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逝きる理由 ~伍話~

~崩壊しかけるキャンプ・タワーで、

遂にパンプ達と猫が合流できたと思った束の間、

魔法使いが焦った顔で猫へ必死に何か訴えるのだった~



~キャンプ・タワー・地下拷問部屋~


パンプ達が猫を見つけたころ、猫も下からパンプ達を見つけていた。


「あいつら、あんなところで何やってるんだ?」

揺れの激しい一階と違って、地下は床が落ちてくる以外に被害はなく、

猫から見たら、パンプ達が動き回ってるようにしか見えていなかった。


”ね…つっ……生き…止め……”


魔法使いが必死に猫へ訴えているのは分かるが、

何を言っているのか猫は聞き取れなかった。


「ここからじゃよく聞こえねぇな、

早いところ戻らないと……

カリティス…今までありがとな」

猫はそう別れを告げ、カリティスの元から去ろうとした次の瞬間!


もう聞こえるはずのない声が猫の耳を貫いた。


「隊長、まだ終わってねぇよ…」

猫は驚いて後ろ振り向くと、

そこには鉄肉達に貪られていた筈のカリティスが、そこに立っており、

吹き飛んだ筈の体は元に戻っていた。


「アンタが何もせず突っ立っていたおかげで、

もうすっかり元気だ…

名残惜しいが隊長…

アンタも”俺の一部”になってもらう」

カリティスは鉄肉達に食べられてるように見えていたが本当は、鉄肉達がカリティスに自ら体を差し出し、カリティスが鉄肉達を取り込んでいたのだ!



~キャンプ・タワー・一階~


魔法使いとパンプは、一階にできた瓦礫の隙間から猫たちの様子をうかがっていた。


「あぁクソッ!今なら殺せたのに!」

魔法使いは床を”ドンッ”と叩いて、悔しそうな表情を見せる。


(猫は何故動かない、

今すぐにでも逃げねぇとやばいのに)

猫は生き返った鉄獄(カリティス)を前にして、

後ろへ逃げようとも前に攻撃しようともしなかった。


「パンプ、もう猫はあきらめろ!」

魔法使いは無理やりパンプの手を引いて

キャンプ・タワーから出ようとするが、

かたくなにもパンプはその場から動こうとしない。


「…チッ……そんなに死にたきゃ勝手に死ね!」

魔法使いはそう言い残し、

パンプを置いてキャンプ・タワーから一人で()()()()


(……)


~キャンプ・タワー・地下拷問部屋~


近づいてくるカリティスに対し、猫はその場から動かない


「カリティス…マジで俺を殺す気か?」

(今攻撃されれば逃げようがない…もう…)


猫の言葉にカリティスは一瞬だけたじろいだが、またすぐ歩みを進めた。


「まだそんな事いうのか!

今さっき俺の事吹き飛ばしたくせしてよく言えるな。

……これは俺にとっての()()()()()()()()()でもあるんだ。

黙って俺に殺されろ!!!」

一気に踏み込むとカリティスは、

躊躇なく猫の腹に鎌を突き刺した。


細い体を長い鎌が貫き、

赤黒い液体が白い毛並みを染めていった。


〜キャンプ・タワー・一階〜


魔法使いが先に脱獄し、

パンプは一人で猫の様子を見ていた。


だが、魔法使いの言った通り、

無慈悲にも猫は鉄獄に腹を切り裂かれ、

遠くからでも明らかに血が流れすぎていることが

分かった。


(猫ッ!!!)

