王都事変 後編 灸話
今回はちょっっっっとだけ過激描写があるので、
お気をつけてお読みください
この地王の歴史上、
近年で最も謎に包ませた事件がある。
『シフォン・ケェキ集団失踪事件』だ。
唯一安全国であるシフォン・ケェキから、
突如として全ての住民が消え、
残っていたのはトルコマン家の当主『ラージ』
とその息子の『アカロフ』だけだった。
二人は丁度大聖堂へ礼拝をしに行っていたので
この事件に巻き込まれる事はなかったが、
彼ら以外のトルコマンの親族も消えてしまったのだった。
それに加え、この事件は事件と言うだけに、
教団の関わりが一切ない。
それゆえ一瞬の怪奇現象と教団の信徒内で噂になっているらしい。
~サミリオン~
私という存在が生まれた日、
希望という光と同時に、
絶望という闇が世界へ舞い降りたらしい。
お父さんが言うには、
私の体は女性として子供が作れる。
その結果、私自身が不幸な目に遭うかもしれないし、家族も不幸にするかもしれない。
だからこうやって私を此処へ閉じ込めるんだと、
でも、もう私は三歳になった。
外への興味だってあるし、家族以外の魔法使いとお話しができたらなって思う。
今のところ、家族以外でまともに会話する事ないし、皆忙しくて構ってもくれない。
だから一度お父さんの杖を盗んで、
庭から鳥を殺した事があった、
その時は沢山怒られたっけな。
でもやっぱり、魔法ってものは素晴らしい。
遊びの道具じゃなくても、
自分の手でその生命の主導権を得られる。
これ程、優越に浸るものはない。
サミリオンはまた魔法を使いたいな、
と淡い希望を考えながら、
ベットの上で寝転ぶのだった。
ベットのシーツには何故か黄色いシミがある。
大人ぶってはいるが、
やはりここは赤子と何ら変わりないらしい。
それから数分後、
“ガチャリ”
玄関の方で音がした。
多分お兄ちゃんが帰ってきた音だろう。
お兄ちゃんは最近忙しいみたいで、
当主になる為の引き継ぎとか、
諸々の作業を一日中毎日頑張っている。
私も何か労いの言葉くらいはかけることくらいは
できるかな?
私はその小さな体を傷つけないよう、
ゆっくり体を動かして玄関へと向かう。
階段を一段一段全身を使って、
安全に一階へと歩みを進める。
そして玄関に到達する頃、
靴を整えているお兄ちゃんを見つけた
「あ…お兄ちゃ」
そう言って私は玄関にいるお兄ちゃんへ
声をかけた。
「ん?あ!?サミリオン!
どうやってこんな所まで来たんだ!」
私は直ぐに受け答える事が出来ず、
「アハッお出迎えするの!」
とだけ、笑顔をお兄ちゃんに見せた。
いくら脳が良くても、
言語機能が発達してなきゃ普通には喋られない。
悲しい事だ。
「全く仕方のない子だ、
ほら、お兄ちゃんの方へ来なさい」
両手を広げている。
私を抱いて持ち上げるつもりだろう。
今から自分で動くのも一苦労だし、
お世話になるか。
お兄ちゃんの身体は私よりも遥かに大きくて、
とってもカッコイイ。
胸に顔をくっつけると生物的欲求が満たせる、
心のエネルギー補給だ。
ブルースはサミリオンを持ち上げた。
「あんまり下に来るなよ、知らない人にお前の事はあまり…見せるべきじゃないんだ」
そう言うとお兄ちゃんは私を持ち上げて二階へと向かう。
“ガチャリ”
またもや玄関から音だ。
今回も誰が来たのか見えそうだっだが、
お兄ちゃんが咄嗟に私の事を体で隠したせいで私も見えなかった。
「え!アカロフお前か!?」
多分お兄ちゃんの知り合いだと思うけど、
聞いた事ない名前だ。
「ブルース……ごめんなさい」
そう言ってアカロフって人は出て行っちゃった。
お兄ちゃんは引き留めようとしていたけど、
声をかけようとせずにずっと黙ってた。
すると、お兄ちゃんは急に不機嫌になって、
私を二階の部屋に置くと、黙ってさっさと行ってしまった。
〜次の日〜
今日はお父さんとお母さんが出かけに行くみたい、私も行きたかったけど、やっぱり外には出して貰えない。
仕方ないことだとは思うけど、やっぱり退屈だ。
でも嬉しい事もある。
今日はお兄ちゃんが早く帰ってくるの!
