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死死死死死死死死死死死死死死死死鉄生 ~肆話~

〜猫達はキャンプタワーに侵入し、

そこの不気味な改造人間、”鉄屑兵(てつくずへい)”と遭遇し、左腕を犠牲になんとか勝利を納めた。

そして、大きな不安を持ちながらも二人は、

次の階へと進んで行くのでした。


〜キャンプ・タワー二階〜


二階に着くとそこには、

囚人を入れておく”檻”がフロア全体にある。


なんなら檻以外、二階には何もなかった。


そして階段がひと続きになっておらず、

猫達はまず三階に向かう為の階段を探す事にした。


その階は檻と牢屋があるのが分かるが、

天に照明が付いておらず、外への窓も、

小さく檻の付いた物が数個配置されているので

外の光が少ししか入ってくることがなく、

さらにその中の窓には機関銃が設置されているものもあり、二階に明るさはほとんど無い。


そしてその中を二人は臆せず進んで行った。


「それにしても、やっぱり薄気味悪い所だな」

パンプがボソッと呟く。


「あぁ…でもよ、”噂”とは全然違うんだな、

 拷問受けるとからなんとかってやつ。

 今の所、拷問用具なんて一度も見てないし」

猫達は一階に大量の死体は見たが、

争った形跡もなく、二階にもただ囚人がいるだけだ。


「確かに、キャンプ・タワーって沢山の看守が

 毎日大勢の人間を拷問して、うるさい場所だと思ってたけど、案外静かだったし、

あの”改造人間(てつくずへい)”以外に看守の様な人物はいなかったしな。

もしかしたら、看守を機械に移行したのかな?」

パンプの予想に猫は“それだったら教祖賢いな“と

思った。


「人件費削減ってか?」

猫達が冗談交じりに会話していると、

通過した檻から”ガンッガンッ”と音が聞こえ、

振り返るとそこには、

()()が檻に頭をぶつけている。


そして、血塗れの額を上げると、

猫達をじっと見つめると、口を開き何かを喚き始めた。


「アー!ア〜!」

だが、呻くばかりで何を言いたいのかが分からない。


「一体なんなんだ?」

猫がその囚人の檻に近づき、その囚人の前に立つ。


「…なんのようだって、うわッ!?」

猫は落ち着いた声から一転、

大きく驚いて声を上げた。


「どうした猫!?」

パンプもその囚人の牢に近づく。


するとそこには、


()()()()()光景が広がっていた。


囚人は膝から先が切断され、

そこから”ウジ”が湧き、

体の皮が所々にかけて()()()とめくれており、顔は目が黒く焼け焦げ、鼻が無く、耳も削がれている。


そして舌がなかった。


囚人は感覚で猫達の存在を感じ取り、助けを求めてきたいた。


ボロボロでバラバラの手を伸ばして…


だが猫はその手を取らない、

それはもう助かることのない事実が猫には見えていたからだ。


「えげつないな、檻の中が静かな理由はこれかよ」

パンプは死んだ囚人の顔を上げ、完全に死んだ事を確認した。


仮に生きていたとしても、反教団として戦える様な

肉体は彼には無かった。


だが、子供ながらの考えか、

パンプは彼が生きていたら助けたいな、

などと頭の片隅で考えていた。


その様子に猫は呆れてるようだ。


「はぁ…まぁコイツにとって、

死ぬことの方が救われたのかもな」

暗闇で見えないが他のほとんどの囚人が、目の前の囚人と同じ状況だとわかった。


「やはり、噂は本当だったのか」

猫は五体満足の仲間が得られるだろうかと、

内心くたびれていた。


二階だけでこうなのだから、

心配になるのも無理はない。


「とりあえず、階段を探そう…」

流石の猫も、この空間に元気を無くしていた。


一方パンプは、諦めず仲間にできそうな囚人を探していた。


すると突然、パンプが猫の思う方向と別の方向に走り出した。


「お、おい!パンプ!」

パンプは一つの檻の前で立ち止まり、

大声で猫を呼んだ。


「猫ッ!コイツ生きてるぞ!」


パンプの所へ猫は歩いてゆくとそこには…


「どうしたんだ?一体」

猫が牢の中を見るとそこには、

まだ傷が少なく、ぐったりとはしているが五体満足の囚人が()()詰められていた。


「こいつら使えそうだぜ」

パンプは檻をガチャガチャと揺らし、

猫は中の人物を確認していた。


「そいつら、ここらじゃ見ない奴らだな」

牢の中の人物はかなり背が小さい。


『小人』のようだ。

”小人”サイズの小さな鎧を着ている。


「パンプ、ここの檻は鍵が必要だ。

 だから一旦、ここは魔法使いを優先しよう」

パンプは悔しそうだったが、

「そうだな、確かに魔法使いの方が重要だ」

と開き直った。


二人は階段探しを再開する。


だが、それを眺めている”不穏な影”がいる事に、二人は気づいていなかった。


「あ、あったぜ!」

パンプが階段を指差す。


階段は登ってきた階段と対照的に壁に設置されていた。 


「よしっでかしたパンプ、これで先に進めるな」

二人は二階を後にして”三階”へ向かった。


だが、階段の途中で上が”騒々しい事”に気づく。


“助けッ!やめッ…“


「ん?なんか上が騒々しいな」

誰かが叫び声をあげ、命乞いをしている。


”や、やめろ!……これを止めてくれぇ!”


