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第040話 エエングラ逃走戦(G)


 暴食を司る両性具有なハイエナの神エエングラ。

 おそらくアクタを倒し、Gの迷宮を奪おうとする始祖神は潜伏中。

 隠れてヒットアンドアウェイを繰り返すつもりだったのだろうが――。


 まだ太陽が残る午後三時過ぎ。

 ゴミを集め、スカベンジャーを利用しまとめて処理する王都のゴミ回収場にて。

 姿を隠していたエエングラの背後には、一つの気配があった。


 むろん、アクタである。


 ターゲットを見つけたアクタはフードの下で、ふふーんっと笑みの形を唇に作り――再びフードという闇の奥で瞳をキラーン。

 ガバ――ッ! と両手を開き偉そうなポーズ。


「ふははははははは! 見つけたぞ!」

「ふえ!?」

「貴様がエエングラ神であるな!」

「なななな、なんだおまえはっ!? ゴミから出てくるとは変態か!? 変態なのか!?」


 アクタの高らかな哄笑にはそこそこな破壊力がある。

 慣れている王都の住人は気にしていないが、耳に哄笑の直撃を喰らった黒い影……シュッとした顔立ちのエエングラは褐色の肌に、ぞわりと汗を浮かべ。

 猛ダッシュで後退!


 当然、アクタもゴキブリの速度で追跡。


 エエングラとアクタ。

 その逃走劇を世界の外……星の海から観測している例の三柱の神が、エエングラの姿を形容する言葉はそれぞれ。


 ”ダメそうなチャラ男”。

 ”売れないホストの休日姿”。

 ”ヤンキー座りで二十四時間営業の店の前でたむろしてそう”。


 である。


「はぁ……なんだったんだよ、もう。……って! おまえ!?」

「ふはははは! 逃げ足が速いという事は即ち! 追いかけるのも早いということだからな! 我とて、逃走のプロG! 汝に追いつくことなど造作もない! 何故我から逃げるエエングラよ、汝は我を倒し、この迷宮を奪いに来たのではなかったのか!」

「うわ、きっしょ!?」

「誰がきしょいか! 我は路地裏を駆ける姿さえ美であるぞ!」


 言いながら――。

 猛ダッシュで逃げる細身の神エエングラに並走し、アクタはふははははは!

 傍から見ればド変態であるし、実際にかなりの変質者ムーヴだろう。


「きしょきしょきしょいってばよ! こっちくんなし!」


 重力を無視し、壁を駆けるという器用な逃走をしてみせるエエングラに続き。

 同じく、Gの能力で壁を伝って余裕で並走するアクタが言う。


「何故逃げる!」

「アホかぁぁぁ! カサカサカサ――って神速で追いかけてくる変態に追われて逃げないやつがあるかぁぁぁぁああ!」

「ふむ、どうやらヴィヴァルディたちが言う通り、強さ自体はそれほどでもないのだな」


 アクタの言葉に、はぁ!? っとエエングラは額に怒りマークを浮かべ。


「ふざけんなし! オレさまは隠れてコソコソつけ回すのが得意フィールド! 殺せる瞬間を見つけて食らいつくハンターなんだぞ! 誰が、正面からぶつかるか! バレたなら逃げるに決まってるだろうが!」

「ふは! そうか! だが遠慮はいらぬ、我はふところ深き擬態者の王! さあ! やりたいのならばやるがいい! いつでも受けてたってやろうではないか!」

「うな!? うなうな――っなんだキサマ! 離れろ! 並走すんなし!」


 王都の路地裏の壁。

 屋根の上。

 そして空すらも使い始まってしまった彼らのやり取りに、さすがに王都の民も気付いたようで。


 二人を追っていたナブニトゥが言う。


「マスター。騒ぎが大きくなっている。人間を気にしてやる理由なんて本来はないが、一般人が巻き込まれると厄介だと僕は判断するがね」

「ふむ! だがアプカルルがその辺りはなんとかしてくれるであろうから、大丈夫なのだ!」


 無茶ぶりされているアプカルルであるが、彼女は最強。

 本当にそれくらいのことができるだろうと、ナブニトゥも納得顔だが。

 アプカルルの名を聞き、背筋の辺りをぞわ! っとさせたのはエエングラ。


「は!? やっぱりアプカルルもこの箱舟に既に乗り込んでやがるのか!?」

「ああ、そうだよエエングラ」


 告げたナブニトゥは二人に並走する翼をばさりとさせ。

 眠そうな瞳だけを上に向け考えこみ、ジト目で言う。


「というか、君。僕とヴィヴァルディだけの時は、一緒に殺してもいいみたいな顔をしていたくせに、何故そんなにも目を回転させているのだね?」

「たりめえだろう! アプカルルだけはマジでやべえってのは、脳味噌に骨くずしか詰まってねえ、あの人類とかいうクソどもですら知ってる。世界の常識だろうが!」


 男らしい口調になりつつも、エエングラはズザザザザ!

 逃走を止めて、屋根の上で仁王立ちになり。

 ヌワハハハハハ! ガキ大将のような顔と声で、更にヌワハハハハハ!


「バカな奴らだ! オレさまは屋根! つまりはお前らの上にいる! 対するお前らは地面、この意味がわかるな!?」


 ナブニトゥの顔が、ぬぅっと歪む。


「マズいぞマスター! ヤツはとんでもない事をするつもりだ!」

「ヌワハハハ! もう遅いんだよ! くらえ! オレさま必殺のダーティ戦術!」


 エエングラは衣服の下を脱ごうと、いそいそいそ!

 そう。

 おそらくエエングラは、屁や尿や、更にはそれ以上のモノで上から攻撃するつもりなのである。


 いわゆる粗相。破壊力はない、ただの嫌がらせだろう。


 さしものアクタも、ぬぅっとフードの下の口元をヒクつかせるが。

 さすがにこれはマズいと思ったのか。

 屋根の上でドヤ顔のエエングラが脚絆に手をかけた、その瞬間。


「レディーの前でなにしてくれちゃってるのよ! このノンデリ男女おとこおんな!」


 言いながら、どげし!

 アクタやナブニトゥからかなり遅れて追跡していた、女神ヴィヴァルディによる猫キックが炸裂!

 盛大な音を立て、エエングラの身体は吹っ飛ばされ隣の屋根に叩きつけられ失神。


 女神ヴィヴァルディの初白星。


 見事、屋根から粗相攻撃をしようとしていた厄介なハイエナ。

 その目論見を止める事に成功していたのである。


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