声を出せようが出せなかろうが、

パンプの声はもう猫に届くことはなくなった。


~キャンプ・タワー・地下拷問部屋~


(本当にやるなんて…な…)

猫はぐったりとして、その場に横たわった。


「……」

カリティスは猫の体から鎌を抜き、切り裂いた腹から少しずつ内臓を引き出して、

自分の中に取り込める肉を仕分け始めた。


「…教祖に改造されてるらしいが、

特に異物は入って…ないな…?」

猫の内臓(腎臓)を取り出し、

カリティスはそれをまじまじと見ている。


「これは驚いた…これ全部…」

カリティスは内臓をもって、

何やらぶつぶつ言っている。

そしてそれを体に戻すと、壊れた人形でも見るかのように立ち上がって猫を見下げた。


「仕方ない…か…隊長…()()()()()()()()…」

カリティスは猫の体に内臓を戻すと、そのまま何もせずに去っていった。



~数時間後~


「んん”」


猫が目を開けるとそこは、

真四角な謎の部屋の中で、

ガタガタと揺れていた。


よく見るとそれは、キャンプ・タワーに行くときに乗った宣教車の中だった。


猫の声に気づいたのか、誰かが近づく。


「おい!猫が目を覚ましたぞ!」

誰かがそう叫ぶともう一人も、

横たわった猫に近寄る。


だがもう一人は何も言わないが、

横たわる猫に手を添えてきた。


「俺は……」

猫の記憶は、カリティスに腹を貫かれたところで

途絶えており、自分の体の傷を見る限り、

それが夢じゃないとわかる。


腹には血のにじんだ包帯が雑にまかれており、

潰れた片目にはガーゼが突っ込んであった。


「お前…よく生きてたな、

てっきり死んだと思ってた」

猫の目の前で話しかけてのは、なんと”魔法使い”で手を添えてるのは()()()()”パンプ”だ。


「パンプがお前の事を運んできたんだ、

最初見たときは死体を持ってきたのかと思ったよ」

魔法使いがそういうとパンプがその小さな足で、

魔法使いを蹴った。


言葉はないが、パンプが怒っていることが分かる。

そして崩れゆくキャンプ・タワーから、

瀕死の猫をパンプが助けてくれたらしい。


「そうだったのか…パンプ…ありがとう」

猫は弱々しい声でパンプに礼を言った。


パンプは心配そうに猫を見ている。

「俺だって一応治療してやったんだからな」

猫に巻いてある包帯やガーゼは魔法使いが巻いてくれたものらしい。


「潰れた目にガーゼ突っ込むやつがいるか!

馬鹿野郎」

猫は強めの口調でそう言って、

横たわっていた座席から起き上がった。


すると猫は違和感に気づく、なんと()()()()はずの左腕がまた生えていたのだ!


「その左腕も治してやったんだから感謝しろ」

それを聞いて猫は(そんな事できるのか!?)と

大層驚き、それは顔にも出ていた。


「魔法使いに出来ないことはないんだよ」

誇らしげに魔法使いは鼻を上げた。


すると猫は肘や指を動かして魔法使いに見せつけた。


「まだ指が動かしずらいな…神経が繋がってんのかこれ?」

あれだけ損傷のあった腕を元に戻すのも奇跡に

近いのに、猫はまた魔法使いに文句を言った。


「治してやっただけ感謝しろ!」

と激昂する魔法使いを置いて、

猫は運転席にいるジャックの方へ向かった。


「猫…生きててよかったよ」

魔法使いとの会話を聞いていたようで、

ジャックも猫が生きていたことに安心していたようだ。


「まぁ、初日の任務で死ぬわけにはいかないしな、

それよりジャック、お前外から見てただろ、

キャンプ・タワーに何が飛んできたんだ?」


「あぁ、たぶんあれは()()()()だと思うぞ、

まぁ珍しい事じゃないだろう、

どっかの反教団が撃ち込んだんじゃないのか?」

ジャックがそういうと猫は納得し、

また座席へ戻った。


「とりあえず、お前には聞きたいことが山ほどある…ってそれ、俺の(タバコ)だろ!