”グジャアッッ”


肉の潰れる音も聞こえる。


「やっぱり、何か起こっているらしい」


「この階に信徒たちは集まってんのかな?」


二人は少し小走りして三階”第三牢獄(だいさんろうごく)”に到着した。


第三牢獄は第二牢獄と同じで、囚人の檻や牢屋が

敷き詰められている。


だが、その雰囲気は第二牢獄とは別物だ。


階段の途中で気づいてはいたが、到着と同時に

酷い腐乱臭と頭痛をも感じさせる気色の悪さが、

背筋に響く。


地面には、黒く変色した血液や拷問器具らしきものが散らかり、囚人の叫び声や呻き声が不気味な雰囲気をより一層不気味にしていた。


「なんだか本当にやばそうだな」

そして奥の暗闇から激しく何かを()()音が聞こえてくる。


「遠くで何かやってるなって

…おい、なんか近づいてきてないか?」

徐々にシルエットが浮かび上がるにつれ、()()はさらに不気味を感じさせる。 


人型なのは間違いないが、

両手足が通常では曲がらない方向へ曲がっていて、

そんな状態で何かから必死に逃げているようだから、一歩進む度に“グチッ“と関節が鳴っている。


「アイ…ツ…」

手を伸ばして、助けを求めているようだが、

異様なその姿に猫たちの足は後ろへ下がっていく。


「ちょっ…一体何だってんだ」

流石の猫もあまりに不気味で腰がひけていた。


すると、猫達ともその信徒とも違う足音が、


“コツ、コツ“


と増えている事に猫は気づいた。


「何逃げようとしてんだ」

うごめく信徒の後ろから声が聞こえ、

その声に反応してか信徒の動きが速くなり、

どんどん猫たちの方へと走る。


そして、その異様な姿の全貌が猫達の前へと現れた。


「こいつは本当信徒…か?」

布が『壱枚(いちまい)』の下っ端信徒だが、

その姿は関節という関節がちぎれ、

ほぼ肉塊のような容姿をしている。


「ハァ…『引き裂け』」

また、後ろから誰かが喋っている。


「ん?”ひきさ…け?”」

信徒の顔に血に交じり、汗が浮かび上がる。


「待って、待っ…!」

次の瞬間、信徒は宙へ浮かび上がった。


「俺にかかわったのが運の尽きだよ…

『引き裂け』」

後ろの男がそう言うと、

信徒の体が宙に浮く。


「だ、だれかッ」


そして宙を舞った状態で、

体が捻れていく。


”ブツッブチッグシャラッ”


一つ一つ細胞がブチブチと音を立て、

ちぎれていき、やがて肉が断面を見せ始め、

大量の血が宙に舞った。


「ヴゥッ」


”グシャ”


”脳みそ”などが飛び散り、

およそ人体とは言えない形に信徒は目の前で()()()()()()しまった。


「い、今のはいったい…」

あまりの光景に猫とパンプは戸惑っていた。


すると、今の光景を生み出した張本人が猫たちへと近づいてくる。


「アンタらなんだ?看守でも『鉄肉(てつにく)』でもなさそうだな」

襲ってきているわけではないが、今さっき信徒を肉塊にした男を前にして、

猫は無意識にも身構えてしまった。


「お前が『魔法使(まほうつか)い』だな」

その男は”青い”サンタ帽を被り、

黒い布を、肩に”縫い付け”マントの様にしている。


声は若いが、体は傷だらけで老人の様だ。


「そうゆう事か…お前ら、”教会”から派遣されてきた『帝国派(ていこくは)』の兵士だろ、

言っておくがいくら強かろうが、俺には()()()()()

そういって魔法使いは指を鳴らす、

すると、(つえ)らしき棒が魔法使いの手の中に飛んできた。


「死んでもらおう」

魔法使いは猫へ杖を向けた。


「待てッ!俺たちは…」

猫が言う前に魔法使いは杖を突き出した。


「『爆散』しろ!」

魔法使いがそう言うと猫は構える。


(さっき、信徒を殺したときは『引き裂け』と言って空中で引き裂いた…

今は『爆散しろ』だと、どう避けりゃあいいんだ)


猫がどうしようかと考えるも、魔法なんて理解できるはずもなく、どんな攻撃をされるのか、

猫は待つことしかできなかった。


だが、いくら待っても爆発などはおきず、

ただ虚無が緊張した空間を過ぎていった。


「なんだ、なんともないじゃないか」

いくら待っても”自分”の体には何も不調はでない、

地面が爆発した訳でもない。


(失敗したんだ)と猫は内心そう思った。


だが、魔法使いは勝ち誇ったかのような顔して、

猫を見ている。


そして、猫の後ろに指を指すように杖を指した。


「後ろを見てみろ」

魔法使いがそういうので猫はパンプのいる、

後ろへと振り返った。


するとパンプは頭を抱えてうずくまっている。

猫は自分に杖が向けられ、てっきり自分に攻撃していると思っていたが違った。


最初からパンプを狙っていたのだ!

自分の事ばかり気にしていた猫はパンプの異常に気づけなかった。


「パンプ…?どうした?」

パンプの頭から“ボコボコ“と不穏な音が聞こえ始める!


