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第097話 死者多数


 【SIDE:芥角虫神】


 蘇生の光が輝くのはGの迷宮。

 エエングラ神が回収してきた犠牲者……。

 始祖神の遺骸の治療を行っているのだが。


「ふむ……二枚貝の貝竜、”しん”の次は、海老であるか……」


 フードの奥から巨大な海老の殻を眺め、じぃぃぃぃぃ。

 そう呆れた様子で愚痴を漏らすのは、かつて主神だったアクタである。

 アクタに魔力回復用のジュースを魔術で運びながら、ネコ姿のヴィヴァルディが言う。


「どうやら、またあいつらにやられちゃったみたいね。うわぁ……尻尾の先に詰まった肉まで食べられてるじゃない。わたし、こんなに大食いじゃないのだけれど……」

「――汝の復讐心マグダレーナではなく、これはセイウチの仕業であろう」


 解説しながら蘇生の儀式の準備を進めるアクタは、擦り潰したエビの殻から作り出したチョークで魔法陣を描くが。

 そのチョークの白線にわざわざ乗って、どっこいせ!

 座り込んだヴィヴァルディは、邪魔している自覚もなくアクタを見上げ。


「やっぱりセットで行動しているのね」

「……」

「なによ? わたしの美しくも華やかな顔に何かついているかしら」


 儀式の邪魔だと猫の脇を持ちあげたアクタは、無言でヴィヴァルディを退かし。


「奴らの進路は海と陸、そしてまた海の繰り返し。どうやら海で魚介類と、それに連なる始祖神を喰らった後――陸の国家から調味料を徴収。醤油や味噌といった海の幸に合うアイテムを手に入れ、また海へと戻っているのであろう」

「は? 調味料?」

「セイウチと化したアレが、海の始祖神で食欲を満たしているのであろうな。その証拠に、蟹の次に襲われた陸のコヨーテの始祖神は食害を受けてはいなかった」


 だからこそ蘇生も比較的に楽。

 冥界から魂を持ち換える必要はあるが、肉体の器を治す負担は減る。


 ただそれでも、フードの奥の彼の顔には疲労の色が浮かび始めていた。

 それもその筈だ。

 人類達からの連絡によると、”名を変えた始祖神”と思われる大いなる存在の消失の報告が、次々と上がっている。


 始祖神とは創造神の一柱。


 それほどの存在の蘇生となれば、大儀式と技術が必要不可欠。

 ただし、あくまでも蘇生できる可能性があるだけであり、また準備にかかる時間や儀式の対価は膨大。

 そんな問題を解決してくれるモノこそが魔術。


 世界の法則を書き換え、不可能を可能とする魔術式による宇宙改竄である。


 不可能ならば不可能な程に魔術式は複雑となり、宇宙を書き換える力が必要となる。

 始祖神は創造神。

 神の蘇生に必要な式を組み立てられる者など、広大な宇宙を探してもそういないだろう。


 そんな複雑な技術を有しているのは触れた相手のスキルを奪え……なおかつルトス王を通じて、多くのスキルや魔術を習得しているアクタだけだった。

 だが、今まで運び込まれてきた始祖神の数は十を越えている。

 疲労が出て当然と言えるだろう。


 それなのに。

 飼い主が真剣だと、なぜか邪魔をしたくなる存在というのは実在する。

 ネコである。


 退かされたヴィヴァルディは尻尾を左右に振りながら、じぃぃぃぃぃぃ。


 今度は輝く魔法陣を眺め、わざとアクタの顎を尻尾でペチン!

 トテトテトテと歩いて、真ん中に陣取り。

 ドン!


「まあセイウチがコヨーテを食べるって話は聞いたことがないけれど……」

「なのにだ、海のスカベンジャーに該当するスカベンジャーたちは皆、美味しく頂かれている。阿呆な話ではあるが、間違いなく食事目当てになりつつあるのであろうな」

「え? じゃあほっといてもいいんじゃないの?」

「――奴らはかつて我や汝が分け与えた力、加護や祝福といった恩寵を回収している。放置するわけにもいかぬであろう……。ところでだ」

「なに?」


 魔法陣の中心で”どでん”と寝ているヴィヴァルディを、アクタが睨み。


「ええーい! 邪魔だと言うのが分からぬのか!」


 強風の魔術で邪魔なネコを退かし、ふん!