お兄ちゃんは私に構ってくれるから毎日でも
家にいてくれればいいのに…
“ガチャ”
ん?扉の音かな?
お兄ちゃん?でも、ちょっと早い気がする。
見に行ってみよう。
サミリオンはそぉーっと階段から降りてゆき、玄関にいる人物を確認しようと顔を出したその瞬間!
「おい!いたぞ!魔女だ!」
そこには、大勢の信徒がいた。
そして、真ん中の布を三枚つけてる大きな男がサミリオンを指さす。
「えっ、えっ」
サミリオンは唐突な事に驚き、
その場で足がもつれてしまった。
「連れてけ」
大きな男がそう言うと、周りの部下らしき人達はサミリオンの周囲に群がり、乱暴に持ち上げる。
「いや!や!」
サミリオンは抵抗するが、三歳児の抵抗は大人に通用するわけがなかった。
「暴れるな」
信徒の一人がサミリオンの鼻に、
思い切り膝蹴りをかました。
“グチャ”
鼻から血が吹き出し、
前歯が片方かけてしまった。
「アッァアッ」
サミリオンは大声で泣き出しそうだったが、
恐怖からか声が出ない。
少しだけ声を漏らしながら、目から涙を流す。
今の一瞬でサミリオンは抵抗する気力がなくなってしまった。
恐怖から身体がブルブルと震え、声帯は締まり、
心臓の動悸は痛いくらい激しい。
鼻からは血も止まらず、
欠けた前歯からも血が出ている。
そんな様子に、
真ん中の布を三枚携えた信徒が口を出す。
「あまり傷をつけるな、
生殖能力に影響があったらどうする」
同情してるのかは知らないが、その一声で信徒達はサミリオンを少しだけ安全に持ち上げた。
その後サミリオンは、
キツいしめ縄で縛り上げられ、信徒達が乗ってきた馬車に座らされた。
(何なの、なんでこんな…)
サミリオンは突然の出来事に思考が回らず、
鼻の痛みから顔を歪めて涙を流した。
そんなサミリオンとは違い、
目の前の信徒達は何故か疲れきっていて、
今にも寝そうな表情を見せている。
すると、一人の信徒が通信機器の様なもの取り出して隣の信徒に内容を伝えた。
「先輩達も捕まえたってさ」
その言葉にサミリオンの胸はまた“キュ“と締め付けられる。
(もしかして…お父さん、お母さん…
お兄ちゃんも…)
そう想像してしまい、必然と涙が零れてくる。
「……はぁ」
すると、泣いているサミリオンを見る事が辛かったのか、はたまた鬱陶しかったのか、
信徒はサミリオンに布を被せた。
布は涙を吸って模様を広げたが、
思い切り顔を歪めて泣くのには丁度良かった。
「『母胎』…かぁ…」
信徒がそう呟いた。
サミリオンにはなんの事だか分からなかったが、
その一言を聞いた隣の信徒も俯いた。
「……はぁ」
終始ため息と小さな泣き声の混ざる馬車は、
どんどんと目的地へと向かうのだった。
〜母胎の作り方〜
媒体となるのは雌科の動物の子宮と不特定多数の健康な脳だ。
今回作っていくのは、
『賢者』を生み出す母胎こと
『魔女母胎』だ。
以下が材料である。
材料
魔女の子宮・・・1つ
魔女の脳・・・1つ
魔女の細胞・・・2980g
血縁者の脳・・・3つ
他人の脳・・・5つ
導線・・・50心
追記
魔女の肉体はどこも希少部位なので、
余った物は厳重に保管して下さい。
今回使う魔女は幼く体が小さいので、
先に四肢を切り取って、
球状のダルマにしておく事を推奨します。
作り方
1、最初に行うのは、後で脳が取り出しやすいように髪を抜いていきます。
ついでに脳を活性化させる『痛み』も同時に与えてゆきます。
(今回は子供なので、
同時進行で腕と足を適度に切ってゆきます。
血液は後に使うので捨てないでください)
2、次に子宮を抜いてゆきます。
ここはかなりデリケートな部分なので、
慎重に行ってください。
手順としては、
1、まず子宮の位置を確認します。
2、卵巣の位置まで分かるよう、
印を付けおきましょう。