「やばい…!!!」

次の瞬間ッパンプの頭が炎をあげて、《・》()()《・》()()


「パンプ!!」

パンプは見事に頭だけが無くなり、

頭があった場所には煙だけが漂い、

何もなくなった胴体は“バサッ“と床へ倒れた。


「案外カボチャは脆かったな、それとそこの猫、

お前がちょっとでも早く気づけたら、

アイツはまだ生きていたかもな!」

情けないパンプの姿に魔法使いは笑い、

猫へ最悪の()()()()()をした。


それを聞いて、猫は自分への自己嫌悪も感じたが

それ以上に魔法使いへの”殺意(さつい)”が上回った。


「お前はなんて事をッ!」

猫はこれ以上ない勢いで魔法使いへと向かう。


だが魔法使いは躊躇なく、猫へ杖を向けた。

「…『(つらぬ)け』」


猫は咄嗟に冷静になり自身のちぎれた左腕を拾い、

それを魔法使いへ投げる。


(仮に杖の先端から魔法が出ているならば、

俺の腕が身代わりになるはず、

腕に気がとられているその瞬間、

教団銃で仕留めれるか?)


と猫は手に持った教団銃を胸に抱えて、

魔法使いへと走り出す!

だが、猫の思惑とは違い、

ちぎれた左腕には何も起きず、地面に落ちた。


「何ッ!?」

”ドンッ”


そして次の瞬間、猫の足に何かが撃ち込まれた様な傷ができた。


「いてっ」


(痛ッ…あの杖はフェイクか?だとしてもどこから攻撃されている?

アイツのいるこの空間全体が射程範囲なのか?)


「チッ寸前で”殺意”が弱まったか」

魔法使いはまた猫へ杖を構えた。


(殺意が弱まった…だと、)

突然、猫は床に落ちている拷問器具を拾い上げた。


「ん?何をする気だ?」

魔法使いの問いを無視し、猫は深呼吸をした。


「お前のその魔法の仕組みが分かったんだよ!」

そういって、

猫は右手を自らのちぎれた左腕に突っ込み、


()をえぐりだした!


「おまッ、何やってんだ!」

さすがの魔法使いも猫の意味不明の行動に戸惑った。


だが猫は勝利を確信した顔で、

魔法使いを見つめる。


(痛ぇ……だが、これでいい!

アイツは信徒を『引き裂き』パンプに『爆散』

俺に『貫け』と杖を構え、殺意が弱まったなどと言っていた。

おそらくアイツの魔法は、

『相手の()()を跳ね返す魔法』だ。

左腕に何も起きなかったのは、左腕に殺意なんてないから、俺は実際アイツを打ち抜こうとしていたが、それが跳ね返って俺の足が()()()()

そして殺意が大きい者程先に攻撃される。

パンプが先に爆散したのそうゆうことだ。

こいつに勝つには、殺意を感じない必要がある。

だが戦う以上殺意は隠せない、つまり、殺意を感じないほどの痛みを感じれば、

アイツは俺に攻撃できない!)


「意味の分からないことしやがって

……まぁいいこれで最後だ『貫け』!」


「無駄、だ…」

酷い痛みのせいで、まともに口も動かせないが猫は魔法使いに銃を向けた。


(『アドレナリン』が出てくれば痛みが引いてしまう、早く仕留めないと!)


だが殺意をも無くす、その痛みは体中に痙攣を引き起こし始め、照準が定まらない。


「俺の魔法に気づいて、

痛みで殺意をごまかしたか小賢しい…

だが、そんな痙攣していたら、

当たるもんも当たらねぇぞ!」

魔法使いの言う通り、

猫はまともに撃てる状態じゃなくなってしまった。


猫は咄嗟に魔法使いに潰れされた信徒を壁に、

魔法使いから隠れた。


「馬鹿め!死体に隠れたって、

殺意はごまかせないぞ!」


(ちょっとは頭が使えると思ったが、

あの猫、痛みで思考が弱ってるな、

アドレナリンが分泌されれば、

どうしようもない状況に怒りと『殺意』を覚える、

その瞬間、お前が()()()()で殺してやる)


魔法使いは杖を構えたまま、ゆっくりと猫の痛みが引くのを待った。


猫は信徒の死体から全く動かない、

だが、殺意は徐々に膨れ上がっていた。


「感じる…感じるぞ、お前の殺意が!

……なるほど、今度は俺を『引き裂いて』殺したいのか

じゃあ今度こそ終わりにしてやる!

『引き裂けぇッ!!』」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その瞬間、その場に静寂が流れる、

何かが『引き裂かれる』わけでもなく、何も起きない。


(ん?ミスったか?もう一度だ)


「『引き裂け』!」


やはり、魔法使いの言葉だけが空間に漂い、何も起きない。


初めての経験に魔法使いは少しだけパニックに近い状態になった。


「どうしてだ!なぜ、何も起きない!

『引き裂け!』『引き裂けぇッ!』」

杖を構え、何度も魔法使いは叫ぶが何も起きず、

魔法使いの声だけが周囲に響いた。


(確かに”殺意”は感じる、

なぜ何も起きないんだ?)


「何度やっても無駄だ」

猫の声が死体の後ろから響く、

声色にしても、かなり痛みは引いていた。


「なぜだ!なぜ死なん!」

(アイツの痛みもかなり引いているはず、

なのになぜ?)


「もう容赦なく、殺意を感じられるな!」

猫は魔法使いへしっかりと銃口を向けた!


「逃げたら撃つ!杖を構えても撃つ!杖をおけ!」

いつの間にか、猫が圧倒的に優位に立っており、

どうにかしようにも,魔法が効かない相手に魔法使いは、何の抵抗もできなかった。


「……チッ」

魔法使いは両手を開き、

杖を落とし、猫へ降伏を示した。


「糞野郎、

よくもパンプの頭を吹っ飛ばしてくれたな…」

猫の銃口は少しの狂いもなく、魔法使いの脳天を構えている、


魔法使いは最後を悟ったのか、猫に目を合わせた。


「なぜ……俺の魔法が効かないんだ」

猫は口角を少し上げた。


「お前の感じていた殺意は、俺の”殺意”じゃない、()()()の”殺意”だ」

猫は今さっき魔法使いが潰した、

ぐちゃぐちゃの信徒の事を指していた。


「何言ってる!さっき俺が目の前で殺したはずだ!

