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第077話 自己犠牲と覚悟


 【SIDE:カイーナ=カタランテ姫】


 カイーナ=カタランテは自身をイケニエに捧げるつもりだ。

 そこには姫の覚悟と自己犠牲精神。

 王族としての責任や矜持、ノブレスオブリージュの志があるのだろう。


 アクタはおそらくカタランテ姫の決意を知っていた。

 だからこそ、ついてきたのだろう。

 姫もまたそれに気付いていた。


 相手が自分が死ぬ前提だと分かっているからこそ、どこか神に対しても強気でいられたのかもしれない。


 古木も目立つ墳墓の探索を続ける中。

 姫は咎める気はないが、少しきつく問いかける声を出していた。


「まさか止める気なの?」

「いや、我が罪ばかりの道を歩いていたのは知っているだろう?」

「少なくともあなた自身がそう思っているのはね」

「他人から、謝罪の機会を奪う気にはならぬ。実際、身を犠牲とした謝罪は効果をもたらすこともあろう。そしてなにより皇族の使命だというのならば、我にはその矜持と誇りを穢す権利もないであろう」


 覚悟が出来過ぎている姫を前に、アクタはしばし考え。

 先輩風を吹かせる顔で、やはり口元を緩め告げていた。


「――なれど、なれどだ。誰かのための自己犠牲が必ずや正しい結果を齎すとは限らぬ、それは覚悟しておくことだ」


 彼らは問答をしながら道を進む。

 手探りの壁から隠し通路を見つけ、先ほどのアクタの言葉を受け躊躇せず姫は言う。


「それってあなたのこと?」

「我には泣く者はいなかった。我には誰もいなかった。なれど、汝は違う。おそらく、汝が死ねば誰かが不幸になる。略奪王とまで呼ばれながらも国や妻、愛人……そして娘を守り続けたあの皇帝は泣くであろうな」

「あら、それも覚悟の上よ。幸いにも、あたし以外にも王位を継げる血筋はいるんですもの。そりゃあ最初は悲しいでしょうけど、時間が解決してくれるわ。だいたい――全員が滅んじゃうよりよっぽどマシでしょ?」


 ウインクすらして見せる気丈な姫は、そのまま隠し通路を進む。

 隠してある道なのだ。

 おそらく正解のルートに繋がっているだろう。


 テクテクテクと先行する娘の背をフードの奥のジト目で眺め、アクタが言う。


「ふむ、頑固な娘を持った親も大変であるな」

「そんなお父様だからこそ、守りたいのよ。お父様――本当は戦いなんて嫌いだったのに、それでもあたし達のために略奪王なんて呼ばれちゃって。いつからか、それは誉め言葉、武勇の証だなんて笑っていたけど。娘ですもの、本音もなんとなく分かっちゃうわよ」


 父と民を思う心優しい姫は、迷いなくアクタを振りかえり。


「個人の価値じゃなく、あくまでも何ができるできないかの問題の話ね。あたしが死んでも代わりはいるのよ。なにしろお父様は略奪王なんて言われてるぐらいだから、戦争で勝ったり、政略結婚だったり、部族の長の妻を娶ったり……周辺諸国のお姫様やお后様をそれなりに妾にしちゃっててね。子供もたくさんいるの――まあ、あたしもその中の一人ってわけだけど」


 空気はしんみりだが、アクタは騙されず。


「……思うに、略奪王の名も仕方ないような気もするのだが?」

「ああ、もう! 言わないで頂戴! あたしもそうなんじゃないかなぁ……ってちょっと思ってるんだから! 男ってなんであんなに異性を囲うのよ! ハーレムなんて信じらんない!」


 この辺りは年頃の娘のようだとアクタは苦笑し。

 更に迷宮の最深部を進みながら口を開く。


「汝が本気なのは理解した。やはり高潔であると我は感じる」

「そりゃどうも」

「だが――」


 と、言葉を区切ったアクタは封印された扉を前にし告げていた。


「――我もまた、罪滅ぼしのための自己犠牲などという、聞こえのいい大義名分で動いていた。多くの肉を削り、骨を削り、臓物を削った。はじめは良かったのであろうがな、実際に世界は平和に明るく育った。なれど――自己犠牲を続けたその結果が世界の滅びだ。一方的や過度の自己犠牲が必ずしも明日を照らすとは限らんぞ」

