃぐクレイに対し、エイビャンがにらみをきかせるなか、恒例こうれいのアナウンスがきこえてくる。

「・・えー、選手の皆さま、おはようございます。ただいまより、大会6日目の競技説明をおこないます・・」

「・・そういえば、おたがい名前がまだだったわね・・あたしは、クレイ・スタンチャフ・・Lankは124510・・・」

「・・エイビャン・キルロット・・Lankは13980・・」

「・・ヘイセス・ボルドー・・Lankは16808です・・」

「・・よろしくね、ヘイセス♪・・」

「・・よろしくおねがいします、エイビャンさん、クレイさん・・」

「・・さん、だなんてー、てでいいよ~・・ね?、エイビャン・・」

「・・あ、あぁ・・」

「・・わかりました・・エイビャン、クレイ・・」

 誰かさんとちがい、クレイの笑みには終始しゅうしよどみがない。いわゆるニッコニコである。

・・んにゃろぉ・・おぼえてろよ、このアマぁ・・

「・・コースはいままででは過去最長かこさいちょう、16日間のレースをつうじても2番目のながさとなる42キロメートル。足もとも草がうっそうとえる草地へとかわり、順応性じゅんのうせいがためされるコースとなっております。というのも競技ルールの変更はとくにありませんが、本コースからゴール地点が2つとなり、さまざまなコースどりが可能になるかわりに、ライフボールのナビゲーション機能きのう必須ひっすとなってきます。操作そうさ方法など、おわすれのさいはお近くの係員までおたずねください。スタートまでおよそ10分です・・・」

「・・ねぇ、ライフボールのナビってこの球を垂直すいちょくにおしこむんだったよね?・・」

「・・はい・・そうすると、ゴールまでののこりの距離と方角、門ののこりの通過可能人数つうかかのうにんずうなども音声でおしえてくれます・・」

「・・だよね?、これはルールブックでちゃんとみたんだよね~、あたし♪・・」

「・・ちなみに、音声だけでなく日中ならダーク系ライト、夜間ならホワイト系ライトがそのじめんを道しるべのようにてらしてもくれます・・もちろん、ひも時計の方位磁針ほういじしんでも、わきについたボタンひとつで複数ふくすうあるゴールのきりかえは可能です・・」

「・・あぁ、その道しるべのライトはヒョンジュが使ってたやつだ・・そっか、ひも時計でもできるんだ、アナログのひとはそっちのがいいかもね・・でもさヘイセス、あたしもそれ使ってたんだけど、ダーク系ライトがしばらく走るときえちゃうんだよね・・あれもっかいけるにはどうしたらいいの?・・」

「・・たしか、もっかい押しこめばまた点灯てんとうしますよ・・あれはもともと、たえず日中ダーク系ライトがついてると、戦闘時邪魔じゃまになりかねないので、5分で自然消灯しぜんしょうとうする仕様しようなんで・・だから今回みたいにゴールが2つ以上ある場合は、ダーク系ライトがさししめすゴールがきまり、そのあとで消えたときには、再度押しこめばまた点灯します・・夜間のホワイト系ライトも同様ですが、夜はすこしながめの20分・・おそらく昼とちがい、あかりがわりにもなって便利べんりさを加味かみしてのことでしょう・・まぁ、ボク個人的こじんてきには、ひも時計のライトで十分走行に不便ふべんはかんじませんでしたけどね・・」

「・・へぇーそうなんだ、ヘイセスってくわしいね♪・・」

「・・いえ、ただルールブック熟読じゅくどくしてるだけです・・」

「・・・・・」

 ルールでりあがる2人をまえに、エイビャンのじと目はさらに悪化あっか。そんななかカウントが始まる。

「・・スタートまで5分をきりました。実況はわたくし、イチロウ・トチサカ。解説はひきつづきアイソゾームのいぶし銀、スティーブ・ワビチ選手です。よろしくおねがいします・・」 

 おのずと口かずは減り、あたりは徐々に熱気ねっきにつつまれていく。  

「・・スタートまで10秒前・・5秒前、4、3、2、1、スタートォ!・・」

 たちまち、地鳴じなりのような足音がアナウンス音をのみこむと、6日目がはじまる。10分間の猶予ゆうよを利用して、おのおのに進路しんろをきめていくなか、3人もまた独自どくじのルートを開拓かいたくしていく。

「・・さぁ、まもなく10分間のプレパレーションタイム、ぞくにいうプレパレタイムが終了します。解説のスティーブ・ワビチさん、本コースからはじめて導入どうにゅうされた複数のゴール地点によってレースがどう変化していくか、たのしみですね・・」

「・・はい、コースが2つに分かれることで、ライフボールでの舵取かじとり、またはひも時計の方位磁針のきりかえが必須ひっすとなるとともに、2つのレースが展開てんかいされるとおもわれます・・」

「・・なるほど、どちらの道をえらぶかによって、のちの選手の明暗めいあんがわかれるということですね・・」

 上空にはラグビーボール状飛空艇ひくうてい、ルイス・ワグナーがうかび、選手らのすぐよこを黒ぬりのバイク、騎馬型きばがたオートバイ、ガラクターダと一0式改放映用いちぜろしきかいほうえいようスクーター、シャイ・ドレーダーがとおりすぎると、かわいた花火の破裂音はれつおんがこだまする。そして10分がたつ。それを合図に方々(ほうぼう)でしれつなライフボール争奪戦そうだつせんがはじまる。そしてそれは、3人にとっても例外れいがいではなかった。

「・・ヘイセス、このぐらいのペースで大丈夫?・・」

「・・はい、問題ないです・・お気づかいありがとうございます・・」

 クレイがヒョンジュにならい、たまのダーク系ライトの道しるべを数cmずらしながら、がものがおで2人を先導せんどう。そんなクレイの見事なたちあがりに、さっそくいちゃもんがつく。

「・・で、女・・後ろのアレはどうするよ?・・」

「・・後ろの、アレ?・・」

 エイビャンがゆびさす後方に、さっそくあらわれる刺客しかく

「・・あ、ほんとだ・・ありゃ、確実かくじつにアタシらをねらってついてきてるわね・・どうしよ・・」

 そのセンターわけの茶髪ちゃぱつの女性は、むらさきの長そでランニングウェア、むらさきのフレアミニスカートのしたに灰色のレギンスをはき、耳にはいくつものピアスが光る。

「・・あちゃ~、すいません・・あれはボクの不始末ふしまつですんで、ボクがなんとかします・・」

 いましがたヘイセスが口論こんろんしていた彼女だ。

「・・なんとかするっていっても、具体的ぐたいてきにどうするの?・・」

「・・そうですね、んー・・完全なわたくしごとで、2人に迷惑めいわくをかけるわけにもいきませんし・・」

「・・いいえ、なにを言ってるのヘイセス?・・一緒にいこうっていったのはアタシらのほうなんだから、なかまになった以上、協力きょうりょくするのはあたりまえ・・迷惑なんてさびしいこといわないで頂戴ちょうだい・・」