何吸ってんだ!」

座席で煙草を吸う魔法使いに猫は怒鳴ると、

魔法使いは咥えてた煙草を握りしめて外に捨てた。


()()()()に吸ったけどやっぱりまじぃ、俺には合わねぇな

…で、何の用だ」

魔法使いの失礼な態度に猫はイライラしていたが、怒りを抑えて本題に入った。


「…まぁ自己紹介からしないとな、

俺は『猫』、んでこっちが『パンプ』

運転してんのが『ジャック』で、俺たちは

白零姦連合(はくれいかんれんごう)』という

反教団だ」

猫は今いる全員の名前を出して軽く自己紹介をした。


すると魔法使いも、少しだけ背筋を伸ばし猫の方を向いた。


「…じゃあ俺の事も言わないとな、

俺の名前は『ブルース・アナロ』

もう分かってると思うけど『魔法使い』だ」

ブルースも猫に合わせるようにまた軽く自己紹介をした。


「分かったありがとう…

ブルースはこれからどうするつもりだ?」

ブルースはその問いに少し悩んでこう言った。


「特にない」

猫はその答えに内心ガッツポーズをした。


(それなら入ってくれるはず!)

「それならうちの反教団に入らないか?

衣食住もあるし、

お前がいればかなり戦力が増えるんだよ」

ブルースはそう聞かれ、また悩みだした。


「猫、お前が団長(アタマ)か?」

猫が首を振ると、

興味なさげにブルースは座席にもたれた。


「決めるとしたら団長と話してからだ」

その答えに猫は内心がっかりした。


(めんどくせーな、さっさと決めろよ)

顔には出さないが、心の中で猫はしかめっ面だ。


「そういえばさっき、パンプがこれ渡してきたぞ」

話の話題を変え、ブルースが猫に差し出したのは、『ブロ共和国入国許可証』だった。


「聞いたことない国だな、青踏各区(せいぶかくく)の国なのかここは?」


「さぁな俺もわからん、だが、共和国ってことは

()()ってわけでもなさそうだけどな」


〜青踏各区〜

地王三大大陸の一つであり、最も安全な土地でも

ある。

国によっては教区が()()国もあり、

まだブルースカートに染めきっていない地方とも

言える。



二人は後部座席の小人二人を見つめた。

小人はまだ目を覚まさず、

やはりぐったりとしている。


「脈はあるみたいだけど、全然起きないな…それよりアイツらってここら辺の種族じゃないよな」

小人は文字どうり小さな人間で、

猫たちは見たことがない種族だった。


「あぁ、小人は菌種頭(きんしゅとう)以外で見たことないが、あれはどう見ても菌種頭じゃないし……

つい最近、他大陸に()()()()ってニュースで言ってた」

小人の謎が深まる中、宣教車は基地へと走ってゆくのだった。



~??????~

「帰ったか…カリティス」

薄暗い宮殿で、何者かがカリティスを迎える。

そいつの背は小さく、また、猫に似た()()()を持っていた。


「…『魔臓(まぞう)』はどうした?」

カリティスは思い出したかのように、”あ、”とつぶやいた。


「魔臓か…反教団に持ってかれちまった」

それを聞き、何者かは強い怒りをあらわにした。


「持ってかれたじゃねぇだろ!

『牧場』だって今は枯渇してんのに、

お前が持ってこなくてどうすんだよ!」

そう怒鳴られるが、

カリティスは全く悪びれもせず、耳を塞いでいる。


「いいだろ、また『ゲルスト』で補充すれば…」


「いいわけないだろ!ゲルストで補充すると金がかかるんだよ…」


すると何者かはカリティスの後ろの鉄屑兵に視線が移った。


「なんか鉄肉の数も少ない気がするんだけど…

また死なせたのか?」


「…俺が殺したわけじゃねぇ、

お前らがバンバン()()()()撃って来るから瓦礫で潰れたんだよ」


何者かはカリティスに顔を近づけた。


「所々体の肉の色が違う、お前また取り込んだな」

カリティスはウソを見透かされ、何も言えず

何者かはため息をつき顔を俯けた。


「血二駆作るにも金かかるし、魔臓補充にも金がかかるのに、なんで魔臓もなければ鉄肉の数減らすんだよ…『恵比寿(えびす)様』に怒られるのは

俺なんだけど…」


そう、うなだれる何者かに、

カリティスはしゃがみこんで近づいた。


「そんな事よりいいニュースをおしえてやろうか?」


「いいニュースだと?」

何者かは顔上げて、包帯面のカリティスを見た。


「『(たいちょう)』が生きていたぞ」


その一言にそいつは軽くあしらった。

「『猫』って『六九号』の事か?