ふざけてるのか!」

魔法使いは自分でそう言いつつ、猫の顔が全くふざけたこと言ってるようには見えなかった。


「確かにこいつは死んで()()

だが聞こえないか?この鼓動を」

信徒から微かに”ドクンッドクンッ”と心音が響く。


「嘘だと思うのも仕方ない、こいつは俺が”()()()()()()”んだからな、”これ”を使って」

猫は信徒から心臓をもぎ取り、

魔法使いに見せつける。


それは、一階で戦った鉄屑兵の『血二駆(ちにく)』だった!


「この信徒は強大な殺意を感じながら死んだ、

だが意識がなきゃ意味がない

だから、この血二駆をつかって強制的に生き返らせたんだ」

血二駆はその肉体が消え失せようが無理やり体を働かせる、

例え、体中の肉が裂け、内臓が全部なくなろうとも、血二駆がある限りは死ぬことを許されない。


「生き返れば神経だって元に戻り、この信徒は死ぬほどの痛みを常に感じ続ける。

そうなれば、自分をこうした相手への殺意は、俺程度の殺意なんか隠してしまう程に大きく膨れ上がる」

猫は信徒の強大すぎる殺意に隠れて、魔法使いはそれにまんまと騙されてしまった。 


「血二駆に関しては賭けの部分が大きかったけどな」


(まぁ、こんなに上手くいくとはびっくりだけど)


その説明を聞いた、魔法使いは物凄く悔しそうな表情をしていた。


自分が勝利を確信して、何の可能性も考えずに戦ったせいで猫に敗北し、そんな自分がとても情けなかったのだ。


「……クソッ」

魔法使いは両手を開き、覚悟を決めたようだ。


「俺はこんな痛い思いする戦いはもうこりごりだ」

そう言って猫はえぐりだした骨の上に銃身を置き、狙いを定めた。


「じゃあな」


”バン”


猫は左腕の痛みと血液の不足で、その場から動くことができない、だが背後から何者かの気配を感じ、猫は無理やり体を捻じ曲げ銃身を構えた。


「誰だッ!」

その人物を見た瞬間、猫は全身の毛が逆立った。


なぜなら、そいつは頭が爆散して死んだはずの()()()()()だったからだ。


「撃つんじゃない!俺だ、”パンプ”だ!」

見間違えでもなく、目の前で手を上げているのは

パンプで、爆発した頭も無事だった。


「……死んでなかったのか?」

猫のその質問にパンプは自身の頭をこんこん叩き、自分は無事だったことをアピールした。


「ま、まぁな!体が爆発してたら危なかったが、

()()()いくら潰れても大丈夫だ!

…ってそれよりも……魔法使いを殺したのはまずかったんじゃねぇか?」

パンプは心配した目で猫を見ていた。


「殺してねぇよ」


「いや、あれはどう見ても撃ち抜いて殺してたろ」

パンプは倒れている魔法使いに近づき心音を確かめると、しっかりと脈もあり、

猫の言う通り死んではおらず、

額には鉛玉でなく、小さな注射器のようなものが刺さっていた。


「撃ったのは()()だ。

さすがに仲間にする予定の奴は殺さねぇよ」


「そうか、まぁそれなら早くこいつを連れて行かないとな、猫、歩けるか?」


猫はパンプのその小さな肩を借りて、

立ち上がった。


「ありがとうパンプ、だが、まだ仕事はあるぞ、

この階の囚人を見ていかねぇと」


猫は銃を杖代わりにしてボロボロの体を持ち上て歩き始め、パンプもそれに従い、その背を追った。


「……それにしてもさ、パンプ、どうやって生き返ったんだ?」

それを聞きパンプは一瞬だけ“ビクッ“としたが、

すぐに肩にかけているカボチャの束の一つを取り、猫に渡した。


「さっきも言ったように俺は体さえ生きてりゃ大丈夫、頭はこのストックしてあるカボチャを取り換えることで戻る」

パンプの説明だけでは、すべて理解できなかったが猫は”生きているなら別にいっか”と開き直った。


「それよりもさ、猫のその銃は一体何の銃なんだ?

普通に弾を飛ばしたり、麻酔をとばしたり、どうゆう仕組み?」

通常、その”銃”に合った弾を使わなければ、撃つことどころか銃自体が壊れてしまう可能性がある。


なのに猫は口径どころか種類も異なる麻酔を撃ち込んでおり、おかしなところが多かった。


だが、パンプの問いより別の部分に猫は引っかかったようだ。


「……お前が車で馬鹿にしたこの銃の事か?」

猫は車でパンプに罵られたことをまだ根に持っていた。


「めんどくせぇ奴だな悪かったって、

謝るから教えてくれよ」


(お前が最初に喧嘩売ってきたんだけどな)


