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第056話 我が師の祝福


 襲撃から半日後。

 供物やスイーツに釣られたアクタたちが、ザザ帝国の宮殿に招かれたのはそのしばらく後の事。

 今現在、ザザ=ズ=ザ=ザザたちは会議中。


 おそらく最大級の歓迎を受けた神々一行は、風通しの良い豪奢な客室にて待機。

 この国で最も高価とされる氷菓を、ぺろり。

 王族が味わう特別なアイスクリームである。


 亜熱帯地域に似た気候だが、弱冷気の魔術の空調で不快感はなく。

 またGにとっては熱帯雨林によって隠れる場所も多く、アクタは気分も上々。


「ふは、ふははははは! 美味、美味である!」

「へえ! なかなかやるじゃない! このヴィヴァルディ神が褒めてあげるわよ!」


 スイーツ大好きなアクタとヴィヴァルディは既にご機嫌だが……。

 当然、そうではない神もいる。

 ナブニトゥは寝たふりをしながら周囲をじっと眺めている。そしてなによりだ。

 エエングラは、ブスーっとしたまま。


「おめえらなあ! 襲撃されたのにコロって手のひらひっくり返すなし!」


 細かい刺繍が施された絨毯の上でコロコロと転がるヴィヴァルディは、転がりながらアイスを齧り。


「あら、別にいいじゃない。供物は大切よ、供物は」

「実にその通りであるぞヴィヴァルディよ! ふははははは! 我はこのイチゴ氷菓の追加を要求してくれようぞ! さあ人類よ! 我に供物を! 我にスイーツを!」


 アクタに至っては完全にデレデレ。

 見た目こそ長身痩躯のいつもの擬態者だが……甘い御馳走を見つけて張り付くG状態である。

 万が一毒が入っていたとしてもこれでは気付かないと、眠りネコ状態で薄目を開けるナブニトゥは警戒心を強くしているが。


「安心せよ、少なくともこの王族に我らへの敵意はない」

「マスター。それは確かかい?」

「ザザ帝国と言ったか、この国に入り込んだ瞬間に既に我が眷属たるGを無数に放っておる。そしてやはり既に現地のGを我が眷属へと進化させ、我が配下の序列へと組み込み軍隊化させておる。入ってくる情報はまあそれなり以上にあるのだ」


 しれっと一瞬にして国家を転覆できるレベルの諜報を終えているアクタに、ナブニトゥは感心とも呆れとも取れる顔をし。


「君はたった一人で世界を滅ぼす事さえできるのだろうねマスター」

「だが逆に世界を救うとなるとたった一人では難しいのであろうな」


 ただ単純に破壊するのは簡単だが、破壊されかけたものを直すのは難しい。

 それは社会とて魔術とて同じ。

 そして世界もそうなのだろう。


 寛ぐ神々の空間に先ほどからちらほらとある黒い影は、アクタを新たな神で王と認めたGにネズミである。

 アクタは彼らを受け入れ、その全てに神の祝福を施すべく頭に香油をかけ。

 この世界のモノではない奇跡を詠唱。


 擬態者である筈のアクタの口から、清廉なる祝言が刻まれる。


「これぞ――我が師、我が友、我がラボニの奇跡。汝の魂に救いあらんことを――」


 香油を頭に掛けられたネズミが、人の姿へと変貌。

 人化した彼らを、G執事のバトラーとヴァレットが謎の異空間に連れ出し、なにやら教育し始めている。

 順番待ちする彼らに、人としての姿も与えているのだが。


 ゴロゴロと転がり接待を満喫していたヴィヴァルディが、ふとアクタに目をやり。

 ぎょ!


「ア、アクタ……あんた……! なに普通の顔をして奇跡を授けてくれちゃってるのよ!」

「仕方あるまい、この帝国の情報を集める代わりに彼らを我が信徒とし、滅びる世界から抜け出る我が箱舟に招待すると契約をしてあったのだ。彼らは約束を守り、我もその約束を守る。それだけの話であろう?」

「ゴキブリとネズミに人間としての姿を与えるって、どー見ても越権行為でしょうが!」


 まだこの世界を諦めておらず、この世界の神を自称する女神のツッコミにアクタは「はん!」と鼻で笑い。


「世界が滅びるならば、その世界で生きる命を拾い上げ我という箱舟に乗せ、その命を繋ぐ! これとて立派な救済の一種であろう!」

「世界を救えば問題ないでしょうが!」

「ほう? では具体的にどうするというのだ?」

「そ! それは……っ」


 ヴィヴァルディはうにゅにゅっと眉間に皺を寄せ。

 すぐに自分で考えるのを諦め、くわ!