嘘つけよ、もう追放されて十年以上経ってる、

とっくに寿命が来てるよ」

そいつはそう言うがカリティスは真剣だった。


「俺もそう思った、だがキャンプ・タワーで俺は

はっきり姿を見た…

鉄肉を取り込むことになったのもアイツと戦ったせいなんだよ」


「…」


カリティスがふざけたこと言ってるようには思えず、少し押し黙った。


「…戦ったってことは勝ったのか?」


「まぁ、勝ったって言えばそうだけど、

とどめは刺さなかった」


カリティスがそいつに何かを差し出した。


「猫の『肉片の一部』だ、よく見てみろ」

何の変哲もない、白い毛の混じった肉をカリティスはそいつに見せると、

興味深そうに見始めた。


「これは…」


「気づいたか?アイツは俺たちみたいに()()()()()()()()()生きていける、俺が思うにアイツは…」

薄暗い宮殿で二人の()()は猫の肉片を見つめるのだった。



~白零姦連合基地~


宣教車の中、二人はその後もたわいのない雑談をし、宣教車は反教団の基地へと着いた。


そして基地である教会へ魔法使い達を案内した。


作戦室まで行くと何か作業をしていたシナモンが

猫たちに気づき、出迎えてくれた。


「猫!どうしたその目は!」

シナモンは囚人よりも猫の傷を心配した。


「色々あってな…でも今は動けるぞ、

片目がなくなるのきついけど」


猫はキャンプ・タワーでの事を全てシナモンに話した。


「なるほど鉄肉か…それで、なんでパンプの頭がないんだ?」


「それはブルースが吹っ飛ばした」


”ブルース”という聞きなじみのない名前にシナモンは首を傾げた。


「あぁ言い忘れてた、魔法使いの事だ」

猫はシナモンの前にブルースを連れてきた。


「魔法使い以外の囚人は二人いるが今は寝ている」


「三人か…」

魔法使いは嬉しいが普通戦力に、

『百人』は欲しかったシナモンは少しだけがっかりした。


「まぁでも、そんなにボロボロになるまで戦ってくれたんだよな、()()ともありがとう」

キャンプ・タワーの外で待っていただけのジャックは少し申し訳なさそうに、シナモンの感謝を受け取った。


「そういえば、シナモンは基地で何してたんだ?

通信も全然なかったけど」

通信端末を持たなかった猫たちは分からなかったが、シナモンからの通信は最初の猫との通信以外

なかったらしい。


「悪いかった、少し”交渉”に苦戦してな」

シナモンの目の前のモニターには地王大陸の地図がデカデカと表示されていた。


「詳しくは言えないんが、『血栓唐納(けっせんとうのう)』の反教団に戦力も求めたんだ。

だが、あっちも()()を始めるつもりらしくて断られた」


~血栓唐納~

青踏各区の北西に位置する地王三大地方の一つ、

多くの反教団が集まっており、政府軍の本拠地があるところでもある。

埋葬しきれなかった死体を集めた

大墓地(だいぼち)』や地王で唯一異教、

聖母(せいぼ)信仰』などが寝ずいている。

地王戦争の多くがこの地方で行われており、

都市などは壊滅し、小さな村以外は全てが血に染まった荒野が広がっている。



「へぇ~また戦争するのか」

あまりにも頻繁に戦争が起きるので、

地王に住むものは、そこらへんで事故が起きたぐらいのスタンスで戦争を捕えており、

猫たちもその一人だった。


「ところで、ブル…ースとか言ったな、

猫から聞いてると思うがうちの団に入る気はないか?お前のような強い魔法使いがウチにいれば百人力になるんだ」

シナモンがそういうと、

食い気味にブルースは答えた。


「あぁ、あんたが団長か、

じゃあちょっと話があるから二人きりにしてくれ」


「だ、そうだ、お前達は別の所で休んでいてくれ」

シナモンにそう言われ、特にやることのなかった三人は寝ている小人たちの様子を見に行くことにした。




「それにしてもさ、初日の任務でそんなボロボロになるなんて災難だったな猫」

包帯まみれの猫を見て、ジャックがそう言うと、

パンプが申し訳なさそうな顔をした。


猫の傷のほとんどはパンプをかばったもので、

パンプ自身は猫の邪魔しかできなかったからだ。


だが、そんな様子のパンプの肩に猫は手を置いた。


「おいパンプ、出撃前の自信はどうした!