「・・ありがとうございます・・じゃ、すこしだけ手伝ってもらってもいいですか?・・」

 すると走りながら肩をよせあい、作戦会議さくせんかいぎがはじまる。

「・・OK、わかったわ・・」

「・・了解りょうかい・・」

 はからずも、息の合った2人の親指グーサインがきまると、そのとたんヘイセスが急加速きゅうかそくする。

・・!?・・ヘイセス・ボルドー、逃げようったって、そうはいかないわ!・・

・・そんじゃ、いっちょ行ってきます・・

 それにおくれまいと、おんなも懸命けんめいにあとを追う。

・・絶対に、ゆるさないんだから!・・

・・よしよし、ついてきた・・引けめがまったくない訳じゃないけど、ちょうどいろいろためしたいことがあったところ・・わるいけど、もうすこしだけ有効活用ゆうこうかつようさせてもらいますよ、名も知らぬおじょうさん・・

「・・うまくいくといいけどな・・」

「・・うん、でも大丈夫よ・・わるいけどあの女のひと、そんなに強そうじゃないもの・・それにヘイセスには、いざとなれば昨日のアレがあるし・・」

「・・きのうのアレ、ねぇ・・」

・・いいのかねぇ、ほんとに・・きのうのアレを・・ 

 2人をなおざりにおいぬかれると、後方で傍観者ぼうかんしゃと化す2人。するとほどなくして、女性がヘイセスのうしろにぴたりとりつく。

・・これがぞくにいう追尾型ついびがたというやつですか・・持久力じきゅうりょくがなければそもそもつづかないし、あったとしても長期戦ちょうきせん必至ひっし・・いま追われていてもそれほど脅威’(きょうい)にかんじないということは、かのじょは追尾型ではない?・・いやそれ以前に、追尾型というたたかいの型があることじたい、しらないっぽいが・・たしかボクの記憶きおくだと、このおじょうさんのLank帯たいは15万あたりだったはず・・

 それからふたたび間合いをひろげ、かとおもえばこんどは一転、急停止きゅうていし

・・ようやく、観念かんねんしたわね・・覚悟かくごなさい、ヘイセス・ボルドー!・・

・・つぎに、アタッカー型のお勉強だ・・

 真っまっこうからぶつかる2人。たがいの右うでがまじわると、勝負は一撃いちげきでおわりをつげる。

「・・なんでよ・・」

 ゆっくり足をとめると、おんなのヒザがくずれおちる。

・・助走じょそうからまっすぐに加速し、攻撃をくりだすアタッカー型・・利きうでに全身全霊ぜんしんぜんれいをこめ、おのの攻撃エネルギーを最大限さいだいげんまでたかめるかわりに、それをかわされたときの代償だいしょう、リスクはあまりにもおおきい、いわば諸刃もろはつるぎ・・追尾型を長期持久型ちょうきじきゅうがたとするならば、これは短期決戦型たんきけっせんがた・・それだけに使い勝手もむずかしい・・

「・・なんで、フラれたうえにあたしが負けなきゃいけないわけ!?・・理不尽りふじんよ、あまりに不条理ふじょうりだわ!・・」

・・そう、このレースは不条理そのもの・・それはこのユーパン(せかい)をみればわかること・・でも、だからといって君がわるいわけじゃない、おじょうさん・・ごめんよ、かよわい女の子に実験じっけんなどしてしまって・・わるいのはそう、いつも僕のほう・・僕がよわいから・・

 それから無事合流ぶじぎょうりゅうをはたす3人。

「・・だいじょうぶ?・・」

「・・ええ、問題ありません・・面倒めんどうをおかけしました!・・」

 2人にこころよくむかえられ、かれが右の手のなかでしぼんだライフボールをほうると、3人は6日目のゴール目指し、またはしりだすのだった。

・・追尾型、アタッカー型ときて・・あとのこるは、近距離型きんきょりがたか・・

 一方で、テンもまた群衆ぐうんしゅうをはなれ、過去最長ということもあり30分を5kmと序盤じょばんからとばしていた。

・・のこり40キロじゃく・・昼休憩ひるきゅうけいをはさみ、球のノルマもこなしてpm2時までにつけば、まぁ上出来じょうできか・・

 そんななか、ふと背後にめをやる。

「・・!・・」

・・に、し、ろ、や・・かげが8つ・・

 その影は次第しだいにおおきく、およそ一分ほどでかのじょを射程圏しゃていけんにとらえる。うしろ向きで身がまえるテン。

「・・?・・」

 しかし、なんだか様子ようすがおかしい。というのも、おそいかかってくるかとおもいきや、8人全員がかのじょの横をとおりすぎていくではないか。

「・・え・・ねらいはあたしじゃ、ないんだ・・」

 拍子抜ひょうしぬけするテンをしりめに、前方では8人が列をなし、かのじょをおいぬいたときよりもさらにスピードをあげる。

・・はやっ・・選手同士結託けったくして集団しゅうだんができつつあるのは、メディアをみてしってはいたけど・・あんなハイペースで走ってたんじゃ、たとえトップランカーでも、とてもゴールまでもたないわ・・それに加えて本コースは42キロと過去最長、レースをつうじても2番目のながさ・・一体なにをかんがえてるのかしら・・もしかしてアレ?、よく学校校内マラソン大会でみかける、どうせかてないなら、はじめの1週だけ全力疾走ぜんりょくしっそうでとばして、目立とうとするお調子者ちょうしものの・・でも、ざんねんながらここ校内じゃないから全然目立ててないけど・・それか運営うんえい見世物みせものかなにか?・・

 しかしテンのその疑問ぎもんも、すぐに列のみだれとともにあきらかとなる。というのも先頭せんとうのひとりをのこし、後方の7人がよりあつまったのもつかの間、その7人が先頭のひとりにびかかる。そのごも、入れかわり立ちかわりといった具合ぐあいで、つぎからつぎへと先頭にきばをむく7人。

・・なるほど、そういうことね・・8人じゃなく、7対1だったのね・・ねらいははじめから先頭のひとりで、うしろの7人は、かれを追っていた・・それならなぞの加速も、アタシを素通すどおりしたこともうなづける・・でも7対1って、冷静れいせいにかんがえてちょっとひどいわね・・、8人の間になにがあったかはしらないけど、フェアじゃないわ・・

 すると、つい好奇心こうきしんから興味本位きょうみほんいで、テンが8人にちかづくためギアをあげる。接近せっきんするほどに、こぎたないヤジが耳にとどく。

「・・まで、ゴラぁー!・・球わたせばギリ勘弁かんべんしてやるからよぉ・・とまれよ、ボケなすぅ!・」

 そんな中、テンがあることに気づく。

・・マスク?・・

 なんと先頭をいくおとこの口元には、レースとは不釣合ふつりあいなまっしろのマスク。そんなかれが終始しゅうし7人にあおられ、攻め立てられるのをみるにみかねて、テンがおもいこしをあげる。