「エエングラ! ナブニトゥ! あんた達からもなんか言ってやりなさいよ! これは主神の領分の仕事でしょうが!」

「ヴィヴァルディ……ああ、ヴィヴァルディ」

「なによ!」

「現実的に考えれば、僕はマスターのこの行為には賛成だ」

「どうして? この世界について少しは前向きになってくれたんじゃないの?」

「前向きだからこそだよ、ヴィヴァルディ」


 ナブニトゥはやはり眠そうな瞳を薄らと開き。


「今のマスターは主神に近い力を持っている。けれど、その力をもってしてもこの世界そのものを救う手段を掴めてはいない。ならば、この世界という僕らの作った空間、その上で生きる命だけでも救う手段を考える。現実的な解決策の一つと言えると僕は考える。ヴィヴァルディ、君は違うのかい、ヴィヴァルディ」

「そ、そりゃあ……命だって大事でしょうけど」

「何か問題でもあるのなら、それははっきりと言葉にしておいた方が良いのだろうと僕は思うのだがね」


 思えば僕ら神々は、考えをきちんと言葉にしていなかった。

 と、過去を眺める瞳と声をナブニトゥは追加で漏らすが。


「あのね、言っちゃなんだけど。言わせて貰うわよ?」

「ああ、構わないよヴィヴァルディ」

「ゴキブリとネズミばっかり人型にして救うっていうのはどうなのよ!」


 あまりにも正論だったのか、ナブニトゥも「うっ」と唸りを上げる。

 エエングラが言う。


「まあ確かに、アクタの旦那の眷属って偏ってるからなあ……」

「そうよ! アクタ! あなたがそうやってゴキブリとネズミばっかり贔屓するのが悪いんですからね! もっと他の人類も救いなさいよ!」


 次々にゴキブリとネズミに乗船の権利を与えるアクタは、彼ら神々を眺め。


「我は、他の者が救わぬ日陰者を拾い上げているだけにすぎぬ」

「だーかーらー! 他の子も救ってあげればいいじゃない!」


 ナブニトゥはアクタが言いたいことを悟ったようだ。

 けれどヴィヴァルディは気付かない。

 そしておそらくエエングラも気付いていない――。


 アクタは言う。


「何故、我がそこまで目を掛けてやらねばならぬ?」

「なんでって、あのねえ――あんたにはそれができるだけの力があるんでしょうが!」

「まったく、その通りであるな――何故なにゆえ、他の神々は助けられる命を拾わぬのか。我には理解できぬ」


 そのままアクタは誰に言うでもなく、世界そのものに語るように。


「アプカルルは既に動いている。何故、この世界の神々は動かぬ」

「それって――」

「神々が全員で協力すれば、この世界の全ての命を救い上げる事も可能なのであろうがな。我は全てを救う気はない。日和見を続けている神々よ、もしこちらを覗いているのならば――それだけは理解しておくべきであろう」


 おそらくアクタ達の行動を神々は監視している。

 だからこその言葉だったのだろうが。


「はぁ? 神々がこっちを見てるって、ぷぷぷー! あんたそれは自意識過剰なんじゃないかしら! あのねえ、これ、もし誰も見てなかったら。それだけは理解しておくべきであろう、なんて、誰も見ていないのに言ってることになるんですけどー!」

「……ええーい! このバカ女神はっ、どうしてそうアホな事しか言えぬのだ!」

「あれれー! 図星? 図星を指されちゃって逆切れかしらー!?」


 ぐぬぬぬぬぬっとアクタは震えつつ。

 しかし、ヴィヴァルディのアホ発言を今更気にするのも負けた気分になるのだろう。

 エエングラに言う。


「それで、汝はどうするつもりなのだエエングラ」

「どうするって、何がっしょ」

「我が集めた情報によると……おそらく、このザザ帝国の祖は――本物であるぞ」


 ナブニトゥが顔を上げ。


「本物? マスター、それはいったいどういう意味だい。僕にはまるで、彼らがエエングラの本当の子孫だと言っているように聞こえたのだがね」

「言葉の通りだ」


 アクタは言う。


「ザザ=ズ=ザ=ザザ。少なくともヤツは、エエングラよ――そなたの直系だ」


 アクタの指摘に、エエングラは瞳を大きく見開いた。


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