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第072話 繋がる帝国、伝わる伝承


 【SIDE:カイーナ=カタランテ姫】


 僅かに時は進み、ここはカタランテ帝国。

 カイーナ=カタランテは神々と契約を交わした証を持参し、ふふん!

 略奪王と呼ばれる父や家臣、民の代表たちに事情を説明。


 神の存在と世界の終わりが現実だと語ったカタランテ姫は、声高に宣言する。


「というわけよ! 神もいたし箱舟はなかったけれど、箱舟に代わる救済手段は存在した! あたしたちや、あたしたちの子孫は助かることができるのよ!」


 ここで拍手喝采となる筈だったのだが。

 白を基調とした神殿跡地のホールには、困惑と疑念の声が広がっている。

 高台となっている台座の上で、カタランテ姫はムスっと唇を尖らせ。


「変ねえ、あたしの言葉が聞こえなかったの? それとも理解ができなかったの? もう、何か言いなさいよ!」

「娘よ。そなたが交わしてきた約束を違える気はない、事実ならば賞賛しよう。だがすまぬな。突然に神、と言われても――どう反応したらいいものか皆も困っているのであろう」


 声を張り上げる姫に声をかけたのは、彼女の実の父たる略奪王だろう。

 壮年を過ぎたそれなりの歳なのか――既に腰が折れ始めているが、まだ表情に覇気が感じられる皇帝である。

 姫は父の言葉に耳を傾け、周囲を見渡し。


「そう、よね――あたしだって神なんて信じちゃいなかったのだけれど」

「娘よ、そなたを疑う気はない。だが、やはりそなたも言うように神などという存在を認められるかと言われれば、無理だと首を振る者が多かろう」


 略奪王と呼ばれた王は、略奪せずには民の命を守れなかった人生を顧みているようだった。

 皺の目立つ口から、言葉が滑りでるように落ちていた。


「神などと言う御方がいるのなら、何故なにゆえ、何故に我らを見放しになられているのか。何故に助けてくださらないのか。その説明がつかぬ」

「あぁ……そのことなんだけれどね。どうも理由がはっきりしちゃったのよ」

「どういうことだ」

「どこの誰だかは知らないけれど、百五十年ぐらい前? もしかしたらズレがあるかもしれないけれど、あたし達も知らない昔に、人類が神様のリーダーを殺しちゃったそうよ。それが最も大きな理由なんですって」


 あっさりと告げるカタランテ姫の言葉にざわつきが起こる。

 それもそのはずだ。

 このカタランテでの信仰は既に途絶えていた。


 神はいないという答えが出されていた。


 人類が神に助けて貰えない理由として考えられていたのは、そもそも神などいない――人類を助けてくれるはずの神がいないから、神は人類を助けない。

 神がいるのなら無条件で人類を助けてくれるはず。

 だから、神不在論が答えとされていたのだが。


 人類が神を殺してしまったのだと言われれば、確かに辻褄が合う。

 だからこそ、略奪王と呼ばれた父は顔に脂汗を浮かべ。


「それは、本当……なのであろうな」

「少なくとも神の如き力のある神を自称する存在はそう言っていたわ」

「力のあるということは」

「ええ、あたしは鳥の姿をした神と戦った。ザザ帝国に入ろうとしたら邪魔されたから仕方なかったのよ。けれど、結果はあたし達の惨敗……というよりも戦いにすらなっていなかったわ。もし神々が本気だったらあたしはここに立っていなかったでしょうね」


