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第055話 ザザ王家の男


 周囲を包むのは、魔力の衝突によって発生した摩擦熱の香り。

 けれど。

 即座に対応したアクタが結界を張った影響で被害はゼロ。


 神々は勿論、店員もパンケーキも無事。

 アクタはいつもの「ふははははは!」モードで仁王立ちである。


「ふふふ、ふはははは! いきなり攻撃とは……これはまた随分と手厚い歓迎ではないか!」


 長身痩躯のフード男たるアクタがビシっと指差すのは、神々を襲う身分の高そうな人類。

 見た目はどこか豹に似た空気の……若き蛮族の皇帝、といった出で立ちの青年である。

 放たれた攻撃魔術自体は、炎を基軸にした爆発系統の魔術だったようだが――。


 襲撃者はワイルドな美形といえる顔をわずかに歪め。


「はぁ!? 今のを喰らって生きているだと!?」

「ふはははは! 結界を見るのは初めてであったか? それとも、今のが全力の一撃であったのか? いずれにせよ人類よ! 汝の視野はアリのように狭いのであるな!」

「は!? 笑止――このザザ様をアリと愚弄するか!?」


 ザザとはこの青年の名のようだ。

 機嫌の悪そうなエエングラが、アクタにぼそりと告げる。


「ザザっつったら、このザザ帝国の王族だよ。まあ、もうオレ様には関係ねえ話だがな」

「ふむ、王族でこの程度の火力である……か。ああ、なるほど。店員を気遣い火力を抑えたと見るべきであるな」


 相手の理性を試す挑発であるが、反応は薄い。

 言葉による挑発を回避、レジストしたのだろう。


「甘く見るなよ街の破壊者たちよ! 余とて一国の王にして皇帝! 挑発と分かる挑発に引っ掛かる程、余は愚かではない!」

「皇帝ねえ」


 顔を隠すアクタ――そのフードの奥の赤い瞳には、鑑定の魔力が走っている。

 襲撃者の青年の名は、ザザ=ズ=ザ=ザザ。

 職業はたしかに獅子王となっている――。


「ふむ、獅子王などという職業は始めてみたが、なるほどやはりこの地の王族で間違いないようであるな」

「ほう? なかなかどうして驚いた。まさか借金を踏み倒すために余の歓楽街を破壊した蛮族の分際で、余の能力を鑑定したか――」

「我らを蛮族と呼ぶとは、ふふふ、ふはははは! なかなかどうして言うではないか! いいだろう、汝に名乗る権利を与えてやる。さあ! 我にその名を語るが良かろう!」


 両手を広げ、ビシ!

 やはり変なポーズをとるアクタに、パンケーキを抱えるヴィヴァルディは「二人ともノリノリねえ……」と呆れ顔である。

 実際、アクタとザザ=ズ=ザ=ザザは少し偉そうな態度が似ている。


 ポーズをとるアクタに対し――ザザ=ズ=ザ=ザザは、褐色の肌が覗く王族の異装を翻し。

 バサ!


「余の名はザザ=ズ=ザ=ザザ! かの有名なエエングラ神の直系にして、始祖神の使徒! 下郎共が、図が高い! 余こそが滅びゆくこの世界を救済できる唯一の王にして、エエングラ神の遺志を継ぐものぞ!」


 エエングラ神を前にして、エエングラ神の直系を名乗り使徒と宣言する。

 間違いなく……エエングラをエエングラと認識していない。

 当然、アクタは反応に困り。


「あの、なんだ……その……ザザ=ズ=ザ=ザザよ、少し構わぬか?」

「いいだろう、余は心の広い王であるからな!」


 王の余裕であるとばかりに、ふふーん!

