千切れにちぎれて ~参話~
〜教会監獄キャンプ・タワー〜
青踏各区の教区『B地区』にある教会監獄
別名 ”青い地獄”と呼ばれるその塔は、
一階層ごとが巨大な牢獄となっていて、
そこには教団に刃向かった者や、
教団でも”手に負えない”者達を収監している。
一度入ったら最後、もう出る事は不可能だ。
シナモンが地図に指をさし、話し出す。
「俺たちの戦力で司蒼教にはまだ敵わない。
だからキャンプタワーで理不尽に囚われた信者達 を戦力にしようと考えているが…どうだ猫、
それにお前らも、やってくれるか?」
シナモンは猫を見たあと、黙って聞いていたジャックとパンプに目をやった。
猫はシナモンへの不信感から、あまり肯定的になれなかったが、一度信じてみる事にした。
(どっちみち従わなければ、宿無しの餓死だ。
まだ、希望がある方に賭けた方が得策…か)
考えこむ猫と違って、ジャックとパンプは早いところ答えが決まったようだ。
「そんなの、”行く”に決まってるだろ。
俺たちみたいな日陰者を拾ってくれたんだ、
少しでも恩返しがしたいんだよ。
だよな、パンプ」
パンプは真っ先に頷くと握った拳を前に出して、
シナモンの向けた。
「俺達は元々死ぬはずの日陰者だ。
そんな疫病神を拾ってやるお人好しには、
最後までつきやってやるよ!」
子供とは思えない程、パンプは大人びていて、
ただ単純に感謝するだけでなく、それを行動で表そうとしていた。
「猫は…どうする?」
二人の答えを聞いたあと、
三人の視線が猫に集まる。
(……)
猫は卑怯だと、シナモンを軽蔑した。
二人が承諾するのを分かっていて、猫が断りずらくしたのだ。
「……まぁ、別に」
猫のプライドから真正面に承諾することは避けられたが、これで猫もキャンプ・タワーに行くことになってしまった。
全員が承諾したのを確認したシナモンは無言で頷き、地図のキャンプ・タワーをもう一度ゆびさした。
「じゃあ全員承諾ってことでいいんだな」
ジャックとパンプの二人は無言で頷き、
猫だけ少し遅れて頷いた。
「分かった、これから詳しい計画を伝えていく。
まずさっき言った通り、囚人を仲間にすることが目的なんだが、あの塔には『魔法使い』がいるらしいんだ。
それも教団でさえ、手をつけれない厄介な
魔法を使うらしくてな。
出来ればソイツを連れてきてもらいたい」
地図にはシナモンが書いたのか、不細工な魔法使いのイラストが描いてある。
「魔法使い…か、話は聞いたことあるが、
実物は見たことがないな…
こんな奴じゃないことを祈るよ」
猫はイラストを見ながら、薄笑いを浮かべた。
〜魔法使い〜
人間とよく似ているが別種の生物である。
人間で言う肝臓の辺りに小さく別の臓器があり、
その器官から血管へ『魔力』と呼ばれるエネルギーを血液に交えて体内に循環している、
昔はかなり高貴な種族だったが、ブルースカートが来てからは、
その”魔力”に目をつけられて、今では多数の魔法使いがブルースカートの”道具”となっている。
シナモンは机に拡大したキャンプ・タワーの図を広げた。
それに地図と同じ様に多くの印が付けられている。
「キャンプ・タワーの周囲には、
高さ七メートルの塀があって、内側には
大量に地雷が埋め込まれている。
さらに壁に触れた瞬間に一万ボルトの電流が流れるようになっている為、塀からよじ登る事は避けたい。
空からもだめだ、塔の敷地内や塔自体に”機関銃”が仕掛けられ、
領空内に入った侵入者を打ち落としてくる」
パンプが声を上げた。
「じゃあどうやって行くつもりだよ」
「…一応策はあるが、これは失敗したら全滅の可能性が高い」
シナモンは大量の髪・の・束・が入ったゲージを三人に見せ、
一早くどのような作戦か気づいた猫は苦い顔をした。
「賄賂か」
猫は髪の束を一本持ち、その艶やかな白を見つめた。
「本当は肉体も欲しかったが集めきることができず、髪だけだ。一応五十本はある」
シナモンは信徒達に賄賂を渡して、正門から行こうとしているようだ。
「確かに一か八かの作戦…だな」
「もう何本か、指があったらよかったのに」
(地王大陸では、髪一本につきおおよそ一万円ぐらいの価値があり、長さによって価値が変わる。
髪束は十cm以上の千本の髪の束で、一千万の通貨となる。
髪以外には、臓器、皮、皮脂、垢などが髪束に変換でき、指は一本で髪束三本の価値がある)
信徒がこれだけの量で通らせてくれるかは賭けに近く、かといいこれ以外の作戦は誰も思いつかなかった。
「アッ!」
すると、パンプが何か思い出したようで、部屋から駆け出し、どこかへ走っていった。
「あいつどうしたんだ?」
「さぁ?」
数十分してパンプは何かが入った瓶を数十個を抱えて入って来た。
「使えるかどうかはわかんねーけど、これも足しになるんじゃないかな」
