第008話 死体回収屋G
ハーレム王を目指すアクタは擬態者。
ミミックと呼ばれる、姿を自由自在に変えられる中層の魔物。
ミミックといえば宝箱に擬態することで有名だが、アクタが化けているのは人型。
彼が魔物だと知る冒険者は思う。
ああ、こいつ……ミミックとしての能力が低く宝箱に化けられなかったのだろう……と。
だから化けやすい人の姿になっている。
そう冒険者達から判断されて、あまり危険視されていないが……実際は違う。
人間に化けることは擬態者にとって超一流を意味し、人語を介するアクタはトップミミックともいえる存在だった。
だから。
アクタは迷宮を進みつつ鼻歌交じりに、ふはふはは!
「魔物など恐るるに足りぬわ!」
彼の本日の業務は死体回収。
いわゆる冒険に失敗し死亡した失踪者、冒険者の回収だ。
成功率こそ低いが――死体の状態が良ければ、最上位の神の奇跡で蘇生が可能な事もあり、これも冒険者ギルドの重要な仕事の一つ。
本来ならば大捜索隊を必要とする大規模なミッションであり、この遠征にて命を失う者も多々いるのだが……アクタならば費用も掛からず、御覧の通り。
本来なら縄張り争いが張る筈の他種族のモンスターも、なぜか彼を見ても襲ってこず、フリーパス状態。
なので死体回収も容易。
彼が単独で入り込み、単独で回収し持ち帰る。
ただそれだけである。
長身痩躯のアクタは自分の三倍はあろう籠を背負い。
ふは!
「これではただのピクニック! 我に挑もうとする勇気ある者はおらぬのか!」
迷宮の魔物に向かい問いかけるが、反応はない。
並の冒険者がこんな挑発まがいな事をしたら命取り。
すぐに囲まれゲームオーバーのデッドエンド。
だがアクタは違う。
魔物だから?
いや、それも異なる。
魔物たちは怯えていた。
彼らの目は人間とは違う。
だから――アクタの姿がとても悍ましい死と光と闇に覆われた、異形の大モンスターに見えているのだろう。
実際、今のアクタは人間社会に溶け込み、なあなあで許され生きているが、その実態は異世界から送り込まれた【大いなるG】。
異世界神の使徒なのだ。
魔物にとっても異神が突如として迷宮に攻め入ってきた状況と同じ。
上層や中層の魔物ならば怯え震え、息を殺して通り過ぎるのを待つしかない。
見つかったら何をされるか分からない。
分からないから怖い。
そしてなにより、アレは強い。魔物ならばこそ、魔物であるアクタの脅威が嫌というほどに伝わっている。
あれは絶対に敵にしてはいけない類の厄災だ、と。
そんな魔物の気も知らず。
アクタは呑気にフードの下から僅かに覗く、端正な鼻梁を揺らし。
ふは! 何かを発見したようで、Gの如き高速移動。
「ふむ、これが報告書にあった座標14.18の冒険者の死体であるか! 我を道化と思うておるキーリカ辺りも、これで我の偉大さを知るであろう!」
ふは、ふはははははは!
っと、栗拾いのように死体を回収するアクタの哄笑が迷宮内に広がる。
実際は、「と~っても助かりますけど。魔物だから素通りできているだけでしょ」とあしらわれるのがオチだが。
ともあれアクタは死体を回収し、上層から中層を走り回り。
そのまま下層に突入。
下層ともなるとそこは魔境のような恐ろしい世界、名を知られている上位の冒険者がパーティを組んでようやく歩き回れる階層だ。
実際、普段ソロで攻略している聖騎士トウカですらそうだった。
王の依頼でこの階層まで降りてきたときは、聖職者カリンや、槍使いであり狂戦士のカインハルトと仮の臨時遠征小隊を組んでやってきた程なのだ。
そんな階層に中層の魔物である擬態者が降りたらどうなるか。
普通なら即座に魔術や炎で焼かれジエンド。
だが。
アクタは中層と変わらぬ様子で、鼻歌交じりで籠を背負ってカサカサ、ふはは!
「我を侮るギルドの連中は下層は地図も用意できないから降りるな、諦めろと言っておったが、笑止! 地図がないのならば作ればいいではないか!」
魔導地図でマッピングを続けながら、探索開始。
彼を襲う者は誰もいない。
それもそうだろう。
下層の魔物は悪魔をはじめとした、知恵ある魔物が基準となっている。
竜であっても人語を理解するし、死霊ともなれば魔導に精通した者も多い。
そんな彼らならばアクタの異常さを理解し、触らぬ神に祟りなしと遠巻きにする流れとなっても不思議ではない。
それほどに、アクタはこの世界の魔物にとっては恐ろしいのだ。
彼らは見た。
アクタを見た。
そこにあるのは、神。
数千、数万、数億の魂から生まれた荒魂。
這いずる祟り神の姿としてのアクタが見えている。
そしてそのバケモノに加護を与えている存在もまた恐ろしい。
冥界を支配する死者の迷宮の帝王。
太陽の如き光を放つ女神。
宇宙のような混沌を内包する闇猫。
異界のバケモノが送り込んできた、バケモノ。
ただ通り過ぎるのを待つ天災。
厄災の神は人間の遺骸を拾い上機嫌。
おそらくアレは人を食らうのだろうと、魔物はアクタに怯え道を譲り首を垂れるばかり。
頭を上げられないのだ。
そんな列を眺め、ふとアクタは立ち止まり。
この世のモノとは思えぬほどの甘ったるいが重い美声で、鷹揚に語り掛けた。
「ふむ、そこのキサマ――我が問いに答えよ。仲間を呼んで集団で襲いマヒさせ、冒険者を追い詰める上級悪魔よ。この辺りに他にも人類の死体は転がっておらぬか?」
やはり、喰らうのか!?
と、上級悪魔は息を飲みながらも頭を垂れたまま。
なんとか言葉を絞り出す。
『あちらに、かつて全滅させた……王族を名乗る冒険者の一団の死体が……持ってまいりますか?』
「ふむ、案内せよ」
『承知いたしました』
上級悪魔は恐怖の中で、僅かに顔を上げた。
フードの奥には、冷たい美貌の、皇帝のような貫録を持つ神の姿が見えている。
強すぎる美しさは時に恐怖や畏怖を煽るのだと、その日、上級悪魔は初めて知ったのだ。
それほどの美貌の王が、そこに顕現し蠢いている。
上級悪魔は思う。
もし機嫌を損ねれば、自分も食われて消されてしまう。
ただ、この異界からの来訪者が消え去るのを待つしかないと。
祟り神の降臨は天災。
これをどうにかしようと思う愚者は、ただの一匹もいなかった。
その日、アクタが回収し持ち帰った死体が騒動を起こす事となるのだが。
魔物にとっては無関係。
彼らはこの危機を無事乗り切った。