3、印に沿って皮膚を切り取っていきます。
(この時、脂肪や油を全て取り除くのはNG。
少しだけ残すように切り取ってください)
4、子宮が見えてきたら、
慎重に慎重に取り出してください。
(傷などがつけば、母体の機能が著しく低下してします)
5、子宮が取り出せたらすぐさま、
魔女の血液に浸してください。
空気中の雑菌を排除するためです。
3、次に脳を取り出してゆきます。
1から5までの作業では麻酔を使わないので、
大変脳は活性化している状態です。
頭蓋骨を切り取り脳が見えたら、
これも子宮と同じように取り出し、
血液に浸します。
(これで魔女の解体は終わりです)
7、5と同じ手順で他の魔法使いの脳も回収してゆき、別々に回収し保管します。
4、ここから母体を作っていきます。
まず、血の繋がりのない魔法使いの脳五つを
脳幹が対面するように脳を向けて、
脳幹を導線と魔女の皮膚でぐるぐる巻きにして五つとも固定します。
(この時切断された血管を結合しないようにしてください)
5、次は血の繋がった魔法使いの脳を使います。
今回三つしか用意できなかったので、
『四頭融合法』の応用で、四つ目にあたる脳の代わりに三つの脳の間に
NS磁石を埋め込む形で設置してください。
その後は4と同じように皮膚と導線で
繋ぎます。
これで脳の性能を四つ分に見立てることが
できます。
6、次にあらかじめ切り取って置いた
魔女の細胞(筋肉繊維)を子宮に詰めていきます。
この時、子宮口から詰め込むのですが、
無理やり入れたり、広げたりせず少量ずつ詰めていきましょう。
7、次に4と5で作った脳塊を子宮と繋げます。
脳塊で残して置いた血管を子宮と繋ぐ為、
子宮上部に半径三cm程の穴を開けてください。
その穴に血管を入れていきますが、
真ん中に絶縁体(ゴム線)に繋がれた導線を子宮の両方の卵管へ繋ぎ、その後血管を繋いでください。
8、その後また血液につけて、
五週間待ちます。
9、五週間経って、
脳が震えていたら完成です。
(余った肉体や臓器は帝国へ譲渡する為、
決して捨てないように)
〜実践してみましょう〜
教祖じきじきに書いて頂いたレシピを元に、
参布信徒のエリート達は、誘拐した魔女の体をベットへ固定してゆく。
「今回は魔法使いの母胎か…しかも三歳って」
一人の信徒が愚痴をはいた、
だがそれも仕方ないだろう。
今から自分より遥かに小さい生き物に
“生き地獄”を与えるのだから。
「でも、魔女って五歳超えると他の魔法使いと比べて臓器のレベルが格段に上がるから、
母体にするなら今くらいが丁度いいさ」
こうゆう場になれているのか、
動揺することなく別の信徒はそう言う。
「それより今回は、血縁者の脳が三つしかないから慎重にやらないとな」
信徒たちは魔女と同じように、
ベットへ固定した血縁者の魔法使いと、
血の繋がりのない魔法使いを連れてきた。
「とりあえず、五人の方はまだ眠らせるとして、
血縁者の方は起こしておくか?
自分の娘が生きたまま殺されるのを見れば、
脳も活性化するだろう」
さりげなくとんでもない事を信徒は言うが、
誰も引いたり否定しず、逆に“そうしようか”
と肯定している。
だが一人だけ、“うーん”と唸り、
当回しにその意見を反対する。
「どうした?」
全員がその信徒を見る。
「いや、だってさっき血縁者を捕獲した先輩みたか?皆死にかけだった…
オルトスさんなんか腕がなかったぞ、
そんなヤツら刺激していいのか?」
その信徒が言う通り、ルギバナ家捕獲時、
何人かの歴戦信徒が重症をおったらしい。
特に息子の魔法の『人を殺す意思を跳ね返す魔法』
は多くの仲間をあの世へと送ったという。
深刻そうな顔する信徒に、
もう一人の信徒が方を叩いた。
「魔法使いは杖が無ければ何も出来ないだろ?