そんな暗い顔すんなって、お前が俺の事を助けてくれなかったら、今頃、俺は瓦礫の一部になってたんだぞ」

猫にそう言われ、パンプは少し元気が出たようだ。


パンプを慰めていた猫だったが、猫自身は別の事で頭がいっぱいだった。


(カリティスのあの変わりよう…前まで普通の信徒だったのに、あんな異様な姿にされて…

それにアイツの言うことが本当なら、俺の隊は.…)


キャンプ・タワーでの事で猫は、

深く悩んでいるようだった。


「猫、どうしたよ…そんな神妙な顔して」


「ん、あぁ悪い、少し考え事だ…」


ジャックは心配そうに猫を見ている。

すると何か思いついたか、徐にポッケに手を突っ込んだ。


「これやるよ」

ジャックの手にあるのは、

くたびれた一つの”眼帯”だった。


「ずっと()()()()()突っ込んどくわけにはいかないしな」

猫の目に無造作に詰められているガーゼを見て、

ジャックはそう言った。


「ありがとな、じゃあ早速…」

だが、ガーゼを取ろうとすると、

何かが奥で引っかかっていた。


「ん、なかなか取れないな.…ん――!!」

猫が無理やり引き出そうとすると、

猫の目から”血の涙”が溢れ出した!


「猫!血が出てるぞ!」

ジャックが慌てた様子で猫を制止するが、

猫はやめるそぶりを見せない。


「もう…すこしで…」

”スポンッ”と音上げて、

猫の目からガーゼが飛び出した!


「よ、よし…抜けたぞ…」

結構痛かったらしく、猫はゼェハァ言っている。


だが、ガーゼの先についてるものを見て、

パンプとジャックは戦慄した。


ガーゼの先には少し大きめの”血の塊”がぶら下がっており、血にまみれて少し潰れているが、

それはどう見ても猫の『眼球』だった。


「あの野郎…治療したとか言って、目ん玉取り出してないのかよ…どうりで痛いわけだ」

(いや、あってもなくても痛いだろ…)

とジャックは心の中でツッコンだ。


猫は血が止まるの待つと、

ジャックがくれた黒い眼帯を目につけると、

少し血で滲んでしまったが、

猫の目にピッタリとハマっていた。


「おぉ、似合ってるぞ」

パンプもジャックに同意して、

うんうんと頷いている。


そんなことをやってるうちに、小人たちを休ませている部屋の前まで三人は来ていた。


部屋に入ると、すでに小人たちは起きており、二人で何か話しているようだった。


「おーやっとお前ら起きたのか、」

猫の声に反応して、小人たちはビクッと肩を震わせた、どうやら猫たちに気づいていなかったみたいだ。


「貴様たち、何者だ!

我々を監禁して何のつもりだ!」

背のわりに野太い声で小人たちは猫を威嚇した。


「監禁なんてしてねぇだろうが、逆に俺たちはお前を監獄から出してやったんだけど」


「監獄だと?….…あ」

小人は何かを思い出したようだ。


「じ、じゃあ!き、貴様らは何者だ!」

そう聞かれると猫とジャックは食い気味に答えた。


「「反教団だ」」


「は、反教団?なんだそれは?」

おかしなことに小人たちは反教団を知らないようだった。


「ハァア?反教団知らない奴なんて、この地王大陸に()()()()()()だろ、

お前らこそ、何者なんだよ!

こっちだってお前らみたいな()()見たことねぇぞ!」

小人達の勢いに乗せられ、

猫も少し熱くなってしまった。


だが、小人達も怯むことなく三人を睨んでいる。


「知らないものは知らない!」

小人たちは本当反教団というものが、

分からないようだった。


「我々は偉大なる『ブロ』の傭兵だ」

(ブロって、あの入国証の国のことか?)