下手に出たパンプに、

猫は少し気分よく答え始めた。


「まぁいい教えてやる、ほら」

猫は持ち手の部分を近づけて見せる、

するとなぜだか異臭がし、パンプは顔をそむけた。


「これは前にも言ったがただの銃じゃない、

『教団銃』は教団の隊長クラスしか使ってはいけない強力な銃だ」


「それは分かったがこの匂いは何だ!」


猫は丁寧に持ち手部分からマガジンを取り出して、その中身を手に取り、

パンプが嫌がるにおいの正体を見せた。


その正体は白くドロドロとした『脳みそ』だった


「教団銃はこの『脳みそ』を糧として、量に応じて弾を()()するんだ。

脳みそさえあれば、鉛玉にも、麻酔にも、()()にもなるぞ」


パンプはその興味深い説明に異臭なんぞ無視して、猫の持った脳みそに夢中だ。


「仕組みは!どうゆう仕組みでそんな事ができる!」

見たこともない技術にパンプは興味津々で、

猫の説明を待つが、猫は上の空だ。


兵器や武器を使()()専門の猫にとって、それがどんなにすごい技術だろうが、

口からは一言で”あっそ”とだけしか感想が出ない程に武器に興味がなかった。


だから仕組みなんて高度なもの、猫に説明出来るわけがなかった。


「そんなんいいから早く行こう、

こっちは左腕がちぎれてるんだぞ」

猫の左腕の出血はかなり収まったが、

同時に痛みもよみがえってきているようで、

猫は機嫌が悪く、

猫のそんな態度にパンプは一瞬憤慨を覚えたが、

猫の怪我を見て自分の無力さに気が付いた。


猫はあんなにボロボロなのに、自分自身は守られてばかりで一度も戦闘をしていない、

車で言われた通り、自分は足手まといにしかなっていないのだ。


その事実に武器への興奮も冷めてしまった。


「……」

それから第三牢獄を見て回るも、第二牢獄とさほど変わりなく、二人は魔法使いのところまで戻ってきた。


「んで、こいつはどう運ぼうか…」

猫が魔法使いの体を背負い込もうとしたその瞬間!

”階全体”いや”塔”全体へ大きな揺れが響く。


牢屋の檻が揺れ響き、天井からは瓦礫の屑がパラパラと舞い降りてきている。


「うわっ一体なんだ!?」

パンプの問いを無視するかのように揺れはだんだんと激しくなり、階段の壁や天井から小さなヒビが所々に出始め、そのヒビは上下左右徐々に伸びてゆく。


「まずい崩れるぞッ!」

猫は咄嗟にパンプを掴んで、落ちてくる巨大な瓦礫を間一髪避けた。


「とにかくこの塔から出ないとッ!」

猫は下へ行くための階段へと一直線で向かう、

だが、それを阻止するかのように瓦礫が猫たちへ

迫ってきていた!


「あ!階段が!」

瓦礫をよけながら進む猫たちだったが、

下に行くための階段が瓦礫で埋もれてしまっていた。


「クソッ!(この階には窓もない、ここままじゃ皆押しつぶされちまう!)」

するとパンプが魔法使いの方向を見て叫んだ。


「猫!魔法使いが!」

なんと魔法使いが瓦礫に両脚を挟まれて、身動きが取れなくなっている。


「……うぅ」

魔法使いの意識はあるようだが、どちらにしろあのままじゃ瓦礫に潰されてしまう、

猫は魔法使いの元へと向おうとするが、

止めどなしに落ちる瓦礫に猫は近寄れない。


「猫!お前まで潰れるぞ!」

パンプも手で頭を守りながら猫に近づく。


「パンプ!お前は来なくていい!」

そう猫が言い放った瞬間、

真上に巨大な瓦礫が降ってきた!


「避けろォッ」

猫は咄嗟に避けれたがパンプが巻き込まれてしまった。


「パンプッ!」

パンプは魔法使いごと、瓦礫に押しつぶされてしまった。


「あぁ…なんて事だ…」

猫が目の前の事象に脱力していると突然、

パンプ達を潰したその瓦礫が謎の()()()を起こすッ!


(何ッ!?)

さすがの反射神経を持つ猫でも、それには反応できなかった。


瓦礫が爆発するなんて予想出来るわけがないからだ。

猫はもろに爆発を食らってしまった。


そして、

その爆発で出来た大きな”穴”に、

猫は落ちていった。

 

 

~???~

…猫が気がつくとそこは、

全く見覚えのない場所で…


「んッオェッ」


むせかえす程の腐敗臭と、キャンプ・タワー入り口の比にならないレベルの”死体の山”と”大量の拷問器具”が散乱していた。


気づくと猫の首には鉄の首輪(くびわ)がつけられていて、その首輪と繋がるように長い鎖が天井に向かって伸びていた。


「痛え…なんだここ、」

すると、猫が起きるのを見計らったのか、

大勢の人影が死体の影から現れた。


そいつらは、猫の”左腕を奪った”奴によく似ていた。


「鉄屑…兵?なぜこんな大量に」

猫の前に現れたのは、大勢の『鉄屑兵』だった。


だが、鉄屑兵は何かするというわけでもなく、

首輪で身動きがとれない猫を見上げている。


すると、ひと際大きな影が鉄屑兵の中から猫の前に現れた。


「…何しに……来た」

そいつは他の鉄屑兵の二倍はある背丈をし、

胴体からは()()()に無数の腕が体から生え、顔には鉄屑兵たちと同じ赤いパトランプが光っている。


そしてそいつの声は猫にとって()()()()声だった。


「その声『カリティス』か?」

そいつは猫の見覚えのある姿ではなかった、

だが、声だけは猫が知ってるカリティスの声だった。


「……昔話でもしに来たのか?」

やはり猫の予想どうり、目の前の異形は”カリティス”らしい。


「もちろん色々話したい…が、それよりも聞きたいことが多すぎる。

カリティス……なんでそんなふうになっちまったんだ?教団は…『早産隊(そうざんたい)』は…

今どうなってる?」

カリティスはその猫の問いに大きく逆上した。


「なぜこんな体になったか…だと?