瓶の中身を見てみると、中にはなんと
『眼球』が入っていた。
「こっちの瓶には『頸椎』の一部も入ってる!こんなのどこで拾ってきた?」
シナモンが驚きながら、パンプを見ると、
パンプは誇らしそうに鼻の下を擦っている。
「これは、帝国から亡命する時にくすねたもの、二十年前の奴だから使えるかわかんなくて、とっておいたんだ。
(眼球だけでも、髪束五本の価値はある)
「パンプ…これを賄賂に使ってもいいのか?」
パンプはシナモンの問いに笑ってうなずく。
「あぁ、アンタがいなけりゃ、俺は死んだも同然だったからな。
この金はシナモンの使いたいように使ってくれ」
やはり子供とは思えないほど、
パンプは大人でかつ懐が広かった。
「これで塔内には入れるってわけか」
猫はパンプの持ってきた金を計算すると、
少なくとも、塔に入れることは分かった。
「そう、だがこれからが本番だ。
作戦での役割分担をしよう」
シナモンは猫を指さし、次にパンプを指さした。
「これはもう決まってはいる
まず、猫とパンプが襲撃要員だ、ジャックは外の見張りを頼む」
「お前は?」
「俺は別にやることがある、だから襲撃にはいかない」
猫はリーダーは来るものだと思っていたので、人数が少ないのにリーダーが動かないことに猫は少し憤りを覚えた。
「それと策はあるがまだ準備ができていない、
近いうちに作戦決行だ。その時に詳しく言おう」
全員が解散した後、猫はパンプに話しかけた。
「なぁ、前線で戦うと言っていたが…お前は子供だろ?今からでも後方支援にいったらどうだ」
猫はパンプを”きずかって”忠告をしたつもりだったが、パンプは怒りをあらわにした。
「舐めんなよ!確かに俺は小柄だが実戦の時、
腰抜かさしてやるよ!」
そう言い捨てて、パンプはスタスタと去っていった。
(…子供の扱いは難しいな)
猫は自分より幼い子供に怒鳴られ、少しへこんだ。
「災難だったな、アイツ、子ども扱いすると
怒るんだ」
すると、後から来たジャックが猫の肩を叩いた。
「あぁジャックか…まぁでも俺に怒鳴れるくらい肝が据わってるなら、安心していいかもしれない。
それにあいつがいなきゃそもそも作戦はできなかった、感謝しないとな…
そういえば、お前とパンプはいつ”ここ”に入ったんだ?」
猫がそう問うとジャックは少し考え、
それから言葉を発した。
「お前より少し早いだけだよ、二~三週間前ってところかな。
俺は蒼礼者をやめて…このB地区辺りで放浪してたら、シナモンに拾われたって感じだ」
”ふ~ん”と猫は興味なさそうな相槌をうった。
「そういえば蒼礼者ってあんまりよくわかってないけど、どうゆうことをしてるんだ?」
猫がそう言うと急にジャックの顔色が変わり、
嫌なことを思い出したのか、
苦虫をかみ潰したかのような顔をしている。
「……えっと」
ジャックが戸惑っていた時、先に行ったはずのパンプが戻って来た。
「ジャック―、ちょっと手伝ってくれー」
「あ、あぁ、じゃあ猫…またな」
中途半端に会話が終わったので、猫は「あ、」
とだけ発し、ジャックに手をふり見送った。
(まずいこと聞いちまったかな……)
猫は少し自分の中にわだかまりが残ったが、気にしないふりをし、部屋へと戻って行った。
シナモンからは近いうちに作戦を開始すると
言っていたが、猫が入ってから二週間は何か起こることはなく、猫は自由に基地内を満喫していた。
反教団は活動がある時以外は一般人として
暮らすらしく、軍の様に毎日訓練をするわけでも、教会のように説教があるわけでもなく
ただ、自由に過ごすことが許されていた。
猫は昨日自身の不健康さから、また訓練を
再開し、時にシナモンと計画を練ったりと
教団にいた頃の自分を取り戻そうとしていた。
その日訓練を終えた猫は、部屋に篭っていたパンプとジャックに久しぶりに再開をした。
「おっ久しぶり、って一緒に住んでるのに
久しぶりってなんかおかしいな」
とジャックは少し笑いながら、パンプと共に猫の方へと向かう。
「確かにな…それよりここが広すぎるのが
問題だよ」
猫は足踏みをして、広い廊下に音を響かせると、ジャック達の元へ歩く。
近くジャック達を見ると、体中に黒い煤をまとっており、暖炉から落ちたのかと思うほど汚れていた。
「……いつも篭ってるけど、一体何をやってんだ?そんなに汚して」
ジャック達は猫に言われ、初めて自分達が
汚れている事に気づいたのか、
手で煤をはらっている。
「ありゃ本当だ、
なんで気づかなかったんだろ」
ジャックはパンプの背中についた煤をはらってあげていて、その姿はまるで兄弟のようだ。
パンプは別に気にしないと言った感じで、
されるがままになっている。
ある程度はらい終えるとジャックは猫の方へ振り向いた。