「そうね、でもなんでかしら」


 封印された扉の解除方法を探りながらも、姫の口は動き続ける。


「あたしには見えているのよね。あたしが命を懸けてエエングラ神に謝罪をすれば、必ず姿を現してくれるって。協力してくれるって、見えている。これってなんなの? スキル? 魔術?」


 あたしにも分からないのよね、と簡単に言う姫が扱っているのは過去視に未来視。

 多くの可能性を収束させ、確率計算により答えを導きだす高等な技術である。


「無自覚に行使するそれが魔術でもスキルでも構わぬ。だがその選択は別だ。おそらくそれはエエングラ神が汝を死なせたとして後悔と贖罪で動くだけであろう。あまり勧められん未来だ。感心せん」

「だってしょうがないじゃない」


 姫には祖国で育った記憶が蘇っているのだろう。

 その瞳に、流しているのだろう。

 思い出の中で姫は言う。


「大好きなのよ、あたし。お父様に、家族に民に……この国が。大好きなの。それって自分を犠牲にしてでもみんなを助けたいって理由にならないかしら?」


 彼女の笑顔は本当に綺麗だったようだ。

 アクタは死を覚悟したその笑顔と言葉を保存するように魔力を流し。

 どこかへ転送を開始。


「仕方あるまい――いいか姫よ。先ほど我の話、我の逸話は始祖神たちも知らぬ話だ。そして奴らが知りたがっている話でもある。汝がエエングラ神と交渉したいのならば、必ずいい交渉材料になるであろう。好きに使うといい」

「それって――」

「エエングラには我から言っておく。少なくとも、姿を現すようにとな。どうせ死ぬ気ならば、その前に足掻いて見せよ。せめて生きる道を探し、それでも見つからなかったときに此度の方法を考えよ。分かったな」

「本当!? いいのかしら!」


 姫とて別に死にたいわけではなかったのだろう。

 本当? 本当? マジならラッキーだわっと空気は軽くなっているが。

 アクタは周囲を見渡し。


「ただ困った事がひとつある――」

「なによ! まさかお金を取るんじゃないでしょうね!?」

「違うわ、たわけ! 汝は少々、特殊な力を持ち過ぎているようだ。だから、悪い奴に狙われるのではなかろうかと、見張っていたのであるが。ふふふふ、ふはははは! どうやらビンゴだったようだな!」


 言って。

 アクタは指を鳴らす。

 カタランテ姫の周囲にオーロラすらも霞むほどの、極光の結界を一瞬で張ったのだ。


「え!? ちょっと!? なに!?」

「ふふふ、ふはははは! 汝にはあまり深く話されておらぬだろうが、外の世界から入り込んでいるのが、あの教皇一体とは限らんということだ!」


 完全にいつもの口調に戻ったアクタは、迷宮の隅の樹々を睨み。

 やはりいつもの変人ポーズで、ふは!


「出てくるが良い、異物よ! 汝らの同胞たる教皇ホテップは既に我らの側にある!」


 高らかに宣言する声に反応はない。

 ただただアクタが変なポーズで、ふはははは!

 としているだけである。


 だが、やはり何かいる。

 姫もそれを感じたのか、一本の樹を指差し。


「あそこよ!」

「よくやった、人間の娘よ――覆いつくせ、我が眷属よ!」


 指定された樹に向かい、ザザザザザザ!

 アクタはGの群れを召喚し、突撃させた。

 当然、なにかがいれば反応する。


 ようするに、Gの群れをけしかけた。

 それだけである。


「あ、あんた! なんつーえげつない攻撃してるのよ!?」

「まあこれが手っ取り早かろう」


 そして――案の定だった。

 その樹は樹である筈なのにGの群れから逃げ出し始めていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] いやああああああああああああああ 単体か片手で数えられる程度ならまだ良いけどGの群れはいやああああああああああ 外なる神々よ君たちの事は忘れないよ\(^o^)/
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