・・つったく・・

 よこからじわりじわりと、先頭と併走へいそうするところまでにじりるテン。

「・・どうもぉ♪・・」

 ここにきてはじめて、かのじょという存在そんざい認識にんしきするマスクのおとこと追っ手の7人。

「・・な、なんだてめぇ!・・このひきょうもんの仲間かぁ、さては!?・・」

・・卑怯者ひきょうもん・・ 

 いきりたつ後方7人とは裏腹うらはらに、しずかに先頭のおとこと目があう。

「・・?・・」

「・・あの・・よく、っていうかまったく事情じじょうはしらないんだけど、ってはいるのもどうかともおもったけど、7対1はさすがに、とおもって・・」

 マスクでかおの下半分はみてとれないが、どこか笑った気がした。

「・・?・・」

「・・おい、おめぇら!・・こいつもどうせ、ひきょうもんの不意打ふいうちやろうの仲間だ!・・

女だからって関係ねぇ、やっちまえぇ!・・」

「・・えーおいおい、話し合いすらなしですか?・・」

 また、おとこの口元がほころぶ。

「・・?・・」

「・・わかったかぃ?・・」

「・・え?・・」

「・・かれらに交渉こうしょう余地よちはないらしい・・で、どうする?・・オレにちかづいたばかりに、きみも彼らの標的ひょうてきになってしまったようだが?・・」

 うしろを一瞥いちべつすると、ため息をもらすテン。

「・・しかたない・・もっとちがった解決法かいけつほうがあればよかったのだけど・・元はといえば近づいたのはわたし・・」

 ふと、かのじょの目の色がかわる。

「・・やるしか、ないようだわね・・」

「・・同感だ・・」

 耳もとで二三にさんことばをかわすと、左右にっていく2人。

「・・!・・」

 それに釣られて7人もやむなく、二手ふたて分散ぶんさん。それからしばし、2人が追っ手をしたがええがくようにはしったかとおもえば、気が付いたときにはもう、たがいがこちらめがけ突っ込んでくるではないか。実質、正面衝突じっしつしょうめんしょうとつ

「・・!?・・」

 混乱こんらんする7人をよそに、すれ違いざま2人がめまぐるしく左手をくりだすと、またたく間にたたかいは終焉しゅうえんをむかえる

「・・こいつら、数を間引いて、わざとオレらがぶつかるように・・まさか、そんなやり方があるなんて・・やられた、ひきょうもんとひきょうもんの連れの分際ぶんざいにぃ!・・」

・・ひきょうもんの、連れって・・わたし?・・

 呆然ぼうぜんとたちつくす7人をおきざりに、ぶじ勝利をおさめた2人。

「・・ありがとう・・なんか、協力きょうりょくしてもらっちゃって・・」

「・・いや、わたしが勝手にかおをつっこんだ結果だから・・まさに自業自得じごうじとくってやつね、ははっ・・」

「・・そうか・・おれはトオル・B・スズキ、Lankは5031だ、よろしく・・」

「・・テン・ファングよ、Lankは9901、こちらこそよろしく・・にしてもこの球、3つもどうしよ・・」

 いずれも手には、いましがたとったライフボールであふれ、もてあましていた。

「・・そんなにもっていてもかさばるだけだし、ひとつつぶせば球のノルマはこなしたことになるから、のこりの球はそのへんに捨てていくといいよ・・」

「・・コース上に?・・」

「・・ああ・・他もつぶしてしまうのはあまりにもったいない、うばわれた選手もかばれないしね・・ならコース上にすてていけば、だれかのやくにたつだろう?・・そもそもみんな、球がほしくてはしってるようなもんだから・・どうせ宿泊施設にもっていっても、処分しょぶんするだけだし、ならすこしでも有効利用ゆうこうりようしたほうがいいとおもう・・そもそも6日間のレース中に、そういったコース上にころがった手つかずのたまは何個かみかけたし・・それにひろわれなくても、自然しぜんにやさしい還元素材かんげんそざいでできているらしいから、環境的かんきょうてきにはなんらもんだいはないはずだよ・・」

「・・へぇ、そなんだ・・じゃ、おことばにあまえて、ほぃっ・・」

 そして7つのライフボールのうち、5つをほうる2人。

「・・ところでさ、トオル、ちょっと気になってたんだけど・・」

「・・ん?・・」

「・・卑怯者ひきょうものとか盗人ぬすっととか、あんた奴らになにしたの?・・」

「・・ああ、あれか・・あれは、たまたま球をうばった相手がやつらのリーダーだったらしい・・」

「・・へぇー、それで?・・」

「・・らしいな・・」

「・・それであの言われよう?、それってなんかひどくない?・・そもそも卑怯とか盗人とかいうまえに、そういう競技きょうぎでしょうが・・たまたまトオルが球をうばったのがやつらのリーダーだったってだけで、こちとら、んなこと知らねぇし ・・なんか、ムカつくわね・・」

 トオルが三度笑みたびえみをうかべるも、やはりマスクの下にかくれ、みえることはないのであった。

 一方でエイビャンたちは、ただひたすらにはしりつづけていた。スタートから7時間半、時刻じこくはPM3時半をまわり、若干じゃっかんスローペースながらも3人は40キロを消化しょうかしていた。

「・・一息、つこう・・」

 エイビャンのひと声で足をとめると、3人は手ごろな岩や凹凸おうとつにこしをおろし、おのおのに色とりどりのテユボックスを起動きどう。1分経たずでふくらんだ箱のなかからペットボトル、さもない菓子かしをとりだすと、のどをうるおし小腹こばらをみたす。

・・あと2キロ・・でも、最短距離さいたんきょりですすめない以上、まだばいの4キロくらいはありそうね・・だとするとあと30分、か・・ここまでも看板かんばん字面的じづらてきには40キロとなっているけど、じっさいは50キロははしってそうね・・ゴールに4時にはつきそうだけれど、肝心要かんじんかなめの球のノルマが3人ともまだときてる・・これアタシたち、ほんとに間に合うのかしら?・・まさか、きょうで失格しっかくなんて、しないわよ、ね?・・

・・みぎ手がふるえている・・この女とのゴタゴタのせいでわすれていたが、頭と胸のいたみもぶり返しつつある・・

・・腹がへらない・・でも、水分だけはすこしでもいれておかないと、ほんとに死にかねない・・それにくわえて、きのうもねむれなかった・・おそらく、きょうもねむれないんだろう・・また、あの連鎖れんさにもどってしまった・・

 三者三様さんしゃさんよう不安材料ふあんざいりょうをかかえながら、テユがもとのサイコロ大のおおきさにもどるのをみはからい、クレイが叱咤激励しったげきれいする。 

「・・さぁ!、もうひとふんばりといきましょう!・・」

 すると3人がたちあがった拍子ひょうし、ヘイセスがふらつく。

「・・大丈夫か?、ヘイセス・・」

「・・ええ、たんなる立ちくらみです・・・」

 ふと、エイビャンが昨日さくじつのことをおもいだす。

「・・そういやヘイセス、きのうの話しなんだけど・・」

「・・おぅおぅ、ゴール間近まぢかでたちくらみとは、おたくロックじゃないねぇ・・」

「・・!・・」

 とつぜんの声に3人が身をひるがえすと、そこには銀色ぎんいろのワイシャツに銀色のスラックス、まっかなネクタイ、みなれぬ赤いマスクをかぶったスキンヘッドの、みるからに奇抜きばつなおとこがたっていた。