ふざけるな!アンタの()()()の為に俺は…俺たちはこんな…」

カリティスは無数の手の中の一つにトンカチの様なものを持って、猫の前に来た。


「……俺だって、こんな事になるとは思わなかった…」

猫は仕方なかったと言わんばかりに謝ろうとはしない。


俯いてそのまま、カリティスに言い訳をした。


「んな事知らねぇが、お前が!『隊長』が!

俺達を置いて…逃げてったんんだろうが!」

カリティスはトンカチの反対側を猫の額につけ、

“ググッ“と押さえつける。


「カリティス、分かってないのはお前だ」


「なんだと?」

猫はカリティスから目をそらさず、

真っ直ぐに見つめた。


「俺が、この俺が!お前たちを()()()()と本当に思ってるのかッ」

カリティスは猫の言葉に、トンカチを持つ手が一瞬だけ緩んだ。


カリティス自身、猫に見捨てられたなんて心の芯から思ってはいなかったからだ。


「…ク、クソッ…クソッ!だまれ!」

カリティスは猫の顔に向かって、

トンカチを振り被る!


それは猫の目の辺りに当たり、砕けた骨が内側から裂く形で、片目がつぶれてしまった。


だが猫は声を上げず、

赤い涙を流しながらカリティスを見つめた。 


「お前がなぜそこまで俺を恨むのか、

俺にはわからん…だから、教えてくれよ。

俺がいなくなってお前らに何があったか…」

猫はおびえる子供に言い聞かすかのようにカリティスに問いかけた。


「……隊長がいなくなった後、早産隊は『帝国派(ていこくは)』の『犬首隊(けんしゅたい)』に吸収され、そして早産隊のほとんどは帝国の従軍として、

犬首隊から流れた…」


「帝国派…」


〜帝国派〜


ブルースカート教には教団内で宗派が異なる集団がいる、その中の一つが『帝国派』。

カボチャ帝国の教区を仕切る司蒼教によって、

作られた別の宗派。

通常ではそんなもの許される訳がないが、

帝国は教団に武器を大量に譲渡した恩がある。

それに帝国から得た技術も。

下手に帝国に罰を与えれば、内部崩壊の危険、

又は脱退されて大きく衰退する可能性もある。

教団なりに()()()()()()()()()()()()いけない存在。

それが帝国派である。


「ちょっと待て、あの時お前は『布長(ふちょう)』クラスで、次期『青布(隊長)』候補だった筈だ、俺はお前に隊を任せるつもりだったのに、

なぜ…」

猫の言葉にカリティスは悔しそうな表情を露わにした。


「『(やつ)』が全て仕組んだんだ、

アイツが自分の青布の地位や

帝国の資金を使って早産隊の格を落とし、

俺の昇進もかき消されて…」

『犬』は猫の先輩でもあり同僚の隊長だった。


「なんで犬はそんなことを…」

猫の疑問にカリティスはさらに悔しそうな顔をした。


「…帝国の計画の為だ、アイツらはとにかく人数が欲しかったんだと思う…」


「計画?」


猫は嫌な予感がした。


帝国は教団以上に残虐で有名なこと以外では、

国民を”人体実験の材料”にしていることが有名だったからだ。


「『鉄肉計画(てつにくけいかく)

生きた生物、又は死体の脳を取り出し”血二駆”を埋め込んむことで、死を恐れないかつ不死身の戦士

鉄肉(てつにく)』を作ろうって計画…

早産隊は皆、()()()()()()()()()

猫の最悪の予感は的中した。


猫の隊は全員がその実験の(えじき)となっていたのだ。


「皆、順番に自分を無くして兵士にされてくんだ…そんなのを見続けてみろ…

それにな、帝国の実験は少し雑でな、たまに自分を残したまま兵士になる奴がいるんだ…

そいつは俺の名前を呟きながら、痙攣して泣きわめくんだよ…”戻して”ってな…

だけど俺は何もできなかった…」

猫は自分のやったことの重大さとカリティスの猫への怨嗟の理由が今理解できた。


カリティスは一人で、

たった一人で頑張っていたのだ。


「そんなことって…俺の、俺の隊は…」

全員、帝国の玩具(へいき)になった。


「もうこれくらいでいいだろう…そろそろ隊長には消えてもらわないと」

カリティスは鎌を構え、猫の腹に向けた。


「一発で終わらせてやる…隊長」


「カリティス…すまなッゲホッゲホッ」

すると突然猫がむせ始めた。


「ゲホッゲホッ…ゲホッゲホッ、あ、ゲホッ」


”カラン”


すると、猫の口の中から()()()()が地面に落ちた。


「なんだ、これは……」

カリティスが猫の口から出てきた球体を拾い上げると突然、小規模な()()がカリティスの上半身を吹っ飛ばした!


「ゲホッゲホッ……万が一のために()()()を飲み込んどいて正解だったな。


いつも言ってたろ…最後まで油断すんなって」

カリティスの右半身は消し飛び、残った肉体がピクピクしている。


「あ”…あ、あぁ(やっぱり隊長には(かな)わないな)」

爆発の爆風で猫の首輪もうまく破壊され、体が自由になった。


「カリティス、お前には苦労ばかりかけてしまったな…もう休め…」

カリティスは震える手を猫に預けた。


すると突然、後ろで待機していた鉄屑兵たちがカリティスに群がり始めた!