 本日、最も大きなざわつきが生まれる。


「馬鹿な!? 暴だけに長けたあの暴走姫が負けただと!?」

「暴力と破壊力だけが取り柄のカタランテ姫が負けるだなんて、ありえません!?」

「終わりじゃ、おわりじゃぁぁぁぁぁぁ!」


 力のみは信頼されているが、微妙に辛辣な民の言葉にムキっと額に青筋を立て。


「あんたたちねえ! あたしを何だと思ってるのよ!」

「そ、そうは言うが娘よ……そなた、まさか自分が品行方正な深窓の令嬢などと思われていると?」

「そ、それは無理だってのは分かってるわよ! とにかく!」


 カンと王族の杖の石突で台座を叩き。


「神だって断言して良いほどの存在だってのは確かよ。このあたしが負けたのがその証拠!」


 略奪王たる父は娘の家臣たちに目をやると、彼らも頷いている様子。

 やはり脂汗を浮かべたまま、父はシリアスに唇を動かしていた。


「なるほどな――思春期の娘が突如として浮かれて吐き出した妄想や妄言ではない、と」

「あのねえ、今まで国を支えてくださったお父様だから遠慮してるけど、それ、娘に言ったらふつうに殴られても文句言えないわよ?」


 ゴゴゴゴゴっと父を脅すカタランテ姫は、そのまま民に目をやり。

 腕を組みながら、じっと睨み。


「とにかく! 人類が神の偉い人を殺しちゃったけれど、そこには神にも原因があったって流れが変わったらしくって。あたしたちも滅びる世界から抜け出る”箱舟”に乗船できる、チャンスを手に入れたってわけ。それがザザ帝国に協力し、新たな神のリーダーにスイーツを献上する事なのよ」

「スイーツ……魔道具か何かの話であるか?」

「ああ、お父様。それはもうあたしがやったわ」


 姫は事前に仕入れた情報を提示し。

 とても反応に困っている皆の顔を眺め


「――というわけよ、これからあたしたちはザザ帝国と協力して、土地を豊かにして最高のお菓子を作るってわけ。いや、分かってるわ。あなたたちがそういう反応するってのも、あたしがもうやってるのよ……」

「スイーツ……ようするに嗜好品、であるか」

「まあぶっちゃけ、おそらくそれは建前。本当のところは、ようするにあたしたちが協力しあえる種族か、箱舟に乗船する資格のある団体なのか試しているんでしょうね。なにしろ人類の祖先は神を殺しちゃってるらしいし、警戒されても仕方ないわ」


 筋は通っている。

 それとこの姫が嘘をつくような性格ではない。

 それが皆にはよく伝わっているようだ。


 カタランテ姫は確かな手ごたえを感じていた。

 少なくとも前向きに話は進む、因縁あるザザ帝国とも一時ではあるが協力できるだろうと。


 ただそんな中で、老人たちの何人かがなにやら考え込むような顔をしているのが見えた。

 姫は目ざとくそれを見つけ。


「なに? 何か言いたいことがあるなら今の内に聞いておきたいのだけれど。不安? それとも不満? 嫌なら嫌でも構わないわ。全員が賛同するとは神もあたしもザザ帝国も思っていないでしょうし」


 言われた老人の一人が代表し。


「いえ、神が実在するとなると……少し厄介なことがございまして」

「言ってみて」

「実は――わたくしもそれはただの伝説。神などいないのだから、もはや忘れてもいい言い伝えだと思っていたのですが」


 老人は語りだす。

 それはまだザザ帝国とカタランテ帝国が同じ国だった、遥か昔の歴史。

 かつてまだ神がいたと信じられていた時代。


 そしておそらく、神が実在するとなると真実だっただろう言い伝え。

 老人は言う。


 名すら既に伝承されていない、二つの帝国の前身。

 黎明期の時代――この大陸の人類はかつて、エエングラ神と呼ばれるハイエナの神を騙し、その心を深く傷つけてしまったとされる伝説を。

 話を聞き終えたカタランテ姫は、そう……と一言告げて。


「ありがとう、感謝するわ。それで……エエングラ神は協力をしてくれていないのね」


 まず解決しないといけない問題を一つ、確かに発見したのだった。

 姫はザザ帝国にも相談すべきだろうと、民に宣言。

 急ぎ、神が用意してくれた転移門を起動させた。


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