・・このひと、いつの間にアタシたちのそばに・・

・・こりゃ、強かれ弱かれ、みるからにただもんじゃねぇな・・

「・・そんなはと豆鉄砲まえめでっぽうくらったみてぇな顔してどうしたよ?、いまは絶賛ぜっさんレース中・・いつなんどきてきがあらわれてもおかしくない、ここはロックな戦場せんじょうだぜ?・・」

 そんなおとこのたちふるまいに、最大限さいだいげん警戒態勢けいかいたいせいをしく3人。

「・・よぅよぅ、そんなに身がまえなくてもだいじょうぶだぜぇ、奇襲きしゅうなんてずっけぇマネするきは、はなっからねぇからよぅ・・しようとおもってたらもうしてるし、そもそも奇襲なんてロックじゃねぇ・・」

・・ロック・・ 

 おとこはスキンヘッド、マスクの主張しゅちょうもさることながら、セラミック矯正きょうせいらしき芸能人げいのうじんかおまけのしろい歯が、しゃべるたびにこぼれる。

・・なんなの、このひとから伝わってくるヤバさは・・

・・こいつ、どっからいてでてきやがった?・・いや、んなことよりこいつ、女物のパンティかぶってやがる!、きしょっ!・・

・・めちゃめちゃ、ハゲてる・・

 すると、おとこが自発的じはつてきになのる。

「・・おれっちの名は、シェケナ・ベイブゥ、Lankは23668・・よろしくぅ・・

ところで、おたくらのなまえは?・・」

「・・クレイ・スタンチャフ、Lankは124510よ・・」

「・・エイビャン・キルロット、Lankは13980・・」

「・・ヘイセス・ボルドー、Lankは16808です・・」

「・・自己紹介じこしょうかい感謝かんしゃ!・・」

 手の平にこぶしをきあわせると、おとこがようやく戦闘せんとうモードにはいる。

「・・オレっちはおもうんだ、なにごとにもきちんとすじはとおさないといけねぇって・・それとおなじで、このレースofおぶラドックスにおいても、やり合ったあいての名前ぐらいはしっておかねぇとおもしろくない・・それがツワモノであればあるほどに、おたくらもそうはおもわねぇかぃ?・・」

 恒例儀式こうれいぎしきのなのりがおわり、たちまちかわる空気間。おとこは足を肩はばにひらき、中腰ちゅうごしにかまえると、まっ赤なネクタイが風にゆれる。そこには上から下までこれみよがしに、しぼんだライフボールがまるでカラっカラのがきのように、いくつもくっ付けてあるではないか。

・・このひとのネクタイについてるのって、もしかして全部ライフボール!?、マジ!?・・

・・3対1とわかったうえで出てきたんだ、当然相当とうぜんそうとう実力者じつりょくしゃであることはまずまちがいない・・それは、乱獲らんかくしたライフボールがついた、あのネクタイをみてもわかること・・しかし、それよりもあのパンティが気になる・・なぜやつはこの星にきてまで、わざわざパンティをかぶる?・・

・・あのスタンス・・もしや、このひとの戦闘形態せんとうけいたは・・

 そして、そよぐ草木の音がとまると、風がやむ。それを合図にとびだしていく3人。

「・・オオオォォ!・・」

 堂々どうどうむかえうつマスクの男。すれちがいざま、たがいのうでが交錯こうさくしていく。そのごも、幾度いくどかこうげきをしかけるものの、決め手をかいた接近戦せっきんせんがつづく。

 ・・当たんない・・3対1と完全にかずでは分があるのに、どうして!?・・

 ・・にしても、強ぇな、おもったとおり・・こう強ぇと、セラミック加工かこうの歯も、ハゲあたまも、一人称いちにんしょうおれっち呼びも、パンティも全部かっこよくみえてきやがる、むかつくぜ・・いや、パンティはうそ・・

 ・・やっぱりそうだ、この戦闘スタイル・・ぼくが待ちのぞんでいた、あの・・

 たたかい初めて10分弱、ふと2人の視線しせんがクレイのほうへとひっぱられる。みれば、なにやら身ぶり手ぶりジェスチャーらしきもので、こちらに来いといっている。マスクのおとこに警戒けいかいしつつも、歩みよる2人。

「・・なんだよ、急によびやがって・・」

「・・どうしましたか?・・」

「・・いや、だって、せっかく3人いるんだし、めあぐねてもいるんだから、

話さないよりは話したほうがいいかなぁって・・作戦とか、いろいろ・・」 

「・・なんだよ・・とくに、さくがあったとかじゃねぇのかよ・・」

「・・むー!・・」

 まさに、お手本のようなふくれっつらである。

「・・たしかに、一理ありますね・・いままでひとりでやってきたせいか、その発想はっそうはありませんでした・・」

「・・でしょ!・・」

「・・で・・どうすんだよ?、具体的ぐたいてきにに、その作戦とやらは・・」

「・・うーん・・」

 見込みなしのやっぱりかリアクションに、エイビャンが落胆らくたんしていた矢先やさき

「・・でも、あれですよね・・やつは近距離型きんきょりがただとおもいませんか?・・」

「・・え、・・なんて?・・」

「・・近距離型です、ちがいますかね?・・」

 めずらしくかおを見合わせるクレイとエイビャン。

「・・いや、違うとかじゃなくて、なに?・・その金魚二型きんぎょにがた?、って・・」

「・・金魚二型じゃないです、近距離型です・・え、もしかして知らないんですか、おふたりとも?・・メディアでいま、さかんにさわがれてますけど・・(ってか、金魚二型だとして、それは一体なんなんですか?)」

「・・そう、なの?、メディア・・そういやこの星にきてから、まったくみてねぇや、テレビとか・・(まぁ、テレビはユーパンにいたころもほとんどみてなかったがな・・あんなしょうもねぇもの・・」 

「・・あ、あたしも・・」

「・・そうだったんですね・・えっとじゃ、なにから説明せつめいすればいいでしょう、ぼくもそんなにくわしいわけじゃないんですけど・・選手はたたかい方によっておおきく3つのタイプに分けられるらしいんです・・」