安心しろって、それにいざとなったら
『医布』さんが何とかしてくれるって」
その言葉に少しだけ心が落ち着いた信徒は、
少しの不安が渦巻く中、母胎作りが開始する。
〜目覚め〜
サミリオンが目を開けるとそこには真っ暗な空間が広がっていた。
そして、ゾロゾロと人の足音がベットを揺らし、
振動を元に近づいている事が伝わってゆく。
“カチ”
誰かが電気のスイッチを入れたのか、
真っ暗な空間は一瞬で真っ白な世界へと変わる。
徐々に目が慣れてゆくとサミリオンは、
目の前の光景に絶句した。
なんと自分が全裸で手術台の上に
貼り付けられていたのだ。
それに加えて、
手足を動かそうにも何故か力が入らず、
体が麻痺しているのか、まったく動かない、
動くのは目だけで、表情も変えることが出来ない。
すると、目の前の信徒が、
一人だけ黒い布を纏い、
他の信徒とは違う被り物をした男へ話しかけた。
「『医布』さん、もう起きているようです」
そう部下の信徒が言うと、
医布と呼ばれる人物はサミリオンに近づく。
そして手を伸ばすと、
右目、左目と指で瞼を開いて瞳孔を確認し、
口から舌を伸ばす、喉に指を突っ込まれ、
サミリオンは嗚咽をもらし、
少量の吐瀉物を吐き出した。
「正常だ…しっかり神経麻痺も起こしてる。
これで暴れられる事もない」
そう言うと医布は後ろの部下に何かを指示し、
サミリオンの性器を確認する。
不快感と嘔吐反応でサミリオンは最悪の気分だったが、医布は手を止めることなく広げたりして、
彼女の尊厳を打ち壊した。
「三歳で結構発達してる…やはり種族で体の成長は違うのか…ともかく、魔女母胎が作れれば、
我々の目標に更に近づく。
恨まないでくれよ…」
少し経って、
何台かのキャスター付きのベットが
サミリオンの近くに並べられる。
サミリオンはなんとか目を動かし、
横を見るとそこには、
自分と同じように固定された“家族”が、
惚けた顔をして虚空を見つめている。
サミリオンは必死に叫ぼうとしたが、
どうゆう訳か口を開くこともできない。
「えっと、右から順に確認するぞ、」
医布はカルテの様なものを持つと、
一人一人ベットを指さしながら、
名前を確認して言った。
〜母体名簿〜
サミリオン・ルギバナ(魔女)
ダルマイト・ルギバナ(血縁者 魔法使い)
ストロン・ルギバナ(血縁者 人間)
ブルース・ルギバナ(血縁者 魔法使い)
その他(脳役 魔法使い)
〜第一工程〜
一通り誰が誰かを確認した医布は、
遂に母胎作りを始める。
「まず、髪抜きか…
おっとその前に、
血縁魔法使いを起こしておいてくれ。
脳活性になるんだろ?」
そう指示され、部下の信徒は寝ているダルマイト達を厳重に縛り上げる。
そして、サミリオンの施術がよく見えるようベットを固定する。
「これくらいで…いいかな、よし」
信徒は三人の顔に向かって勢いよく、
熱湯を浴びせた。
“バシャンッ”
その衝撃から一瞬で三人とも目を覚ました。
最初は熱湯に苦しんでいたが、
全裸のサミリオンを見ると、
その痛みがなくなったかのように喚く。
「んんんッッんん!!」
喉を焼かれたからか、
ダルマイトとブルースは声を出せずに唸っている。
一方、母親のストロンは目の前の状況が理解できないのか、放心状態でかたまっている。
「やっぱり喉を焼いて正解だったな、
この勢いで叫ばれ続けたら、
手術に全然集中できない」
唸る血縁者達を差し置いて、
医布はサミリオンの髪に手をかけた。
「これから第一期、“魔女母胎製造”を始める。
そこの、ガスバーナーを取ってくれないか」
信徒へそう命令すると、医布はサミリオンの頭の周りを“何か”の布で覆い、
髪の毛だけが見える形に固定した。
なんの布かは分からないが、
サミリオンは触感から自分の家のテーブルクロスに似ていると思った。
程なくして、医布は何かの液体が入った瓶を
サミリオンの頭にふりかけた。
その様子に血縁者は更に喚く。
「ンンっっんんんッ!!」
「うるせえな、まだ何も始まってないだろ」
ずっと唸り続ける血縁者に医布は怒鳴ると、
ガスバーナーをサミリオンの頭部へセットした。
何が起こるかは誰もが予想できる、
「始めるか…」
医布は躊躇なく、ガスの元栓を開け“プシュー”と
ガスを噴出口から漏らす。
そして、手元ライターを“カチッ”と点火した。
その瞬間、黄色い炎がサミリオンの頭部へ、
直接浴びせられる。
すると、あっという間に燃え上がり、
綺麗な金髪がどんどん縮れてゆく。
(髪がぁ!私の髪がぁ!)
