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第063話 集いし三勢力


 芥角虫神アクタの前世と過去が透けて見え始めた冥界。

 地獄の果てのジュデッカにて。

 かつての自分の話を受けたアクタは、フードの奥でふっと微笑を作り。


「いずれにせよ、もはやそれは前世の事でありますからな――我はあなたがた三柱のおかげで新たな生を受け、神として降臨した。今更語っても栓無き事かと」

『前世ねえ』


 と、アクタの奥を覗き込む闇の神は、じぃぃぃぃぃ。

 ネコの髯をくねらせながら、なにやら言いたげな顔だが。


『まあいいや! 君がユダであろうが、どうであろうがそれも全部昔の話。私たちは今を見ないといけないのだからね!』


 うんうんと自己完結する闇の神に、光の神が言う。


『っていうか、他の神にバレるとマジでマズいのよ。いや、ほんと』

『っつーわけで、アクタ。お前さんも、その……前世の事についてもだが、お前さんが今いるあの世界についても、あんまペラペラ語るんじゃねえぞ。信頼してる仲間とかにゃあ構わねえが』


 死の神は天秤の上で縛られるアクタの肩に手を置き、にっこりそう告げて。

 更にニコニコとした顔を継続し。


『いや、マジで喋るんじゃねえぞ?』

「おや師匠、何かあったのですかな?」

『なんつーか、実はな――』


 言葉を選ぶ死の神の横、あっけらかんとした様子で闇の神が言う。


『いやあ! 実はその世界さ、滅んでおかないとこの三千世界、つまりは私たちがいる宇宙が全部崩壊する原因になっちゃうみたいなんだよね~。で! この教皇ホテップは宇宙の管理者として、その世界が宇宙を崩壊させる前に滅ぼしに来てた、みたいな?』

「ふむ、なるほど――数点確認したいのでありますが、よろしいですかな?」


 問うアクタに頷き、闇の神がアクタの質問すらも先に拾う形で言う。


『たぶん聞きたいのは私達と、この教皇ホテップが繋がってるかどうかだろうけど。答えはNOさ。ただね、宇宙全体の管理者気取り――この外なる神の連中が宇宙全体を保とうと行動しているのは、どうやら事実みたいだからねぇ』


 闇の神は、ネコの瞳を真っ赤に染めて。

 みゅんみゅん!

 妙な効果音を立てながらも、教皇ホテップを鑑定し――。


『ああ、やっぱり……実はさあ、柱の神が作ったその世界が滅びないといけないのは、どうやら本当っぽくてえ、はぁ……そこが厄介なのさ』


 落胆を示す闇の神にアクタが言う。


「ふむ、どうしてでありますかな?」

『それは――君が一番分かっているんじゃないかな』


 闇の神がアクタを咎めるように睨んでいる理由は単純だ。

 もしあの世界を壊すとなったら、もはや必ず動く者がいる。

 ルトス王の記憶を喰らったアクタは、少なくともあの世界に一定の責任と、思い入れを持っているのだろう。


 アクタは縛られつつ、光の神の魔術の天秤の上で能力制限を受けながらも、ふふふふ。

 フードの奥の瞳をやはり、真っ赤に染め。

 目の前の、大物の神すら構えが必要な程の魔力を滾らせ、口を開く。


「ふふふ、ふはははは! ええ! あなたがたや、神の父を気取る外なる神がもしあの世界を破壊するように動くのならば、そうでありますな。我もまた――我の心に従い動くのでありましょう!」


 上位の神を目の前にしても、アクタは不遜だった。

 闇の神もまた、アクタの奥底にある魔力を眺めながら瞳を細め。


『まったく、厄介だよ君は――魔王様のかつての弟子にして、最も魔王様を理解していた使徒。焚書を免れた福音書にてその逸話が語られる、救世主の友。君は望む望まぬを問わず、救世主が救世主となるための道を作った男だ。何度世界をやり直しても絶対に発生する、裏切りの神だ。言ってしまえば救世主を最も愛した男でもある。その逸話や伝承は神話再現アダムスヴェインの力となるからね、常に道化を演じる君が本気となった時に、こちらの犠牲を出さずに勝てる自信はないよ』