「・・ほー・・」

 とたんに、教師きょうし生徒せいとのあいだがらへと様変さまがわりする3人。

「・・1つめはアタッカー型です・・ある程度ていどはなれたところから、助走じょそうをつけていっきにあいてめがけ、渾身こんしん一撃いちげきをたたきこむ、ようは攻撃型・・2つめは追尾型ついびがた・・戦闘中なり走行中なりあいての背後をとると、そのままうしろにりつき、てはスタミナ消化しょうかとともにめしとる、ようは持久型じきゅうがた・・そして3つめが近距離型・・できるだけ接近せっきんし、あいてに極限きょくげんまでちかづく分、ちょう攻撃型とおもいきや、たたかいかた次第ではこれいじょうの安全圏あんぜんけんはなく、いがいにも攻守均衡こうしゅきんこうのとれた、バランス型といえる・・ここまではわかりましたか?・・」

 ゼンマイじかけの市松人形いちまつにんぎょうのようにうなづく2人。

「・・それをふまえると、このひとはどちらかといえば近距離型に分類ぶんるいされるとおもうんです・・でも、せない点もありまして・・」

「・・え、なになに?・・」

「・・はい・・というのも、いまのところぼくたちは中距離から助走をつけてこうげきをくりだす、アタッカー型の手法しゅふをとってたたかっているんですが・・この型は、タイプ中随一ちゅうずいいち破壊力はかいりょくをほこるかわりに、ある致命的欠点ちめいてきけってんをかかえているんです・・」

「・・致命的欠点?・・」

「・・はい・・それは、うちおわりにできるすきです・・じゅうぶんな助走をてくりだされたこうげきは、まちがいなく相手にとっての脅威きょういになります・・でもその反面はんめん、それをかわされたときの代償だいしょうもはかりしれない・・なんたって、背中がガラ空きになりかねないんですから・・そして、ぼくの違和感いわかんもそこにある・・」 

「・・あ・・」

 エイビャンがなにかに感づく。

「・・そう、ぼくたちがアタッカー型のスタイルで果敢かかんにもせめ、それをかわされるたびに、あらわになった背中をさらしているにもかかわらず、反撃の「は」の字もない・・」

「・・そういえば・・」

「・・なぜ、そんな絶好ぜっこうのチャンスをみすみすのがすようなマネをしているのか・・いまだってそうです、なぜ追撃ついげきしてこない?・・まぁ、こちらとしてはねがったりかなったりなんですがね・・」

 遠目とおめにマスクのおとこをみる3人。

「・・そこで、ひとつ提案ていあんがあるんですけど・・」

「・・うん、何?・・」

「・・はい、まだ仮説かせつ段階だんかいをぬけきらないんで、なんともいえませんが・・」

「・・きかせてちょうだい・・」

 それから2分して、ようやくエイビャンら3人の構想こうそうがまとまると、まちくたびれたように念入ねんいりなストレッチをおえたマスクの男がたちあがる。

「・・ああ、分かった・・」

「・・OK・・」

「・・おわったかぃ?、お話しのほうは・・それで、なにかいいアイデアはかんだ?・・」

「・・まーね♪・・」

「・・それはそれは、わざわざまった甲斐かいがあったというもの・・にしてもなげぇよ、おまえら・・おれっちがロックじゃなきゃ、ごうやしてても、てんでおかしくねぇ・・」

「・・それなんですけど、ひとつ教えてもらえませんか?、シェケナさん・・」

「・・ん、なんだ?、ほそいの・・」

「・・なぜ、5分弱はあったわれわれの話し合いを、ごていねいにも静観せいかんしていてくれたんです?・・」

「・・いやね、話し合いにみずをすというのも、ひととして如何いかがなものかとおもってね・・せっかく、オレっちをたおすために画策かくさくしてくれてるっていうのにさ・・それに第一だいいちロックじゃねぇ・・」

「・・ずいぶんな余裕よゆうね・・」

「・・お答えいただき、ありがとうございます・・」

「・・じゃ、ついでにオレからも一個ききたいんだが?・・」

「・・ん、いいぞ、白髪青年はくはつせいねん・・」

「・・ロック、ロックいってますが、そのじぶんを「おれっち」とよぶのは、たしてロックなんですか?・・」

「・・!?・・もちろん、ロックに決まってる、だろう・・」

「・・じゃ、そういうことにして、もうひとつ・・パンティをかぶるのもシェケナさんがいうロックってやつなんですか?・・」

「・・!!??・・」

 身内のきりこんだ質問しつもんに、ドキッとさせられる2人。

「・・パ、パ、パ、パンティだと!?・・」

「・・はい・・かぶってるじゃないですか、あかい女物のパンティ・・」

「・・これはマスクだ!、だんじてパンティなどではない!・・」

「・・いやいや、どっからみてもパンティでしょうが・・」

「・・れっきとしたマスクだ、パンティ型マスクだ!・・」

「・・ほら、パンティいうてるじゃん、じぶんで・・」

「・・い、いや、口がすべった・・パンティ型マスクでもない、ふつうのマスクだ!・・」

「・・ホントかな~?・・」

「・・う、うぬぬぅ!・・」

・・やめましょう、エイビャン・・それいじょうの挑発ちょうはつ危険きけんです・・

「・・あ、うん、ごめん、なんか・・」

・・つうか挑発じゃなく、そぼくなただの疑問ぎもんだったんだが・・

 エイビャンのぶっこみにより、一時現場いちじげんば騒然そうぜんとする。

「・・礼儀正れいぎただしいのにまじって、無礼ぶれいなやつがいるな・・もうロックだろうがなかろうが、まつのはなしだ・・」

・・ほんとだ・・マスクだとおもってたけど、よくみるとたしかに女性もののパンティにもみえるわね・・もしかして、このひと、いろんな意味でヤバいひとなのかしら・・変態へんたい、さん?・・

・・挑発は悪手あくしゅ・・かとおもいきや、案外仮説あんがいかせつどおりなら、ダメおしになったかもしれませんね・・

「・・そんじゃ、しきりなおし!・・再開さいかいじゃ、オラぁ!・・」

 マスクのおとこが例のかまえをとり、手の平をばっしばっしたたきかつをいれると、たたかいが再開さいかいされる。てしてエイビャンら3人は、マスクのおことめがけんでいくのかとおもいきや、なにやらすこしちがう。 

「・・そんじゃ、いってきます・・」

「・・うん、気をつけて・・」

「・・ムリすんなよ・・」

 なんとヘイセスがひとり、マスクの男のもとにはしるでもなく、徒歩とほでちかづいていくではないか。

「・・?・・」

 そして、3mほどまで接近せっきんしたところでとまる。

「・・へぇ・・」

「・・おどきましたか?・・でも、話し合いの結果けっかがこれです・・」

 一瞬いっしゅんだまりこくるが、すぐに意図いとをくみとるマスクのおとこ。 

「・・ハッ!・・おれっちのあいてはおまえひとりで十分だと?・・礼儀正しいのにまじってといったが、訂正ていせいさせてくれ・・」

 マスクのすきまの皮膚ひふが、ピクピクっとわずかだが痙攣けいれんしている。 

「・・おまえも!、白髪も!、女も!、3人ともただのふとどき者じゃ!・・無礼をくいて、ありがたくおれっちのロックなネクタイコレクションの一部になるんだな、細いのぉ!・・」