猫はパンプから受け取った、

入国証の『ブロ共和国』を思い出した。


「じゃあ、その傭兵さんたちはなんで

キャンプ・タワーにいたんだ?」

小人は少し悩んでから問いに答えた。


「青踏各区への遠征に行く途中に、”旅団”が襲撃を受け、なぜか我々だけがあの忌々しい監獄に捕えられてた」


「なるほど…」

猫は小人の言葉に頷いた。


「さぁ、俺たちの事は言ったぞ、お前らの事も教えろ」

仲間にする予定の者たちなので、

仮に教団の人間でも、立場的に猫達が上なので、

猫は正直に反教団の事や、

白零姦連合について詳しく彼らに説明した。


長々と説明し、彼は黙って説明を聞いていた。


「つまり、我々を仲間にしたいというわけだな」


「その通り」

猫たちは頷いた。


「ふん、じゃあ月”五十”束だ」

(五十束=日本円でおよそ『五億円』)

「我々は『髪』さえもらえれば、

傭兵として責務を全うする」


猫はあまりの現実味のなさで”は?”と

声を漏らしてしまった。


「お前ら、『ミリ瓶』と勘違いしてんのか?

そんな出せるわけねぇだろ」

(~ミリ瓶~ 三mmの髪が三cm程度の小瓶に詰められた通貨 一瓶=日本円およそ『五万円』 )

横で聞いていたジャックたちも唖然としている。


だが、ミリ瓶という言葉に対して小人たちは頭を傾げた。


「ミリ瓶?まぁなんでもいい、

金さえくれれば働くと言っておるのだ」


(こいつら…)

猫は今の小人たちの反応に違和感を感じ、

ジャックに耳打ちする。


(…こいつら、なんか怪しくないか?)


(確かに…反教団知らなかったり、

髪の価値に対しても、

なんだかわかってなさそうだしな)


「おい!何を話している!」

ひそひそと話し合う猫たちに小人が声を荒げた。


何か、焦っているようにも見える。


「ちょっと…団長と相談してくる、

パンプ、ここは任せたぞ」

猫はジャックの裾を引っ張るがジャックは首を振った。


「いや、パンプひとりじゃ心配だし、

俺も待ってるよ」


(こいつらが敵だとしたら、

今のパンプじゃ任せられない)

ジャックが猫に耳打ちをすると、

せかすように猫の背をおした。


「じゃあ、任せたからな」

猫は速足でシナモンの元へと向かった。



作戦室に戻ると、ブルースの姿はなく、

シナモンが何かをパソコンに打ち込んでいた。


「シナモン、ちょっといいか?」


「なんだ」

シナモンは作業したまま、返事をした。


「あの小人たちの事だ」


「あぁ、仲間にできたのか?」

猫は首を振る。


「あいつら、ブロ共和国っていう国の傭兵らしくてさ、金を払ってくれれば仲間になるって言ってる」


「なんだそんな事か…いくらを所望してるんだ?

キャンプ・タワーで使うはずだった髪束が、

たくさんあるからまだ、余裕は全然あるぞ」

猫は呆れたような顔でさっきの傭兵達の言葉を、

そのまま言った。


「月に五十束(五億)」

シナモンのタイピングが止まる。


「ミリ瓶じゃなくてか?

そのペースだと二か月しか雇えないぞ」

シナモンは驚きや怒りといった感情より、

意味不明の感情が前頭葉に浮き出た。


「そうなんだよ、

なんかあの小人たちおかしいんだよ、

反教団の事知らないとかいうし、なんというか、

全く『地王の常識』ってのがない気がする」

シナモンが不審な顔をしている。


「”ブロ共和国”も聞いたことない国だったしな…

まぁ、別にあの小人たちが仲間に入っても戦力にならないだろうし、アイツらに五十束も使えるわけ

ないから、あとでB地区に送り届けよう」

あれだけ戦力を欲しがったシナモンだったが、

さすがの条件に”NO”と言わざる終えなかった。


「分かった伝えておく、

ところでブルースはどうした?