「えっと俺達が何してるか知りたいんだよな、
じゃあ説明するより着いて来た方が手っ取り早い。いいよな、パンプ」
パンプは一瞬「いっ…」とだけ発すると、
「……別にいいよ」と投げ捨てるように言った。
もしかしたら、猫が子供扱いした事をまだ
怒っているのかもしれない。
だが、
「いいのか?じゃあ見せてもらうおうか」
先導するジャックに連れられて、猫はパンプの部屋へと行くのだった。
ジャックは、猫がまだ行ったことのない地下へと連れていった。
地下は地上のそれとは違い、
目に見えるくらいに埃やよく分からない物が宙を舞い、照明も行き届いていないのか、
ジャックの持っているランタンがなければ、
歩けないほどに真っ暗だった。
「ゲホッケホッ……ここ埃が舞いすぎだろ、
少しは掃除しろよ」
猫が顔の前を手で仰ぎながら、文句を言うが
パンプ達は慣れた様子で、猫を我儘な子供を見るような目で見ている。
「これくらいで文句垂れてたら、部屋に入る事も出来ないなお前」
”どうゆう事か”と猫は不安がったが、その答えはすぐに分かった。
ジャックが慣れた手つきで暗闇に手を伸ばし、その鋼鉄の扉を”んっ”と踏ん張りながら
開けると、扉のほんの少しの隙間から黒い煤が顔を見せた。
猫はそれを見た瞬間”ピタッ”と歩みを止め、
あからさまに嫌な顔をした。
「な、なぁ、今からそこに入るのか?」
猫の問いにジャックは「それ以外にあるか?」
と容赦なくその扉を開いた。
「あっちょっと待っ……」
猫の抵抗虚しく、扉は無慈悲にも開いてしまった。
猫の予想通り、部屋中に籠った煤が猫たちを包む形で、中から飛び出してきた。
それはもはや瘴気に近く、埃に弱い猫に、致命的(精神的)ダメージを与えるのだった。
猫は顔にある、穴という穴を塞ぎながら、
ジャックの服を掴んで何とか部屋の中へと
入っていく。
(クソッこんなことなら来るんじゃなかった)
と思っていた猫だったが、
少し時間が経つと瘴気は扉の外へ
出ていき、部屋の中の全貌が分かるくらいには部屋は綺麗になっていった。
「フゥーーやっと息ができる!」
息が出来ると言っても、深呼吸すれば、
咳が出るくらいには煤が漂っていた。
猫は部屋に入ってからずっと息を止めていたようで、そんな様子にパンプ達は呆れているようだ。
部屋の中は、猫にはよく分からない機械や
焼却炉のような機械が散乱し、焼却炉の様なものは煤を吐き出していた。
「それにしても、お前らはよく平気だよな、
あんなのもはや瘴気だろ。
というか、なんで部屋に煤を溜め込んでいるんだ?」
パンプは目の前の焼却炉のようなものに指を指した。
「ずっと換気してたら、基地中が煤塗れになっちまうだろ」
”なるほど”っと猫は手でうつつを打った。
「それで、ここでなにを作ってるんだ?」
猫が部屋の中を見渡すも、ジャック達が具体的に何を作っているかは分からなかった。
「作る…と言うか、今下準備だな。
シナモンに頼まれた物があって、
それを作るのに必要な素材とかを作ったり
してる」
「頼まれた物って?」
猫がそう聞くと、ジャックはパンプの方を見た。
パンプは首を横にふり、何かを拒否しているようだ。
「悪い、それはまだ言えないんだ」
ジャックは申し訳なさそうに猫に頭を下げる。
猫は少しだけ疎外感を感じたが、(入ったばかりのやつを最初から信頼は出来ないか)
と自分で納得した。
だが、
(結局何やってるかはわかんないじゃねぇか)
とだけ、心の中で文句を言った。
微妙な空気が流れる中、
”あっそういえば”と何かを思い出したのか、
ジャックがガサゴソと散乱した機械や工具をかき分け、何かを猫に手渡した。
「いつか渡そうと思ってたんだ、これは多分教団の武器(?)だよな。
猫なら使えるんじゃないか」
ジャックが猫に手渡したのは、古びた『散弾銃』だった。
手入れもされておらず、使えるかどうかも
怪しいが、ジャックの言った通り持ち手に
教団特有のマークが掘ってあり、『教団武器』というのは本当らしい。
〜教団武器〜
従来の武器に教団独自の改良を施した特別な武器。
それは普通の武器とは一線を超えた性能で、
この武器があったおかげで地王戦争に、
勝ち進んで行けたと言う面もある。
だが使うには、それ相応の鍛錬が必要な程、
扱うのが困難な武器である。
「驚いたな…こりゃあ『教団銃』だ」
猫は宝物を掘り当てたかのような目で、
教団銃を眺めている。
もの凄い物を見つけたかの様に猫が見るので、
そこまでその武器に期待を持ってなかった
ジャックは少し戸惑った。
「それ、そんなに凄い品物なのか?
教団の武器かなって渡しただけで、使えるかどうかはまだ分からないから…」
猫は”カシャリッ”と教団銃の銃口を構え、
銃の様子を伺っている。
「……うん、全然使えるな」
「使えるのか!?これ!