・・え、・・エイビャンとヘイセスはわかるけど、なんであたしも?・・

 ここにきてはじめて自発的じはつてきにマスクのおとこが攻撃にでる。かくして、ヘイセスがまちのぞんでいた近距離戦がはじまる。

・・こい、ぼくが見極みきわめてやる・・

 マスクのおとこの右うでををのけらせかわすも、間合いがちかいために単発たんぱつではおわらない。先程さきほどまでのおとなしさはどこへやら、戦利品せんりひんをたんまりつけた自慢じまんのネクタイをなびかせたルチャリブレが、一気呵成いっきかせいにおそいかかる。 

「・・ハッ!・・」

 そしてタイマン勝負がはじまって1分がすぎる。いまおとろえをしらないマスクのおとこ。

「・・どうした、どうしたよ、細いの!?・・やすむヒマなんてあたえねぇよ!?・・」

 予想をこえる猛攻もうこうに、ヘイセスのかおがゆがむ。

「・・ねぇ・・」

「・・ん?・・」

「・・大丈夫かな?・・」

「・・アイツがいった作戦だ、信じるしかねーだろ・・」

「・・うん・・」

 しかしそんな2人の懸念けねんはとおからず、ヘイセスのほおをいやな汗がつたう。

・・おかしい・・想定そうていでは、そろそろむこうの攻撃がとぎれてもいい頃合い・・なのに、なぜとまらない?、なぜ、うごいてくる?・・このままだと最悪、ようすみで飲みこまれるなんてことも・・

「・・ほらほら、どうした!?・・単身たんしんのりこんできた、さっきまでの威勢いせいはどうしたよ!?・・」

・・エイビャン・・

・・・・・

 たまらず、救済きゅうさいにむかおうとクレイの足元がみだれた、ちょうどそのとき。ついに戦況せんきょうにうごきが。

「・・ハァ、ハァ、ハァ・・」

 かがんでヒザに手をついたまま、うごかなくなるマスクのおとこ。このきにじょうじて、ヘイセスは戦線離脱せんせんりだつ

「・・大丈夫?・・」

「・・ええ、なんとか・・」

・・やばかった・・受けに回ることしかできなかった・・もし、あと30秒おそかったら・・

「・・で、どうだったんだ?・・」

「・・ええ、おもったよりも案外あんがいギリギリでしたが、収穫しゅうかくはありました・・あの接近戦での攻撃頻度こうげきひんど凶暴性きょうぼうせい、くわえてスタミナりょう・・まず見立てどおりで、まちがいありません・・」

「・・そか、OK・・ご苦労くろうさん、すこしやすんでな・・」

 そういうとヘイセスの肩にぽんっとふれ、エイビャンがまえにおどりでる。

「・・エイビャン、くれぐれも気をつけてください・・」

 せなかしにみぎ手でにこたえると、その間にマスクのおとこはちゃっかりと体力回復たいりょくかいふく

「・・あ~あ、逃げられちまったよ、オレっちとしたことが・・まぁ、いいや、べつにたのしみがるわけでもねぇし・・さぁ、こんどはどうする?、ひとりか?、ふたりか?、それともやっぱり考えをいあらためてまた3人ででかかってくるか?・・」

「・・次はおれだ・・」

「・・こんどはおまえか、白髪頭はくはつあたま・・にしてもまたひとりとは、オレっちもずいぶん随分甘ずいぶんあまくみられたもんだぜ・・でもいい、あいてしてやる・・だがこんどは細いのみたいに、とり逃がしはしねぇ・・」

 3mまで接近したヘイセスとはちがい、エイビャンはそこまでちかづくことはせず、従来じゅうらいのアタッカー型の距離感きょりかんでかまえる。風のゆらぎのなか、たがいの視線しせんがまじわる。  

・・やはり、この位置いちだとむこうからしかけてはこねぇか・・ 

 すると、数羽すうわのスズメがとびたつのを合図に、エイビャンがとびだす。マスクのおとこめがけ一直線いっちょくせんにつっこんでいく。

「・・どこからでも、かかってこい!・・」

 むかえうつマスクのおとこ。そしてたがいがぶつかる、かにおもわれたがなにかおかしい。マスクの男がひとり、ぽつんとたちくしているだけで、ちかくにエイビャンのすがたは見当たらない。

「・・ほぉ、そうくるか・・」

 どうやら、マスクのおとこのよこを大胆だいたんにもどおり。後方にそれらしきとおざかるかげがみえる。

「・・このやり口は、かんがえてもみなかったぜ・・ほんとオマエらはいちいちひとをいらつかせるのがうまい・・やり合うとみせかけて、そのまま逃走とうそうするなんてな・・」

 そういうと、からだをワナワナとをふるわせ、あきらかにいままでとは様子ようすがことなるマスクのおとこ。

「・・くそなげぇ話し合いも、タイマン勝負もいいだろう・・見方をかえれば、ロックっちゃロックだ・・でもな、敵前逃亡てきぜんとうぼうはちかってロックじゃねぇ!・・そのうえ、おれっちのトレードマークともいえるこのマスクを、あろうことか女もののパンティと愚弄ぐろうしやがって・・そんななぁ、ふとどき者の分際ぶんざいが、オレっちから逃げられるとおもうなよ、ごぉらぁぁ!・・」

 たちまち、ゆでだこのようにかおを紅潮こうちょうさせ、型などどがえしにエイビャンを猛追もうついしだす。

・・よし、食いついた!・・

「・・ヘイセス、いける?・・」

「・・もちろんです・・」

 2人におくれをとらぬよう、2人もあとをおう。

・・きたな、パンティやろう・・いや、顔まっ赤じゃん・・ありゃ、パンティっつうより、タコすけだ・・ 

「・・にがさねぇ、にがさねぇ、にがさねぇ・・てめぇは、オレっちの獲物えものでぇやぁぁ!・・」

 つばをまきちらし、かんぜんに常軌じょうきをいっしているマスクのおとこ。かたや後方の2人は、しめしめと肩をよせあう。

「・・いまのところ、順調じゅんちょうね・・」

「・・ええ、ここまではなんとか予定どおりです・・あのスタミナはすこし、想定以上そうていいじょうでしたが、まぁそれでも範疇はんちゅうです・・」

「・・うん、ヒヤヒヤしたよ・・」

「・・はい・・でも、そもそもこの作戦を決行けっこうするには、おとこが3つある戦闘スタイルのうちの何型なのか、どうしてもしる必要があった・・もちろん、型といっても血液型けつえきがたとかじゃありません・・」

