第一章: 不安の始まり
三島隼人は、あの日から街の空気が変わったことを感じていた。それは、目に見える変化ではなく、むしろ周囲の人々の表情の微妙な変化や、街角でふと聞こえる不意の足音に関わるような、何とも言えない違和感だった。
翔太の死後、隼人は何度もそのことを頭の中で繰り返し考えた。あの夜、翔太が言った「地下に何かがいる」という言葉。その言葉の意味が明確にならない限り、隼人の心の中で何かがずっと引っかかっていた。
あの日、翔太は笑顔で「ちょっと面白いものを見つけたんだ」と言っていた。しかし、それから数時間後に彼が命を落としたというニュースを耳にした時、隼人は何かの冗談だと思い込もうとした。だが、それは冗談で終わるはずの話ではなかった。
「地下に何かがいる」という言葉に何か不気味な力が宿っているような気がしてならない。隼人は、それが翔太が突如として死んでしまった原因だとは思いたくなかった。しかし、その言葉が深く心に刻まれていた。
翔太が死んだ日から、隼人の周りで小さな異変が頻繁に起きるようになった。まず最初に気づいたのは、彼の家の前にある公園からの足音だった。それは夜遅くに聞こえ始めた。誰もいないはずの公園から、足音が響く。最初は風の音か何かだと思ったが、次第にそれが人の足音だと確信するようになった。その足音は、ゆっくりとした歩調で、時に急に止まったり、また歩き出したりと不規則だった。隼人がその足音の正体を突き止めることはできなかったが、確かにそれは彼を不安にさせるものであった。
次に、隼人が気づいたのは、自宅の床下から聞こえてくる不明な音だった。先日も感じた奇妙な響きが、再び耳に届くようになった。隼人は思わず床に耳を当ててみたが、何も変わらない。だが、その音がただの偶然の産物であるはずがないと感じていた。何か、隠されているような気がしてならなかった。
そして、翔太の家に訪れた日、隼人は思いがけない発見をする。翔太の部屋には、何かが書かれたノートが残されていた。そのノートには、彼が興味を持っていた場所や物事がいくつも記されており、地下に関する記述も含まれていた。地下道や隠された場所、そして「地下の守護者」という言葉が何度も繰り返されていた。それがただの夢物語なのか、それとも翔太が実際に何かを発見したのか。隼人には答えが見つけられなかったが、このノートが何か重要な手がかりになることだけは直感的に理解していた。
その晩、隼人は再びその扉を思い出す。あの錆びついた金属の扉。あの扉の先には、一体何があるのか。翔太の死を無駄にするわけにはいかない。その答えを見つけるためには、何が何でもその扉を開けるしかないと、隼人は心の中で決意した。
その夜、隼人はひとりで家を出る決心を固めた。ひとりで、深夜の街を歩きながら、あの扉を目指していく。彼の心は高鳴っていた。だが、それと同時に、恐怖と好奇心が入り混じった感情が押し寄せる。何かを知るためには、必ず何かを犠牲にしなければならない――その覚悟が隼人の胸を重くした。
Bleuvalブルーヴァルです。
『地下からの景色』第1章をお届けしました。
まだ、『地下からの景色』プロローグを読んでいない方は是非、読んでみてください。
これからいろいろな小説を気ままに投稿していきたいと思っています。よろしくおねがいします。
この小説は、僕の最初の小説で、身近なミステリー(身近ではないものもあります)を題材に書きました。たくさん読んでいただけると嬉しいです。また、たくさんの感想をお待ちしております。