俺やった時全然撃てなかったのに(小声)」
ジャックは驚いた様子で、猫の手の教団銃を
凝視した。
「そりゃあ、いきなり初心者が撃てるような…いや、有識者だっていきなり教団銃は撃てないさ。
それにこれは教団内でも上級の信徒に渡される貴重品だ、よく見つけてくれたな」
ジャックは、自分が扱えなかった事がバレた恥ずかしさを覚えるのと同時に、猫が本当に元教団にいた
という事を確信をした。
実際ジャックは猫の事を教団にいたとホラを吹いている怠け者と少しだけ思っていたので、
自分の扱えなかった銃を慣れた手つきで、
動かす猫に少しだけカッコイイという感情が
もてた。
すると、黙って傍目で見ていたパンプが、
興味ありげに猫に近寄って教団銃を眺めた。
「上級の信徒って事は、お前も教団では地位が高かったのか?」
パンプは猫と目を合わそうとはしないが、
猫について興味がないわけではないらしい。
「ん?まぁ、それなりにあったとは思うけど…」
猫は詳しく話そうとはしなかったが、
上級の信徒しか扱えない銃の扱いが分かる時点で、それなりの地位があった事が伺える。
「ふーん、じゃあなんで辞めたんだ?」
パンプはかなり踏み込んだ質問をした。
「おいパンプ、あんまりそうゆう事は聞くなよ」
流石にジャックも、パンプを制止した。
だが猫は別に気にしないといった様子で、
揉めてる二人に「別にいいって」となだめている。
猫がそう言った事で、ジャックも「猫がいいなら…」と手を引いた。
「辞めたと言うか、辞めさせられた。
十年も前の事だよ、『門前戦争』が終わった後、教祖直々に追放されたんだ」
〜門前戦争〜
地王は三つの大きな土地が合体した大陸で、
その中の一つであり、現在大聖堂のある
『死聖区堂』に教団が侵食しきった頃。
教団は死聖区堂の隣の土地、『血栓唐納』へ歩みを進めようとしていた。
だが、地方の境の大国『アルカン王朝』が
行手を塞いだ。
通らせてしまえば、他国を見殺しにしてしまうのと同義だからだ。
そして教団と王朝の戦争が始まった。
この戦争は一般的に『門前戦争』と呼ばれている
(名ずけたのは、見ていた民衆という説があるが、本当かは不明)
「…結構歴史的な事に関わってるんだな」
門前戦争は、言うなれば教団を世に放ってしまった最悪の戦争でもある。
地王に住む者にとっても、教団側にとっても
忘れられる事の無い、恥の歴史。
そんなどこか現実とは思えない事に、
目の前の人物が関わってるとなると、
ジャックの猫の見る目が変わった。
猫も教団を世に解き放った、『罪人』の一人なのだから。
その後、微妙な雰囲気に居ずらかったが、
少し雑談をして猫はその場を去った。
「じゃあ、また明日な」
煤まみれの汚い部屋に二人を残して、
猫は地上へと駆け上がった。
「息が詰まるな…あんな所、長時間いたら、
なんかの病気になりそうだ」
そう言い捨て、体の汚れを“パッパッ“と手で払った。
「あ、丁度いい所に」
すると、たまたま歩いてきたシナモンが猫を呼び止めた。
「お前らを呼びに行こうと思っててな、
でもお前がいるならいいか」
「どうしたんだ?」
シナモンは何かの紙を持っている。
「キャンプ・タワーの地図を渡しておこうと
思ってな。
あと準備が完了した、
明日には実行しようと思ってる」
地図の事はありがたいと思ったが、いきなり実行と言われ、猫はいきなりすぎるとビックリしたが、教団時代にも良くあることだったのでそこまでイラつく事はなかった。
「俺はジャックに用があるから、明日に備えて準備しておけよ」
そう言うと、シナモンは地下へと消えていった。
〜作戦当日〜
「おい!集まれ!」
シナモンが全員を集合させた。
「今回の作戦を言う。まずこれを付けてくれ」
シナモンは猫達に小型のカメラと通信用のイヤホンマイクを渡す。
「すげぇ、こんな精密なのB地区じゃ、売ってないぞ」猫は驚いた。
「ジャックに頑張ってもらった」
どうやらシナモンがジャックに頼みたい事はこれだったらしく、ジャックは一日でこれを作ったらしい。
徹夜をしたのだろう、作戦前というのにジャックは大きなあくびをした。
猫は小声でパンプに、「お前の助手の方がすごいんじゃないか」っと嫌味を言うと、
パンプは猫の足を思い切り踏んだ。
「いてっ!」
そしねパンプは猫に向かって“アッカンべー“をした。
「お前らあそんでんじゃない!