サミリオンは心の中で叫び続けるが、
火はどんどん燃え広がり、遂には皮膚へ直結した。
(熱い…熱いよ…助けてお父さん、お兄ちゃん…)
サミリオンは動けず、喋れないかわりに、
顔から液体という液体を垂れ流し、
目で血縁者へ助けを求める。
顔の筋肉も動かせていないので、
それは大層不気味だった。
だが、それ以上に血縁魔法使いの喚きが酷かった。
喉を焼かれ、口を塞がれ、
唸るだけでも地獄の苦痛なはずなのに、
今は口から血が吹き出しても尚、
体を動かし、目をいっぱいに開けて唸っている。
サミリオンの苦しそうな目が、
耐えられないのだろう、
火が青色に変わる頃、綺麗な髪は煙とタンパク質に
変化し、部屋を包んだ。
「えほっえほっ…やっぱり室内でこの方法は良くなかったな、くせぇし煙い」
医布は周りの絶叫を諸共せずに、
煙を手ではらいのけ、
死なない程度に火力を強めている。
〜数時間後〜
サミリオンの頭皮は焼け爛れ、
所々に油が垂れる、
体液が毛穴から吹き出し、
皮膚はズタボロになっている。
そして、髪の毛はきれいさっぱり、
ほとんどが抜け落ちた。
「んんッんんんん!!」
少しペースは落ちたが、
血縁魔法使いはまだ唸り続けている。
逆に本人は、
泡吹いて失禁しながらガクガク痙攣している。
「ヤバい、まじで煙い、
ちょっと空気清浄機持ってきて!」
悲惨なサミリオンより、
髪の毛の煙の方が医布は気になるようだ。
〜クールタイム〜
「医布さん、
次は子宮を取り出すと書いてありますね、
準備は出来てるのでいつでもいいですよ
…医布さん?」
医布は頭がズタズタになったサミリオンを
眺めて、部下の声を聞こうとしない。
もしかしたら、同情する気持ちが今医布にも湧き上がったのかもしれないと、その凄惨な現場に狼狽えていた部下は一瞬思った。
だが、医布の次の一言でその思惑は吹き飛ぶ。
「まだやらない、
燃える痛みと切る痛みは別々で度合いも違う。
今魔女の体には脳からアドレナリンが大量に分泌されている為、今切ったところでさっき以上の痛みを与えることはできない。
だから少し待って、
痛みが落ち着いたら切り裂こう」
最悪の言葉だった。
だが、これでハッキリしたこともある、
彼は同情なんてしていなかった。
〜子宮確保〜
そして数十分が経ち、
サミリオンの呼吸が落ち着いてきた頃。
「始めるぞ」と医布は容赦なく言い放つ。
そして徐に「メス」と
部下に告げ、ピカピカのメスを手に持ち、
サミリオンのおへその下あたりに刃を向けた
そして、その刃を押し付けていく。
皮膚を切るために存在するメスは、
その用途を全うするかの様に、簡単に皮膚を裂く。
子宮が傷つかないよう細心の注意を払って、
医布はメスを動かす。
「ん…んん」
血縁魔法使いの方も、口から血を吹き出している為、もう最初のような勢いで唸ることも無くなった。
「そうだ、お前らは魔女の四肢を切り取ってくれ」
「あ、はい、ノコギリでいいですか?」
医布は部下の方を見ずに「それでいい」と告げ、
子宮をとる事に集中した。
メスが皮膚をゆっくりと切り裂いてゆく。
白い綺麗な肌は、
赤色の線と共に徐々に切り開かれている。
筋繊維を“プチプチ”と切っていると、
反射かサミリオンの身体が“ビクッ”と動く、
サミリオンの表情を見ると、
やはり表情は全く動く事は無いが、
痛みを涙で表している。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い)
そして、ゆっくりと性器まで切り開らく、
陰核のちょうど真上まで医布はメスで切り開いた。
「完……璧っと」
そこからは、
切り開かれた線を指で裂くように開いていく。
裂いた肉に指を入れると、
またもやサミリオンの身体が震えた。
(やめてやめてやめてやめてやめて!)