 退かされたヴィヴァルディは、自らを肉球で指差し。


「じゃ、邪魔って! も、もしかしてわたしのこと!?」

「キサマ以外にどこにいると言うのだ!」

「はぁぁああああああああぁぁぁ!? ふざけないでよ、猫の本能なんだから仕方ないでしょう! わたしの目の前で、いかにも大事そうに魔法陣を広げる方が悪いのよ! これ、絶対に上に乗れって言ってるようなもんじゃない!」

「誰も言ってはおらぬわ、たわけが! 蘇生が遅れ失敗したら、汝は責任を取れるのか!」


 言われてもヴィヴァルディは引き下がらず。


「だって、考えてもみなさいよ。こいつら! 全然反省してないじゃない!」


 ヴィヴァルディが示すこいつらとは、始祖神の事。

 そして肉球で指差すのは、蘇生待ちの始祖神の遺骸の山である。


「招集に応じぬ事がイコール、反省してないとはならぬと思うが」

「なるわよ! 宇宙の危機だって言うのに、顔を出さないってその時点でアレじゃない!」

「アレと言われてもな……だいたい、我らは彼らと対話ができていない。そもそも彼らはこの世界を捨て、抜け出る箱舟を求めていた一派。今更になって柱の神が戻ってきたといっても、出方に困っていたのではあるまいか?」


 実際、今襲われている始祖神の大半は、世界を捨てようとしていた始祖神。

 アクタが招集をかけても無視をした連中なのだ。

 それもヴィヴァルディがご機嫌斜めの原因、この状況で招集に従わなかった彼らに腹を立てているのである。


 彼らの蘇生はアクタが担当。


 その裏では、死者の魂に干渉できる”神鳥フレスベルグ”としての側面を利用したナブニトゥが、冥界へと羽ばたき。

 冥界と現世を行ったり来たり。

 その都度、冥界神と交渉し――始祖神たちの魂を連れ帰る役割を担っている。


 復讐の女神とセイウチに負け、食われる始祖神の遺骸の回収はエエングラが担当。

 丁度、また次の遺骸を回収してきたハイエナ姿のエエングラは言う。


「まあ、オレはこいつらの気持ちも分からねえでもないがね」

「はぁぁぁぁ!? なんでよ!」

「自分がかつて裏切った、見捨てた、放置した、顧みることを止めてしまった恩人が――急にバケモノみたいに成長して、急に顔を出せって言ってきたって考えてみたら、どう思うっしょ」

「そりゃあ」


 ヴィヴァルディは肉球ごと手を顎に当て考え。


「よくも裏切ってくれたな、死ね! って復讐されるかしらって思うけど?」

「んだよ……分かってるじゃねえか」


 それに、とエエングラはハイエナの眉間を下げ。


「仮に過去の過ちを思い出したりしても、やっぱりな――。引け目があったり、負い目があったり、後ろめたい相手の前にさ、簡単に顔を出せるもんじゃねえだろ? オレだって、こういう経緯じゃなけりゃあ今、ここにいたかどうかも分からないっしょ」

「そーいうもんかしらねえ」

「そういうもんっしょ……まあ、だからこそ反省してるなら招集に応じろって話だろうが――やっぱりな、オレたちと違って急に言われたってやつも多い。自分たちのせいで死んじまった恩人に会いに来る勇気、心の準備なんてできてないっしょ」


 それにしても、とエエングラは遺骸の山を眺め。


「これ、どーするんしアクタの旦那。全部、力が抜かれてるって事は、創造神としての力が回収されてるってことっしょ?」

「で、あろうな――そしてその力で宇宙を破壊する計画だろうと踏んでいるが」

「ぶっちゃけ、こいつらの蘇生を後回しにしてどうにかしねえと、手が付けられなくなっちまわねえか?」


 時間が経てば経つほどに相手の力は増していく。

 正論ではあるが、アクタには存外に余裕があるようだった。

 アクタが言う。


「おそらくは、女神にとってその力の回収こそが命取り。セイウチに至ってはもはやただの、少しだけ知恵のある食いしん坊の海獣だ。確実に勝つには、このままで良いのだ」

「どういうことよ?」


 エエングラもそうだが、猫のヴィヴァルディも分からなかったようだが。

 それでもアクタは確信を持った様子で告げる。


「この世界において力の回収とは記憶の回収にも繋がる。我がルトス王の膨大な記憶を喰らってかつての力を取り戻したように、セイウチを介し、女神は食われた始祖神の記憶をも回収してしまうであろうからな。もし、逃げ回っている始祖神たちに罪悪感や後悔、そう言った感情があればそれは復讐の女神にも伝わるであろう」


 アクタは言った。


「アレは……復讐などには向いておらぬ女だ。おそらく、徐々にその心は揺らぐ」

「ん? もしかして、それで改心するって事かしら?」

「いや、魔性化した以上は止まらぬであろう。だが、復讐心が揺らげば当然、復讐心を力とするマグダレーナは大幅に弱体化される」


 その時を狙えば倒すのも容易。

 と。

 アクタは始祖神の蘇生を継続しながら言い切ったのだ。


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