…まぁこれで遠距離でも通信でき状況が分かる。
それじゃ改めて作戦を言う。
まずキャンプタワーの塀までは約三十八㎞はある、だからこいつで移動してくれ」
シナモンに連れられ、外のボロいガレージに行くと、布がかかった四角い何かが現れた。
「前に少し使ってみたが、エアコンが壊れてるだけだったから十分使えるぞ」
布を下げると、そこには巨大な『宣教車』があらわれた。
〜宣教車〜
大きな車体に沢山のメガホンが括り付けられた車。
そのメガホンから、教祖の説教を爆音で流しながら民衆へ宣教をする目的で作られたが、
主に信徒が移動に使っている。
教団では珍しい、殺傷能力をもっていない
発明品である。
「まさか…これで乗り込むのか?」
猫は啞然としてシナモンの方を向くと“当たり前だろ”とシナモンは頷いた。
「キャンプタワーの監視は東西南北に八個ずつ、監視のカメラや信者が配置されている。
宣教車は教団内の私物だからある程度の信徒は欺ける。
その間に猫たちが侵入して、
看守達を殺し、囚人を開放する。
宣教車のこの大きさなら囚人だって入るしな」
シナモンはそれ以外にもこまごまとした説明を続け、宣教車をガレージから出した。
〜基地の外〜
猫とパンプ、そして睡眠不足のジャックは、
シナモンに見送られながら宣教車に乗り込み出発した。
宣教車の中は、長年放置されていたからか、
ありえない程に蒸している。
ジャックは暑さで死にそうだったが、運転手の役割を果たしてくれている。
(猫の背ではアクセルとハンドルに手足が届かなかったからだ)
キャンプタワーまでの道のりで、
猫はパンプに話しかけた。
「…マジでお前来るのか、足引っ張んなよー」
猫は子供のパンプが来ることにかなり否定的だ。
それは嫌悪の感情からではなく、『心配』が大部分を占めている。
だが、そんなことはパンプには分からず、二人の空気は悪くなる一方だった。
「猫こそ、その教団銃とかでまともに戦えんのか。
兵器を作ってる身からすれば、そんなもの、
使えたとしても、敵に当たる所か、
暴発して自分が食らうのがオチだよ」
パンプも対抗して猫をけなすが、
猫は何ともない様子だ。
「お前たち、これから戦場に行くってのに喧嘩してんじゃないよ」
ジャックはあくびをしながら、
後部座席の二人に注意をした。
「…ジャックの言う通りだ、これから戦場に行くんだよな…
ジャック、ちょっと通信をミュートしてくれないか?」
猫の急な申し出にジャックは少し戸惑ったが、頭が回ってなかったのでそのまま通信を切った。
「音を消すだけでよかったんだが…
まぁいいや、ちょっとお前らに聞きたいことがあってな」
パンプとジャックは猫に注目をすると、
猫は低いトーンで話し始めた。
「…正直お前らは『シナモン』の事、
どう思う?」
「どう思うって…何が?」
意図が分からない質問にジャックとパンプは首を傾げた。
「その…アイツ、俺いまいち信用できなくてさ…話もなんだか胡散臭いし、今回の任務にも来ないし、なぜか信者の恰好してるし」
猫はシナモンへの不信感を吐き出し、
自分より先にこの団に入っている二人へ意見を求めた。
自分と同じ考えの者がいて欲しいと、縋る思いもあったのかもしれない。
だが、その思いはすぐに破られた。
「ん~俺もシナモンの事はあまりよくわかってない…だが少なくとも悪い奴じゃないってのは分かるぞ、パンプもそう思うだろ?」
猫の思考とは異なり、二人はシナモンに好意的な意見を見せた。
それは仕方の無い事で、猫に比べて彼らはシナモンに助けられた身だ、感謝の感情を持っていないわけがない。
それに比べ、猫は成り行きでもあり、強制的な面もあったので、二人と考え方が異なるのはおかしい事ではなかった。
「そうか…急に悪かった、ちょっと考え過ぎかもしれなかった…」
猫がそう謝ると、ジャックは再び通信機器の
音声を戻そうとしたその瞬間。
〈切れてないぞ〉
突然シナモンの声が宣教車の中に響いた。
「あ、切れてなかった」
ジャックは通信を切ったつもりでいたが、
全然繋がっており、さっきの猫の言葉は全てシナモンに筒抜けだった。
その事実に猫の体から徐々に血の気が引いていく。
「嘘だろ…」
猫はそう声を絞り出す。
そこで言い訳をしようにも、
全部聞かれていたのでろくな言い訳が思いつかず、何も言えなくなってしまった。
だが、シナモンは怒っている様子はなく、
むしろ申し訳なさそうだった。
〈確かに…俺は強引にお前を引き入れたから、
不信感を持つのも仕方ないことだ〉
シナモンはそう言うと、自ら通信を切った。
「やっちまったな、猫」
ジャックは罵る様な慰めるような態度で、
猫に笑いかけた。
宣教車内の空気は完全に冷え切り、
時々パンプが何か言うだけで車内は常に沈黙に