 闇の神はアクタをかなり評価していた。

 そして実際、アクタにはそれができる力があった。

 なにしろ、神を死なせたという逸話があるのだ。

 そして逸話を再現する魔術体系がこの宇宙には存在する。


 つまり、アクタは神が相手ならば絶対に近いほどの力を奮う事が可能だ――と闇の神は考えているのだろう。

 そしてアクタ自身も魔王と呼ばれる男の弟子。

 更に言うのならば、最も多く読まれた書物――救世主伝説に在る本物の使徒なのだ。


 世界でもっとも有名なヴィラン。

 パラダイムシフトともいえる魔術が発生した宇宙においては、それだけで大きな能力上昇補正がかかる。

 それこそが、アクタが地獄で延々と幽閉されていた理由でもあるのだろう。


 死の神が言う。


『おい、そこのニャンコ=ザ=ホテップ』

『おや? なんですかな? はて、わたくしはしがない、ただの可愛いネコちゃんなのですが?』

『ああ、そういうのはいいから。おめえは十分、やってたことが極悪だから』


 死の神はヤンキー仕草で、天秤の上に乗る教皇ホテップの首根っこを掴み上げ。


『お前さんはあくまでも宇宙全体の調和のため――あの世界を壊すために動いている、外なる神の端末ってことでいいんだな?』

『なにしろ一番大きな端末は、あなたがたに封印されておりますからなあ!』

『自業自得だろうが!』

『はぁぁぁぁ!? 宇宙のバグみたいなあなた方はいともあっさり、我らの封印や破壊をしてくれちゃってますけど? 本来なら絶対干渉できず、絶対壊れない筈の端末を送り込むのは大変なのですよ! 宇宙の外から内部に干渉できる分霊を送るのにどれほど苦労しているのか、分かっているのですか!?』


 弁償してください! 弁償! 弁償!

 と、黒猫は吠えるが死の神は無視。


『まあそれはいい、とにかく――宇宙全体のバランスみてえなもんが保てるなら、つい最近やらかしやがったヨグ=ソトースみてえな事はしねえんだな?』


 お放しなさい! お放しなさい! と猫のように暴れつつ教皇ホテップは言う。


『ああ、ヨグ=ソトースですか? 全ての命の父、全ての命の神を気取り勘違いして、未来に向かって歩く人類の眩しさに嫉妬し、暴走したアレと一緒にされては困ります』

『んじゃあ、あの世界が滅びなくても宇宙が滅びないように未来を変える手伝いは、できるよな?』

『まあぶっちゃけ、それで済むなら話も早いですから構いませんよ? ただ』


 教皇ホテップはアクタに目をやり。

 続いて、三柱の神を無貌の顔で見上げ。


『わたくしとしては、素直にあの世界を滅ぼすことを推奨しますがね。なにしろ、あの世界、ま~じでちゃんと滅ぼさないと宇宙全部が壊されますよ? こちらとしてはせっかく様々に暗躍し、よぉぉぉぉぉっやく滅びを確定させたのに、いきなりやってきたあなたがたに滅びの運命を書き換えられて、かなり迷惑しているのですが? わたくし、間違ったこと言ってます?』


 教皇ホテップに当てこすりをされた三柱は目線を逸らし。


『いやあ、オレ様達もまさかあの世界が壊れないと宇宙がやべえ、だなんて知らなかったからなあ!』

『そうよ! そういうことならちゃんとどこかに書いておいて欲しかったわ!』

『にゃはははは! なにしろ、私たちが”宇宙を壊す未来がある世界の滅びの運命”を変えて、おもいっきし、”宇宙が滅ぶ原因を復活させちゃった”みたいだからねえ!』


 アクタを送り込んだ神々は、あはははは!

 それぞれがそれぞれの笑い方で、一頻り笑い。

 肩を落とし、ぬーん……。


 おそらく未来を観測できる誰かに、彼らは一度怒られたのだろう。

 光の神が死の神を睨み。


『だいたい! あなたが滅びる筈の運命さえ変えられる、力ある使徒の魂を持ちだしたのが悪いんでしょ!』

『はぁ!? オレ様はただ可哀そうな魂を拾っただけであってだな!』

『ああぁぁぁ! もうやっちゃった事は仕方ないだろう! それよりも、宇宙が壊れちゃったら作り直すのも大変だしっ、絶対に魔王様にもう一回、お説教を受けるし! あの世界が存続しても宇宙を壊さないように手を加えるしかないだろう!』


 言い合いを始める三柱の神を眺め、縛られたままの教皇ホテップは無貌の猫の姿で手揉みをし。


『あのぅ、そこのおバカそうなお三方』


 おバカそうと言われた三柱は振り向き。


『は!? こいつらと一緒にするんじゃねえぞ!』

『失礼ね! あたしだけはまともなんですからね、なんてったって光の神よ光の神!』

『あのねえ、私もネコちゃんだし。同じネコ相手なら容赦なく消し炭にしてもいいんだよ?』


 おバカそうな反応をする三柱を眺め、教皇ホテップは言う。


『アクタさん、もう逃げちゃってますがよろしいのですか?』

『ん? は!? マジでやがるぞ、おい!』

『嘘でしょ!? あたし、けっこう本気で捕縛してたんですけど!?』


 死の神と光の神が驚愕する中。

 闇の神が言う。


『まあ、今の彼はゴキブリの王だからねえ……逃走は得意中の得意なんだろうさ。さて、まあこれもちょうどいい機会だ。彼がいない間に、しておきたい話もある』


 宣言通り教皇ホテップを神々に押し付けたアクタは、既にあの世界に帰還している。

 その転移の波動を辿りながら闇の神が、すぅっと瞳を細め。


『ニャンコ=ザ=ホテップ。君達の推測でもやはり、彼女が宇宙を滅ぼすのかい?』

『ええ、女神ヴィヴァルディ。代償魔術とでも言うべき、自己犠牲の奇跡で世界を支え続けた彼女が、その反動で暴走し、宇宙全てを巻き込み滅ぼす。これは既に確定事項でありますな。だからわたくしは宇宙を維持するために神聖教会を立ち上げ、徹底的に彼女の力を落とすように動いていたのですよ』