仲間になってくれるのか?」


「あ?あぁ、そうだ、

仲間になってくれることになった、

アイツは今ションベンだ」


ブルースが無事仲間になったことが分かると、

猫は安堵した。


「それは良かった、

そういえば何の話してたんだ?」

ブルースはシナモンに二人きりで話したいと言っていたので、余程大切な話なのか、猫は気になっていた。


「あーえっと、自分の目標を白零姦に入ることで

達成できるかを聞いてきた」

”目標?”と猫は首を傾げると、

猫の後ろから誰かが呟いた。


()()使()()()()()だよ」

振り向くとそこには”手がべたべた”のブルース

がいた。


「ウワッびっくりした…

てか、手をちゃんと拭いて来いよ!」

猫が怒ると、魔法使いは自分の服で手を

“パッパッ“と拭いた。


「んで、なんて言った?」


「だから、『魔法使いの開放』だって……

今いる魔法使いは『奴隷・家畜・素材』として教団、特に帝国にとらわれている

だから、教団を倒した時、

魔法使いも解放できるかの交渉だよ」

シナモンは頷いた。


「勿論、教団を倒した暁には魔法使いを開放するつもりだ」


「そうゆう事か…でも、別にそれならシナモンと

だけじゃなくてもよかったんじゃないか」


ブルースは嫌な顔をした。


「いやさ、別に猫とジャックはいても良かったんだけど…

あの”子ども(パンプ)”って『帝国』の人間だろ?だから、いまいち信用できない」

帝国に大勢の同胞を殺されているブルースにとってパンプを信じることができないのは仕方なかった。


「そうゆう事か…それは…仕方ないさ、

入ったばっかなんだから、

これから慣れていけばいい.…」

シナモンは否定せず、ブルースを肯定した。


「目標か~俺なんにも考えてなかったな…

そういえばシナモンの目標は何なの?」

そう猫が聞くとシナモンは、

少し考える素振りを見せた。


「俺か?俺は勿論教団を壊滅させることと…

いや、それだけだな、お前はないのか?」

シナモンは何か言いかけたが、

そのまま猫へ同じ質問を振った。


「最近…一つできた、

”俺の隊の仲間たちを殺してやる”こと…だな」

シナモンとブルースはポカンとしている。


「お前の隊?」


「そっか、言ってなかったよな、

俺教団にいた頃『早産隊』っていう隊の

『青布(隊長)』を任されてたんだよ」

シナモンとブルースは猫の口から発せられたことに驚愕していた。


彼らは猫の事を『壱布』か『弐布』の下っ端だと

思っていたからだ。


「そ、そうだったのか…でも、”殺してやるって”…」

猫は二人にキャンプ・タワー地下で何があったのかを話した。


「.…にわかに信じられないが、

帝国ならあり得るな…」

気の毒そうな顔で二人は猫を見る。


「俺は”カリティス”や他の仲間たちが

『鉄肉』になって苦しんでいるのなら、早く解放してやりたい…

成り行きで反教団へ入ったが、これからは俺は、

この志をもって努めさせてもらう。

あらためて宜しく頼む」

猫は握り拳を掲げ、シナモンはそれ答えるとように

猫とグータッチをした。


「勿論だ」




その瞬間、小人たちのいる部屋の方面からドタバタと暴れるような音が作戦室まで響いた。


「おい、今の小人たちのいたところから

じゃないか?」

猫は小人達の怪しい言動を思い出し、

走り出した。


「…やばいかもしれない、早く行こう!」

猫たちは急ぎ足でその部屋へ向かった。


「おい!パンプ!ジャック!無事か!?」

反応はない…

蹴破る勢いで扉を開けるとそこには、


ジャックが倒れていた。


そしてその奥には…


「これは…」


全身の皮がべろんべろんに裂けて、

手足のもぎ取れた小人たちの死体、

真ん中には、

粉々に砕けたブルースの杖が散乱していたのだった

















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