「・・え、・・あ、うん・・」

・・ヘイセスって冗談じょうだんいうんだ・・え、でも、つまんな・・ざんねんながらセンスはないみたい・・

「・・ある程度見当ていどけんとうはついていましたが、ねんにはねんをいれて、万が一があってはいけない・・そこでボクがはじめに先陣せんじんをきって、おとこが近距離型であることをたしかめました・・近距離型ならいままでの行動におおかたの説明せつめいはつく・・おいうちをかけずに、話しあいを悠長ゆうちょうにまっていたのも、じぶんのテリトリー外でのたたかいを好まなかったゆえ・・型がわかればこちらにもやりようはある、というのも型にはそれぞれもち味である長所がある反面、よわみである短所たんしょもある・・アタッカー型であればまえにもいったように、うちおわりにできるすきといった防御面ぼうぎょめん・・追尾型であればスピードのある短期決戦たんきけっせんには若干不向じゃっかんふむき・・そして近距離型は2つにくらべ、どちらかといえばバランス型といえますが、しいてあげるならば持久力じきゅうりょく、ようはスタミナです・・その条件じょうけんをみたしてこそはじめて、今回の作戦がなりたつ・・」

・・たのみましたよ、エイビャン・・

 追いかけあいがはじまって10分、いくどか2人肉薄ふたりにくはくするピンチはあれど、その都度つどエイビャンがなんとかひきはなし、もちこたえる。するとこちらの思惑おもわくどおり、しだいにマスクの男がおくれをとる。 

「・・こんのぉ、白髪頭、いつまで逃げてんだよぉ・・スタミナだけは一丁前いっちょまえにありくさる・・」

・・いつまで?・・そりゃ、てめぇがやられるまでに決まってんだろ?・・こちとらはなっからそういうプランじゃ、タコ介ぇ!・・あとはたのんだ、おふたりさん・・

「・・クレイ、いきますよ!・・」

「・・ええ!・・」 

 すると、マラソンで順位じゅんいをおとしてきたランナーを後続こうぞく吸収きゅうしゅうするかのように、マスクのおとこをのみこみにかかる2人。

「・・!?・・」

 めのまえの獲物にきをとられ、せなかがお留守るす、しかもスタミナぎれ。そんなマスクのおとこのさっきまでのれっぷりはどこへやら、追っかけてきた2人あいてにおもいのほかすんなりとやられてしまう。地面にヒザをつくマスクのおとこをしりめに、3人はぶじ合流。

「・・だいじょうぶですか、エイビャン?・・」

「・・あぁ・・」

「・・ざっけんなよぉ!・・」

「・・!?・・」

 マスクのおとこの怒号どごうに、クレイのみおどろく。 

「・・なんだよ、これは・・なんかの冗談か?、へへっ・・おかしいだろ!、こんなやりかた、第一ロックじゃねぇ・・」

・・ロックロックって、おまえにとってのロックって一体なんだよ?・・そもそもおれの感覚かんかくだと、そのマスク自体がロックじゃねぇとおもうんだが?・・

 へたりこんだまま、こぶしで地面をくりかえしたたくマスクのおとこ。

「・・みとめねぇ、こんなのみとめれる訳がねぇ・・挑発、冒涜ぼうとく人格否定じんかくひていまでしたあげく、逃げるにみせかけて、はいごからおそうなんて姑息こそくなマネ・・」

「・・もういいでしょう、その辺で・・」

 すると、みるにみかねたへイセスが、マスクのおとこをたんたんとさとしだす。

「・・その自慢じまんげにネクタイにつけた、しおれたライフボールの数々・・このレースがほかのレースとちがうのは、無益むえき殺生せっしょうをたのしんでいたあなた自身じしんがいちばんよくわかっているはず・・そんなあなたが、ぼくらを姑息よばわりする資格しかくなんてない・・ぼくらのやりかたがロックじゃないというのなら、あなただってライフボールをすき放題乱獲ほうだいらんかく)している以上、とうの昔にロックじゃない、ぼくからいわせればね(それに、挑発と冒涜はマスクの件でしたかもしれませんが、人格否定まではしていない・・まぁ、それもこれも全部エイビャンですけどね)・・ようはです、クレイの手にたまがあり、あなたの肩にたまがない、その時点でそこになんらかの因果関係いんがかんけいがあったとしても、ルールに反していないかぎり結果はかわらない・・あなたが負けて、ぼくたちが勝った・・それだけのことです・・」

「・・ぐ、ぬぅ・」

 時刻はPM4時、いつしかはかたむき、黄空がヒスイ色にいろをかえると、たたかいにまくがおりる。くずれた正座せいざのマスクのおとこのネクタイから、ぶどうのふさのようにふくれあがったライフボールをそれぞれひとつずつ、けい3つ拝借はいしゃくすると、のこり2キロのゴールにむけ、また一行ははしりだす。

「・・にしても、うまくいったよね、ヘイセスの作戦♪(ルンルン)・・」

「・・あぁ、ヘイセス様様さまさまだ・・」

「・・そんな、2人あってのものです・・」

「・・でも、よくおもいついたよね?、あんな作戦・・」

「・・いえですね、マスクのおとこのかまえはメディアでみた近距離型のオーソドックススタイルにちょうどていたもので・・」

「・・近距離型のオーソドックススタイル?・・」

「・・はい、戦闘スタイルには3つのタイプがあるといったように、そのなかの近距離型もさらに2つのタイプにわけられるらしいんです・・」

「・・ほぉ、・・」

 再度、生徒のエイビャンがかおをだす。

「・・ひとつはまだ、かくたる名称めいしょうはないんですが、一応変則型いちおうへんそくがたといわれているタイプ・・もうひとつが王道おうどうのノーマルタイプ、オーソドックススタイルです・・」

「・・へぇ~・・」

 そのあいづちに生徒B、クレイがつづく。

「・・そこでみずから手合わせをして近距離型、しかもそのなかのオーソドックススタイル確認後、エイビャンにたたかうとみせかけて全力で逃げてもらうようたのんだんです・・ここでもっとも危惧きぐしていたことは、かれがエイビャンのあとを追いかけてきてくれるかどうかという問題です・・いくらネクタイの球のかずからライフボール乱獲者らんかくしゃとわかっていても、エイビャンの球をとりにくるかどうかはわからない・・これだけはマスクのおとこのロックとかいうこだわりに、ぼくらの行動がいちじるしく反しているのにかけるしかありませんでした・・いまいちかれがいうロックの基準きじゅんもわかりませんでしたし・・しかしいまかんがえれば、エイビャンがかれをこれでもかとまえもって挑発してくれたのが、いたかもしれません・・あれはとくにぼくの指示しじではなかったんですが(というか、ぼくにはおもいつかなかった)・・乱獲者、挑発、ロック、それがうまいぐあいに三位一体さんみいったいにからみあって、結果、かれは近距離型というじぶんのテリトリーをはなれ、エイビャンをおいかけてきてくれた・・こうなれば、見立てどおりであれば途中でスタミナぎれをおこすはず・・そこを、息をひそめていた後続こうぞくのぼくらがかれの球をかりとる・・おもいのほか案外、うまくいきました♪・・」

 しゃべりおえたこのタイミングで、ヘイセスが球をにぎりつぶすと、エイビャン、クレイもそれにつづく。しかし、コース上にほうることはせず、きちんとそのしぼんだ戦利品せんりひんをポケットにしまう3人。