なってしまった。
~五分後~
〈そこで止まれ〉
突然、通信機器からシナモンの声が聞こえた。
だが止まった場所は、
キャンプ・タワーも見えないただの荒野で、
三人は首を傾げた。
猫たちは不思議がって辺りを見渡すが、
枯れた雑草と綺麗な髪をした死体くらいしか見当たらない。
なぜ止まったんだ、と戸惑っているとまた
通信機器からまたシナモンが喋りだした。
〈ここで宣教の布教音を流してくれ…あ、あとついでにそこの死体を車のバンパーに貼りつけておくといいかもしれない。
一つも死体がないのは教団側からしたら不自然だからな。
これから先も死体を見つけたら括り付けとけ〉
「なるほどな、了解した」
猫たちは納得し、布教音を流すと
車から何とも言えない気持ち悪い音楽と、
聞こえずらいが教祖の説教の様な声が流れ出した。
「これでオッケーか。
次は…ジャックちょっと手伝って」
車から猫はジャックを連れ、
瘴気が漂う荒野を歩き始めた。
「さっきのは取り消すよ…ジャック」
猫は落ち込んでいるような、少しうれしそうな顔をしていた。
「シナモン…アイツを信用しきったわけじゃあないけど、少なくとも頼っていい存在ではあるようだな」
猫はさっきの通信でシナモンの慎重さと教団への理解の深さ、そこらを踏まえて自分が思っていたよりかは、しっかりした人物と考えを改めたようだ。
「……」
「ジャック?…ジャック!」
「えっ……なに」
だが、そんな猫と打って代わり、
ジャックは寝不足からかボーっとして、
猫の話をほとんど聞いていなかった。
そんなジャックを見て猫はため息をつくが、”別にいいか”と気を改めた。
「何でもないよ、ほらさっさと死体を運ぼう」
猫とジャックは”人間”の死体を二人がかりで持ち上げると、車の正面で持って行った。
「そこまで腐ってなくてラッキーだな、
とりあえず釘かなんかで張り付けるか……ってなんだこれ」
猫は死体から手を離すと、ドロドロで灰色のネバネバが猫の手にまとわりついていた。
その様子に気づくとジャックは吹き出した。
「ハハハハハ、猫お前手が脳みそまみれだぞ」
なんと、綺麗な髪で隠されていたが、
死体の後頭部が酷く腐っており、
猫の手が脳みそでベッタベタになっていた。
だが猫はそれを見て、あまり不快感を感じていないようで、いい物を見つけたと少し嬉しそうだ。
「……ちょーど良かった、ちょっとジャック、工具持ってきてくないか」
「…?、あ、あぁ」
嫌がる仕草どころか、全く気にしていない猫に
ジャックは不自然さを感じながらも何も言わず、
トランクに工具を取りに行った。
(何がちょうどよかったんだろう…まぁいいか)
引っ掛かりがありながらもジャックは猫に工具を渡すと、慣れた手つきで猫は死体をバラバラにした。
関節を真っ直ぐ切断し、かつ、
上手く血管を避けて出血を少なくし、
腰あたりの肉を削ぐと、中の黄色い脂肪を
抜いて、血管を引き出した。
そして綺麗に血管を血管どうしで繋ぎ合わせて、
上手いことマリオネットの様な形に、
死体を加工した。
「ふぅー久しぶりにやったけど、
上手くいくもんだな」
猫は額ついた汗と返り血を拭き、ひと仕事終わった感をだしている。
その間、ジャックは作業を見ていたが、
猫の凄技に圧巻されていた。
「さすが元教団!凄いなこの死体!」
ジャックは猫の仕事に拍手を送った。
「これは教団の教えの一つなのか?」
「まぁそうだな、教団と言うより先輩が教えてくれた作り方で、この状態にすると見映えもいいし、処理がしやすいから俺はよくやってたな」
猫はそう言って、死体をバンパーに括り付けると車に乗り込み、荒野から出発した。
所々で死体を見つけるたびに繋いでいたので、
通常よりかなり時間はかかったが、
遂にキャンプ・タワーが見えるところまで近づいていた。
「あれが…『キャンプ・タワー』」
キャンプ・タワーは、鉄屑と血肉を固めたような
異様な設計をしており、
初めて見たジャックとパンプは、
塔の規模とその姿に目が奪われていた。
何回か見たことあった猫はパンプ達のように見つめるわけでもなく、ただ賄賂がうまくいくか、
ゲージを準備していた。
「ジャック、あそこの正面門に向かってくれ」
シナモンの言った通り、キャンプ・タワーは高い壁に囲まれ、
肉眼でもわかるほどの大量の機関銃が猫たちの車を出迎えていた。
「確かここに門番がいた気が…おかしいな、
誰もいない」
正面門につくと、猫は姿が見られないよう細心の注意を払って賄賂を渡そうと身構えていたが、
門番らしき人物はどこにもおらず、
更には門番どころか人の気配すら感じられない。
「これって通っていいのか?」
「分からない…本当なら門番や看守の信徒がくるはずだが…ここで帰るわけにもいかないだろ?