『ああ、やっぱりかぁ……』


 あの世界に帰還したアクタの様子を眺めながら。

 闇の神が言う。


『いつかのその日が来た時、彼はどうするのだろうね――』

『……いや! なに傍観者みたいな顔をして、しんみりとした台詞で誤魔化しておられるのです!? ぶっちゃけ、あなたがたが全部悪いのですが!?』


 死の神と光の神も目線を合わせ。


『まあ、あいつに任せるしかねえだろう。さすがに宇宙と女一人を天秤にかけたら、そりゃあ……結論はもう分かってる』

『そうね、あたし達にはただ、見守る事しかできないわ』


 遠くを見つめる彼らを見て。

 教皇ホテップは毛を逆立て唸っていた。


『ああぁあぁぁぁ! あなたがたは! 本当に無責任ですね! だからバグみたいな存在は嫌なのですよ!』


 バグみたいな存在と言われ。

 闇の神はニヤニヤニヤ。


『いやあ、そんなに褒められると照れちゃうなあ』

『褒めてないんですよ! というかあなたがた、結構どころかかなり余裕があるじゃないですか!』

『まあぶっちゃけさあ――いざとなったら壊れた宇宙を命ごと蘇生させればいいし。今の私、もうそれくらいできるし……宇宙が壊れる瞬間だけ、全宇宙の命を眠らせておけば苦痛もないから、起きたら全部直って終わってる的な? そういうこともできちゃうし……』


 緊張感がなさそうに、ぶにゃはははは!

 三柱の中で圧倒的な実力を誇る、猫の神たる大いなる闇。

 彼なら本当にそこまでできるのだろう。


 教皇ホテップは言う。


『あの……わたくしとあなたがた、どちらが外道なのかどうか、もう一度お考えいただけますか?』

『とにかく! 君ならあの世界に直接介入も干渉もできるんだろうし、もう一度あの世界に行ってちゃっちゃと謝罪なり説明なりして中に入り込んできておくれよ。アクタくんだけじゃあ、いざとなった時にヴィヴァルディ女神を優先する可能性がかなりあるからね』


 言って、闇の神は死の神に捕まっている教皇ホテップを降ろし。

 天秤の上に乗っかったままのネコを眺め、にひぃ!


『あの、なにをするつもりで!?』

『決まっているだろう! ほら! 世界を壊さず宇宙を救ってきておくれ!』


 闇の神の猫キックで、ネコの姿の教皇ホテップを空間転移。

 あの世界への転送を開始。

 落とし穴に落ちるように、モフ毛をぶわぶわとさせ強制転移される教皇ホテップが、くわ!


『あぁあああぁぁぁ! この糞ネコがあぁぁぁぁ!』

『アクタくんは結構前からたぶんもう、なんかどうにかする方法を考えついてる筈だからー! 彼に殺されないように信用を保ちつつ、協力しておくれー!』

『あ! あなたたち、やりたい放題過ぎて――あ、後で絶対にしっぺ返しが来ますよ!』


 教皇ホテップは呪いの預言を言葉にして放り投げるが。

 その呪いを肉球で丸めて、てい!

 教皇ホテップに投げ返して、手を振り振り!


『んじゃ! 頑張ってねえ!』


 教皇ホテップにしても、世界を滅ぼすためにかなり邪悪な事をやっている。

 だからどちらが悪いというわけではないが。

 教皇ホテップは、意趣返しとばかりに魔力を放ち、魔王と呼ばれる男に敢えて気付かれるように行動。


 彼ら三柱が後ろを振り向いたときには、遅し。

 きっとどえらい説教をされるだろう、と。

 ニヒヒヒヒヒ!


 やられてもタダでは起きない。

 即座にしっぺ返しに成功した教皇ホテップは、再び、滅びなくてはいけないあの世界への帰路につく。


 三柱の前に、付き人だろう神狼と神鶏を連れた聖人の姿が見えたが――。

 既に転移完了。

 説教を受ける彼らの言い訳を背景に、教皇ホテップはあの世界へと帰還した。


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― 新着の感想 ―
[一言] おバカトリオざまぁwww でもニャンコだけは何故かすぐに許される世界 しかしそれでもそれでも、コケッコーとワンコからはしつこいほどお説教されてる姿が容易に浮かぶのは何故だろうw
[良い点] 56話の詠唱で魔王様関係者なのかなって思ったけど そうだったのかー、悪即斬しなかったケトス様えらい! 伏線にもジェネリック魔王様パーティーにも気づけなかった… 感想とセットで何倍も楽しんで…
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