“グチッ“
そして、遂に子宮が見えてくる。
淡色の肉球を傷つけないよう周りの肉を切り裂いてゆく、卵巣まで綺麗に。
もちろんここまでも麻酔なんてしていないなで、
サミリオンは痛みを感情で表せない分、
涙を流し続ける。
(あ…あぁ…あっあっ)
そしてそれは、唸る事ができなくなった
血縁者達も同様だった。
目の前で、娘、妹の髪を焼かれ、
目の前で子宮が取り出されているのだ。
耐えらるはずもない。
(誰かぁ…助けてよぉ…)
“グチャッグチュッグチッ“
目を塞いでも音だけで情景が分かってしまうのも残酷だった。
「ふぅ…お前はどうだ?
俺は子宮まで行き着いたぞ」
ひと休憩のつもりか医布は四肢を切っている部下に話しかけた。
だが、部下達は手間取っているらしく。
右手は骨の見えるとこまで切れていて、
左手はまだ黄色い脂肪が見え隠れしていて、
右足は筋繊維が見えてはいるが、
骨までは到達しておらず、
左足は皮一枚まで切断できていた。
「ぼちぼちっすわー、
確か皮一枚に残すんでしたっけ?」
「忘れんなよバカ!
ちぎれない程度まで切るんだよ!」
“グチャッ!”
医布はまた子宮をとる作業へと戻る。
(はぁ…この作業が一番疲れる…)
そんなことを思いながらも、
医布は淡々と作業を進めていた。
“ガリガチッガチッ!”
すると、医布の子宮を弄る音とは別に、
何かを噛み切るかの様な音が耳に入った。
「ん、誰かガムでも噛んでるのか?
それだったら今すぐ捨ててこいよー」
そう医布が部下へ言うが、
当然ながら誰もガムなどは噛んでない、
“ガリ”
何の音か気になっていた医布だったが、
重要な作業の最中でもあり、(まぁいっか)と
作業に集中した。
だがその時だった、
突然!真っ黒な光が目を奪うと同時に、
耳を潰すかのような耳鳴りが響く。
「!?!?!?」
突然の事に医布は混乱するが、
耳鳴りのせいで自分の声すらも聞こえない。
“ビシッ”
そしてその瞬間、
頭の中に電流が流れるかの様な刺激が走る。
《死星光》
死の魔法最大の魔法
光を浴びた全ての生命を強制的に終わらせ、
新たな命の光を舞い戻す。
〜舌切り杖〜
母胎作り中、ブルースは必死に叫び続けた。
だが、その声が届くことはなく、
喉も既に血を吹き出していた。
そこでブルースは自身の舌を噛みちぎって、
杖にしたのだ。
そして自爆の様な形で死星光を放ち、
全てを道ずれにした。
全てはサミリオンの苦痛を終わらす為に…
《シフォン・ケェキ集団失踪事件》
それは一瞬だった…
死星光の放たれた場にいた医布含め多数の部下、
そしてルギバナ家、
シフォン・ケェキの住民全ての命が、
その一瞬にして消え果てた。
この魔法は放射した光を浴びたもの全てに影響し、その光は強制的に脳を変形させ、
その後、溶けるように土へ還ってゆく。
光は全てを貫通し、人々の元へとやってくる、
死星光を浴びた住民は皆溶けてしまい、
そのせいで皆は姿をくらました。
死星光は容赦のない魔法であり、
浴びたものの意思さえ残さずに消し去る魔法、
だが、もう一つの効果もある。
それは、死んだもの達の魂を融合させ
また新たな生命を生み出すのだ。
〜復活の目覚め〜
レズはその眩い光を見ていた。
教団の管轄する教会から光るそれを見ていると、
とても心地よく、
全ての雑念が溶けるかのようだった。
そしてレズを含め、ロンドも他の家来達も
跡形もなく消滅していってしまった。
それから半年
シフォン・ケェキ集団失踪事件が風化して行った頃、住民のいないその国は新たな『楽園』を創り出すため工事が始まっていた。
そしてもう一つ、
生命の誕生も始まっていた。
“ゴソゴソッガリッガリ”
信徒達が作業を終えて静かになったその楽園に、
何やら不穏な音が響く。
それは地面から聞こえていた。
“ガリガリッガリッガリ”
土の中から、
徐々にその音は激しくなっていく。
まるで溺れそうになって水中から這い出ようとしているような、そんな音が地面から鳴り響く。
“ズボッ”
そして遂に、
はい出ようとしていた正体が姿を現す!