シナモン、どうなってる」
猫はシナモンに説明を要求した。
〈……〉
だが、通信機器からは雑音だけが流れ、
シナモンの声は一向に聞こえない。
「駄目だな、雑音しか聞こえねぇ……
とりあえず行くしかないか」
現状、罠の可能性は少なかったので、
猫は進もうと判断した。
「それじゃあジャック、通信が繋がったら、俺たちに知らせてくれよ」
外で待機するジャックにそう言い、猫とパンプはその異様な塔、教会監獄へ足を踏み入れた。
〜キャンプ・タワー内部〜
幸い警備がいる事はなかったが、
「ウッ」
入った瞬間に酷い錆鉄の異臭とジメついた
空間が不快感を漂わせる。
そして地面には、かつて囚人だったであろう
”人型の肉片”がゴロゴロと落ちている。
どれも原型がなく、輪郭が分からない程に潰されていて、女性らしき死体には、腹が裂かれ、中から紐状の”へその緒”とおそらく”胎児”の死体もあった。
「酷いなこりゃ」猫は鼻を塞ぐ。
強気なパンプも、子供ながらさすがの惨状に目を向けれていなかった。
一階には死体の他に受付が入り口付近にあり、猫は近ずいて中を覗くとやはり人の気配は感じられない。
「とりあえず、受付を呼ぶか」
呼べば、一人くらい誰か来るだろうと、
猫は受付前のサビが目立つ鉄ベルを押した。
“チーン“
「・・・・・・・・・」
だが返事はなく、その場に静寂が走った。
「やっぱりおかしい、猫、キャンプ・タワーっていつもこんな感じなのか?」
「いや…これは普通じゃない、部外者が生身で侵入してるのに信徒一人も来ないのは異常すぎる」
猫自身、その異様な空間に疑心暗鬼になっていたが、とにかく任務を遂行しようと自身を奮い立たせ、逆にパンプは未知の場所で未知な現象が起きて神経質になっていた。
「とりあえず魔法使いを見つけよう、
たぶん上の階にいるはず」
猫は”エレベーター”がないか周囲を見渡したが、あるのは階段だけだった。
「仕方ないか」
猫とパンプは階段を登り始めた。
一階の地面よりかは綺麗だったが鉄の匂いは増す一方だ。
そしてある程度登ると、猫は”何か”の気配を感じ取る。
ギシ…ギシ…ギギ…
階段の上から”鉄の擦れる音”が聞こえる。
少なくとも、人間の出せる音じゃない音が。
「パンプ、少し待て…俺が様子を見る」
猫は階段の上をゆっくりと、
その”何か”に見つからない様に確認をしに行った。
するとそこには、何か”人影”があるのが分かる。
だが、やはりそれは人が作り出すには難しい影だ。
「おい、お前ら此処の看守か」
人影から発せられる鉄の音は、猫の声に応えるか様に大きくなる。
そして、猫の前に姿を現した。
「!?」
現れた存在は、異様だった。
顔に包帯を巻いて、
手が左に一本、右に二本。
頭にパトランプがついている。
その姿 明らかに信徒ではなく、
それは猫達を見るなり、奇妙に左右揺れながら、
ゆっくりと近づいてきた。
「なんだアイツ」
少し身構えた猫と違い、パンプは不用心にも近づき始めた。
「パンプ!やめろ!」
猫は止めるが、パンプはそれを軽くあしらって近づくのをやめない。
「大丈夫だって、武器なんか持ってねぇし
多分監視カメラ代わりのロボットかなんかだよ」
”そんなわけあるか”と猫は思ったが、
それを言葉にする前にパンプは謎の機械の目の前まで近づいており、奇妙な動きを続けるソイツはパンプを見るなり前屈みになり動きを止めた。
「ガーガー…ピーガガ」
鉄音とはまた違う機械音を出し、
まるでパンプに語りかけているようだった。
「ほら!敵意はなさそうだっ…」
次の瞬間、いきなり猫がパンプの背中を蹴飛ばした!
「何っ!?って、うわぁぁ!!」
いきなりの事でパンプは驚く暇もないまま、
階段から転げ落ちていった。
“ゴロゴロゴロゴロー“
「イッテェな…いきなり何しやがんだ…って」
パンプは猫に文句を言おうとしたが、
目の前の光景にその気持ちは吹き飛んだ。
パンプが不用心にも近づいた謎の機械は胸を
“パカッ“と開き、銛のような物を発射して猫の腕に突き刺していた!
猫は咄嗟にそれを感知し、
パンプを庇って階段下まで蹴飛ばしたのだ。
「クッこの野郎!」
突き刺された銛を無理矢理抜く!
「オラァ!」
猫は教団銃でソイツの頭を叩き割った。
“グヂァッ“
それは機械とは思えない、赤黒い物体を撒き散らしながら、
猫の前に倒れた。
「ハァ…ハァ…」
猫は肘を押さえてながら、うずくまっている。
「ね、ねこ?」
パンプは猫に恐る恐る近づく。
「だから…言っただろ…やめろって…」
猫の肘からは血が止まらず、さらには刺された銛に返しがついていたようで肘を曲げる
どころか神経がガッツリ切断されていた。
パンプはそんな様子の猫を見て、
何も言えなかった。
だが、心では数秒前の自分に多大な嫌悪感を現した。
あそこでもう少し警戒していれば、猫の傷を与えることはなかったかもしれないと。
だが、そんなパンプを差し置いて、
猫はちぎれる寸前の左前腕を掴むと深呼吸をした。
「スゥ―――――――――フンッ!!」
“ブチィッ”
なんと猫は左腕を思い切り引きちぎったのだ!