猫は咄嗟に離れたが、動けないカリティスは一瞬で鉄肉達に囲まれた。


鉄肉達で見えないが、貪るような、噛み砕くようか

音と動きが猫の脳に伝わった。


その様子は死体に群がるハイエナの様だった。


”ガチャ…グチャ…ガリ…”


鉄肉に囲まれて見えないが、様子からしてカリティス鉄肉達に食われているようだ。


猫はその場で逃げれたにもかかわらず、その場にとどまり、その様子を眺めていた。


「カリティス…こんな最期はお前にふさわしくない…」

猫は潰れた片目から、

血に交じった”塩気のある水”を流した。


一方その頃…


「……」

潰れたはずのパンプは、同じく潰れ死んだはずの魔法使いと共に第二牢獄の牢屋になかで気絶していた。


「ん、ん…”ギリギリ”助かったな、ここは…」

パンプが気がつき辺りを周囲を見渡すと、

そこはなんと、さっき助けようと話していた”小人”達の牢屋の中で、中にいた小人達はパンプ達の落ちてきた衝撃かはたまた元から寝ていたのか、

深い眠りについている。


そしてパンプは気づく、自分の”頭がない”事を。

他のストックした頭に取り替えようとしたが、どうゆうわけか全てがなくなっていた。 


()()された時に全部誘爆されちまったか…)


仕方なくパンプは首無しまま、そばにいる魔法使いを起こそうとした。


だが目は見えるが声が出せないので、

パンプはひたすらに魔法使いの体を揺さぶった。


だが魔法使いは起きる仕草をしず、

全く目を開かない。 


(困ったな…脈はあるのに…ん?)

パンプは魔法使いの体の下に何かある事に気づき、

寝ている魔法使いを退かすと、

その()()を拾い上げた。


”ブロ共和国入国許可証”


(『ブロ共和国』…コイツら(小人達)の私物か?)

パンプはそれを胸元にしまった。 


(とにかく、猫と合流しないと…)

パンプは牢屋の鉄格子の扉を揺さぶるが、どうやらカギがかかっており開きそうもない。


(困ったな…仕方ないあれを使うかって…

うわぁッ!!)


いつの間にかパンプの背後に魔法使いが

立っていた。 


「おいお前…死んだはずだろ…」

魔法使いは猫に気絶させられていたので、

自信が殺したはずのパンプが目の前にいて、

驚いているようだ。


「一体どうなってる…ここは…」

パンプは魔法使いに状況を説明しようにも、

首がないパンプは説明どころか話もできない、

だが、むずがゆそうなパンプを見て魔法使いは、

パンプが喋ることができないのを察したようだ。 


「お前、喋れないのか?」

パンプは頷いた。


「なぜ俺は、牢屋の中へ戻ってるんだ?」

パンプは首を傾げた。


「そういえばお前らの…”猫”?が俺を撃ち抜いて…それから…ここは”死後の世界”か?」

パンプは首を横に振った。


「とにかくお前らはなんなんだ、

人の|()()《だつごく》の邪魔しやがって!」 


(そっちが先に仕掛けてきたんだろうが!)

パンプはそう言いたかったが、

怒った素振りしか出せなかった。


「あーあ、もう最悪だ…ってお前、それは?」

魔法使いはパンプの肩についた『政府軍(せいふぐん)』の鎧に目がいき、パンプの肩へ手を伸ばした。


(ちょッ何すんだ!)

パンプの抵抗虚しく、鎧を奪われてしまった。


魔法使いをジロジロとそれを眺めている。

「これは政府軍の…『白零姦(はくれいかん)』ってまさか…お前ら反教団か!?」

パンプは答える前に鎧を奪え返した後、”そうだ”と言わんばかりに激しく首を縦に振った。


「つまり、俺を助けに来たのか……

どうして早く言わなかった!」  


(言おうとしたら、

お前が俺の頭を吹っ飛ばしたんだろうが!)  


パンプは言い返せない代わりに魔法使いのすねを

思い切り蹴った。


「痛ッ…あぁ、言う前に俺が頭吹っ飛ばしたんだもんな…

あの猫も攻撃してきたのも、俺が攻撃したから身を守るために…」

魔法使いはようやく理解ができたようだ。


「悪かったな、気が立ってたんだ。

なにせ、”脱獄計画(だつごくけいかく)”の真っ最中だったからな…」


(脱獄?)

パンプは首を傾げた。


「囚人何人かと協力して、この”青い地獄(キャンプ・タワー)”から抜け出そうと必死だったんだ…

緻密に計画を練りに練り、そして今日がその決行日だったんだよ」


(だから看守や監視がいなかったのか…ん?)


それならなぜ、囚人たちの死体の山が一階にあったのか、なぜ脱獄するのに一人で第三牢獄にいたのかなどの疑問がパンプに生まれた。


「でも、遂に脱獄できるって時、

教会から()()が送られてきたんだ…」


(鉄屑兵か…)


「まだ、鉄屑兵だけなら何とかなったが、あの中には『鉄獄(てつごく)』もいて、

そいつに皆やられちまった…」


(一階の死体の山はそのせいか…

…その一体鉄獄とは何なんだ?)