地面から出たのは“手”だけだが、
その手は全ての皮膚を剥ぎ取ったかの様な醜い手だった。
そして更に体が地面から這い出てゆくが、
体にも皮膚は無い、
筋肉と内蔵が丸見えになっていた。
「はぁっはぁっ」
やっと息が出来たのか、
その異形は激しくその場で呼吸をする。
「俺…は、」
何があったか思い出そうにも、脳の記憶は
多数の人間の記憶をツギハギにしたような記憶であり、
自分が何者なのか、何があったのか、
すぐに整理することは難しかった。
だが一つだけ、分かるものある。
「俺は、『レズ・アナロ』」
その名前だけが彼の分かる唯一の個人情報。
そしてその瞬間、
教会の方向からも何か音がする。
また、地面から何か這い出ようするような音が。
レズはその音の方へ向かうと、
同じ様に地面から這い出ようとする生命を発見した。
レズは直感で(助けないと)と思い、
音の出る方向を掘り進めていく。
すると、そこには老人のようなしわくちゃな手が這い出てきた。
そして更に掘り進めていくと、
そこには、長い金髪と白いヒゲを携えた生命が
レズと同じ様に、
「はぁっはぁっ」と呼吸を始める。
「はぁっはぁっゲホッゲホッ」
そいつはその場で口から土を吐き出すと、
レズを見た。
「レズ…?」
そう一言だけ喋り、
しばらく二人は見つめ合うのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜二人の賢者〜
二人は死んだ幾数もの魔法使いの融合体であるため、
潜在魔法能力は『賢者』に近しいものとなっていた。
レズは火の魔法が引き継がれたが、
その火はロンド・K・アナロの『火の魔法』でもあり、レズ・アナロの『火の魔法』でもある。
逆にもう一人は、ブルース・ルギバナの
『殺意を操る魔法』とサミリオン・ルギバナの
『死を操る魔法』の二つを引き継いでいた。
二人とも最初は何も分からなかったが、
不思議な事にレズはその新生命を、新生命はレズを
『信頼できる存在』として自我に深く刻まれており、自然に行動を共にしていた。
それから、楽園工事の進むシフォン・ケェキから
脱出し、血栓唐納の
豊かな山林へと逃げた。
そこで徐々に記憶を繋いでゆき、
レズは自分がレズだが、
レズでは無い事を早い段階で気付いていた。
記憶の中には、レズとしての子供の記憶。
誰か知らない大人の記憶。
そして、目の前でサミリオンが拷問されている
“ダルマイト”の記憶が…
それから、名前のなかったもう一人の新生命に、
レズは名前を付けた。
『ブルース・アナロ』と…
これは親友であり、
兄弟であったブルースへの感謝。
そして、息子としてのブルースへの
謝罪も込めて名ずけたのだ。
そのブルースはというと、
記憶が整理される事もなく、
新しく『ブルース・アナロ』としての人格が徐々に形成されていった。
レズは酷い記憶は無理に呼び起こすべきでないと
考えて、過去の事をブルースに教える事は無かったのだ。
〜新教区『オルフォルニア』誕生〜
それから、
襲い来る教団から逃げながらも移動を続け、
その最中にレズは杖作りを学んだ。
それから我流で杖職人となり、
細々と生きる魔法使い達へ
高額で杖を売りつけて生計を立てていた。
反対にブルースは、
レズの稼いだお金を使って遊び人をしていた。
そんなある日、杖の修理に贔屓してる顧客の一人が
レズに話しかけた。
レズは作業しながら、いつものように話を聞く。
「そいやぁ知ってるかい?