「・・ねぇ、ヘイセス・・」

「・・はい?・・」

「・・このしぼんだ球、べつにてていってもかまわないのよね?・・」

「・・はい、もんだいありません・・この球の素材自体、しぜんにやさしい還元素材かんげんそざいでできているので、いずれ土にかえりますので・・実際じっさい、コース上にすててるひともおおいとおもいますし・・」

「・・ふ~ん、でもそれをきいていてもなんか捨てずらいよね?・・ポイ捨てみたいで、わるいことしてるみたい・・」

「・・ですね、抵抗ていこうがあるかもしれませんね・・まぁ、どうせゴールについたらたいていの選手はゴミばこにすてるんでしょうけど・・」

「・・でも、あれだよ・・つよかったあいてほど、なんか捨てたくないよな・・それに球にかぎらず、ポイ捨てをあたりまえとかかっこいいとかおもってるやつもユーパンにくさるほどいて、正直がっくしだよ・・」

「・・ポイ捨てがかっこいい?・・そんなことおもってるの?、ユーパンの若者たちは・・かっこうわるいのまちがいじゃなくって?、きいてあきれるわ・・みんながつかう公道こうどうにごみを捨てるのがかっこいいだ、なんて・・いつかだれかがひろうってことを、かんがえないのかしら?・・」

「・・ああ、同感だ・・ひとんちにいって、便所べんじょでウンコながさないでかえってるようなもんだ、とんだいやがらせだ、クサくってたまったもんじゃありゃしねぇ・・」

・・え、それはちょっと、ちがうような・・にしても、きたないたとえね・・

 3人は勝利の美酒びしゅによいしれるついでに、環境問題かんきょうもんだいにまではなしが波及はきゅう

「・・それにしてもつよかったね?、あのマスクのひと・・」

「・・はい、まちがいなく強敵きょうてきでした・・」

「・・ああ・・ヘイセス、おまえのプランがなければまず無傷むきずですまなかったよ・・」

「・・いえ、ぼくのしたことなど微々(びび)たるものです・・それこそエイビャンが、かれのスタミナをけずりきってくれなきゃ、ああうまくはいきませんでした・・」

「・・んなことねぇよ・・」

 そう2人が接待風せったいふうにたがいをもちあげるなか、ふとものさびしげなクレイが目にとまる。

「・・もちろんすべては、策をねろうとはなしをもちかけてくれたクレイあっての功績こうせきです、はい・・」

「・・え、そう、そうかな?・・アタシはただ2人をよんだだけなんだけどね、へへっ♪・・」

「・・そうだぜ、この女はオレらをただ一カいっかしょによんだだけであって・・行動にうつしたのはヘイセスとおれじゃん?・・さいごだってやつの球をとって、とどめをしたのヘイセス、おまえだろ?・・」

「・・えぇ、まぁ、そうですけど・・」

「・・ふんぐぅ~・・」

・・女じゃないし、女じゃないし、クレイだし・・

 またもジト目でほっぺたをふくらます、ぶりっ子系女子。

「・・でも、クレイがぼくらをあつめなきゃ、そもそも作戦すらたてられなかったわけですし・・」

「・・でしょ~!?、そうよね、そうだよね?、ヘイセス・・」

「・・はい・・」

「・・んじゃ、そういうことに、しておきましょ・・」

「・・エイビャン・・」

「・・ん?・・」

「・・クレイも立派りっぱにたたかってくれました、ひとりでもかけていたらおそらく、かれにはかてなかった・・3人あっての勝利です・・」

「・・ヘイセス!♪・・」

「・・わぁったわぁったよ、みとめるよ・・んーゴホンっ・・」

 のどをととのえると、エイビャンがあらためてクレイを一瞥いちべつ

「・・アリガトウナ、女・・オマエガイナキャ、カテナカッタヨ・・」 

「・・もぅ~、しらない!・・」

 恋愛れんあいドラマの1シーンのようにぷんっと顔をそむけると、2人をおきざりに急加速するぶりっ子系女子。

「・・もう、・・よくないですよ、エイビャン・・」

「・・そうか?・・」

・・あぁー・・ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつくぅぅ!・・ってかなんなのよ、あいつ・・アタシだってそれなりにがんばったわよ・・まぁ、あいつのいうとおり作戦をかんがえたのもヘイセスだし、それを実行じっこうにうつしたのもヘイセスとあいつなんだけどさ・・でもさ、でもさ、あたしだってちゃんとアクシデントがあったときのために、ヘイセスのとなりでマスクのおとこを一緒いっしょにおいかけていったし・・ヘイセスがマスクのおとこと様子見ようすみでたたかったときなんかは、あとすこしのところで助太刀すけだちにはいろうともしたもん・・それをさー、なにもしないでただ呼びあつめただだけとかさー・・もぅ、もぅホンっト信じられない!・・それにあいつのあの言い方、ムカつく・・あぁ、ムカァつくぅぅ!・・

 目をとじたり、こんどはブロンドヘアーをふりみだしたりと、いかりで文字どおり暴走ぼうそうするクレイ。そんなげきおこモードのさなかだった。

「・・エイビャン、エイビャン?・・しっかりしてください、エイビャン!・・」

「・・もぅ、・・なん、なのよ・・」

 うしろの異変いへんに、クレイがしぶしぶふりかえる。

「・・!?・・」

 するとそこには停止’(ていし)し、地べたにうずくまるエイビャンがいた。

「・・え、なに、ウソでしょ?・・」

 かんしゃくをしていたことなどわすれ、あわてて2人のもとにひき返していく。

「・・え、どうしたの!?・・」

「・・いや、わかりません・・とつぜんエイビャンがくるしみだして・・」

「・・え?・・」

 そんな2人の心配しんぱいをよそに、エイビャンはおののひだり手のひも時計をチラ見。

・・やべぇ・・もう、4時をまわってやがる・・たたかいに夢中むちゅうで、気づかなかった・・

 歯をくいしばりむねをおさえると、呼吸が音をたててこわれはじめる。

「・・ぴゅー、すー、ぴゅー、すー・・}

「・・だいじょうぶですか、エイビャン!?・・クレイ、なにかきいてませんか!?・・」

 クレイはこわばりながらも、小刻こきざみに首をよこにふる。

・・エイビャン、冗談じょうだんでしょ?・・急にどうしたっていうの?・・

・・くそぅ、・・時刻はPM4時13分、まだ15分は猶予ゆうよがあるはずのなのに・・やべぇ、んなことかんがえてたら、2人の声が遠のいてきやがった・・気をうしなうまえに、これだけでも・・

 すると、エイビャンがやっとこさ黒のGパンのポケットから長方形ちょうほうけいのなにかをとりだす。

・・え、なに?・・

 すけるプラスチック容器ようき、そのなかからとりだされるはの3角のみどりの錠剤じょうざい

・・薬・・

 そして、その薬をくちにふくむかいなかのタイミングで、かれはあえなく気絶きぜつしてしまうのだった。

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