 ワイルドな美貌の王が腕を組んで勝ち誇っている。

 が。

 どうもアクタたちにとっては相手の様子がおかしく。

 ナブニトゥもやはり反応に困ったまま。


「(マスター……。この状況、どうしたらいいのだろうか)」

「(我も分からぬ……エエングラよ。汝の直系と言っておるが……実際どうなのだ?)」

「(は!? 知んねーし! なんでオレ様が人間と子作りなんてしねえといけねんだよ!)」


 エエングラに身に覚えはないらしい。


「(そもそもだ、こやつ……どうも我らが神であると気付いておらぬ様子ではあるまいか?)」

「(そうだねマスター。襲撃してきたことは大変遺憾だけれど、少し様子を見た方が良い。エエングラ、君もそれで構わないだろう?)」

「(好きにすりゃあいいだろ。しっかし、オレ様の子孫を名乗るってどーいう根性してるんだよ、こいつ……。そんなウソついても意味ねえだろうに)」


 アクタとナブニトゥとエエングラ。

 彼ら三柱は言葉ではなく魔力で会話をし、神の直系で使徒を名乗るザザ=ズ=ザ=ザザに配慮しているが。

 空気など読まずに吹き飛ばすものだとばかりにヴィヴァルディが言う。


「バカねえ、あんたたち! これはあれでしょ! 求心力が無くなった王族がよくやる手なのよ!」

「おい、ヴィヴァルディ! キサマ、通常会話でそれは――」


 慌てて口を塞ごうとするアクタの腕をひらり!

 いつもより素早い動作で回避したヴィヴァルディは、ビシっと器用に猫の指を立て。


「つまり! このザザ=ズ=ザ=ザザの王家は、神の直系を勝手に名乗って! 本当は神の子孫でもないのに、王族の権威に箔をつけようと子孫を自称し、時間が経ち! 今となっては、どうしようもない嘘を子孫たちも信じちゃってる! 残念なアレなのよ!」


 そう、おそらくこのザザ王家はあくまでも政策として、勝手に神の子孫を名乗っていただけ。


 ただ先祖が名乗っていたので、子孫はそれを信じてしまい……。

 本人や国としては、もうそれが真実となってしまっているパターンだとアクタもナブニトゥも予想していたのだが。

 それをヴィヴァルディは、ドヤ顔で、しかも本人の前で語ってしまったのである。


「あぁあああああああぁぁ! バ、バカ者! ちゃんと魔力会話に切り替えんか!」

「は!? なによアクタ! 内緒話なんて相手に失礼でしょ!」

「失礼なのはキサマだ、この駄猫がっ!」


 内緒話が失礼かどうかと言われれば、失礼なのだろうが。

 時と場所と場合がある。

 駄猫と言われたヴィヴァルディは、ぷくーっと頬を膨らませ。


「駄猫!? 駄猫って言った!?」

「空気を読めぬネコへの言葉だ当然であろうが!」

「なによ! わたしはただ! エエングラ本人を目の前にして、それにも気付かず偉そうに子孫を名乗っているこの子が、ちょっと可哀そうと思っただけじゃない! わたしは冷たい神々のあんた達と違って、可愛い人類の味方なの! 優しい女神なの! 分かった!?」


 ああ、やりおった……とアクタの肩がまた落ちる。


 どうもアクタ達を神と知らなかった様子のザザ=ズ=ザ=ザザに向かい……神を名乗り。

 しかもエエングラがエエングラだとバラす失態つきである。

 神々の会話に、ザザ=ズ=ザ=ザザはプルプルと肩を震わせ始め。


「そこのネコよ、今……何といった?」

「ネコじゃないわよ、ヴィヴァルディよヴィヴァルディ! 女神ヴィヴァルディの名を知らないとは言わせないわよ!」

「よもや、汝らは……いえ、あなたがたは……」

「ええ、そうよ! 神様よ神様! あなたたちが始祖神と呼ぶ存在よ! さあ、平伏しなさい!」


 空気が読めないヴィヴァルディは、それはもうすさまじいドヤ顔。

 かなりカオスな状況の中で、場を治めるべくアクタが動く。


「ザザ=ズ=ザ=ザザとやらよ。順序が色々と狂ってしまったが、我らは本当に神なのだ。どうして奇襲してきたのか。そして”誰にそそのかされてやってきたか”など、詳しく聞きたいのだが……その、大丈夫か?」


 アクタが心配した理由は単純だ。


 おそらく、本当に神々の降臨とザザ=ズ=ザ=ザザは理解したようなのだ。

 つまり、彼は神を襲ってしまった。

 それもエエングラ神をエエングラ神とは気づかずに。


「申し訳ありませぬ……っ! どうかどうか、平にご容赦を!」


 どうやら王族にはまだ神の存在が浸透しているようで、ザザ=ズ=ザ=ザザは即座に土下座。

 完全降伏状態となったのである。


 少し焦げた床に頭を擦り付け、謝罪し続けるザザ=ズ=ザ=ザザ。

 おそらく魔物を退けるために鍛えられているだろうその背は、ちょうど乗りやすい椅子に見えるのか。

 本能に従い猫のように乗ろうとするヴィヴァルディを退けつつ、アクタは追加のスイーツを注文。


 何か食べねばやっていけぬと、また深いため息をついたのであった。


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