パンプはまだ鉄屑兵しか見ていないが、

この塔にはまだ恐ろしい鉄肉がいるらしい。


「俺は何とか第三牢獄まで逃げて、

とにかく襲ってくる敵を撃退してたってわけ、

そんな時にお前らが来たから……」

魔法使いは申し訳なさそうに頭のないパンプを見た。


「……とにかく、ここからは俺と”お前”で協力してこの塔から出よう」


(まぁ、ここはコイツに乗ってやるか)


パンプは気絶している二人の小人に指をさした。


「そいつらも連れて行くのか?まぁ、いいか」

そうゆうと魔法使いは指を”パチンッ”と鳴らした。


(何してんだ?)


〝ビューン〝


その瞬間、どこからともなく“魔法の杖“が魔法使いの元へ飛んできた。


(すげぇ…)

魔法使いは少し後ろに下がり、杖を構える。 


「えーと、お前の名前…聞いても無駄か…

お前に頼みがある。

あの時、お前は俺を『爆殺』しようとしていたな…

その爆殺のイメージを思い浮かべてくれないか?」

唐突な無茶振りにパンプは困惑したが、言われた通りに”妄想”をした。


(確か…”あれ”を使って殺すつもりだったな…)


すると、魔法使いの杖の先に青い光が漂い始める!

「よくやった、これ以上は考えるな、

威力が上がりすぎる」


(威力.…?)

魔法使いは鉄格子の扉へ杖を向けた。


「フンッ!」

魔法使いが力むと同時に鉄格子に()()()()()が起き、

扉が開くどころか、扉ごと外に吹っ飛んだ!


(!?)


「俺の魔法は殺意を()()()()だけなく、

こんな風に溜めた殺意を自在に()()()んだ」

魔法使いは小人二人を抱えパンプと共に牢屋から出ると、真っ直ぐ階段方向へ直進した。


「今なら鉄獄(アイツ)はいないはずだ!早く行こう!」

二人は猛ダッシュで階段を駆け下り、

異臭の漂う一階受付まで戻って来た。


幸いにも入り口は無人で、

すぐにでも脱獄ができるようだった。


「よしっ!早く逃げよう!鉄獄(アイツ)が来る前に!」

今にも出たそうな魔法使いと違って、

パンプには心残りがあった。


(一体猫はどこ行ったんだ?

落ちたはずだから、一階にいるはずなんだけど…)


パンプは魔法使いの裾を引っ張った。


「ん?どうした」

パンプは“床に飛び散っている血“で壁に文字を書いた。


”猫は?”

魔法使いは一瞬立ち止まったが再び歩き出した。


「悪いが俺は、ようやく来たチャンスを無下にしたくない。そいつがどれだけ大事な奴でも、

…俺には関係ない」

パンプは再びスカートを引っ張り、再び床の血で壁に文字を書いた。


”猫は お前 殺せた だけど 見逃した ここで逃げたら 今度は 見逃さない”


壁に書かれたのは脅迫だった。


つまり、ここで逃げたら本当に敵同士になるということだ。


「……お前さ、誰に脅迫してるかわかってるのか?

今ここでお前を木端微塵(こっぱみじん)にしてもいいんだぞ」

そう言いつつ、魔法使いの声は震えていた。


なぜなら、ここでパンプを殺したら、

次は本当に猫に殺されるという事だからだ。


魔法使いは一度猫に負けているからこそ、

パンプの脅迫は魔法使いによく効いていた。


お互いに見つめあったまま、二人に緊張が走った。


だが、それとは別に二人の気を引くような、

()()()が一階全体に響いた。


「…………ん?なんだ?」

何かが猛スピードで突っ込んでくるような音が

魔法使いの耳に入った。


次の瞬間!”キーン”という耳鳴りと共に遅れて、

キャンプ・タワーにとてつもない衝撃が走る。 


それは()()()()でも撃ち込まれたような、そんな衝撃だった。


パンプ達の足元の地面に亀裂が広がる。


「クソッ!お前が引き留めるから!」

一階の地面が崩れ始め、

所々に大きな穴ができ始める!


「やばい!崩れてるぞ!

ここままじゃあ俺たちも死ぬ!猫はあきらめろ!」

魔法使いは必死にパンプへ呼びかけるがパンプは

聞かない。


(猫を見殺しにはできない、……あれは?)

パンプは地面に空いた大きな穴からもう一つ下の階があることに気づいた。


(猫!?なんであんなところに!)

なんと、そのフロアで猫と大量の鉄肉が、

対峙しているではないか。


「パンプ!何ボーっとしてんだって…あれ、猫じゃないか!」

魔法使いも猫の姿を発見したようだ。


(なぜこんなにも鉄肉達が…ん?

あそこだけなんで群れているんだ?)

何故か一点に盛り上がるように鉄肉達が群がっている。


すると、魔法使いは何か気づいたのか、

大声で叫んだ。


「猫!今すぐあの中に()()()()!」

突然、魔法使いが頓珍漢な事を言い放い、

猫もパンプも首をかしげたが、

魔法使いだけは真っ青な顔で冷汗がだらだらだ。


(こいつは何言ってんだ?)


「今すぐに鉄獄(ソイツ)の息の根を止めろ!

皆が死ぬぞ!」


すると地下のフロアから不気味な機械音が響き、

同時に猫の断末魔が塔全体に響くのだった…











魔法使いとの戦いは色々別パターンを用意していましたが、どうやっても科学的な説明でグダグダになるので一番シンプルにしました。

殺意が~アドレナリンが~とかなんたら言ってますが科学的な根拠は一切ありません。

全部ファンタジーで魔法な世界なんで、専門的な突っ込みされても、「魔法です!」としか言えません


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