そして何事も無かったかのように自分の衣服を破るとそれを傷口に巻き、止血をした。
予想外の光景にパンプは唖然としていた。
「な、何やってんだよ、そんな簡単に、
う、うでを千切るなんて…」
猫の行動にパンプは戸惑ったが、パンプの不注意で起こったことなので、強くはいえなかった。
「ん?まぁ、このままぶら下げてても邪魔だし、それよりコイツはなんだったんだ?」
逆に猫は、そこまで気にしてないようで、
襲ってきた鉄の何かの方に興味があるようだ。
猫は頭のつぶれた謎の機械に近づき、そいつ何なのか調べることにした。
銛を出した胴体を開くと中には、無造作に
臓器と銃火器がぐちゃぐちゃに敷き詰められ、
包帯を外すと、酷く焼けただれた肌が姿を出した。
そして、錆びた鉄の匂いがさらに強くなった。
「これは、改造された…人間?」
腰のあたりに鉄のプレートのようなものがあり、そこには『鉄屑兵八七号』と書かれていた。
「てつ…くずへい?」
するとパンプが何かを見つけたようで心臓辺りを指指す。
「これって『血二駆』じゃないか!」
パンプが心臓の辺りの光る何かを指差す。
よく見ると、黒っぽく心臓の様に鼓動を鳴らしている、謎の臓器が剥き出しになっていて、
パンプはそれを『血二駆』と名指ししたようだ。
「なんだ?その”血二駆”ってのは?」
「”カボチャ帝国”で新しく開発された無限機関だ。こいつがある限り、機械だろうが生物だろうが永久的に動けッ……」
次の瞬間!
猫は咄嗟にパンプを掴んで、
鉄屑兵から咄嗟に離れた。
なんと死んでいた鉄屑兵はまた同じように胴体から銛を発射した。
「グッ」
その銛は猫の肩を突き刺している、
パンプの説明通り、血二駆がある限り鉄屑兵は何度だって蘇るらしい。
「クソッいてぇ…」
猫は咄嗟に鉄屑兵の顔に膝蹴りすると、
勢いで刺さっていた銛が猫から外れた。
猫の肩は幸い急所は外れており、また臨戦体制をとった。
(体の血二駆は丸出しだ、あれが破壊出来れば…)
鉄肉は三つの腕を伸ばして開いた。
「ピガガガガピピガガガガッッ」
壊れた機械のように痙攣し、両手を広げ震えている。
“シャキーンッ“
なんと手首から細長い太刀が出てきた。
「クソッとんだ武器人間だな…」
すると鉄屑兵は左右の壁にぶつかりながら、猛スピードで猫たちへ迫って来る!
「やばい!来るぞ猫!」
「……」
猫は冷静に”階段上”から迫り来る鉄屑兵に狙いを定め、銃を構えた。
「ピガガ!ガガピガガ!」
「……」
“バンッ“
引き金を引いた瞬間、
銃口から小さい鉛玉が大量に発射された!
その弾は鉄屑兵の両足に着弾するのと同時に
膝を割り、両足を再起不能にする。
その瞬間、自信を支える軸が壊れたことで
鉄屑兵は物凄い勢いで階段から転げ落ちていった!
自分を刀でズタズタに引き裂きながら。
「ピガ…ガガ…」
「おぉ危機一髪って所か」
鉄屑兵はどう見ても戦える状態では無いが、
パンプは近づく事無く、
猫の後ろで様子を伺っている。
反対に猫は、冷静に鉄屑兵に近づくと、
その”折れた刀”を拾った。
鉄肉はまだ、ピクピクと猫の衣服の裾を掴んでいる。
「これでまだ生きてるのか、恐ろしい奴め」
人間であれば、もはや生きる事が出来ないくらいに無惨な生き人形と化した鉄屑兵に猫は刀を向けた。
そしえ血二駆へ刀を突き刺した。
「ガガッ………」
最後の最後まで微かに動いていたが、
血二駆を刺した瞬間。
鉄屑兵から生気が抜け、
さっきまでの勢いは嘘かのようにぴくりとも動かなくなった。
「はぁ…聞いてた話と違いすぎるだろ…」
猫は体中傷まみれなのに無傷のパンプより
明るく、笑っている。
それが長年戦場にいた”慣れ”なのか、
ヤケクソになった“笑い”なのか、
パンプには分からなかった。
そして、いつも強気なパンプが珍しく、
猫へ低姿勢で近づく。
馬鹿にしてきた相手だが、
自身のミスで猫に傷を与えてしまった事に
責任を感じている様だ。
「猫…肩は?」
猫は全く問題なさそうにグッドサインをした。
(本当は肩上がんないけど)
猫はパンプに責任を課したくないと、
無理して親指を立てた。
それを見てパンプは、心配もあったが、
戦場での余裕を見せつけられ、凄いという感情と同時に少しの尊敬の念が心に沸いた。
そして、数分前の戦闘を思い出し、
その尊敬は心の高揚へと繋がった。
「それにしても……片腕で打ち抜くなんてすごいな!」
「ま、まぁな(本当は心臓を狙ってたんだけど)」
二人が戦い終わり、安堵を見せると、
周囲の情景が、二人に最悪の事実を思い出させた。
「よく考たら…まだ一階ものぼってないのに、
左腕が………これは五体満足で帰れるかわからないな」
まだ一階から二階に進んだわけでもなく、
一つの生き人形に多大なダメージを食らわされたのだ。
大きな不安を抱えながらも、振り返ることなく、”二階”へと足を運ぶのだった
グロは苦手です