『司蒼教ラージ・トルコマン』が
新しい教区を増やすらしいぞ。
魔法使いの住みやすい教区だといいな」
普段は顧客の話など聞き流すレズだったが、
ラージ・トルコマンという言葉を聞いた瞬間、
ピタッと動きが止まった。
「ラージ・トルコマン?魔法貴族の?」
レズが深入りするよう顧客を見ると、
ポカンとしている。
「あれ?アンタ知らないのかい?
随分前に司蒼教になったって、
ニュースで話題になってたぞ」
普段テレビを見ないレズは初耳だった。
しかも随分前との事だ、
レズはかなり衝撃を受けた。
魔法使いはこの地王で淘汰される存在にまで堕ちたのに、その中で司蒼教にまで上り詰めるのは相当凄いことだが、裏切り続けられたレズにとっては
何とも言えない気分だ。
「そう…なんだな、
それでその教区ってのは何処に出来るんだい?」
それを聞かれるのを待っていたかのように、
顧客は少し声のトーンを上げた。
「それがな、青踏各区のジョニー平野を
全て教区にするらしいぞ」
〜ジョニー平野〜
かつて『ゲルストゥド』という大国が、
携えられていた広大な平地。
その大きさは今の大聖堂にも勝るという。
名前の由来はゲルストゥドを統治していた支配者の『ジョニー・トランポリン』という名からとった
らしい。
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「あんなデカイ土地全部をか?
月城区だってそんなデカくないぞ…」
アナロ兄弟が住んでいる血栓唐納の月城区は、
教区の中でも大きい方ではあったが、
まだ大聖堂の方が大きかった。
それを超えるデカさだ、
おそらく国が何個が建てられるのだろう。
「それに加えて、
その教区を全部息子のアカロフに統治させるんだとよ!」
「何だって!?」“ボキッ”
レズはあまりの衝撃に大きな声を出してしまい、
その勢いから依頼中の杖を折ってしまった。
「あ、やっちまった…」
レズは折れた杖に目が行ったが、
もう一つの事で頭がいっぱいだった。
(アカロフ…アイツ生きてたのか)
「ちょ、ちょっと」
折れた杖を見て顧客はたじろいでいると、
レズがその破片を拾って顧客へ笑いかける。
「すまないな、
お詫びに今回はタダで新しいの作るよ」
「そ、そうか…よろしく頼むよ」
様子の変わったレズに顧客は不気味がっているが、
レズは何か希望が見いだせたかのような、
そんな顔をしている。
〜その日の夜〜
“ガチャリ”
「兄貴ー帰ったぞー」
ブルースが大声でレズへ帰宅を確認させる。
いつもなら、「はーい」とレズが言うが、
今日は「早くこい!」と急かす言葉をブルースへ
吐いた。
普段と違うレズの様子に不思議がりながらも、
少し駆け足でレズの元へ向かうと、
何やら荷物をまとめているようだった。
「急で悪いが、引っ越すぞ」
ブルースの前頭葉には?が浮かんでいた。
「は?何処に?」
「オルフォルニア区」
聞かれるのを分かっていたのか、
めちゃくちゃ食い気味にレズは答えた。
だが、ブルースにとっては意味の分からない事が
多すぎる。
「あぁ、あの新教区か…
そうじゃなくて、
なんで急に引っ越す必要があるんだよ」
最な質問をすると、レズはブルースに向き直った。
「俺たちにも希望が見えたからさ」
ブルースは「は?どうゆう事?」と首を傾げるが、
レズはそれ以上は詳しく話そうとしなかった。
「はぁ……まぁいっか、兄貴に従うよ」
全てを飲み込めた訳でなかったが、
ブルースはレズの意見を肯定した。
そのようにして、二人の賢者は魔法使いの教区こと『オルフォルニア区』へと赴くのだった。
これで過去のお話は終わりです!